「すでに再演したい!」青木豪による3人で魅せる『星の王子さま』
青木豪
もうダメかと思う瞬間、人はどこに向かうのか
「かなり良いと思います、話を聞きにきて」。水戸芸術館開館25周年記念事業の音楽劇『星の王子さま』脚本・演出の青木豪から連絡があった。特に劇団時代は、緻密な人間観察により日常的な場面に潜む登場人物の葛藤や心情を浮き彫りにした筆致で評価を得ていたが、実はミュージカル好き。脚本と演出を両方手がけるのも久しぶりだ。勇んで稽古場に向かったが、その第一声にひっくりかえってしまったーー。
◇ 近ごろ「星の王子さま」の映画、新訳本、舞台とにぎやかです。青木さんは原作に対しどんな想いを持っていますか?
もともとそれほど思い入れはなかったんです(苦笑)。子供のころに読みましたけど、よくわからなくて。ウワバミが象を飲み込むところで眠くなってしまう。そもそもウワバミって何?って感じじゃないですか、最近の訳では大蛇になってるけど。それに僕はファンタジーが苦手で。じゃあ、なぜお受けしたかと言えば、改めて読み直した時に“贖罪”の話だと思ったんです。機械的に生きてきた飛行士が大切な人の想いに気づく。僕のような仕事をしていると、書けなかったりして多くの方に迷惑をかけるじゃないですか。そういう意味で、僕の中にも贖罪の気持ちが強くあって。最初は、箱根の「星の王子さまミュージアム」に行くところから始めました。
◇ ……「思い入れがない」から「かなり良い」につながる部分を聞かねば今日は帰れません!
ですよね、今はすごく好きになりました、こんないい話だったのかと(苦笑)。やっぱり作曲・音楽監督の笠松泰洋さんと相当密に作業をしたのが大きかった。どういう構成にしようかから始まって、原作を何分割かして「今日はここからここまで考えましょう」みたいな作業をしたんです。笠松さんはフランス語がおできになるので、わからないところなどは直訳してもらい、相談して自分たちの言葉にしていきました。そうやって脚本を作る中で贖罪の意味も込めました、大変にこもっています。
ですよね、今はすごく好きになりました、こんないい話だったのかと(苦笑)。やっぱり作曲・音楽監督の笠松泰洋さんと相当密に作業をしたのが大きかった。どういう構成にしようかから始まって、原作を何分割かして「今日はここからここまで考えましょう」みたいな作業をしたんです。笠松さんはフランス語がおできになるので、わからないところなどは直訳してもらい、相談して自分たちの言葉にしていきました。そうやって脚本を作る中で贖罪の意味も込めました、大変にこもっています。
昆夏美さんは演劇雑誌で写真を見て即決!
◇ 舞台化された「星の王子さま」は、これまで絵本がそのまま表現されたもの、という印象がありますが、そのへんは?
今までは著作権の問題がすごく大変だったと聞いています。今回は水戸芸術館から始まりいろんな地域を回ります。例えば星めぐりのシーンでは、多くの役柄が必要なのに対して一人ずつの役者を立てていると大型ミュージカルになってしまってツアーしずらい。それならと最初は二人芝居にしようと思ったんです。2人ですべての役を演じてはどうか、と。けれどさすがに無理があるのではと制作陣から指摘され、もともと友人で新聞記者のレオン・ヴェルトに捧げられているから、レオン役を入れようと。その3人のうち、王子さまをのぞく2人がいろんな役を演じながら物語を進めていくというスタイルになっています。
◇ それは思い切った挑戦になりますね。
はい、今まで上演されたミュージカルとはまったく違うものになってますから、比較しようがないし、まっさらな気持ちで見ていただけると思います。村上春樹さんの小説に、井戸に降りると、つまり深層倫理の中に入っていくと急にすべてが見えるような気がするという話が出てくるんです。「ねじまき鳥クロニクル」にも井戸の中で逃げてしまった妻とつながるという話がある。僕も脚本が書けなくていよいよ困った時に、すごく集中して頑張ればある日突然「ここにたどり着きたかのか」と見える日がある。笠松さんも、物語の軸だったり、この作品で何がやりたいかの軸が見えるとブレずに全体の曲が書ける日が来ると。『星の王子さま』でも井戸にたどり着くシーンは印象に残りますよね。サン=テグジュベリが砂漠に不時着した体験をもとに書いたことになっていますけど、砂漠自体も何かの比喩に読める。必要なものさえも一切合切なくしてしまった時に、砂漠では食べ物も水もないわけですが、人がもう一回生きようとする場合に芯になるのは何だろうと。とうとうダメかと思う瞬間は誰にでもあるわけで、最後に自分がどこに向かおうとするのかということが原作を読んだり、笠松さんと話すうちに見えて、すごくやりたい作品になったんです。
◇ おお、なるほど安心しました! キモになる曲はいかがですか?
笠松さんには「すべてヒット曲で。バリエーション豊富に、一度聞いたら忘れられないものを」って無茶なお願いをしました(苦笑)。でも全20曲そうなっていますよ。笠松さんは本当に大変だったと思うんです。絶えず、これは違うんじゃないですか、もうちょっとこうしてほしいと言ってましたから。僕は音楽の知識はあまりないですけど、笠松さんはモチーフをわかりやすく楽譜に書いてくれるから、これはこういうつもりなのかなというのが伝わるんです。
◇ キャストの3人の方も素晴らしいとおっしゃってましたが。
皆さんとてつもなくいいです! 自信があるというのはキャスト、スタッフが皆さん素晴らしいから。昆夏美さんは演劇雑誌で写真を見た瞬間に「王子さまはこの子だ」と、僕が熱望したんです。伊礼彼方さんは劇団☆新感線の『港町純情押オセロ』でご一緒していて素晴らしいことはわかっていた。廣川三憲さんにほれたのは演劇キックの『レミゼラブ・ル』。スクール水着を盗んで、後に歌舞伎町の町長になるジャン・バルジャンを演じていたのを見てとんでもない俳優さんがいるなと。しかも野田秀樹さん演出の『フィガロの結婚』でオペラデビューもしている。廣川さんがいい意味でぶっ壊してくれるし、肝心なところは締めた芝居をしてくれるから、3人のバランスがすごくいいんです。それと公演地の子供たちが踊ってくれるんですけど、井手茂太さんが振付に飛び回ってくれています。井手さんのダンスは当て書きみたいで個々人の魅力を引き出してくれる。各地でも少しずつ振りを変えてくださっているんですよ。
◇ 改めて、作品を観てくださる方にメッセージをお願いします。
作品世界は僕なりの解釈で、自分が観たいところだけで集めて作っているという気がします。『星の王子さま』はそうじゃないと言う方もいるかもしれませんが、「すみません、これは青木版なんで」と言うしかない。でも、どこにも負けないものになったとかなり思っています。各地域2日しかやらないんですけど、すでに再演したいです。
青木豪
演劇集団円演劇研究所を卒業後、1997年『アフタースクール』でグリングを旗揚げ。以後、2009年の活動休止まで全18作の作・演出を担当。近年では、劇作家としてプロデュース公演などに数多くの作品を提供している。『往転―オウテン』(2012)で文化庁芸術祭新人賞を受賞。最近の主な作品は、音楽劇 『ガラスの仮面』(2010)、『鉈切り丸』(2013年)、『9 days Queen』(2014)、『天鼓』(2014)、『ブルームーン』(2015)、『The River』(2015/演出)など。2013年、文化庁新進芸術家派遣制度で1年間ロンドンに留学。
公演情報
水戸芸術館開館25周年記念事業 ACM劇場プロデュース公演
音楽劇『星の王子さま』
▽日時:2015年12月12日(土)14:00/18:30、13日(日)14:00
▽会場:水戸芸術館ACM劇場
▽脚本・演出:青木豪
▽笠松泰洋(作曲・音楽監督)
▽出演:昆夏美(王子さま) 伊礼彼方(飛行士 ほか) 廣川三憲(飛行士の親友 ほか) 服部桂奈(薔薇/ピアノ演奏) 小美濃悠太(コントラバス演奏) ※各地で、子供から20代の若者が作曲家と振付家によるワークショップを経て数場面に出演
▽全席指定4,500円、U-25[25歳以下]2,500円
▽問合せ:水戸芸術館ACM劇場 Tel.029-227-8111
2015年12月19日(土)・20日(日)埼玉・さいたま市プラザイースト ホール
2015年12月23日(水・祝)福井・ハーモニーホールふくい 小ホール
2016年1月10日(日)・11日(月・祝)東京・シアター1010
2016年1月16日(土)・17日(日)兵庫公演・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール