長塚圭史が新芸術監督に就任! KAAT神奈川芸術劇場2021年度プログラムを発表
長塚圭史、白井晃(左から)
KAAT神奈川芸術劇場では、2021年4月より、長塚圭史新芸術監督が就任する。3月1日(月)に長塚新芸術監督の就任会見と、2021年度のラインアップ発表会が行われた。その様子をレポートする。
白井晃「劇場を変える大きなチャンス」
白井晃
KAAT神奈川芸術劇場の眞野純館長より挨拶があった後、白井晃現芸術監督がこれまでの歩みを振り返りつつ、新芸術監督へのエールを送った。
白井:今日こうして長塚新芸術監督の就任会見ができることを本当に嬉しく、喜ばしく思っております。私は2014年にアーティスティック・スーパーバイザー、16年から芸術監督として、計7年間この劇場に関わらせていただきました。私は宮本(亞門)前芸術監督の退任に伴いまして、就任させていただきました。私は身に余る重責をいただいたとその時は思っておりました。考えてみれば、この7年間はその重責と自分の能力との戦いだったという感じを受けております。日々自分に何ができるのか、もっとできることはないのか、自問自答の日々だったような気がしております。
KAATは今年10周年を迎えますが、私が就任した時はまだ丸3年が経ったばかりで、公共劇場としては若い、新しい劇場という印象がありました。KAATは開館当初から「つくる劇場」を標榜しておりましたが、私はより強い発信力が必要だなと思っておりました。ここに劇場があって、横浜に劇場があるわけですから、より多くの皆さんに劇場に来ていただきたい。「劇場こそ広場である」という先輩諸氏のお言葉もありましたけれども、この劇場にもっとたくさんの人に集まっていただきたいなと思いました。
そのためには、東京と微妙な距離感にある横浜で何をしたらいいのか。できるだけ東京ではやらないような挑戦的なことであったり、挑発的な、先鋭的なプログラムを作ることが必要ではないかなと思いまして、多くのアーティストのみなさんにクリエーションしていただくことによって、より多くの観客の皆様に来ていただけるのではないかなと目指したわけなんです。
KAAT神奈川芸術劇場の眞野純館長
白井:おかげさまで19年度には主催公演としては今まで過去最高のお客様が来ていただくことになりました。それなりの成果はあったかなと思っているんですけど、ただまだ自分の力では足りないところがあって。もっと面白く、この劇場が刺激的で、ワクワクするような劇場にするためには、どんな発想が必要なんだろうと思った時に、3年前に長塚圭史さんが仲間と作られた、新ロイヤル大衆舎の『王将』を下北沢の劇小劇場で拝見する機会がありました。その時に、長編の作品を小さな劇場で、連日、みんなの力で上演されているのを観て、こんな面白いことを企画できる方が必要だと感じ、あのエネルギーをぜひこの劇場にほしいと思いました。
それでお願いをして、2年前から芸術参与としてこの劇場に参加していただき、いろいろご協力いただきました。20年度は思いもよらない事態に、世界中が襲われました。正直、予定されていたプログラムの多くが中止になりました。自分がバトンタッチをするときまでには、ここまで行っておきたいなというところに到達できなかったのは、非常に無念でもありますし、残念な思いもあります。しかし、新芸術監督と話をしまして、中止になったプログラムは21年度以降のプログラムに組み込んでいただくことができました。本当に感謝しております。
芸術監督が代わるということは、大きく劇場のコンセプトや方針を変化させる、大きなチャンスだと思います。この劇場でクリエーションしていただくアーティストも大きく変化できるチャンスだと思います。このような時世の中でのバトンタッチは、長塚新芸術監督にとってもご苦労が多いと思うんですけども、考えようによっては劇場を取り巻く環境も大きく変わらざるを得ないので、むしろ良いチャンスなのではないのかなと思います。もしかしたら、運命的にこのタイミングでよかったのかなとすら思っております。
長塚さんがより刺激的でワクワクするような劇場にしていただけること、本当に心から期待しております。私の前のめりな姿勢ゆえに劇場のスタッフの皆さんには、非常にご苦労をかけたんですが、みなさん誠実にプログラムを実施してくださって、心から感謝しております。この7年間の間に、いろいろクリエイションしていただいたすべての演出家の皆さん、戯曲家の皆さん、俳優の皆さん、振付家の皆さん、ダンサーの皆さん、音楽家、現代美術家、そして、すべてのアーティストの皆さんに心から感謝を申し上げます。そして、長塚新芸術監督の新しい船出を心からお祝いしたいと思います。
よりひらかれた劇場へ 長塚圭史新芸術監督が語る3つの方針
長塚圭史
続いて、長塚圭史新芸術監督による就任の挨拶。「興奮すると早口になりすぎると言われるので、落ち着いてお話ししたいです」と切り出し、笑いを取った後、KAAT神奈川芸術劇場の3つの方針を示した。
1つ目は、シーズン制の導入だ。
「劇場に季節感やリズムをつくりたいというのが大きくあります。劇場がひとつのリズムを持っていると、この周辺を通りがかる人だったり、生活している人だったりに、この劇場の存在がより伝わるんじゃないかなと思うんです」と長塚新芸術監督。
1年間の流れとしては、4月に劇場が開き「プレシーズン」(4~6月)が始まる。どちらかというと実験的な公演が多く「劇場全体で遊ぶような実験的なもの」をやっていくという。7~8月には、KAATで人気の「キッズプログラム」が行われ、夏の終わりから約半年間が「メインシーズン」という位置づけだ。
メインシーズンに関しては毎年タイトルをつけていくといい、1年目のタイトルは「冒(ぼう)」。長塚は「この『冒』をどういう風に作品と繋げるかは、お客様の方で考えていただけたら面白いんじゃないかなと思います。飛び出す、跳ね出す、突き進む。そんなイメージを持って、冒険心いっぱいでやっていきたい」と話した。
芸術監督就任の挨拶をする長塚圭史
2つ目は、「劇場をひらいていく、どんどん劇場から飛び出していく」ということ。
長塚は「この劇場は10年間の間に、非常に注目をされる劇場となりました。数多くの先鋭的な作品をものすごくたくさん作って、演劇を愛する皆様に注目され、演劇関係者の皆様にも注目される劇場となりました。それは素晴らしいことで、この10年走り続けてきた財産だと思います。その財産に大きく乗っかって、これからはまだ演劇と出会ったことのない、お芝居を観たことのない人たちに観ていただきたい」と熱く語る。
劇場1階部分のアトリウム広場に特設劇場を作り、『王将』三部作を上演する構想があることを明かした。「通りからお芝居をやっているのが見えたりとか、特設劇場の周りをうろついている衣裳を着た俳優を目撃したりとか。コロナの状況が許せば、出店が出ちゃったりして」と楽しげに話す長塚。
そのほか、県民と作品をつくったり、神奈川県内を巡回するツアーを実施したりと、いろいろとアイディアを実現させていく用意があるようだ。
長塚圭史
3つ目は、豊かな創作環境作り、劇場の未来を考える《「カイハツ」プロジェクト》。
長塚は「上演しなくてもクリエイションが続いている劇場になりたい。上演だけでなく、もっともっと練り上げる時間があっていいんじゃないか。アーティストがそのアイディアをさまざまな角度から見つめたり、実際に動かしてみたり、トライアルする期間があっていいんじゃないか。そのトライアルに場所と時間を与えていく。そうすることでアーティストやパフォーマーとの新しい出会いになるかもしれない」と話し、さらに「戯曲も国内外問わず、新旧いろんな戯曲を劇場で読んでみて、いい作品があったらそれをいつかお披露目できるようにしていく。そんな再発見ができるような、戯曲のカイハツも進めていけたらと思います」と方針を語った。
方針を語り終えてから、長塚は「大役を任せられて、非常に、なんていうか、頑張らなきゃなというふうに思っています。本当に白井さん、それから10年、KAATが作り上げてきた土台に大いに乗っかって、動きのある劇場にしていきたいと思います。7年で僕にバトン渡すのは相当のご覚悟だと思うので、大いにこの劇場をまた新たな方向に舵を切って進めていけたらいいなと思っております」と締め括った。
注目作品が多数! 2021年度のプログラム発表
ラインナップ発表会に臨む長塚圭史
従来ならば、公演関係者が複数登壇して思いを語る会見なのだが、新型コロナウイルスの感染予防のため、今回は長塚新芸術監督による一人プレゼンで行われた。2021年度のラインナップは次の通り。
【プレシーズン】
■KAAT神奈川芸術劇場プロデュース リーディング公演『ポルノグラフィ』
日程:4月16日(金)~18日(日) 中スタジオ
作:サイモン・スティーヴンス
翻訳:小田島創志
演出:桐山知也
出演:上田桃子 内田淳子 小川ゲン 奥村佳恵
竪山隼太 那須凜 平原慎太郎 堀部圭亮 (五十音順)
■新ロイヤル大衆舎×KAAT 『王将』-三部作-
日程:5月15日(土)~6月6日(日) アトリウム特設劇場
作:北條秀司
構成台本+演出:長塚圭史
音楽:山内圭哉
出演:福田転球 大堀こういち 長塚圭史 山内圭哉(以上新ロイヤル大衆舎)
常盤貴子 江口のりこ 森田涼花 弘中麻紀
櫻井章喜 高木稟 福本雄樹 荒谷清水 塚本幸男
武谷公雄 森田真和 田中佑弥 忠津勇樹 原田志
■KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『未練の幽霊と怪物』ー「挫波(ザハ)」「敦賀(つるが)」ー
日程:6月上旬~下旬 大スタジオ
作・演出:岡田利規
音楽監督・演奏:内橋和久
出演:森山未來 片桐はいり 栗原類
石橋静河 太田信吾/七尾旅人(謡手)
■KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『虹む街』
日程:6月上旬~下旬 中スタジオ
作・演出:タニノクロウ
出演:安藤玉恵 金子清文 緒方晋 タニノクロウ 蘭妖子 +県民参加の皆様
■KAAT DANCE SERIES 2021 イスラエル・ガルバン『春の祭典』
日程:6月18日(金)~20日(予定) ホール
振付・ダンス:イスラエル・ガルバン
作曲・音楽監督:シルヴィー・クルボアジェ
ピアノ:シルヴィー・クルボアジェ、コリー・スマイス
■KAAT キッズ・プログラム2021『ククノチテクテクマナツノボウケン』
日程:7月 大スタジオ
振付:北村明子
舞台美術:大小島真木
出演:柴一平 清家悠圭 岡村樹 黒須育海 井田亜彩実 永井直也
【メインシーズン『冒』】
■KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『湊横濱荒狗挽歌(みなとよこはまあらぶるいぬのさけび)』
日程:8月末~9月中旬 大スタジオ
作:野木萌葱
演出:シライケイタ
■KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『近松心中物語』
日程:9月上旬~下旬 ホール
作:秋元松代
演出:長塚圭史
出演:田中哲司/松田龍平、笹本玲奈/石橋静河 他
■KAAT EXHIBITION 2021『志村信裕 展 I 游動』
日程:9月9日(木)~10月8日(金) 中スタジオ
■KAAT DANCE SERIES 2021×Dance Dance Dance@YOKOHAMA2021『エリア50代』
日程:9月23日(木・祝)~26日(日) 大スタジオ
出演:小林十市 近藤良平ほか
■KAAT DANCE SERIES 2021×Dance Dance Dance@YOKOHAMA2021『Noism Company Niigata × 小林十市』
日程:10月16日(土)、17日(日) ホール
演出振付:金森穣
出演:Noism0 / Noism1 / Noism 2、小林十市
■KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『アルトゥロ・ウイの興隆』
日程:11月 ホール
作:ベルトルト・ブレヒト
翻訳:酒寄進一
演出:白井晃
音楽・演奏:オーサカ=モノレール
振付:Ruu
■KAAT DANCE SERIES2021『Le Tambour de soie 綾の鼓』
日程:12月下旬 大スタジオ
テキスト:ジャン・クラウド・カリエール
原作:三島由紀夫
音楽:矢吹誠
演出・振付・出演:伊藤郁女、笈田ヨシ
■KAATカナガワ・ツアー・プロジェクト 第一弾『冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~』
日程:2022年2月 中スタジオ
原作:呉承恩『西遊記』
上演台本・演出:長塚圭史
共同演出:大澤遊
音楽:角銅真実
■KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『ラビット・ホール』
日程:2022年2~3月 大スタジオ
作:デヴィッド・リンゼイ=アベアー
上演台本:篠﨑絵里子
演出:小山ゆうな
■YPAM 2021ー 横浜国際舞台芸術ミーティング
日程:12月中旬 ホール・大スタジオ・中スタジオ(予定)
【提携公演】
・仕立て屋のサーカス 4月〈大スタジオ〉
・錬肉工房 6月〈中スタジオ〉
・とりふね舞踏舎 7~8月〈大スタジオ〉
・劇団た組 10~11月〈大スタジオ〉
・Organ Works 12月〈大スタジオ〉
・地点 1月〈大スタジオ〉
・Baobab 1月〈大スタジオ〉
・Co.山田うん 1月〈大スタジオ〉
・BATIK 3月〈大スタジオ〉 ほか
2021年、新たな方向へとまた進むKAATの演劇に期待が高まるばかりだ。