今こそ笑いを届けたい! 『喜劇 お染与太郎珍道中』渡辺えり×八嶋智人インタビュー
(左から)八嶋智人、渡辺えり
2021年2月1日(月)~17日(水)に東京・新橋演舞場、21日(日)~27日(土)に京都・南座にて『喜劇 お染与太郎珍道中』が上演される。本作は、昭和54年に明治座にて『与太郎めおと旅』という題名で初演、作家の小野田勇が稀代の喜劇俳優・三木のり平とタッグを組んだ、ワケあり男女のドタバタ珍道中だ。今回、この名作の主演に挑むのは、渡辺えりと八嶋智人。演出は、今作で大劇場初進出となる寺十吾が手がける。主演の二人に、今喜劇の舞台に立つことへの熱い想いと本作への意気込みを聞いた。
喜劇では初共演
ーーお二人はこれまでもさまざまな作品で共演されています。舞台では、シス・カンパニー公演『えれがんす』から11年ぶり、喜劇での共演は今回が初めてとのことですが、改めてお互いの印象と共演に寄せる想いをお聞かせいただけますか?
八嶋:えりさんは、個人としても劇団「カムカムミニキーナ」としても、とてもお世話になっている大先輩です。えりさんが作り出す世界観が大好きですし、それは自分たちの劇団の世界観にも通ずるものでもあって、演劇の系譜でいうところの直属の先輩といえます。後輩の僕がご本人を目の前にしていうのもおこがましいのですが、えりさんは無尽蔵にチャーミングでピュアな人。そして、“信じる力”が圧倒的。例えば(目の前のティッシュケースを指差して)「このケース、実は食べられるんだって」とえりさんに言ったら、「え! 本当!?」って1回は絶対信じてくれるんですよ(笑)。
八嶋智人
渡辺:そうかなあ(笑)。
八嶋:こんな人あんまりいませんよね。大体の人が、そんなわけない! ってなると思うんです。でも、えりさんは違う。何事にも既成概念がなくて、「そういうこともあるかもしれない」というイメージ力と空想力、そして必ず1回受け入れてくれるっていうピュアさと懐の広さがあって……。それが楽しくって、今までいろんなものを「これ食べられますよ」って言ってきましたから(笑)。演者としてはもちろん、劇作家・演出家としての作品に対する理解度、それを以って徹底的に仕上げる姿勢には毎回感服させられます。知識の豊富さや演劇に対する愛の深さが圧倒的で、いろんなことをお聞きしたいと思うんですよね。そういう意味で、人間的にも先輩としても尊敬をしているし、愛しています! でも、それで恋人関係になれるかと問われば、それはまた別の話で、ちょっとご勘弁願いたい気持ちではあるんですが(笑)。今回は役として、えりさんのそんなチャーミングな可愛らしさを男性として好きでいたい。稽古初日からそう思ってやっていきたいと思っています。
渡辺:私も「カムカムミニキーナ」を昔から観ていて、八嶋くんはとても真面目に芝居と向き合っている役者さんだと感じています。普段はいじられたり怒ったり騒いだり、漫才的なキャラクターなんですが、舞台に出る時はコワイくらいの人なのではないかと。後輩に対しても厳しく指導しているし、それはそのまま自分に対しても厳しいということだから。プロ意識の高い、ストイックな人という印象です。過去に舞台でも共演していますが、最初の共演はたしか息子役だったよね。
八嶋:そうでしたね。
渡辺:共演していても、芝居の作り方がきちんとしていて、「演劇人」だと思いましたね。ただ、今回演じる与太郎はどちらかというと中性的。男でも女でもない、風のような人だと思うんです。八嶋くんはわりと男気の強い人なので、この役柄はかなりの挑戦ですよね。私はそういう男っぽさみたいなものには、どうしても反発してしまうので(笑)、そのあたりのバランスを考えて、2人で支え合って譲り合いながら良い関係をつくっていけたら、すごく面白くなるんじゃないかなと思っています。
渡辺えり
今こそ、喜劇の力で笑いを届けたい
ーー昨年も様々な作品に出演されてきたお二人ですが、コロナ禍という今の時代に喜劇を上演することにはどんな想いをお持ちですか?
八嶋:演劇が再開されてすぐの頃に喜劇と銘打てば、不謹慎と思う方もいらっしゃったかもしれません。これはいろんな取材でお話ししているんですが、もしかしたら、劇場は今一番安全な場所ではないか、と感じる気持ちが僕の中にはあって……。それは、スタッフさんや劇場の方がものすごい努力で感染対策をしてくださって、来て下さるお客さまも芝居を壊さないための自己管理や配慮をとても誠実にやっていただいているから。お芝居をみんなで完成させる、最後まで上演させるという思いの強さ。僕もえりさんもこの状況の中でいくつかの本番を迎えてきましたが、舞台の上でも観劇に出向いたときにもそれを肌で感じています。だから、“喜劇”と銘打って、「みんなで楽しい時間を過ごしましょう!」と言えることには大きな喜びがありますね。
渡辺:私もとにかくお客さんに笑っていただきたいです。同時に、自分にとっても今笑いが必要だと感じています。陽気な性格と言われる私ですら自粛期間には色々考え込んでしまって、「生きていていいのかな」と思うほどに落ち込むこともありました。そんな時期に真っ先に人の心を助けなきゃいけない私たち演劇人が、上演中止に追いやられて何もできなかったことも辛かった。古代ギリシャ時代は、演劇は医療として用いられていたほどなんです。今こそそんな演劇の笑いの力が必要だと痛感しています。だから、毎公演悔いなく笑わせたいし、笑いたい。喜劇の力でお客様の心の傷も癒し、その笑い声で自分も癒されたいと思っています。
ーー喜劇王として名高い三木のり平さんが主演を演じられた名作に挑むといったところでは、どのように受け止めていらっしゃいますか?
八嶋:この役を演じるにあたって三木のり平さんの本を読んだりもしているのですが、言葉の端々に“粋”を感じるんです。江戸の香りが漂う粋というか、悲しみだったり、怒りだったり、そういうものを内包しながら笑いに昇華するという絶妙なさじ加減があるのではないかと感じています。僕が関西人ということもあって、そんな東京の粋を体現できるかというのがひとつの課題じゃないかなと。到底僕が勢いだけで追いつけるものではないとも感じているので、諸先輩方の力を借りつつ、演出の寺十吾さんに導いていただきながらそれを少しでも体現できるようになったら、俳優としてひとつ新しいものを体得できるのかなと思っています。あと、僕はツッコミタイプなので、こういったおっとりさん役もあまりやったことがないんです。だから、ご一緒するみなさんが頼りです。みなさん、僕のこと、よろしくね、と思っています(笑)。
八嶋智人
渡辺:私は三木のり平さんのお芝居を拝見していますし、共演したこともあるのですが、その場にいる人全員を笑わせるすごい力を持った方でした。ドラマで共演をした時にも、小道具の後ろに台詞を書いていたり……。本当は覚えているんだけど共演者を笑わせるためにやっているから、私が使う小道具にも台詞が貼ってあって、それだけでおかしくて吹いちゃったりして。本当はとても知的でシャイな方だったんですが、自分が馬鹿をやって周りの人を生かして笑わせる、すごく面白い方でした。そんな三木のり平さんとタッグを組んでお染を演じられたのが、京塚昌子さん。ふくよかで愛嬌のある人という印象があるかもしれませんが、日舞でも何でも達者な、ものすごく腕のある女優さんでした。自分のできることを封じて役を魅せるというセンスが素晴らしい方だったので、同じようなことが自分にできるのだろうか、と思ったりしています。
ーー渡辺さんがお染を演じるにあたっては、どんなアプローチを考えていらっしゃるのでしょうか?
渡辺:京塚さんはおっとりされていたけど、私はものすごく動くと思います。台本を読むと、体重が重いことを利用して人を押したり踏みつけたりっていうシーンもすごく多くて、「これは動かざるを得ない!」と思いました(笑)。与太郎もお染も、演じる人のセンスでどのようにもできる役柄なので、しっかりと向き合わないとと思いますね。どちらも一人ではできない役で、掛け合いが大切な漫才のような芝居だと思います。
八嶋:怖いですね。でも、とても楽しみです。
渡辺:そういえば、この作品の初演の年に、私は自分の劇団を旗揚げしているんです。当時は、誰々が主役とかじゃない、みんなが主役の芝居をやるんだ! っていう想いで小劇場で劇団を立ち上げて、それから長年やって来て、今、新橋演舞場や南座に立たせていただくことに、とても感慨深い思いがあります。今回は、自分が小劇場時代にやってきたことも大切に、全員で創り上げる劇団のような芝居にしたいな、と思っています。そして、三木のり平さん達が苦労して作り上げたものにも失礼にならないよう、しっかりみなさんに笑っていただける芝居をつくっていかなければ、と実は今、少しずつ緊張が増しているところです。
歴史ある喜劇を新たな演出で
ーーそんな喜劇を今回演出されるのが、寺十吾さん。演出面ではどんなことを楽しみにしていらっしゃいますか?
渡辺:寺十さんはとてもユーモアのある方なので、細かいところにこだわった、かなりおかしな演出をしてくださると期待しています。あと、リアリティをすごく大事にされるので、その役の人が生きていないような演出は絶対しない方なんです。その人がどこかに生きていて、動いていることを前提に作品を色付けて面白くしてくださるんじゃないかなと楽しみにしています。
渡辺えり
八嶋:僕は作年の秋に『あなたの目』で25年ぶりに寺十さんの演出を受けたんです。25年前に寺十さんが主宰をされている「tsumazuki no ishi」という劇団に客演をしたことがあって、その時に演劇の基礎中の基礎をだいぶ注意されたんです。「この人と喋ってるんだからこの人を見なさい」とか、「そう思ってからセリフを言いなさい」とか。それに対して若かった自分は「テンポ悪くなるじゃないですか」とか反抗したりして……(笑)。
渡辺:あはははは!
八嶋:それで「今回どうでしたか?」と改めてお聞きしたら、「お前が芝居が大好きなんだってことはわかったよ」と言われて。それがプラス査定なのかマイナス査定なのかはわからないんですけど(笑)。でも、嬉しかったですね。寺十さんは、色んなことを俯瞰して大きく捉えることも、えりさんがおっしゃったみたいにすごく繊細な演出を加えるのも大好きな方だから、今から楽しみです。あと、僕は演者としての寺十さんのファンでもあるのですが、与太郎のようなおとぼけ役を寺十さんがやられると、まあ見事なんですよね。見本を見せて欲しいくらいなんですが、実際にあまり上手くやられたら、それはそれで「じゃあ、寺十さんがやればいいんじゃん!」って複雑な心境になっちゃいそうだから、そのあたり上手にタッグを組んでいい形にやっていけたらなと思っています(笑)。
取材・文=丘田ミイ子
公演情報
■演出:寺十吾
■出演:渡辺えり、八嶋智人
西岡德馬、あめくみちこ、広岡由里子、一色采子、宇梶剛士、太川陽介
石井愃一、有薗芳記、三津谷亮、石橋直也、春海四方、深沢敦
【東京公演】2021年2月1日(月)~17日(木) 新橋演舞場
【観劇料(税込)】1等席:12,000円 2等席:8,500円 3階A席:4,500円 3階B席:3,000円
【観劇料(税込)】1等席:12,500円 2等席:7,000円 3階A席:4,000円 特別席:13,500円
※当初予定しておりました公演日程、開演時間より変更になっております。