怒髪天とフラカンが大阪野音に集結『ジャンピング乾杯10周年記念公演 “帰ってきた OYZ NO YAON”』ーー全員50歳超えの「ヤングマン」が全てを詰め込んだ一日
『ジャンピング乾杯10周年記念公演 “帰ってきた OYZ NO YAON”』
『清水音泉 presents ジャンピング乾杯10周年記念公演 “帰ってきた OYZ NO YAON”』2020.10.04(SUN)大阪城野外音楽堂
10月4日(日)に大阪城野外音楽堂で『清水音泉 presents ジャンピング乾杯10周年記念公演”帰ってきた OYZ NO YAON”』が開催された。ちなみにHP通りの事を書くと、「「ジャンピング乾杯」とは、2010年泉大津フェニックスでのイベント『OTODAMA~音泉魂~』打ち上げにて、怒髪天増子氏、フラワーカンパニーズ小西氏が編み出した「舞台上からジャンプして乾杯」する必殺芸。小西氏が着地に失敗し骨折。ロック史に残る出来事として一部で有名」との事。当時、私も打ち上げ会場にて目撃した人間としては、もう10年も経つのかとびっくりした。そして、こういう御時世だからこそ、こういう愉快な事件をキッカケにしたライブイベントが開催されるのは格好の気晴らしになる。
『清水音泉 presents ジャンピング乾杯10周年記念公演 “帰ってきた OYZ NO YAON”』
まず、今回のイベント主催者、そして『音泉魂』の主催者でもある関西の名物イベンター・清水音泉の番台(代表)こと清水 裕氏が挨拶を。「キッカケを与えて下さったミスター小西(フラワーカンパニーズ・Dr)さんと後押しをして頂いた増子直純(怒髪天・Vo)先輩に感謝したいと思います」と言って、場内をほっこりさせた後、「ご負担をかけてる思います」とちゃんと観客を思いやり、ライブ鑑賞のルール説明をする。前日、同じ大阪城野音で開催されたイベントに出演した四星球の北島康雄は、「ライブは不必要にされていたけど必要だ」とMCで話したという。そして、そこに清水さんは「面倒や不安を抱えてきたみなさんと必要なものを確認したいと思います!」と言葉を添えた。このような丁寧な前説があるだけで、場の雰囲気は全然違うものになる。
怒髪天
事前に増子と小西のジャンケンによって順番が決められており、清水氏の「ジャンケンに勝ったのは、このバンドです!」という言葉をキッカケに、登場SE「男祭」が鳴り、怒髪天が登場。観客たちは興奮しきって、席から立ち上がり、手拍子で迎えるが、こんなにも音楽の現場の音ってデカかったのか……というくらいにデカい。そのデカい音がより観客を興奮させるし、特にコロナの事に触れる事なく、何事も無かったかの様に今まで通りにライブが始まったのも凄く良かった。
増子直純(怒髪天 / Vo)
1曲目「酒燃料爆進曲」の<戦え!俺!勝てなくても負けるな!生き抜け!俺!生きてる内が花よ ボロボロ!俺!それだって走ってりゃ輝く!俺!朝陽も昇る>という歌詞が沁みる。「OYZ NO YAON」や「音泉の空」なんていう言葉も自然に歌詞として歌われるし、ライブを観ていたら、メンバー全員が全身全霊で観客にぶつかっていっている気迫が伝わってきた。
坂詰克彦(怒髪天 / Dr)
コロナ騒動を思い起こさせる<緊急事態だ!アルコール消毒だ すぐにジョッキをかたむけろ カラダ中の毒 洗い流そう>という歌詞が象徴的な「ポポポ!」が軽快なスカビートに乗せられて歌われる。続く「HONKAI」の<ロックバンドが理想や夢歌わずにどうする>、<ロックバンドが本気で信じてないでどうする こんな腐った世界を いつかきっと 変えられると>という歌詞もそうだが、全ての言葉が見事なまでに刺さってくる。
清水泰次(怒髪天 / Ba)
「シン・ジダイ」、「愛の出番だ!」、「そのともしびをてがかりに」、「孤独のエール」、「ド真ん中節」など、タイトルからしても今必要な言葉ばかりであり、歌われる言葉全てに力強く鼓舞される。「孤独のエール」の<がんばれ!がんばれ!それは自分に向けてだけ>もそうだが、無意味に無責任に人にエールを送るではなく、しっかりと自分も追い込んで、悩む抜いて考え抜いて頑張り抜いてのエールだから信じて受け止める事が出来る。
上原子友康(怒髪天 / Gt)
特に10曲目「ド真ん中節」の<歩けど歩けど見えない明日の光 あぁ暗い森に道を誤るな>と歌われてからの<ドンドドン ドンドドン ドンとゆけ>は響きまくった。もう魂の叫びだし、本当に強い歌だなと聴き惚れる。自分の中のド真ん中を信じて生きていくしかないんだなと思えたし、増子が少し前に傾きながら全力で拳を突き上げる姿にはグッとくるしかない……。
怒髪天
曲終わり、増子は深く長く頭を下げ、観客からの拍手も鳴り止まない。こちらの手元にある楽曲セットリストでは後3曲あるが、もうペース配分なんて関係なく1曲1曲に全てを詰め込み、ぶっ倒れる直前くらいまで歌いきる姿は凄すぎる……。
怒髪天
増子自身もイベントだろうが何であろうが、どんなライブも全力を出すと言い切っていたし、その後に「俺の為だ!」言い切っていたのも男らしかった。「ゲロ上がってきている!」と言ったのもリアリティーがあったし、そら、ここまで全力で歌ったら、そうなるわ……と変に納得して感心感動するしか無い。そして、11曲目には新曲「H.M.A.」を披露。“Heavy Mental Attitude”の略な訳だが、凄い言葉をぶつけてくるもんだ……。ゲロ上がるまで自分を追い込んで生きる人の本当に本当に強い言葉だった。
増子直純(怒髪天 / Vo)
ラストナンバーは「雪割り桜」。雪を割ってでも咲こうとする早咲きの桜の生命力の歌を今歌うなんて、たまらなく粋である。最後まで増子は拳を突き上げていたが、最後の最後は拳もどんどん下がってきて、もはや正拳突きみたいになっていたが、それでも止めない。全て終わり、その場に疲労困憊で、しゃがみこむ姿は、まさに生き様だった。
フラワーカンパニーズ
泥だらけになりながらの全力野球みたいな凄いライブの後に、どう立ち向かっていくのか楽しみにしながら、フラカンを待つ。1曲目「いましか」を皮切りに、2曲目で早くも代表曲「深夜高速」。<生きててよかった 生きててよかった>ときて、<そんな夜を探してる>という歌詞は、いつ聴いてもズドーンと響くし、素晴らしいし、凄いとか言葉が無い。そのままつんのめるビートで横に踊り狂いたくなる「脳内百景」。
フラワーカンパニーズ
続く「トラッシュ」では竹安堅一(Gt)のギターが火を吹き、鈴木圭介(Vo)のハープも火を吹く。<地ベタをはい回って生きてる 黒光りの茶羽が目印だ>、<もっと とととと ゴキブっていけ>という或る意味ハードコアな歌詞に<飛べ 飛べよ 飛べ>とサビの歌詞が覆い被さっていく。ぶっといビートが最高に燃える。圭介はドラムの後ろまでステージ1周走っている。51歳のボーカルとは思えない爆発的ステージング。怒髪天とは、また違う狂気を感じる泥んこ全力野球ライブ。
鈴木圭介(フラワーカンパニーズ / Vo)
圭介が「事の顛末は知ってますよね?!」と言いながら、ジャンピング乾杯の事の顛末を話して、「それだけの事」と話を終わらすドライさも良かった。ただ増子が圭介についてMCで話した時の、圭介の背を表現したジェスチャーに関しては、「あんなに小さくない!」とプリンスやビリー・ジョエルやサミー・デイヴィスJr.を例えに出して、「一緒の背の高さ!」とムキになるのも圭介らしくて面白い。
竹安堅一(フラワーカンパニーズ / Gt)
先日の横浜アリーナ無観客配信ワンマンライブでも披露された新曲「履歴書」の後は、「感情七号線」。圭介のアコギを弾きながら歌う姿に、ただただ聴き入る。<星くずみたいな はかない季節と ぐるぐる回る>という歌詞が泣けてくるし、緩やかな雰囲気がある楽曲だが、どんどん演奏がダイナミックに迫ってくる。それで、また、より泣けてしまう。「ペダルマシンミュージック」でも感じたが、年々、竹安のギターも存在感がむちゃくちゃ増している。とにかくギターが唸って、とにかくギターが泣いている。
ミスター小西(フラワーカンパニーズ / Dr)
8曲目「東京タワー」。詩を朗読するように始まる曲だが、<夢がなくて 金がなくて 未来が暗くても 友がなくて 彼女がなくて カラダが弱くても>、<歳はとるぜ 汚れてくぜ いつか死ぬぜ 神様はいないぜ>という現実を叩きつける歌詞は本当に救いようがない。<いつか死ぬぜ>と身も蓋も無さ過ぎるが、だからこそ、ここまで歌われると逆に気持ちが楽になる。曲終わり、「ついつい本気出しちゃった、今日は特に」と圭介が言っていたが、怒髪天のライブの後というのもあるし、やはり「お客さんがいるというのは有り難い」という言葉に尽きるだろう。
グレートマエカワ(フラワーカンパニーズ / Ba)
グレートマエカワ(Ba)も「お客さんに会えないなかで、この半年間いろいろやれることをやった」と話したし、圭介いわく、とにかく緊急事態が落ち着いてからはバンドで練習ばかりしていたという。もちろん横浜アリーナでのワンマンライブも感動的だったし、エモーショナルだったし、誠に素晴らしかったが、やはり我々も、こんなに素晴らしいバンドのライブは是が非でも生で観たい。
フラワーカンパニーズ
今回のイベントのキッカケになった張本人の小西は「骨折10周年って言葉はおかしいけど、みんなの記憶に残っているのは嬉しいです」という良き言葉を残したが、すぐさま圭介が「こちらが無理やり思い出させてる!」とかき消したのも御愛嬌。グレートのベースがブリブリでかっこよい「DIE OR JUMP」と圭介の声がスコーンと通る「恋をしましょう」からのラストナンバー「サヨナラBABY」で、この日のフラカンは大団円のはずだった。別に大団円じゃなかったという意味では無いが、「ラーラーラーラー」と観客も一丸になって歌う本当の終盤で、圭介が「やはりライブはいい! まだ、これから色々続くかも知れないけど対応していこう! 今日みたいな夜があるならば、俺たちは骨を折る! 何本でも骨を折る! それだけを忘れないでくれ!!」と急に堰を切ったように話し出した。
鈴木圭介(フラワーカンパニーズ / Vo)
この最後の最後の最後でのエモーション大爆発は凄かった。楽曲でもそうだが、やはり圭介は、こういう異様に突然振り切れた時の大爆発がとてつもなさすぎる……。
坂詰克彦(怒髪天 / Dr)&ミスター小西(フラワーカンパニーズ / Dr)
ジャンピング乾杯10周年という企画をすっかり忘れるくらいの真剣勝負一騎討ち……だった、ここまでは……と書かざるを得ないお楽しみ会がアンコール的に勝手に開幕! ステージ後ろの黒幕が剥がされると黒スーツを着たブルースブラザーズみたいな怒髪天の坂詰克彦(Dr)とフラカンの小西というドラムふたりが和太鼓を叩く。
坂詰克彦(怒髪天 / Dr)
ミスター小西(フラワーカンパニーズ / Dr)
坂さんはスーツというより背広だし、ブルースブラザーズにより近い黒ハットにサングラスという出で立ちの小西も実は松山千春のモノマネで、ふたりは松山千春の「ひとりじめ」を熱唱。小西は黒ハットを取るとハゲヅラを被っていたという力の入れ様……。
上原子友康(怒髪天 / Gt)&竹安堅一(フラワーカンパニーズ / Gt)
怒髪天の上原子友康(Gt)とフラカンの竹安のギターふたりによるチャゲ&飛鳥「ひとり咲き」を経て、ラストは全員登場で西城秀樹「ヤングマン」。誰かが<若いうちは>と歌う度に、増子が「俺たちは若くない!」と叫んでいたが、充分に若いですよ、こんなにアホでバカげた事を全力でやれるんですから。
『ジャンピング乾杯10周年記念公演 “帰ってきた OYZ NO YAON”』
観客が、それも年齢層の高い大人ばかりだが、本当に本当に心の底から子供のように無邪気にはしゃいでいた姿が印象的だった。最後は何故か、ビールケースに上がった清水さんが軽くジャンプして、それを周囲で全員が感謝の気持ちを込めて、胴上げポーズを取る謎の非濃厚接触骨折防止儀式を。本当の最後としては、全員で小さく上にジャンピング乾杯をして〆。両バンド共に全員50歳を超えているので、もう本当に誰ひとり絶対に本当の骨は折れない。が、この難儀な御時世に、精を出してライブを観客へ届けるという意味では、何度でも何度でも骨を折ってくれるだろう。いやぁ、(有観客生)ライブって本当にいいもんですね。
『ジャンピング乾杯10周年記念公演 “帰ってきた OYZ NO YAON”』
取材・文=鈴木淳史 撮影=鈴木洋平