鈴木雅之、millennium parade、Uruなど、2020年上半期の注目作を聴いた
ライブ活動は自粛しなければいけないかもしれないが、音楽を聴くことは自粛の対象にはならない。むしろこんな時だからこそより広くより深く、普段聴けない音楽や聴いたつもりで良く知らなかった音楽を再発見することを楽しみとするべきだろう。自粛を飛び越えて自由に想像を広げるミュージック・パワーはどこにあるか? 今こそ大きな注目を集めているその音楽をピックアップして紹介してみよう。
鈴木雅之
鈴木雅之は“ラヴソングの王様”である。人に言われるのはもちろん、本人が自称しているので間違いない。誰もが知るアイコンとしてサングラスに口ひげ、洒落たスーツのダンディな姿で、シャネルズとしてのデビューから40年という途方もない時間を、常に第一線のソウル/ポップボーカリストとして駆け抜けてきた。「4月15日にリリースされた40周年記念最新盤『ALL TIME ROCK ‘N’ ROLL』が売れてます!」と編集部に聞かされても「うむ。当然である」と納得しかしない。昨今のAORやシティポップ、ソウルやファンクのリバイバルが、当時を知らぬ世代による新解釈だとすれば、有無を言わさぬモノホンの存在感による格の違いは明らかだ。さらに驚くべきことは昨年から始まった“アニソン界の大型新人”としての活動で、一足先にリリースされたアニメ『かぐや様は告らせたい?~天才たちの恋愛頭脳戦~』主題歌「DADDY ! DADDY ! DO ! feat. 鈴木愛理」では、アダルトな年の差ラブソングを余裕綽々で歌って見せた。その曲を含む「新曲集」と「豪華アーティストを迎えた洋楽とシャネルズ時代のカバー集」「シャネルズ、ラッツ&スター、ゴスペラッツのベスト」の3枚で構成されたのが『ALL TIME ROCK ‘N’ ROLL』である。往年の名曲たちと、岡崎体育、大石昌良、綾小路翔といった面々とのフレッシュなコラボが見事に共存している。キングはやはりキングである。
millennium parade
イキのいい若手バンドはいずこに? というテーマを投げたところ、返って来た答えは、すでにブレイク状態に突入しているので知る人も多かろう、millennium paradeである。言わずと知れたKing Gnuの常田大希を中心とした、音楽家、映像ディレクター、デザイナーなど新進気鋭のクリエイターたちで構成された異能の音楽集団。昨年5月のライブを皮切りに本格始動後、凄腕ミュージシャンが有機的に往来するパフォーマンス、3Dによる映像演出など刺激溢れる活動で世間の耳目を集めてきた。Netflixによる『攻殻機動隊SAC_2045』主題歌「Fly with me」は、4月22日のリリース直後から大きな反響を巻き起こしているが、ermhoi(Black Boboi)、King Gnuの新井と勢喜、WONKの長塚と江﨑、ドラマー石若駿ら「わかってる」メンバーしかいないその音楽は、強力にファンキーかつメロウ、無国籍性溢れるインターナショナル・サウンド。こりゃ凄い。
緑黄色社会
また、すでに若手枠をはみ出してランクアップしたと思っていたが、考えてみれば緑黄色社会もメンバーは未だ25歳前後なのでここであらためて紹介を。十代のバンドコンテスト出身ゆえにキャリアは長いが、ライブ中心にじわじわと力をつける→タイアップ曲で曲作りのセンスを磨く→ブレイク、というある意味バンドのサクセスの王道を往く姿がすがすがしい。4月22日に配信リリースしたメジャーファーストアルバム『SINGALONG』は、「いっしょにうたう」というタイトルそのままにボーカル・長屋晴子のコケティッシュな声の魅力とパワーを前面に押し出した作りで、ヒットチューン「Shout Baby」(『僕のヒーローアカデミア』EDテーマ)や「sabotage」(ドラマ『G線上のあなたと私』主題歌)など耳馴染みの曲が山盛り。凝りまくったアニメビデオが絶賛された「Mela!」は、その後に「おうちでSINGALONG ver.」の映像も作られ、大きな注目を集めて自粛生活の中でぐんぐん再生数を伸ばしている。ディズニーランドに並ぶくらいのエンタメ提供バンドになりたい、とメンバーは言った。志の高さと遊び心の豊かさが彼らの飛躍の原動力だ。
Uru
最後に、いま女性ボーカリストでは誰が注目ですかね? と問うと、返って来た答えはUruとさユり。なるほど。どちらもデビュー4~5年の、新人から次のステップに向けて前進してゆくフィールドで、力強い歩みを見せている二組だ。Uruはもともと、YouTubeでのカバー動画で人気に火が付いたことはご存じの通り、デビュー以降はオリジナル中心にその清楚、透明、神聖にも思える美声で着実に支持を集めているが、シンガーソングライター的な自己主張や強いメッセージ性に良い意味でこだわりが薄いのが魅力の一つ。つまり風のように雨のように陽の光のように、天然自然の心にそっと寄り添う歌を歌わせたらまさに出色。3月に出たアルバム『オリオンブルー』は、「あなたがいることで」(ドラマ『テセウスの船』主題歌)や「プロローグ」(ドラマ『中学聖日記』主題歌)をはじめ、渾身のタイアップ曲をずらり並べつつ聴き心地はあくまでさらり爽やか。“和み”の定義がそのまま声になる、Uruの魅力ここにあり。
さユり
さユりは“酸欠少女”“2.5次元パラレルシンガーソングライター”のフィールドで、独自の進化を遂げてきたアーティストだ。5年前のデビュー曲「ミカヅキ」がアニメ『乱歩奇譚 Game of Laplace』EDテーマに起用されたようにアニメや ゲームとの相性抜群で、その後も梶浦由記作品「それは小さな光のような」や「平行線」などアニメタイアップを重ねて支持層を固め、ファーストアルバム『ミカヅキの航海』をオリコンデイリー1位、ウィークリー 3位に送り込んで一気にブレイク。その歌声はエキセントリックな鋭さ、無垢な幼さ、浮遊感ある包容力をミックスした独特なもので、4月1日にリリースされた「ねじこ 」(アサヒグループ食品『クリーム玄米ブラン』TVCMソング)ではアコギ+バンドのアグレッシブなサウンドに乗せて「ねじこぼれた自由を歌え」を高らかに宣言する、つまりは世代を代表するメッセンジャー。間髪入れずに新デジタルシングル「葵橋」(アニメ『イエスタデイをうたって』第二弾主題歌 )もリリース中、6月3日にはすべて新録音のベスト盤的弾き語りアルバム『め』も発売した。2.5次元から時代を撃つ、そのメッセージはどこまで鋭くて強い。
文=宮本英夫
リリース情報
40th Anniversaryアルバム 『ALL TIME ROCK 'N' ROLL』
発売中
シングル「DADDY ! DADDY ! DO ! feat. 鈴木愛理」
発売中
アナログ7インチ EP(ドーナツ盤)「Ultra Chu Chu Medley」
2020年7月15日(水)発売
>>オフィシャルサイト https://www.martin.jp/
■millennium parade
millennium parade × ghost in the shell: SAC_2045
シングル「Fly with me」
発売中
■緑黄色社会
アルバム『SINGALONG』
配信中
■Uru
アルバム『オリオンブルー』
発売中
初回生産限定盤(映像盤) [CD+BD] 5,000円(税込)
初回生産限定盤(カバー盤) [CD+CD] 4,000円(税込)
通常盤 [CD] 3,000円(税込)
■さユり
デジタルシングル「ねじこ」
iTunes、Spotifyなど各配信サイトにて配信中
https://aoj.lnk.to/vb_6SWN
アニメ「イエスタデイをうたって」第二弾主題歌
iTunes、Spotifyなど各配信サイトにて配信中
https://aoj.lnk.to/egQMS
弾き語りアルバム『め』
発売中
>>オフィシャルサイト https://www.sayuri-official.com