ミュージカル『ジキル&ハイド』主演の石丸幹二にインタビュー
石丸幹二
「50歳になって芸域がこんなに広がるんだなぁって思っています」
2001年日本初演を皮切りに、日本ミュージカル界に新たな伝説を刻んだ傑作ブロードウェイ・ミュージカル『ジキル&ハイド』。2012年3月に新たなジキル&ハイド役に石丸幹二を迎え上演された。熱烈な要望に応える形で、2016年、再び幕を開ける!
医師として理想を追求するも、分裂する人格を制御しきれず、愛と欲望の挟間で深く苛まれるという難役ジキル&ハイドに再び挑むことになった石丸幹二に話を聞いてきた。
――今回『ジキル&ハイド』が久しぶりの再演となりますね。今回再演ならではの新しい取り組みはあるのでしょうか?
石丸:初演があっての再演ですから、初演を踏まえた上で少し違う形のものをお見せしなきゃなと思っています。『ジキル&ハイド』は、ひとりの人物から出てくる二つの人格の物語ですが、そこに新たに三つめの人格を入れてみようと思っています。正義感に燃えるジキル、欲望のままに行動するハイド。そして、自身の中にハイドが息づいていることを知り、苦悩するジキル。この三者の行き来、それぞれの葛藤が出せると三面鏡の様になってゆくかなと思っています。今回のテーマはまさにそれですね。面白い作り方ができると思います。
――演じていくことで、大変になりそうなのは新しく出てきた人格ですか?
石丸:初演ではまだまだ構想の段階で終わったかと思います。この4年の間に「半沢直樹」を初めとして映像の分野でさまざまな敵役を演じることができましたので、今回は、これらの経験をフルに生かして造形してゆこうと考えてます。作曲のフランクからも、この第三の人格に期待するからね、という言葉ももらってますし……。
石丸幹二
――役者にとって作者に直接会えるということは?
石丸:大きいですね。彼はダイレクトに意見を言ってくれるので嬉しいです。例えば、初演のときには、「このジキルとハイドという役は難役のうちの難役。世の中の俳優はみんなやりたいと思うけれどできない。相当な体力と、キャリアと、それに裏付けされた演技力がないとできないね。君はそんな役に挑むんだよ」って言われた。がぜんやる気になりました(笑)
――しかも今回、もう一回挑むということになって!
石丸:「また君にやってもらえてよかった」って言ってくれたので、一安心(笑)
――フランク・ワイルドホーンの作品って、聞く側にしてはまるで耳が天国に召されそうになるくらい気持ちのよい曲ばかり。歌う側から見たら、手ごわい曲なのでしょうか?
石丸:テクニックが要求されるので手ごわいですね。フランクが言うには、「肉食が中心の西洋人の声の出し方でないと」。平坦なイントネーションでトントンとリズムを刻む日本語の標準語だと、フランクの楽曲は歌いこなせない。彼の音楽は、非常にダイナミックに抑揚がついた英語に合わせた作曲なので、ボリュームもピアノからフォルテまでの幅がものすごく広い。その拡大部分を補うテクニックが必要だと言うんですね。
そこで私は、アメリカの東海岸の人たちのしゃべり方、例えば、ニューヨークに住んでる人たちの「トワング」という語りの技法で歌ってみた。すると、ちゃんと音域が広く出るんです。面白いですよね。
石丸幹二
――今回の再演では、新たに石川禅さん、今井清隆さんが参加されることになりましたね。
石丸:お二人ともミュージカルの現場に慣れていらっしゃるので、歌で聴かせてくださるでしょうね。
それぞれ過去に何作も共演させていただいていますが、今井さんに至っては劇団時代から。お互いの声や芝居の質もわかってます。稽古場に入ったら、芝居上の関係性をすっと築けるかと思ってます。
石川さんとは「エリザベート」「レディ・ベス」「モンテクリスト伯」など、数々の作品で一緒に演じています。敵役同士という設定が多かったけれど、今回は親友。楽しみにしてます。
石丸幹二
――濱田めぐみさん、笹本玲奈さんはともに再演でも共演となります。
石丸:お二人は、娼婦ルーシーと婚約者エマというまったく正反対の女性たちを演じます。この4年間の経験がお互いの立ち位置や人格をどんなふうに変えてくるのか楽しみですね。まあ、お二人も私にきっとそれを期待されてるかと思いますが……(笑)。三人三様の「熟成」をお見せできればと思ってます。
石丸幹二
――先日ついに50歳を迎えられました。
石丸:8月に50になりました。ちょうど今年はデビュー25周年だったんです。人生の半分を演劇に費やしてきたんですね。嬉しいことに25周年の記念のアルバムもリリースでき、良い節目を迎えることができました。映像の活動が多くなった昨今、50歳なりのオファーも増えたんですよ。主人公に拮抗する、対抗する役とか。
――TBSドラマの「半沢直樹」とかも?
石丸:そうですね。あの浅野支店長役は私に敵役という扉を開いてくれました。そういった意味で私のターニングポイントになりましたね。来年の新春時代劇「信長燃ゆ」では明智光秀役をやらせていただくんです。世の中の人たちは、さまざまな光秀像を持ってらっしゃると思いますが、今回は、彼がどのような過程を経て、信長に反旗を翻すに至ったかをしっかり描いている。しかも、じつは背後に糸を引く存在がいたという解釈もなされていて、光秀の苦悩が鮮明に浮かび上がってくる。面白く演じることができました。
――正統派な役もやりつつ、クセのある役にも挑戦されるようになってきましたが、今後舞台で敢えて挑戦してみたい役というのはありますか?
石丸:舞台というのは特別な虚構の世界ですから、意味のある役であれば、若い年齢の役もやり続けていくかと思います。深い苦悩を抱えながら人間的に成長していくヒーローとかね。ただ、この頃は、年齢相応の、例えば、若い主役たちを支える役にも目がゆきますね。ミュージカル「レディ・ベス」での教師アスカムや、チャップリンの「ライムライト」の老芸人カルヴェロといった……。まだまだ年齢的に届かない場合は、髭を付けたりしながら、心の中を近づけてゆく。想像で作る面白さもありますが、実体験=ベースになるものをたくさん持っていると多様な表現に繋がってゆく。そういう意味で、年を重ねれば重ねるほど、芸域がこんなにも広がるんだなぁと思いましたね。
石丸幹二
――今年の暮れにクリスマスコンサートを各地で催されます。いらっしゃるお客様の層が例年と少し違うかもしれませんね。
石丸:昨年からクリスマスの時期にディナーショーを開いています。2回目の今年は、デビュー25周年ということもあり、ミュージカル公演で訪れたことのある4都市のホテルでの開催となりました。舞台俳優の私をこれまで熱心に応援してくださった方々、テレビのドラマや歌番組で私を知ってくださった方々、あるいは、なんとなく「石丸幹二」という名前に反応して、「え、あの人、歌うの?」と思われたホテルの常連のお客さま……、そんな皆さんに向かって、今の石丸幹二のパフォーマンスをお見せしたつもりです。もちろんミュージカル『ジキル&ハイド』の「時は来た」は、テッパンの1曲。ショーの終わりに全身全霊を込めて歌い切りました。
石丸幹二
■日時・会場:
2016年3月5日(土)~20日(日) 東京国際フォーラム ホールC
2016年3月25日(金)~27日(日) 梅田芸術劇場 メインホール
2016年4月8日(金)~10日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
■原作:R・L・スティーブンソン
■音楽:フランク・ワイルドホーン
■脚本・詞:レスリー・ブリカッス
■演出:山田和也
■出演:
石丸幹二、濱田めぐみ/笹本玲奈
石川禅、畠中洋、花王おさむ、今井清隆、宮川 浩、林アキラ、阿部裕、松之木天辺、塩田朋子ほか
■公式サイト:http://www.tohostage.com/j-h/