BRAHMANが最新ツアーで突きつける驚愕のライブ体験 Zepp Hanedaでその一部始終を目撃した

レポート
音楽
2021.7.2
BRAHMAN 撮影=Tsukasa Miyoshi (Showcase)

BRAHMAN 撮影=Tsukasa Miyoshi (Showcase)

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※ライブの性質上、大阪公演に参加予定の方は以下のテキストを読む際にご注意ください。


BRAHMAN tour 2021-SLOW DANCE-  2021.6.28 Zepp Haneda

今日、とんでもないモノを観た。6月28日、Zepp Haneda、『BRAHMAN tour 2021-SLOW DANCE-』。バンド史上初、スローナンバーのみを中心にやり切った前代未聞のライブ。それはBRAHMANの持つ無尽蔵のエナジーと、結成25年を超えてなお燃えたぎるバイタリティを知らしめる、想像を超えるライブ体験だった。

1曲目から、度肝を抜かれる。アルバム『ANTINOMY』収録、全編アイヌ語による異色の名曲「KAMUY-PIRMA」だ。祝詞のような、わらべ歌のような、素朴なあたたかみあるメロディと、ゆったりとした三拍子。もやがかかった薄い紗幕の向こうで演奏する、バンドのシルエットが強烈な逆光に浮かび上がる。仏像の光背のような、山頂で見られるブロッケン現象のような、幻想的な光景。

そのまま紗幕の内側で4曲を歌う、大胆な演出も驚きだ。「FIBS IN THE HAND」から「空谷の跫音」へ、スローテンポの内側に激しい爆発力を秘めた、凄みある曲が続く。紗幕の上では白、青、赤と徐々に光が移り変わり、非日常の視覚を刺激する。圧巻は「終夜」で、スローだからと言って容赦しないRONZIの野生味溢れるドラミングを中心に、緩急自在の演奏でぐんぐん加速。TOSHI-LOWが渾身のシャウトで吼える。オーディエンスは、BRAHMANのライブではかつてないフロアに椅子を並べた異様な状況に慣れる暇もなく、食い入るようにステージを見守る。スローでもロック、スローでもBRAHMAN。魂の震えに変わりはない。

ここでお馴染みの登場SE「molihta,majcho i molih」が大音量で流れ出す、変則的な構成にまたも驚く。しかし本当の驚きはその次、「霹靂」だ。正面の紗幕いっぱいに降りしきる雨の映像が、精巧な3D効果のおかげで手に取るように、しぶきを感じられるほどにリアルに見える。そして黒雲、一瞬の稲光を合図に紗幕が一気に取り払われ、生身のバンドが姿を現す瞬間に、自然発生的に沸き上がった拍手の波。光と映像と音と拍手が完璧なシンクロを見せる、最高のライブ演出だ。

曲は「FROM MY WINDOW」から「BYWAY」へ。明るい広がりとあたたかみを感じる曲が続くが、RONZIとMAKOTOの骨太リズム隊による手加減抜きのパワープレーのおかげで、甘さや緩さは1ミリもなし。「PLASTIC SMILE」も陽性のグルーヴを持つ曲だが、背後のスクリーンに映されるバンドの過去のライブ写真があまりに激しく荒々しく迫ってきて、ただゆっくりと聴き飛ばすことを許さない。さらに、続けて演奏したのはまったくの未発表新曲(タイトル未定)で、いつになく優しくメロウなKOHKIのギターが強く印象に残る、柔らかい三拍子の1曲。意味などないほどに、走り抜けていたいだけ。まぎれもなくバンドの「今」を映し出す、聴き心地良さの内側に強い決意を込めた1曲。

明るさと激しさの中でKOHKIの無骨なアルペジオが映える「ONENESS」を経て、またもこの日何度目かのピークがやってきた。曲は「ナミノウタゲ」だ。何といっても驚いたのは、歌のバックで流された、「ナミノウタゲ」のミュージックビデオとまったく同じ場所を再訪し、地元の漁師たちをフィーチャーした新しい映像。たくましく生きるその姿とTOSHI-LOWの力強い歌声とがあいまって、想定外の深い感動が胸から目へとこみ上げてくるのをどうにも止められない。今日のTOSHI-LOWは絶好調で、続く「今夜」でもパワー、気持ち、音程、すべてにパーフェクトな歌を聴かせる。BRAHMANの過去の歌が古びない大きな理由の一つは、TOSHI-LOWの歌が進化し続けているからだ。それはいつも、今日初めて聴く歌のように新鮮な装いで、目の前に現れる。

しなやかで素朴なメロディを持つ「PLACEBO」を経て、いよいよクライマックスが近づいてきた。もう何度も何度も聴いたはずなのに、今日聴く「満月の夕」がいつも最高に思えるのはどうしてだろう。感情を揺さぶられる大きな出来事や事件が世の中に起こるたび、すべてを飲み込みさらに大きな意味を持ってゆく稀代の名曲。解き放て、いのちで笑え。そんな、コロナ禍で聴く「満月の夕」がこれまでで最高にエモーショナルな1曲ならば、「鼎の問」もまたしかり。目の前の何度目の、祈りを超えて何度でも。何かが起こるたびに問いかけは繰り返され、答えはいつも風に舞っている。問いかけの歌は決して古びない。BRAHMANは古びない。

再び引かれた紗幕の上に、外出自粛でさびれた街が映し出される。ライブハウスの苦しみが映し出される。そして、それでも歌い続けるバンドの姿が映し出される。言葉はいらない、ちゃんと伝わっている。手拍子も何もないが、おそらくこれがアンコールなのだろう。紗幕の向こうでバンドが静かに演奏を始め、徐々にテンポが上がり、最高速に達したところでTOSHI-LOWが吼え始めた。曲は新曲「SLOW DANCE」だ。タイトルとは裏腹に、今日のライブのテーマとも真逆に、しゃにむに疾走してゆくツービートの激烈ロックチューン。紗幕に次々と映し出されては消える、歌詞のタイポグラフィが鋭く目を射抜く。風の街。消えた賑わい。重さのない命。2021年の今、BRAHMANが歌わなければいけない曲。静かに踊れ、激しくSLOW DANCE。

すべての音が消え、灯りがともり、ふっと我に返るまでに何秒かかっただろう。歌、演奏、照明、映像、曲順、すべてにおいて練りに練ったであろう、渾身のメッセージライブ。TOSHI-LOWは一言も発しなかったが、それ以上に雄弁な歌と音楽。今日、とんでもないモノを観た。俺たちはこれをやった、お前はこれから何をやるのか?と、強烈な問いを突き付けられた。パンク/ハードコアのスピリットを持ったままここまで進化した、BRAHMANの歌にどつかれた。忘れられない、忘れちゃいけないライブになった。


取材・文=宮本英夫 撮影=Tsukasa Miyoshi (Showcase)

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