村上虹郎&森崎ウィンインタビュー 名作『ウエスト・サイド・ストーリー』トニー役に挑戦

インタビュー
舞台
2020.1.31
左から 村上虹郎、森崎ウィン

左から 村上虹郎、森崎ウィン

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東京・豊洲にある360度回転劇場「IHIステージアラウンド東京」にて連続上演中のブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』をベースに描くこの不朽の名作、“ステージアラウンドバージョン”のSeason2に主人公トニー役(ダブルキャスト)で出演するのは、ミュージカル初体験の村上虹郎と、ミュージカル初主演の森崎ウィンというフレッシュな顔ぶれ。二人に作品への意気込みを聞いた。

――名作『ウエスト・サイド・ストーリー』に出演が決まってのお気持ちは?

村上:最初にお話をいただいたときは、まさか僕が? という気持ちでした。僕はミュージカルというジャンルに疎くて、これまで観たのも二、三回くらい。だから、遠くて尊いものという感じがしていました。稽古が始まってからだんだん近づいていっているという感じで、稽古に入ったからといってすぐその世界に入れたわけではありませんでした。振付リステージングを担当しているフリオ・モンヘさんがいらしてから、歌を単に歌うのではなくお芝居として歌っていくということに取り組むようになって、ぐっと近づいてきたという感じです。

森崎:オーディションのお話をいただいたとき、ぜひやってみたい! と思いました。僕は歌うことが大好きで、ダンスボーカルユニット・PRIZMAX(プリズマックス)で歌と踊りに取り組んできたんですが、ミュージカルもやりたい気持ちがいっぱいで。僕は以前スティーブン・スピルバーグ監督の映画に出演しましたが、今年2020年に公開される『ウエスト・サイド・ストーリー』のリメイク版もスピルバーグ監督が手がけているというところで、何だか接点も感じました。出演が決まったときは、これでミュージカルをやれる! と素直にうれしくて。稽古に入り、台本を読み、みんなでテーブルワークをやっていく過程で、すごい作品に関わることができているんだな…と一層感じるようになりましたね。「Tonight」を最初に音取りしたとき、これは知っている曲だ! という思いがありました。

森崎ウィン

森崎ウィン

村上:この作品については、楽曲も、『ロミオとジュリエット』をもとにしていることも知らなかったんです。でも、映画版がオールタイムベストの上位に入っていることは知っていました。出演が決まってから、これまでミュージカルの話をしたことのない人からも、「出るんだね」と言われるようになって、やっぱりみんなが知っている作品なんだなと思いました。

――村上さんはミュージカル初出演にして初主演、森崎さんも初主演となります。

村上:最初は、自分にできるんだろうか…という後ろ向きな気持ちもありましたが、開き直ったんです。ウィンくんは歌や踊りを経験してきていて、僕からすればミュージカルに近い方。僕以上にミュージカルから遠い人はいないなと思ったので、開き直って、「楽しんで、自分のペースで、みんなに追いつこう。その先に行こう」という思いで取り組んでいます。ずっと悔しい瞬間しかないですが、それも楽しんでやっています。歌にしても、スタッフの方がていねいに教えてくださっています。踊りは割と急なスピードで進んでいますけど(笑)。

森崎:早いよね。

村上:ウィンくんはそれでももうすぐにかっこよかったりする。僕はなかなかわからないから、待ってくれ~と思ったり。

村上虹郎

村上虹郎

森崎:ダブルキャストだから、虹の演じるトニーの芝居を見て、うわあ、いいなと思う瞬間もあるし、僕も悔しい瞬間がいっぱいある。初めてのダブルキャストなんですが、僕、そういうのがすぐに顔に出るんですね。でも逆に、こういう場にいられることは幸せだなと自分に言い聞かせながらやっていて。こんなに近くでもう一人の役者が同じ役をやっていることを見られる機会ってなかなかないわけですから。見ていて、「このシーン、自分ももっと深くやりたいな」と思ったりもします。

村上:お互い、得意なシーンとかあるしね。ウィンくんは「チャラトニー」ってささやかれているんですけど(笑)、ラブシーンとかすごく上手だし、コメディタッチの部分とか、ノリの緩急をつけるのが上手だなと思う。そういう間でやるんだって、見ていて毎回気づかされたり。

森崎:虹のトニーは、一幕最後の、「マリアー」と叫ぶところが、見ていて、「…これ、舞台で見たらすごいことになりそうだな」と思った。

村上:あの部分だけはちょっと通ったことがあると思う芝居な気はしているんだよね(笑)。

森崎:すごくいい絵に見えた。立っているだけで、存在感にすごく説得力があるなと思った。

村上:抱えているものは同じはずなのに、あのシーンだけでも、役者によって違う。「マリアー」って叫ぶのは同じなのに、違う響きだなと。

森崎:違うんだよね。今回、ダブルキャストとして22回分の舞台に主演させていただきますが、これだけの大きな舞台、しかも360度回転劇場で座長をやらせてもらえるということは、これからの僕の役者人生にとって大きな宝になるのは間違いないんですけれども、初主演のプレッシャーは感じます。ただ、取材の場はさておき、稽古場ではあまりそこに向き合わないようにしていて。みんなでチームとして作り上げる舞台ですし、スタッフ・キャストの方々と、本当に人に恵まれている現場だなと実感しているので、そこは胸を借りて頼るつもりで取り組んでいます。

――フリオさんとはどんな稽古をされていますか。

村上:すごい人だよね。

森崎:すごいよね。僕が感じるフリオさんのすごさは、自分たちは日本語で芝居していているけれど、ちゃんと伝わっているっていうことなんですよね。マリアとアニータの芝居とかも、フリオさんが泣いていたりして。それを見ると、言語を超える瞬間って本当にあるんだと思えて。フリオさんが言葉の壁なく演出していて、それを素直に受け入れられているというところで、魔法にかかったような時間を過ごしている気がします。

村上:言語じゃないんだよね。そこでフリオさんに通じないことは通じない、ということで演出していってくれて。「ここはこういう感情に基づいているからこう動いた方がいい」とか。僕が特に言われているのは、パフォーマンスしなくていいということ。「ミュージカルだからといって、ただ大きくしているわけじゃないんだよ。しかるべきときだけに大きくしているんだよ」ということを教えてくれました。芝居に振付をつけたら大きくならざるを得ない瞬間はたくさんあるけれど、芝居の段階では、目の前に僕たちがいることとかは気にしないで、自分がその世界にただ生きているようにやってくれと言われたんです。

演劇表現も途中からは必要になってきましたが、最初はそれをまったく無視して、映像ではないですが、一番ミニマムな状態で芝居を作ることから始まりました。この作品が、明るいコメディじゃないということもあるかもしれないですが。この作品は全登場人物が何か大きな欲求をもち、さまざまな抑圧を感じてもがいている。だから、全キャストがそれをもっていないとこの作品はできあがらないということを教えてくれるんです。フリオさんはプエルトリコ系ということもあって、シャークスの本来のニュアンス、シャークス側の目線をもっているということもありますよね。

村上虹郎

村上虹郎

――Season1はご覧になりましたか。

村上:僕は観ました。この作品の普遍性やダーティさを、日本のキャストでも表現できるんだという発見がありました。この作品って、言葉で人種、偏見、暴力と言っても伝わらないところがあるんです。身体で表現しないとわからないところがある。

森崎:僕はあえて観なかったんだよね。招聘版は観たんだけれど。ジェッツのメンバーには、虹と僕は真逆のトニーだから、二つのバージョンがすごくおもしろいと言われました。今回、お客様にはできれば両方観てほしいなと思います。

村上:僕は、アメリカ・ニューヨークが舞台の作品において、ボディランゲージが全然積み上げ切れていないなと自分では思っています。そこはもう初めて演じる世界なので。僕よりもウィンくんの方がそのボディランゲージもあるなと感じるんですよね。そこに、自分としての思想、ボディランゲージをどうつけ足していこうかと模索中なんですが、いろいろなアプローチができて楽しいです。

――名曲、名場面の多い作品ですが、好きなナンバー、シーンを教えてください。

森崎:トニーとマリアが二人で結婚式の真似事をする「One Hand, One Heart」がすごく好きです。うれしいはずなのに、すごく悲しいメロディにも聞こえるんですよね…。隣にマリアがいるのに、歌っていてせつなくなってしまう。

村上:だいたい全部好きになっています。僕、すぐにないものねだりするっていうか、自分のものでないものをいいなと思っちゃうんですけれども(笑)、マリアとアニータの「A Boy Like That/I Have Love」がいいんですよね。

トニーとマリアが歌う「One Hand, One Heart」を実演するふたり

トニーとマリアが歌う「One Hand, One Heart」を実演するふたり

森崎:いいシーンだよね。

村上:ウィンくんと二人で見ていて、お互い、顔は見てないけれど、二人とも泣いているのがわかっちゃっているという(笑)。あの場面のマリアとアニータは、口論もするし、理解もするし、愛についても語る。愛について語るといっても、それが、安易じゃない、生半可なものではないんです。お互い、ものすごいエネルギーで、魂を焦がして、削ってやっているのが目に見える。「Tonight」の五重唱ももちろんすごいスペクタクルですし、トニーとマリアの「Tonight」も、出会った絶頂の瞬間、幸福度としては最高なんですけど、アニータの存在がこの作品の一つの軸だなとも思えるシーンなんですよね。

この作品って、トニーとマリアだけが主役ということではなくて、それぞれの役が実は大事なんだなと思わされます。最後のアクションのエニィバディズへの対応もすごく大事ですし、アニータもすごく大事な役。それぞれが大事な役なんですよね。

――人種間をはじめ、さまざまな対立が描かれている作品です。

森崎:テーブルワークで、演出補の薛珠麗(せつ しゅれい)さんが、人種差別についてここまで公にふれた最初の作品であって、初演当時は観に来た方がショックで席を立てなかったということを教えてくださいました。僕もミャンマーから来て、パスポートが違う、ただそれだけでいろいろと決めつけられたり、偏見があるということは経験してきたんです。でも、だから何だ、と思って僕は生きてきた。この作品の初演当時の人たちからしたら、僕なんか断然守られて生きてきた人間だと思うんです。ただ、今の時代、今の自分でも共感できるところがいっぱいあるわけで、当時だったらもっとすごかったんだろうなと。そのあたりが、今の時代にこの作品に取り組む意味にもつながると思います。

ミャンマーでも、国が変わり、経済成長していく中で、貧富の差が広がっていったりということがある。この作品で描かれているのは、日本でいえば高度経済成長期に取り残されている人たちのようなものという話も聞いて、それは今のミャンマーでも起きようとしていることだなと感じるんですね。そうやって当時の歴史にふれることで、今の僕が感じることがたくさんある。その意味でも、自分の今後の人生を大きく変える、大きな影響を与える作品に関わっているなと感じますね。

森崎ウィン

森崎ウィン

村上:僕は、人種じゃないところで、ちょっと特殊な育ち方をしているので。

森崎:話聞いていると、おもしろいよね。

村上:僕は一年くらいモントリオールにいましたが、そのとき、さまざまな価値観の人がいること、そしてその中で、自分は表に出す主張が少ないし、そもそも思想がすごく強い人種でもない。でも、無自覚的な思想はすごく強いかもしれないということに気づかされたんです。

僕は学問的な基礎知識はスキップしてしまった人間で、映画をたくさん観て、そこから世界のことを学んでいます。時間があったらいろいろな国、最近ではルーマニアやベトナムに行ったのですが、そんな中で、「僕はまだまだ自分が何者であるかということを知らないな」と思いました。留学したのもそうですが、「自分の名前は知っている。性格も知っている。好きなものも知っている。でも、とてつもなく世界が狭いな」と思ったことが俳優を始めた理由の一つにあって。日本でもいろいろな場所に住んできましたが、自分自身の意識は全然広がっていなかった。モントリオールも、いろいろな人種の人がいる、つまり、その人種の数だけさまざまなカルチャーや歴史があるところで、自分自身が何者であるかということを考えました。この作品においてもそういうところが描かれていますが、そういう場所では争いがあったりします。自分自身を知ることは、この先、何年も、何十年もかかると思いますが、その入り口にやっと立てたなと、この作品に出会って思いました。この作品は、戦争が終わった直後、世界が広がって狭まって、狭いところにさまざまなものが一緒になっている状態が描かれています。出会えたことがうれしいですし、だからこそ、生半可な覚悟ではできません。

村上虹郎

村上虹郎

――IHIステージアラウンド東京という劇場についてはいかがですか。

森崎:図面をもらったら、赤い線で動線が書いてあって。

村上:裏ですごい走ったりするよね。

森崎:お客さんとして観る分には最高ですよ。バイクが安全柵を乗り越える勢いで客席に向かってくる臨場感だとか、その世界に、一員としてそこにいて、ギャングの縄張り争いを通りすがりで見てしまったような感覚に陥る劇場だなと。ただ、演じる方は、その動線を見て、こんなに動くんだなって(笑)。

村上:僕はこの劇場で上演された劇団☆新感線の『髑髏城の七人』を2バージョン観たのですが、その一つに出演されていた山内圭哉さんとは共演経験がありました。大好きで、すごく影響を受けている方なのですが、この前お会いしたときに、「あそこの劇場に出るんです」という話をしたら、「観る分には楽しいけどやるのはきついって俺言うたやろ」と言われました(笑)。「稽古場ではあの広さは体感できないし、思っている3、4、5倍くらい体力つけなあかんで」と。でも、稽古場にいるとなかなか広さが実感できないから、まだまだ体力作りができていないんですよね(笑)。

【村上虹郎】ヘアメイク:高草木剛(VANITES) スタイリング:RIKU OSHIMA
ガウン¥38,000、パンツ¥32,000/FACCIES(シック)、カットソー¥12,000/vintage (ISSUE)、靴/スタイリスト私物
〈問い合わせ先〉シック Tel:03-5464-9321/ISSUE Tel:03-3712-1838
【森崎ウィン】ヘアメイク:KEIKO(Sublimation) スタイリング:森田晃嘉

取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=荒川潤

公演情報

ブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』日本キャスト版 Season2​
 
日程:2020年2月1日(土)~ 2020年3月10日(火)
会場:IHI ステージアラウンド東京
※公演によりキャストが異なります。キャストスケジュールは公式HPをご覧ください。
 
■原案:ジェローム・ロビンス
■脚本:アーサー・ローレンツ
■音楽:レナード・バーンスタイン
■作詞:スティーブン・ソンドハイム
■初演時演出&振付:ジェローム・ロビンス
 
<ステージアラウンド版オリジナルSTAFF>
■演出:デイヴィッド・セイント
■振付リステージング:フリオ・モンヘ
■セットデザイン:アナ・ルイゾス
■照明デザイン:ケン・ビリングトン
■プロジェクションデザイン:59プロダクションズ
■衣裳デザイン:リサ・ジニー
■音響デザイン:山本浩一(エス・シー・アライアンス)
■ステージアラウンド・スーパーバイザー:芳谷 研
 
■エグゼクティブ・プロデューサー:
ケヴィン・マッコロム(Alchemation)、ロビン・デ・レヴィータ(Imagine Nation)、吉井久美子(John Gore Organization)
 
<日本キャスト版STAFF>
■翻訳・訳詞:竜 真知子
■演出補:フリオ・モンへ、薛 珠麗

■振付指導:大澄賢也
■歌唱指導:山口正義
■音楽監督・指揮:井田勝大 指揮:木村康人、永原裕哉
■演出助手:河合範子
■舞台監督:今野健一(Keystones)
■技術監督:小林清隆(Keystones)
 
■出演:
トニー 村上虹郎/森崎ウィン (W キャスト)
マリア 宮澤エマ/田村芽実 (W キャスト)
アニータ May J./宮澤佐江 (W キャスト)
リフ 上口耕平/小野賢章 (W キャスト)
ベルナルド 渡辺大輔/廣瀬友祐 (W キャスト)
 
シュランク 山口馬木也
クラプキ 辰巳智秋
グラッドハンド 岩崎う大(かもめんたる)
ドク 田山涼成
 
The Jets & The Sharks
尾関晃輔 風間無限 鯨井未呼斗 後藤健流 佐久間雄生 佐野隼平 茶谷健太
永野亮比己 根岸澄宜 練子隼人 MAOTO 森内翔大 矢内康洋 理土
石井亜早実 植竹奈津美 門間めい 木原実優 弓野梨佳 後藤紗亜弥 小林礼佳
篠本りの 富田亜希 平井琴望 平山ひかる 藤森蓮華 前田有希
 
■料金:全席指定 15,000 円(全席指定・税込)
☆ アンダー18 シート 8,500円(当日引換※詳細は公式 HP 参照) SP ウィークデーナイト 14,000円
※ ☆はステージアラウンド FC のみでのお取り扱いとなります。
※ 全席指定とアンダー18 シートは連席でのご購入はできません。連席をご希望の場合は全席指定 15,000 円をご購入ください。詳細は公式 HP にてご確認ください。
 
■Season2 公式 HP https://www.tbs.co.jp/stagearound/wss360_2/
■制作:ゴーチ・ブラザーズ
■主催:TBS / ディスクガレージ / ローソンエンタテインメント / 電通 / BS-TBS
■後援:TBSラジオ 
■企画・製作:TBS 
IHI Stage Around Tokyo is produced by TBS Television, Inc., Imagine Nation B.V., and The John Gore Organization, Inc.
 
■公式サイト https://www.tbs.co.jp/stagearound/
■公式 Facebook @stagearoundtokyo
■公式 Twitter @STAGE_AROUND
■お問合せ:ステージアラウンド専用ダイヤル 0570-084-617(10:00~18:00)
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