勘九郎と七之助が初の歌舞伎生配信に向けて意気込みを語る 『中村勘九郎 中村七之助 歌舞伎生配信特別公演』
(左から)中村七之助、中村勘九郎
2020年7月18日(土)・19日(日)に『中村勘九郎 中村七之助 歌舞伎生配信特別公演』がライブ配信で開催される。公演に先立ち開催された合同取材会において、勘九郎と七之助がその意気込みを語った。
これからは配信と生の舞台が共存していく時代
まずはオンラインでの取材会が行われた。中村屋は毎年全国巡業公演行っており今年は9月開催予定だったが、17か所すべての中止が決まっている。歌舞伎公演自体が現在行われていない状況下、何かできないかということで本企画が実施されることになった旨がスタッフより説明され、それを受けて勘九郎は「歌舞伎公演を舞台から生配信するのは初の試み。このご時世何かできることはないかと考えたときに、歌舞伎俳優は舞台の上の姿をお客様に見てもらうことでパワーを伝えるしかない。配信だと長い演目は見るのが大変かもしれないが、やっぱり僕らもお客様も“待ってました”という気持ちだと思うので、それで清元の舞踊『お祭り』を基に新たに構成した『 猿若揃江戸賑(さるわかそろうえどのにぎわい) 厄祓浅草祭(やくはらいあさくさまつり)』をお届けします。その後、中村屋の思い出の映像を流しますが、これは18日と19日で違うものを使い、芸談も生でしゃべりますので、両日楽しんでいただけたら嬉しい」、七之助は「初めての経験なので楽しみよりも不安の方が大きいかもしれない。やはり歌舞伎はお客様と一体になって一つの舞台を創り上げるもの。(生配信中のチャット機能で)皆様の書き込みが楽しみ」とそれぞれ述べた。
自粛期間中はどのように過ごしていたか、という質問に勘九郎は「家の稽古場で子どもの稽古をつけていました。ちゃんと教えられるもの、そして中村屋にとって大切なものということで『連獅子』を稽古した」としっかり子どもへ芸の継承をしている様子を明かした。
また、今回の配信について勘九郎は「これからの時代は配信と生の舞台が共存していくことになると思う」としながらも「アナログ人間なのでこうしたことには疎い」と苦笑い。「皆様の書き込みの反応を基に、芸談ができれば生の感じが出せるかな。あと『お祭り』は“待ってました”という大向うが必要な演目なので、そのタイミングがわかりやすいように現場で大向うを掛ける人を入れる予定」と、配信ではあるができるだけ生でのコミュニケーションを感じたいという意向をうかがわせた。
父(勘三郎) だったら今回の配信について何と言っていたと思うか、という質問に勘九郎は「何よりも舞台を、そして歌舞伎を愛していた人ですから、こうした状況下で約半年舞台に出られなかったら、意外とメンタルが弱いので落ち込んじゃうんじゃないかな。僕らだって、今度いつできるかわからないという不安に駆られるくらいですから。中村勘三郎という魂燃えるような男が、そこら中、駆け回ってるのを見てお客様は楽しんだり元気になったりして、そんなお客様の姿からパワーをもらって元気になっていた人なので、舞台ができない状況っていうのは多分きついんじゃないかなと思いますね」と語った。
オンライン取材会終了後、引き続き対面での合同インタビューにも応じた。
役者にしてもらった地・浅草公会堂からの生配信
ーー浅草から配信することについて、また『お祭り』を基にした演目を選ばれたことについて、お気持ちを教えてください。
勘九郎:浅草は、なんといっても私たちは若手の登竜門と言われている『新春浅草歌舞伎』に10代から20代前半まで出演して修行を積み、浅草公会堂で役者にしてもらったようなものですから、強い思いがあります。現在、浅草は観光客が激減して大変な状況なので、少しでも何か貢献できたらな、という気持ちでいます。もしよろしかったら配信を見ながら、浅草のお店もお取り寄せなどやっていますので、何か浅草の物を見たり感じたりしていただければより同じ空間にいる感覚になってくださるのではないかな、と思います。演目は、今回新たな構成の『猿若揃江戸賑(さるわかそろうえどのにぎわい) 厄祓浅草祭(やくはらいあさくさまつり)』として浅草神社の三社祭の振りも入っています。毎年5月に行われていた三社祭が今年は延期になってしまったので、そんなところも楽しんでいただけたらと思います。
中村勘九郎
ーー毎年行われている『錦秋特別公演』と同様に、今回の配信もやはり歌舞伎を全国に届けたいという気持ちで臨まれるのでしょうか。
勘九郎:『錦秋特別公演』で初めて歌舞伎を見て、それから劇場に足を運ぶようになった、というお客様が大変多いです。ですから、やはり全国の方たちに観て頂きたいという思いがあります。歌舞伎を見たことがない方はまだまだ多いと思いますから、この配信が歌舞伎を見るきっかけになってくれたらいいですね。
七之助:極論で言葉は悪いかもしれませんが、歌舞伎役者は必要じゃない職業じゃないかなと思っています。私たちは何かをやってお客様に観ていただいて初めて何かが生まれる、という職業なので。だから何か行動を起こさないと、と思って今回生配信をすることにしました。僕たちも初めてのことですが、こうした状況が続いてリモートが主流になった場合にどうして行ったらいいのか、ということは常に考えていますから、その第一歩になればいいです。例えばVRがこれを機にどんどん普及していって、平成中村座でもVR歌舞伎をやってみるとか。中村座にいるような感じなのに、幕が開いたらエジプトだったりして。
中村七之助
勘九郎:そりゃすごい(笑)。
七之助:父が言っていたんです、中村座はどこにでも持って行けるね、それが利点だよって。だからいろいろなところでやりたい、ピラミッドの前でやりたい、とか。でもなかなか物理的にも金銭的にも難しいところがあったんですけれども、VRだったら可能ですよね。もちろん実際にその場に行ってやるのとは全然違うものにはなりますが、でも、もし父がいたらそういう試みをやっていたかもしれません。
ーーこれから少しずつ出演者の皆さんもリモート歌舞伎の感じをつかんでいくという感じになりそうでしょうか。
勘九郎:先が見えないですから、そうなっていくのかなと思います。8月に歌舞伎座で半分のお客様で開催しますが、それも実験的なことですし。本当に七之助が言ったとおりで、僕らの職業は言ってみれば必要じゃないんです。ノアの方舟には絶対に乗れない職業で、その方舟に乗れる人たちを笑顔にして見送るのが僕たちの役目だと思っています。でも古代ローマでは病院の隣に劇場があったそうで、演劇は心のケアというか薬になっていたものでもありますから、そこは忘れずにやりたいですね。
(左から)中村七之助、中村勘九郎
今回はささやかな元気だけでいい
ーー先ほどのオンライン会見の中で、勘三郎さんは観客が楽しんでいる姿から元気をもらっていた、というお話しがありました。今回は演者と観客が直接会えない、配信という形での公演になりますが、そのあたり現時点でどういったイメージを抱いていらっしゃいますか。
勘九郎:僕も舞台を見に行ったりライブに行ったりするのがすごく好きなんです。会場に行くまでの時間とか、劇場に入ったときの匂いと空間、幕が開いたときの迫力とか、音を耳だけじゃなくて身体で感じるとか、そういうのがやはり生の楽しさだと思います。今回は生配信だからライブ感というのは味わえるかもしれないんですけど、どうしても通信状態とか、各々の見る機械によって映り方も違ってくるでしょうし、こちらからはお客様の顔が見えない。反応がわからないし、怖いなという思いもあります。
七之助:今回僕たちがお客様にお届けするのは、ささやかな元気だけでいいと思います。「へぇ、生でやってるんだ」ぐらいでも全然いいと思っていて。浅草公会堂で、この兄弟で、あと勘太郎と長三郎と4人がそろって踊るのは初めてなので、そういったところを見ながら「へぇ」とちょっと頬がゆるむ感じのにこやかな元気でいいんです。あとは、僕たちのことを知らない人だったら「へぇ、歌舞伎ってこうなんだ」と思ってもらえれば成功なんじゃないかと思います。やはり肌で感じるものと比べることはできないので、配信も初めてのことですし、何か別のことをしながらでも全然いいので気軽に見てもらって、ちょっと日常がほわっとするぐらいのものをお届けできたらいいなと思います。
中村七之助
ーー確かに今回の配信をご家族とか複数人で見られる方だったら、感想を言い合ったりとか劇場ではできない見方をするのもいいかもしれませんね。
七之助:自由度が増すと思います。中には着物とか着て劇場にいるような気分できっちりセッティングして見る方もいるんじゃないですか。いろんな楽しみ方ができると思います。
ーー今回は配信ですが、最終的には生の舞台を見てもらいたいというお気持ちですか?
勘九郎:もちろん願いはそうですけれど、それは現時点で僕たちからは勧めることができないです。やはり感染のリスクというのは高くなりますし、すごく難しいところですよね。
中村勘九郎
七之助:歌舞伎史上初めてでしょう、こういう状況になって歌舞伎公演が止まってしまったのは。こんな時代に生まれちゃった、っていうくらいのすごい出来事ですよ、歌舞伎役者にとっても。
勘九郎:無病息災・疫病退散のお祭りである祇園祭が疫病で中止になってしまうくらいですから。言霊というのは必ず存在すると思うので、今回「厄祓」という言葉を外題に入れていますので、厄祓いの踊りだと思って僕たちもやりますし、皆様にも厄祓いの気持ちで見ていただければ。あとは、頑張って働いてくださっている医療従事者の皆さんも、芝居を見る余裕なんてないかもしれませんが、今回見逃し配信という形でも見ることができます。僕たちとしても元気を与えたい、ほっこりしてもらいたいという思いがありますので、ぜひ見てもらいたいなと思います。
『中村勘九郎 中村七之助 歌舞伎生配信特別公演』は7月18日(土)、19日(日)の2日間行われる。
(左から)中村七之助、中村勘九郎
【おまけ】
インタビュー後、お二人そろっての撮影を行ったが、「兄弟なのにソーシャルディスタンス?!くっついちゃダメなの?」と言いながらおどけていた勘九郎さん。そのお姿にすごく元気をもらいました。
勘九郎さんのおちゃめなお姿にほっこり
取材・文=久田絢子 撮影=山本 れお
公演情報
配信スケジュール:
18日(土)13時 配信開始 ※見逃し配信あり
19日(日)11時 配信開始 ※見逃し配信あり
浅草公会堂にて無観客開催
中村勘太郎、中村長三郎、中村鶴松 ほか
一、 オープニング映像
出演:中村勘九郎 中村七之助 中村勘太郎 中村長三郎 中村鶴松 他
出演:中村勘九郎 中村七之助 他
料金:3,000円(消費税込み)
発売所:会員登録(無料)が必要です。
イープラス
https://eplus.jp/kankuro_shichinosuke/ ※配信当日 22時まで販売
※詳しくは登録方法をご確認ください。 https://eplus.jp/sf/guide/service
主催: フジテレビジョン、サンライズプロモーション東京
企画制作: (株)ファーンウッド、(株)ファーンウッド 21
協力: 松竹(株)