Absolute area 2年振りのワンマンライブで果たされた、念願の約束

レポート
音楽
2021.11.16
Absolute area 撮影=@kyonntra

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Absolute area one man Live2021「あの約束の埋め合わせを」  2021.10.29  渋谷WWW X

3ピースバンド・Absolute areaのワンマンライブ『Absolute area one man Live2021「あの約束の埋め合わせを」』が、10月29日に渋谷WWW Xにて行われた。本公演は、昨年の4月に開催できなかったワンマンライブのリベンジとのことで、延期を余儀なくされた当時、彼らが感じた悔しさややるせなさは相当なものだっただろう。けれどこの日、多くの新曲を用意してきた彼らの姿からは、そうした過去を乗り越えてきたという自信と、バンドとしての逞しさを感じた。

オーディエンスの拍手に迎えられて、山口諒也(Vo/Gt)、萩原知也(Ba)、高橋響(Dr)が登場すると、ドラムの4カウントを合図に「パラレルストーリー」をプレイし、目の前がパッと明るくなるようなサウンドと共に、念願のライブが幕を開けた。そこから間髪入れずに、オーディエンスのクラップを力にしながらエモーショナルに展開していく「まだ名のない歌」、山口の地声とファルセットが豊かに行き交う「がらくた」へと続け、会場の温度をみるみる上げていく。

山口はリベンジ公演であるこの日を迎えた意気込みとして「皆さんに喜んで帰って頂けるように、そして僕たちのことを許して頂けるように、今日はとっておきのプランを考えてきました」と言葉にし、躍動感のある萩原のベースラインが疾走感に力強さを与える「ひと夏の君へ」や「続く明日へ」を届けた。時にアイコンタクトを取り合いつつ、大勢のファンの前で音楽を鳴らせることに夢中になっている彼らの表情から推察するに、2年振りのワンマンライブへの緊張よりも、歓びが圧倒的に勝っているようだった。

そんな前半のエネルギッシュな流れを一変させたのは、青い照明と波の音、そして山口が演奏するキーボードの豊かな調べが誘う「記憶の海を泳ぐ貴方は」だった。以前、メンバーにインタビューを行った際にも、この「記憶の海を泳ぐ貴方は」についての話がかなり盛り上がったことを覚えている(https://spice.eplus.jp/articles/291704)。今までのAbsolute areaにはなかった作り込み方でありながら、歌声と歌詞の繊細さと、ダイナミックに動くベースラインの躍動感が一番気持ち良いところで溶け合っているような名曲だと思うし、山口も「自分が聴きたい音楽を作ることができたなという手応えがめちゃくちゃあるんです」と話していた。最初はギターロックを基盤としていた彼らが、活動をしていく中で「自分たちが鳴らしたい音楽とは?」という自問とビジョンを見失うことなく、実現に向かって進み続けてきたからこそ生まれた楽曲のように思える。歌詞に於いても、自分自身の内情を曝け出すことを厭わない姿勢が見受けられてきたが、大人になった今の自分の心境と、かつて抱いていた幼心との対比を描いたバラード「カフネ」もまた、Absolute areaの転換的楽曲と言えるだろう。

自分自身にしろ、他者にしろ、潜在的な本音を知ろうとすることは怖いことでもある。拒絶されるかもしれない、辛い思いをするかもしれない、だから深入りしない方が穏やかに過ごせるはずだ――それもまた、ひとつの正解なのだろう。けれど山口は、この日演奏された「SABOTEN」の中で「本当に欲しいのは許しじゃなかった/君と同じくらいの傷だ」と歌っているように、自分もしっかりと傷つく覚悟を持って、自分にも他者にも、真正面から向き合おうとしている。そうした人間的な誠実さは、「心に余裕を持って、寛容な心持ちで人と接していけるように」という願いが込められた新曲「mirroring」からも感じられた。力強く叩かれるタムの低音が背中を押し、焦らなくてもいい、そのままでいい、と肯定してくれる歌詞から滲み出る優しさに励まされるのだ。

さらにサプライズプレゼントとして、未公開の新曲「いくつになっても」を初披露! 大切な人の言動で傷付かなくなってしまったら終わりだと思うから、いくつになっても感情をすり減らしながら、傷付き合うふたりでいたい、という山口の考えを詰め込んだアップテンポなナンバーだ。山口が話す歌詞の成り立ちを聞きながら、傷付き合ったら終わりなのではなく、傷付く=ネガティブなものから前向きな意味を見出すという考え方は、いかにもAbsolute areaらしいなと思った。ハンズアップなどのアクションをしながら呼応し、初出し曲とは思えないほどのグルーヴを巻き起こしたオーディエンスのテンション感をさらに上げていくかのように、ハンズクラップが楽曲の一部になる「SABOTEN」、キレと艶のあるベースフレーズが牽引するロックチューン「ビニール傘」を連続でドロップし、3人はこの日一番の高揚感を生み出していった。

上がりきった温度を穏やかに鎮めるかの如く、「僕らにとって大切な曲を歌います」との紹介で奏でられたのは、大切な人との別れを迎えた時の心情を丁寧に描いた「遠くまで行く君に」。そして、ポップバンドの最高峰を目指す彼らにとって、ひとつの集大成ともいえる、明日へと向かっていく強さを歌った「Girl」をプレイした。別れの悲しさを胸に秘めながらも、前に前にと進んでいけば、自ずと新しい出会いもある。そうしたストーリーを意識したセットリストなのかは定かではないが、次に演奏された曲が「出会うべき人」だったことで、この3曲の流れでひとつの物語ができたような気がした。

ここで山口は、「人生の中で出会う人や物は、必ず何かしらの意味や影響を与えるものだと思うし、Absolute areaという音楽に出会ってくれたみんなには感謝しかないです」と、この日、同じ場所で同じ時を過ごすオーディエンスに向けて言葉を贈った。「出会うべき人」の中に「出会うべき人がきっとこの街で/僕のことを待っている/凝り固まった僕の生き方に/ヒントをくれる人が」という歌詞があるが、これはバンドとオーディエンスの関係性としても捉えられる。ツアーなどで全国各地に行き、その土地で生きるファンに会い、力を貰っては与えを繰り返しながら、新しい音楽が生まれていく。多くの人に自分たちの歌が届いてほしいと願うAbsolute areaは、リスナーのことをとても大事にしているし、そうしたかけがえのない存在である人たちと共に進んでいこうとする意志を感じるセクションでもあった。

曲が終わり、山口が深々とお辞儀をすると、「何年も前の曲を聴いて、過去の自分は良い曲書いたなぁと思うことがあって、歌詞を書いていた当時よりも今の方がしっくりくることが沢山あるんです。昔はすごい背伸びをしていたんだろうね、しっくりくる年齢になってしまったんだなと思います」と、この日のセットリストを決めるまでの時間を振り返った。そして「ワンマンライブで絶対に届けたい、歌いたいと思った曲を最後に演奏して終わりたいと思います」と伝えて「introduction」をプレイ。7分超えの大曲を、ワンマンライブの最後に据えるという選択は、かなりの気合と覚悟のいるものだと思う。それでも、自分らしく、少しずつでも変わっていきたいと歌うこの曲をしっかりと演奏しきった彼らの表情は、とても晴れやかだった。

熱望されたアンコールでは、「いつか忘れてしまっても」、そして「一番新しい音を届けて終わりにしたい」との思いから、新曲「橋を超えれば」を披露したAbsolute area。「ついてこい!っていう感じじゃないんですよね、僕らは。一緒にそういう景色を見てくれる人がいたら、またライブに足を運んでくれたらなと思います」と伝えつつ、彼らはもっと大きなステージを目指して歩を進めていく。3人が広大なステージで思い切り演奏している姿を共に夢見つつ、これからも追い続けていきたい。そう思えた、約束の一夜だった。


取材・文=峯岸利恵 撮影=@kyonntra

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