LACCO TOWER無観客配信ライブ一日目「黒白歌合戦 ~電波極まる真白の変~」をレポート
LACCO TOWER Photo by 三木康史
「やがて必ず春は来るから。そのときまで笑っとけよ!」。ライブの終盤、「薄紅」へと突入するイントロのなかで、松川ケイスケ(Vo)が叫んだ。LACCO TOWER、初となる無観客配信ライブ「黒白歌合戦 ~電波極まる真白の変~」だ。これまで発表してきた楽曲を、その歌詞や世界観から「白の曲」と「黒の曲」にわけ、2日間にわたって演奏するバンドの恒例企画「黒白歌合戦」。その1日目となったこの日は、コロナ禍のライブ自粛を経て、実に225日ぶりに5人が揃うライブだった。そこで演奏された「白の曲」たちは、とりわけ晴れやかでポジティブなパワーを持つ曲が多かった。先の見えないこの状況下に、やるせない想いを抱えているであろう画面越しの一人ひとりに、この日のLACCO TOWERは、濁りのない無垢な情熱をもって“笑える明日の信じ方”を全力で伝えていた。
LACCO TOWER Photo by 三木康史
会場はバンドの地元・群馬県の伊勢崎市文化会館だ。そのロビーに円型に集い、お互いが向き合うかたちで5人はスタンバイ。真一ジェット(Key)が奏でる開放的なピアノにのせて、松川の「LACCO TOWERはじめます。どうぞよろしく」という第一声が重なる。塩﨑啓示(Ba)、重田雅俊(Dr)が繰り出す軽快なグルーヴ、細川大介(Gt)のメロディアスなギター。昂揚感に満ちたバンドサウンドが255日ぶりに訪れた喜びの感情をどんな言葉よりも雄弁に描いていく。「仲間が集まるきっかけをくれたことにお礼を言いたい」(松川)という感謝の言葉を挟み、ダイナミックに煌めく「夜鷹之星」のあと、夏の夕暮れに咲くオシロイバナの別名を冠したミディアバラード「夕化粧」では、夕陽のようなオレンジの照明が5人を優しく包み込んだ。メンバーが演奏する手元に接近したり、高い位置から俯瞰したりと、楽曲に寄り添って切り替わるカメラワークは、5人全員が主役となってひとつの音楽を作り上げるLACCO TOWERというバンドの輪郭を繊細に映し出していく。
LACCO TOWER Photo by 三木康史
3曲を終えたところで「なんにしても楽しいね」(松川)、「演奏してる隣にみんながいるのがうれしい」(細川)と、久々のライブの感動を分かち合うメンバー。晴れやかなメロディを祈るように届けた「折紙」のあと、ロビーを悲しげなブルーに染め、別れに際する感情を澄み切ったバンドサウンドに綴った「遥」では、誰もがLACCO TOWERという音楽の一員である喜びを噛みしめるように、とてもいい表情をしていた。
LACCO TOWER Photo by 三木康史
LACCO TOWER Photo by 三木康史
2回目のMCでは地元トークが弾んだ。「高校生のときに、ここで(の)もぎりをやってた」という塩﨑。重田は「市で章をとったらここに飾られるよね。俺は牛の絵を飾られたもん。小2のとき」と明かすと、真一も「俺は習字。希望のなんちゃらみたいな(笑)」と、伊勢崎出身の3人がそれぞれ会場の思い出を語る。さらに、いつものステージとは異なるフォーメーションのライブについて、塩﨑が「あのさ、演奏するとき、たまに目があうと、ニヤニヤするのやめてもらっていい(笑)?」と冗談ぽく言うと、「いつもよりすごい目が合う回数が多いよね」と、松川。そんなメンバーの微妙な表情を見られるのも配信ライブの楽しみのひとつだろう。
LACCO TOWER Photo by 三木康史
音源以上に抑揚のあるアレンジで生まれ変わった「花弁」に続き、次第に感情を高ぶらせていく「告白」では、松川が画面越しのお客さんにシンガロングを煽ると、まるでその声が届いているかのようにメンバーの頬が緩んだ。モニターの上で力強く両手を挙げる塩﨑。立ち上がった真一。たとえ、そこにお客さんがいなくとも、いつもと変わらない熱量のパフォーマンスで前半戦が締めくくられた。
LACCO TOWER Photo by 三木康史
換気タイムとして8分ほどの休憩を挟み、後半戦へ突入した。「こんなことになる前に作った曲ですけど、いろいろな人に刺さりやすい曲になったと思います」という松川の言葉を添えた最新ナンバー「歩調」、言葉にならない後悔を代弁するような感傷的なアレンジで聴かせた「蛍」に続き、真一による長尺のピアノソロが圧巻だった「雨後晴」では、再び松川はお客さんのシンガロングを誘った。「聞こえるんですよ」「声は振動になってここまで伝わってるはず」「同じ時間を共有できたら、それは同じ場所にいるってこと」「ありがとう、聞こえてるよ」と丹念に言葉を重ね、遠く離れた画面越しのお客さんとも一緒にライブを作り上げられることを信じて疑わないその姿勢は、18年間にわたり、ライブハウスがつなぐ絆を大切に歩み続けてきた彼ららしい配信ライブとの向き合い方だった。
LACCO TOWER Photo by 三木康史
LACCO TOWER Photo by 三木康史
「まだまだ外は夏やな。夏やなあ、おい!」という恒例の煽りから投下した「藍染」に続き、間髪入れずに「薄紅」を叩き込むと、いよいよライブはクライマックスへと向かう。「1個1個みんなのぎざぎざがいいかたちになって、いつかまた会えたり、笑い合えたら」と歌詞の一部を引用した言葉でつないだ「組絵」のあと、松川は思いの丈を語った。「いろいろ諦めたけど、楽しむことまで諦めてないでしょ? どんなかたちでもいいから、これからも一緒に楽しんでいきましょう」と。そして、少し感極まったように言葉を詰まらせながら、「美味い飯が食えて、好きな人が隣にいて、もし笑い合える時間があるなら、それをどんどん大切にしてやってください。ないものばかりに目を向けず、あるものを大事にしていこう。あんまり深く考えずに、明るくいこうぜ。暗い俺が言うのも何だけど(笑)」と最後は少しはにかむと、「大ちゃん、いこうか。啓示、いこか。まーちゃん、いこうか。真一、いこうか」と、メンバーに呼びかけ、5人の意思をひとつにしたラストナンバー「一夜」を届けた。「連れて行くからな!少しだけ幸せな明日へ」。躍動感するサウンドのなかで投げかけたその言葉は、この日いちばん伝えたいメッセージだったのだと思う。
LACCO TOWER Photo by 三木康史
LACCO TOWER Photo by 三木康史
LACCO TOWER Photo by 三木康史
LACCO TOWER Photo by 三木康史
本編のなかで、松川が語った印象的な言葉があった。「会えば、笑顔は伝わるし、側にいれば、笑っている声は聞こえる。でも、そうじゃなくても伝えられることがあると、みなさんに教えてもらいました」。それは、いままでライブハウスで直接的なコミュニケーションを第一にしてきたバンドの本音だと思う。今回の配信ライブにあたっても葛藤はあったはずだ。だが、この日そんなLACCO TOWERが初めて配信ライブに踏み切った意味は大きかった。いままでと同じように爆音のなかで笑い合い、冗談を言い、止まない雨はない、明けない夜はないと愚直に訴え続ける。当たり前が崩壊したいま、その変わらない当たり前は希望だった。松川は「電波にのっかれば、なんでもできるはず」とも言った。すでに18年間、あらゆる葛藤を乗り越えてきたバンドだ。この状況だって逞しく乗り越えていくはずだ。この日のライブを見て、彼らへの信頼感はますます強くなった。
LACCO TOWER Photo by 三木康史