70歳を迎えた渡辺えりにインタビュー 古稀イヤーを締めくくるコンサートを前に何を想うのか

インタビュー
舞台
12:34
『70祭 ERI WATANABE CONCERT~ここまでやるの、なんでだろう?~』

『70祭 ERI WATANABE CONCERT~ここまでやるの、なんでだろう?~』

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70歳を迎えた演劇人・渡辺えりが、古稀イヤーを締めくくるコンサート『70祭 ERI WATANABE CONCERT~ここまでやるの、なんでだろう?~』を、池袋・東京芸術劇場プレイハウスにて開催する。12月20日(土)・21日(日)の2日間にわたって行われるこのお祭りには、多数のゲストが名を連ねており、「まるで生前葬のようなコンサート」と銘打ち、華やかかつ賑やかに、4時間にわたって行われるという。集大成ともいえるコンサートを前に、渡辺は何を想うのか。話を聞いた。

ーー今年は古稀を記念したお芝居など、出ずっぱりの1年でしたが、その締めくくりをコンサートで、と企画されたのはどのような理由からでしょうか。

まずはとにかく、70歳までよく生きてきたな、という年齢なんですよね。もしかしたら最後のコンサートになるかも知れない。と言うのも、私が尊敬している演出家や演劇人はみんな70歳くらいで亡くなられていて、私もそのくらいかな、と思っていたこともあって。だったら、生前葬みたいにみんなで集まって歌おう! と思ったんです。

昔だと70歳は居なくなってしまう年齢かもしれないけど、今の70歳はすごく元気じゃないですか? 同世代に向けて”まだまだ頑張りましょう!”っていう応援歌の気持ちもあります。年を取ると、つい昔の成功談や苦労話をしたくなるけど(笑)、演劇はその場限りのものだから、記憶になければ無いも同然。そういう意味では「昔は良かった」じゃなくて、今ここからまた、演劇を志した18歳の気持ちで頑張ろう! という気持ちでもあるんです。

ーー会場は池袋の東京芸術劇場プレイハウスですが、池袋という場所も思い入れがあるそうですね。

父の反対を押し切って18歳で山形から上京して、初めて降り立った場所が池袋です。舞台芸術学院に通っていて、アルバイトも池袋で、おでん屋さんでした。お芝居を学んで、よくエチュードをやっていた場所にできたのが、東京芸術劇場なんです。でも、プレイハウスでは、私が作ったお芝居が上演されたことはあっても、私自身が立ったことは考えてみたら、なかった。だから、池袋でやろう! と決めました。

渡辺えり       撮影:横田敦史

渡辺えり       撮影:横田敦史

ーーまさに演劇人生の原点に立ち返るステージですね。劇団3○○時代の劇中歌などを歌われるのも、原点への想いがあるからでしょうか。

当時の思い出を語りながら劇中歌を歌って、その時に歌ってくれた人たちを呼んでいます。田中利花ちゃんや根岸季衣さん、山崎ハコちゃんは『月に眠る人』(1993)に出てくれていたんです。『消えなさいローラ』(2020)に出てくれた尾上松也くんや、『肉の海』(2018)で初舞台を踏んだ屋比久知奈ちゃん、今年の古希記念の公演『鯨よ!私の手に乗れ』(2025)にも出てくれた北村岳子ちゃんや深沢敦さん、同じく出演し、真田広之さんと手塚理美さんの息子である手塚日南人くん…そのほか、飛び入りゲストや3○○劇団員の有志もたくさん出演してくれます。そういう人たちと劇中のひとコマをそのまま歌うんです。セリフも一言入れながら、集大成としてやろうと思っています。

それ以外にも、映画『モアナと伝説の海』の歌とか、クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」とかも歌いたいな、とか考えています。初挑戦ですよ。クイーン、大好きなんです。あとは、ザ・タイガースの「ラヴ・ラヴ・ラヴ」も歌いたいんです。ジュリー(沢田研二)さんに、歌っていいかどうかお手紙を書かないとね。

ミュージシャンの皆さんにもたくさん集まっていただきました。いろんな時代の作品、その瞬間に一緒に頑張ってきた人たちが一堂に会する。そんな空間になるはずです。

ーー12月20日(土)と21日(日)では、少しテーマが違うそうですね。

1日目はロック! 2日目はお芝居中心です。20日は、テツ and トモのトークと漫才に加え、木野花さんと女性の演劇人として苦労した話を楽しくお喋りするコーナーを予定しています。
さらに21日は、山形出身である橋本マナミちゃん、マナミちゃんとは高校の同級生でもあるという尾上松也くんとの3人でのトークもあります。
私は高校の時に革命を夢見ていて、貧富の差をなくそう、戦争をなくそうと心から思っていました。そう思い始めた頃に聞いていた歌を歌いたくて、1日目は頭脳警察に来ていただいています。抑圧された中から出てくるものが音楽であり、ロックだと私は思っているので、反戦歌などを歌っていきたいですね。タンゴのSumire&TAMAIさんにも両日出ていただくんですが、タンゴにもそういう側面があると私は感じています。

ーー4時間の公演というのも驚きました。まさに「ここまでやるの、なんでだろう?」を体現していますね。

最初は1日中やるくらい、フェスのような感じにしようかと思ったんですけど、周りに止められて(笑)。出入りも自由なので、どのタイミングでも楽しめるものにしています。初めてソロのコンサートをやったのが28歳で、その時は3時間半。意地でそれを超える4時間にしました。無茶をしてるな、と思いましたよ(笑)。タイトルは、なんでこんなに頑張っていると思う? っていう問いかけでもあるし、観てくださった方が「自分も頑張ろう」とか「やるべきことがある」と感じてくれたら嬉しいですね。

お芝居の劇中曲などはすべて私が自分で作詞しているので、とにかく歌をたくさん聞いていただきたいです。私は歌詞に平和への願いを全部、詰め込んでいるんです。一曲一曲に、それぞれテーマを込めて書いています。

ーー詞を書く時に意識されていることは他にもありますか。

差別される側の人間のことを考えていますね。人種差別や見た目での差別、男社会の中での女性など、いろいろな環境や状況がある中で、差別されないように生きていく。そういう想いを中心に書いています。

いつの時代でも、本当に悩んでいる人たちがいて、そこに共感したり賛同したりして、心が動かされる。そこは同じだと思います。若い世代の方たちにも、同じような感性を感じることもあるんですよ。最近だと、Mrs. GREEN APPLEを聴いていると、すごく共感できて、私の書きたい詞の世界と同じだと思いました。何か、気にも留められないような人たちの気持ちをしっかり歌っているんですよね。

ーー今回のコンサートもそうですが、若い世代と音楽や舞台などの現場でご一緒になることも多いかと思いますが、ご覧になられてどのようなことを感じられますか。

本当にみんな頑張っていると思います。先日もお友達が演出している舞台を観に行ったんですが、昔の私たちがやっていたような芝居を本当に必死になってやっていて…すごく好感を覚えました。昔と違ってハラスメントとかが難しい時代です。そんな中でピシッと切れ味よく、頭を、脳を使って、愚痴もこぼさずに頑張っている姿は、本当に励みになりました。今回出てくれているみんなも、そういう熱量や共感がある人たちばかりです。

渡辺えり          撮影:加藤孝

渡辺えり          撮影:加藤孝

ーー渡辺さんは、いつの時代もアグレッシブに演劇に向き合われてきた印象です。その熱量をずっと持ち続けられているのはなぜでしょうか。

根底に”怒り”があるんだと思います。戦争が今も終わらないことへの怒り、弱いものがいじめられることへの怒り、豊かな人だけが良い思いをすることへの怒り…誰もがご飯を食べられて、着たいものを着られて、子どもが死ぬことがない。そういう世の中が私の理想なんです。演劇も音楽も映画も、芸術は人間の”損得じゃない部分”——夢を見たいとか、人を愛したいとか、そういう本質的な欲求を扱うモノだと私は思っています。戦争やいじめとは真逆にあるのが芸術です。

だから、生の舞台は贅沢で、肌でその感覚を共有できる。そこにしかない体験なんですよね。でもそんな舞台を作るにはたくさんの人の力が必要だし、コストも考えなければならない。いつも悩みながら続けています。劇団時代はお金も全然ないから、合宿所みたいなところで缶詰になりながら芝居を作っていました。怒鳴ったり、怒鳴られたり、泣いたり、笑ったり…。楽しいことよりも苦しいことの方が多かったけど、あの時代があったから今があります。

頭脳警察のPANTAさんがね、お芝居を観に来てくれた時に「あなたたちの芝居は本当にすごい。あれを続けていきなさい」って言ってくださったんですよ。もう私はうれしくて、狂ったように頑張りました(笑)。いろんな方からそういうお声を頂いて、だからこそ頑張れるところはありますね。

ーーそんな大好きなみなさんと一緒にできることにも、大きな意味がありそうですね。

特に今回は、劇団の仲間や一緒に頑張ってきたミュージシャンのみなさんが、あの頃のままで集まってくれる。それって当たり前じゃないんですよね。みんな忙しいし、状況も違う。それでも「やるよ」って集まってくれる。本当に心から感謝しています。

ーーこれだけの規模をまとめるのも大変かと思います。コンサートでは演出も手掛けておられますが、準備は順調ですか?

もう毎日バタバタですよ(笑)。セットリストを考えて、どこで誰が出て、どういう流れで芝居をいれて…と、ずっと考えています。やりたい楽曲も多いんですよ。あれもやりたい、これもやりたい、って。大変ですけど、楽しいんです。こういうことができるのは今しかないと思っていますし、70歳まで生きてやってこれたことへの感謝です。健康で、まだ声も出るし、舞台に立てる。それなら全力でやりたい。こんな規模のことはもうできないかも知れないから、とにかく悔いのないようにやるだけです!

ーー楽しみにしています! 最後に、公演を楽しみにしているみなさまにメッセージをお願いします。

4時間ありますけど、出入り自由なので気軽に来ていただいて大丈夫です! 歌もお芝居も、昔の仲間の出演も、ミュージシャンの方々との豪華な演奏も、たくさん詰め込んだ本当に”お祭り”になっています。絶対に損はさせませんので、70歳の節目を、一緒に笑って過ごしてもらえたら嬉しいです。
 

取材・文=宮崎新之

公演情報

『70祭 ERI WATANABE CONCERT~ここまでやるの、なんでだろう?~』
 
日程:2025年
12月20日(土)17:00開演
12月21日(日)14:00開演
※未就学児入場不可
 
会場:東京芸術劇場プレイハウス
 
【演出】渡辺えり
 
【出演】
<12月20日(土)17:00公演>
司会:テツandトモ
 
渡辺えり
 
頭脳警察
澤竜次:ギター
宮田岳: ベース
樋口素之助: ドラム
おおくぼけい: キーボード
竹内理恵:サックス/フルート
 
石垣秀基:尺八
 
Sumire&TAMAI、田中利花、深沢敦、元劇団3〇〇劇団員有志達
 
-ミュージシャン
会田桃子、川波幸恵、川本悠自、coba、小林武文、近藤達郎、佐藤舞希子、新内多賀太夫、佐山こうた、鈴木崇朗、宅間善之、田島拓、西嶋徹、長谷川ガク、三枝伸太郎、RIO
 
アイザワアイ、岩崎環、小出奈央、椎木美月、鈴木楓加、手塚日南人、南条采良、藤浦功一、松井夢、翠月瞳、夢乃
 
20日出演決定 友寄有司
 
 
<12月21日(日)14:00公演>
司会:橋本マナミ、ロケット団
 
渡辺えり
 
尾上松也、北村岳子、Sumire&TAMAI、田中利花、根岸季衣、深沢敦、山崎ハコ、屋比久知奈、元劇団3〇〇劇団員有志達
 
-ミュージシャン
相川瞳、会田桃子、大野慎矢、川波幸恵、川本悠自、coba、小林武文、近藤達郎、佐藤舞希子、新内多賀太夫、佐山こうた、鈴木崇朗、宅間善之、田島拓、西嶋徹、長谷川ガク、マレー飛鳥、三枝伸太郎、RIO
 
アイザワアイ、岩崎環、小出奈央、椎木美月、鈴木楓加、手塚日南人、南条采良、藤浦功一、松井夢、翠月瞳、夢乃
 
21日出演決定  土屋良太、友寄有司
 
 
※キャストの出演スケジュールは予告なく変更になる可能性がございます。あらかじめご了承ください。
 

一般 ¥12,000 U-30/当日引換券 ¥5,500
※全席指定・税込
※U-30/当日引換券は一般発売から取扱開始いたします。先行では取扱対象外となりますのでご注意ください。
 
に関する問合せ】Mitt:03-6265-3201(平日12:00~17:00)
【公演に関するお問合せ】オフィス3〇〇
TEL:03-6450-8603/FAX:03-6450-8608/MAIL:mail@office300.co.jp
 
【主催】オフィス3〇〇
 
公式サイト:https://office300.co.jp/70sai.html
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