金属恵比須・高木大地の<青少年のためのプログレ入門> 第22回「ファンがファンを呼ぶ――頭脳警察・伊東潤との交わり」
PANTAさんと金属恵比須
(前号では音楽以外の文化と交わることにより、金属恵比須の活動がさらにプログレッシヴになると説いた…)
2018年、歴史小説でヒットを飛ばす作家・伊東潤先生とコラボし『武田家滅亡』というアルバムを製作した。ライヴでは、甲冑姿で甲府の歴史を解説する「躑躅ヶ崎館歴史案内隊」の方々にもご協力いただき、文学・歴史・観光を交えたエンターテイメントとなった。
躑躅ヶ崎館歴史案内隊とトークする筆者 (撮影:飯盛大)
これを成し得たのは、伊東先生が金属恵比須のファンでいらっしゃったことが発端である。どんなことにしても「ファン」というのは通常以上の“接着剤”となる。そして奇妙な縁を生むこととなる。
筆者はドラマー後藤マスヒロのファンである。人間椅子のステージを見てテクニカルなドラム捌きに痺れてから今でも。その「ファン」という想いが通じ、2014年から金属恵比須に加入していただき今日まで活動を共にしている。そしてマスヒロが在籍していた頭脳警察も小学校時代よりファンだった。
頭脳警察といえば「発禁バンド」。1969年結成、1972年にレコード・デビューをするも、そのジャケットは3億円事件のモンタージュ写真、収録曲は学生運動の過激な集団「赤軍派」の宣言文をそのまま朗読(アジテーション)した「世界革命戦争宣言」という曲で幕を開けるのだ。これはどう考えても発売禁止。筆者も小学校から憧れていたものの、実際に聴いたのは大学生に入って復刻CDが発売されてからである。なんというタイムラグ。
それがまさか、頭脳警察と共演する機会が訪れたのだ。2019年12月22日、渋谷ラママにて行なわれた金属恵比須とのジョイント・ライヴ「金属警察」。夢が叶った。これも「ファン」という“接着剤”が機能したかといえば、ちょっと違う。非常に複雑なのだ。
頭脳警察のPANTAさんと繋がるきっかけがなんと――SNSだった。世界の人との繋がりに革命をもたらしたFacebook。まさに「世界革命戦争宣言」だ。あ、「戦争」はいらないか。
2018年、冒頭に書いた『武田家滅亡』完成記念の打ち上げを、プログレ通が集う横浜関内の居酒屋「ROUNDABOUT」にて開催した。後藤マスヒロがその時の集合写真をSNSにアップした。すると、頭脳警察のPANTA氏が反応する。
「マスヒロ、なんで伊東潤と飲んでるんだ?」
よりによって反応するところが「伊東潤」。どういうこと? なぜ知ってるの?後にPANTAさんに聞いた話を。ある時、映画『いぬむこいり』の撮影で鹿児島県に滞在していたのだそうだ。指宿から知覧に向かう車に乗っている時にカーラジオから聞こえていたのが伊東先生の声。鹿児島をテーマに伊東氏が著した小説『武士の碑』について語っており、PANTAさんがそれを読んだ。
PANTAさんは文学、歴史、哲学に造詣が深く、勉強熱心。数々の文化人とも多くの交流を持つアカデミックな性分上、伊東先生の硬派で正統的な歴史小説に惹かれるのも当然だろう。そんな折、頭脳警察卒業組の「子分」的存在(失礼!)であるマスヒロが、SNSで伊東先生との酩酊写真をアップ。そりゃ「なんで飲んでるんだ?」となるはずだ。
とにもかくにもPANTAさんが伊東先生の「ファン」だったのだから面白い。
ちょうどその頃、HMV record shop新宿ALTAで伊東先生と金属恵比須による『武田家滅亡』発売トークイベントがあることをPANTAさんに伝えた。そうしたら「行く」と。ちょっと待て。金属恵比須はいやしくもバンドだ。演奏をすることを生業としており、作家と文化的な対談をすることを生業としていない。要は素人のトークショーを、小学校から憧れていたPANTAさんに見られるのか。ちょっとそれは厳しい。あまりにお粗末な内容で「ふざけるんじゃねぇよ」と一言吐いて退場されたら立ち直れない。悪態つかれるだけだったらいいが、「銃をとれ」なんて叫び出して撃たれたらイヤだよ。これはトークの内容もちゃんと考えねばならない。
伊東潤さんとのトーク
金属恵比須のトークイベント
ということで少しアカデミックな内容にしてみようかと思い立つ。前にも当連載で書いたが、『武田家滅亡』収録の「勝頼」という曲は大河ドラマの歴代オープニングテーマを分析して秒数を計算しながら書いた曲である。その分析の方法と結果を披露することにした。
【動画】武田家滅亡組曲より「勝頼」
要約すると、大河ドラマのオープニングテーマの曲展開は細かく分けて8回行なわれることが多く、それが時間的に8等分されており、1テーマあたり約18秒ということを発見した――という分析結果だった。
これを実際に体験してもらおうと、歴代大河ドラマの映像を流しながら「勝頼」を聴いてもらうという企画を考えた。映像の展開と音楽の展開がマッチする様を見てもらいたい。が、イベントで映像を流すには色々な制約があり難しい。ということで、オーディエンスの皆様にそれぞれYoutubeのアプリを開いてもらい、めいめいが個人的に、かつ自発的に『西郷どん』を見ればいいのではないかと思いそれを決行してみた。
HMVの会場で、「さあ、皆さん。Youtubeのアプリを開いて『西郷どん』と検索してください。出てきましたか? 音楽はこちらで『勝頼』をかけるので、あらかじめ音量をミュートしておいてください」 とアナウンス。私が「よーい、スタートといったら再生ボタンを押してくださいね」 と念押し。
すると、「♪たんたかたん、たんたかたん、たんたかたん、たんたかたん」と、「スタート!」という前にミュートされずに『西郷どん』のオープニングが流れてしまった。おいおい、俺の話聞いてた?――と思って会場を見ると、先走って鳴らしてしまった人に見覚えが。
PANTAさんではないか!
頭を抱えながら笑っているPANTAさんがいた。「ふざけるんじゃねぇよ!」と叫ぶのはこちらの立場だったのだが、勇気がなくていえるはずもなく。PANTAさんは終演後、「面白かったよ!」と手を握ってくれた。
これは後の話だが、いつもPANTAさんには「大河マニア」といわれ、歴史の話を振られる。好奇心旺盛なPANTAさんにとっては何か新しい情報を提供するような「インテリ」に思われたのだろうが、ここで白状すると、実のところ、日本の歴史についてはこの歳になって初めて勉強し始め、いろんなマニアックな質問を投げかけられるもひとつも応えることはできなかった。理由は、あくまで「大河ドラマのオープニング曲」を音楽的に分析しただけで、それによって歴史が学べているわけではないからだ。この場をお借りして深くお詫びを申し上げたい。終演後。PANTAさんと伊東先生が仲睦まじく談笑している。
伊東潤さん、PANTAさん
PANTAさんはファンである伊東先生にお会いできてさぞかしご満悦なのかと思いきや――伊東先生が興奮している。1976年に横浜の野音で見た初めてのロック体験がPANTA&セカンド。そこでオープニングの「屋根の上の猫」を聴いた瞬間、頭をかち割られるような衝撃を受け、それ以来、パンタさんの大ファンになったという。プログレ好きとして好事家の間では有名な伊東先生だが、原型はPANTAさんのステージングにあったのだ。
「ファン」同士の“仲人”を期せずして金属恵比須が務めたというのが非常に感慨深い。そして“日本ロック界のドン”と“歴史小説界の異端児”という異文化交流を促進させたことに大きな意義を感じている。
「ファン」が「ファン」を呼び、さらに「ファン」と繋がっていく。音楽以外の交流というのはこのような面白いことが立て続けに起こるものなのだ。(以下次号)
PANTAさんと著者
取材協力(敬称略):PANTA 伊東潤
参考文献:『PANTA暴走対談LOFT編』LOFT BOOKS、2019年
文=高木大地(金属恵比須)