「刺激をくれたのは自分」中村種之助が『踊りの会』で『鏡獅子』に挑む~取材会レポート

レポート
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2021.6.23
中村種之助 『踊りの会』取材会より

中村種之助 『踊りの会』取材会より

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2021年8月6日(金)・7日(土)、国立劇場小劇場にて、歌舞伎俳優の中村種之助が、『子守』と『まかしょ』、そして新歌舞伎十八番のうち『春興鏡獅子(以下、鏡獅子)』を披露する。公演名は、『中村種之助「踊りの会」』。直球のタイトルを掲げ、大曲に挑む種之助が、取材会で公演への意気込みを語った。

■上手くなりたい、いい役者になりたい

兄・歌昇との自主公演『双蝶会』を、2015年より4年連続で8月に開催してきた。種之助が単独で開催するのは、今回が初となる。

「今年の8月は、兄が歌舞伎座に出演しますので、僕ひとりで、『踊りの会』をやらせていただくことになりました。やらない方がいい、という選択もある時期です。お客様の数は制限されますし、開催できるかも分かりません。色々と難しい中で、わざわざやろうと強く思ったのは、もし中止になったとしても、そこまでの稽古の日々が糧になると考えたからです。とにかく上手くなりたい。いい役者になりたい。それがやる理由です。やらなくてはならないことは2倍ですが、勉強できることも2倍だと思っています」

公演タイトルは、『踊りの会』。

「色々考えましたが、分かりやすさ重視で(笑)。とにかく種之助が踊りの会をやるんだ! と伝わるものにしました」

父の中村又五郎や歌昇からは、どんな反応があったのだろうか。

「父は、これまでも見えないところで、本当に色々助けてくれました。ですが自主公演は、僕が公演の裏側を学ぶ機会でもあります。父には面倒見が良すぎるところがあるので、そっとしておいてもらおうかと思っています(笑)。兄は……やること自体、知っているのかな?」

種之助は首を傾げてみせ、記者たちの笑いを誘った。

■猿之助が、ふと言った『子守』・『まかしょ』

最初の演目は、『子守』と『まかしょ』。

「雰囲気の異なるものを、組み合わせました。いずれも藤間流宗家の振りで、やらせていただきます。子どもの時から踊っていた演目ですが、本興行ではあまりかかりません。2017年に、猿之助のお兄さんの『浮世風呂』に出させていただいた時、お兄さんは覚えていらっしゃらないと思いますが、ふと“『子守』と『まかしょ』をやったらいいよ”とおっしゃったんです。理由はお聞きしませんでしたが、お兄さんの中に、僕が女方と立役を両方やっているという認識があったことが、嬉しかったです。その時、僕は“なめくじ”役で……なぜ『子守』と『まかしょ』だったのでしょうね(笑)」

この2曲は、素踊りで披露される。

「素踊りでは、化粧や衣裳の助けがありませんので、身体の扱いや表情だけで表現する難しさがあります。『子守』であれば、ただ“子どもの面倒をみる若い娘”ではなく、たとえば田舎で生活しているとどういう身体の使い方になるかとか。深いところまで考えながら踊りたいです。『まかしょ』について藤間勘祖先生には、“もっとお洒落に踊りなさい”と、ご指導いただいています」

■無理をしてでも臨むべき大作

本公演の後半は、初役で大曲『鏡獅子』に挑む。

「歌舞伎役者なら、憧れる演目のひとつではないでしょうか。大曲で名作です。同世代の尾上右近さんや中村鷹之資さんも、自主公演でなさっています。この演目と縁あるお家の、同世代の方々が、あれだけすごい『鏡獅子』をされている。僕がやる必要はないようにも思いました。ですが、この時期に自分で会を開催する以上は、無理をしてでも臨むべき大作に臨まなくては意味がないと考え、宗家と相談の上で『鏡獅子』を選びました」

『鏡獅子』は、前シテと後シテで、大きく2つに分かれる。前シテでは大奥につかえる小姓の弥生として、後シテでは獅子の精となって踊りを披露する。

「小細工が効かない、王道を行く演目ですね。前シテでは二枚扇や袱紗、手獅子を扱う舞踊もあり、隙がありません。先輩方の名演が、目に焼きついています。今は、先輩方の姿を追いかけることで精一杯です。その意味でも、ただ真摯に向き合っていきたいです。昔の本に、“お花になった気持ちで”と書かれていたりもするのですが、“お花の気持ち”って踊りではどういうこと⁉ など思いながら、稽古をしています(笑)」

中村種之助

中村種之助

印象に残っているのは、五世中村富十郎、そして十八世中村勘九郎の『鏡獅子』。とくに富十郎の踊りは、どの曲に取り組む時も、まず参考にするのだそう。

「僕の中で、踊りといえば富十郎さんです。(魅力を問われ)尊敬する方にコメントをするのは本当に難しいのですが……変わったことをなさらない。決められた振りの中で、決められた枠をいっぱいに使う、真っ直ぐな踊りが印象的です」

胡蝶の精は、坂東彦三郎の長男・坂東亀三郎と、勘十郎の長男・藤間康詞がつとめる。

「康詞くんは、宗家から“出そうか?”とお話をいただきました。亀三郎くんは、まさか先に本興行で『鏡獅子』に出演されることになるとは!(※) 亀三郎くんの胸をかりて、勤めます(笑)」

※亀三郎くんは、2021年5月歌舞伎座の第三部で『鏡獅子』の胡蝶の精を勤めました。

■謎の自信が湧いていたのに

幼い頃から、踊りが好きだったのか問われると、種之助は首を横に振り、「稽古場に行くのがイヤな子どもでした。役者になるか悩んだ時期もあるくらいです」と答えた。

「16、17歳の頃から、本興行で大人の役をいただくようになると、台詞をご指導いただくときよりも、身体の動き方を直す時の方が、こうすればいいんだ、ここはこうだ……と、次々と見えてくる感覚があり、当時の僕には易しかったんです。踊りへの印象が良くなり、踊りを好きになるきっかけのひとつになったと思います」

新型コロナの影響による自粛期間には、意識の変化もあった。

「芝居がなかった約半年、ずっと家にいて、ふだんは自分の舞台映像を見返すことが、好きではありませんが、思い立って過去の舞台を観てみたんです。そうしたら、思っていた何倍もひどくて! 今まで、舞台の上でだけは謎の自信が沸いていたのですが、消え去りました(苦笑)。新春浅草歌舞伎の『乗合船惠方萬歳』だって、毎日本当に楽しく踊らせていただいていたのに! これまで、先輩をはじめ、色々な方と芝居をしたり観たりする中で、さまざまな刺激をもらってきました。自宅にこもり、外からの刺激がなくなった時に、一番の刺激をくれたのは、自分でした」

種之助が舞台で踊る姿を知る方ほど、この発言に驚くのではないだろうか。取材会でも、記者たちに「意外」という反応が広がり、「どこを、ひどいと思ったのか」と質問があがった。

「踊りは好きです。体を動かすのが好きなだけではだめで、技術がないといけません。形が決まるまでの流れが、まだまだ拙かったり、自分ではバシッと決まり、やった! と思ったところも、何か気持ち悪かったり。それでいいのか? と思いました。歌舞伎舞踊は、踊りに役の性根が見えなくてはいけません。役者として踊る時の心得は、良し悪しではなく舞踊家さんとは異なるんですよね。そういった部分もあるのかもしれません。でも、それを知ることができて良かったです。何かやらなくては、という気持ちになりました」

この思いが、本公演の開催にも繋がった。

「1公演で3番、2日目は1日2回公演ですから大変です」と中村種之助

「1公演で3番、2日目は1日2回公演ですから大変です」と中村種之助

「年齢的には、“種之助の役柄”が、決まってもよい頃だと思いますが、僕はまだ定まらず、さまざまな役をいただいています。色々な挑戦ができるうちに、色々させていただきたいです。お客様には、兄の歌昇と僕を、播磨屋という一門の兄弟として、見ていただいていると感じることが多く、これは大変に嬉しく、ありがたいことです。でも、“種之助個人として見ていただく部分が少ないのでは?”という気持ちも、正直あります。その意味でも、一人でやる意味があると思っています。そこで今回は、“中村種之助”の文字を少し大きめにしてみました」

種之助は、笑顔でチラシに目をやり、笑いを誘って、取材会を結んだ。中村種之助『踊りの会』は、8月6日、7日に国立劇場・小劇場にて開催される。

公演情報

中村種之助『踊りの会』
 
■日程:
2021年8月6日(金) 17時
2021年8月7日(土) 12時/16時(全3回)
 
■会場:国立劇場 小劇場
 
■演目:
一、「子守」「まかしょ」
子守お種/願人坊主  中村種之助


二、新歌舞伎十八番の内「春興鏡獅子」
小姓弥生 後に獅子の精 中村種之助
胡蝶の精 坂東亀三郎、藤間康詞
 
:9,000円(全席指定)
発売:6月29日(火)10時~
 
国立劇場売場(窓口のみ/10時~18時)
双蝶会事務局 TEL:03-5797-7834/FAX03-5797-7440(10時~18時)
公演についてのお問い合わせ:燿の会 080-8897-7669
 
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