Wキャストの醍醐味を感じられる、ミュージカル『リトルプリンス』が開幕 初日会見&土居裕子ver.ゲネプロレポート
世界中で愛されているサン=テグジュペリの『星の王子さま』を原作に、1993年、音楽座で初演が行われたミュージカル『リトルプリンス』。文化庁芸術祭賞、読売演劇大賞優秀女優賞、優秀スタッフ賞などを数多く獲得してきた名作だ。
今回、オリジナルキャストである土居裕子と、多くのミュージカルで注目を集めている加藤梨里香がWキャストで主演を務める。さらに、井上芳雄、花總まり、大野幸人という実力派が集結し、名作に新たな息吹を吹き込む。
この記事では、囲み取材と土居裕子によるゲネプロの様子をお届けする。
■「感謝の気持ちでいっぱい」(土居)「全身全霊で駆け回りたい」(加藤)
――初日を迎えて、意気込みを教えてください。
土居裕子
土居:およそ30年ぶり……は言い過ぎですが(笑)、あの頃はまさかもう一度王子をやるなんて夢にも思っていなかったので、感謝の気持ちでいっぱいです。
『リトルプリンス』をシアタークリエでやりたいという話を聞いて、芳雄さんが飛行士なら絶対ピッタリだしすごく見たい!絶対やって!なんて思っていたら、いつの間にか「ちょっとやらない?」って言われて……。
井上:騙されたんですね(笑)。
土居:「バカ言ってんじゃないよ!無理に決まってるじゃない」って言ってたのに、いつの間にかその気になっちゃって(笑)。
井上:世界でも例がないんじゃないですか、王子さま役を土居さんくらいの方がやるって。
土居:いないと思う!
井上:ギネスとかになりませんか?千秋楽、認定員の方に来ていただいて(笑)。
加藤梨里香
加藤:ついにこの日が来てしまったかと。稽古をすればするほど、王子というのはとんでもない役だと思って。初演で王子をされた土居さんとのWキャストというのも、震えるくらいとんでもないことだなと思いました。土居さんは王子のことをたくさん考えてきた方なので、もらえるものがたくさんあって、こんなに心強いWの方はいないです。とても素敵な環境でこの役に挑ませていただいているので、全身全霊でこの劇場を王子として駆け回りたいと思っています。
土居:すごいんですよ。演出家が「こうしましょう」って言ったら絶対外さないし、振り付けも一回で覚えるし。とっても可愛く、素朴でピュアな、素敵な子です。
井上芳雄
井上:ゲネプロで全部出し尽くしました。土居さんと「手を抜いていいからね」「はい、頑張ります。土居さんも手を抜いてくださいね」って会話をしたんですけど、「私は抜けない。裕子100%だから」と。これは手を抜くわけには行かないなとなって、結果芳雄100%でやらせていただきました。本番は分かりませんが梨里香ちゃんは120%でくると思うので、僕もなけなしの120%で行きたいと思います。
この作品は音楽座で上演されたころから大好きですし、『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』、『マドモアゼル・モーツァルト』に続いて、宝物のような作品をやらせていただけるのは本当に幸せなことなので。仕事を超えて、人生で必要なものを得ている、ありがたい時間だと感じています。
――土居さん・加藤さんの王子はどちらも可愛いですが、一緒に演じていていかがですか?
井上:いい意味で可愛さの種類が違うというか。見ている側も演じる側も別の作品に感じるくらい違うWキャストって中々ないと思うし、これが本当のWキャストの意義だとも思います。土居さんは「本物の王子が稽古場にやってきた!」という感じがしましたし、梨里香ちゃんは王子が子どもだと信じさせてくれる。両極端な王子なので比べようがない。僕、普段はWキャスト嫌いなんですけど、これだけ違うWキャストならやってみたいなって思います。
花總まり
花總:私は花びらに囲まれ、ひ弱な棘をつけた衣装を着させていただいているんですが、ほぼ出番が一幕。200%でやらないと消化不良で終わってしまうので、毎日それくらいの気持ちでやりたいと思っています。王子さまが大切に思う、ある意味この物語のキーパーソンというかキーフラワーなので、しっかり頑張りたいなと。あとは私事ですが、初心にかえって影コーラスもさせていただいているので、舞台上にいない場面でも出ていると思って見ていただけたらと思います!
大野幸人
大野:この作品は、どこが現実でどこからがファンタジーか分からないくらい素晴らしい世界に仕上がっているので、一刻も早くお客様に観ていただきたいとワクワクしています。
――本物のヘビにしか見えませんでした。
大野:ヘビについては結構色々調べて、動画も見ました。
井上:結果なにヘビになったの?
大野:長くなってもいいですか(笑)? 砂漠にいるヘビも何種類かいて、その中でも血液毒と神経毒があるらしいんです。血液毒は苦しむけど神経毒は苦しまずに殺せるそうなのでそっちにしようと思って。パフアダーっていうヘビを意識しています。
井上:生まれて初めて聞いた。あと大野さんはやたらめったら歌が上手いんですよ。踊りも素晴らしいけど歌がね、やめてほしい(笑)。
一同:(笑)。
――土居さんの少年っぷりにも驚きました。
土居:昔から少年役が多かったのもありますが、王子はただの男の子じゃない気がしていて。誰の心の中にもいる人だと思うので、その存在を表現できるようにと考えています。
――井上さんの耳と尻尾も可愛らしかったです。
井上:気恥ずかしさもあったんですが、僕は『CATS』に憧れてミュージカル界に入ったので。猫ではないですけど、夢が叶ったかなって思います(笑)。それにすごくいい役ですよね。飛行士とはまた別の角度で王子の大事な友だちになるので、どちらもできて幸せです。
――最後に主演のお二人からメッセージをお願いします。
加藤:あたたかいカンパニーで作ったからこそ、作品の中にもあたたさが流れていると思っています。観劇した後に大切なものを再確認していただいたり、空を見上げていただけたらとても嬉しいなと思います。ぜひ劇場に足をお運びいただきたいです。
土居:星を見るのがきっと大好きになると思います。そして、地球は改めて素晴らしい星だから大切にしたいなという気持ちになるといいなと思います。劇場にきていただき、楽しんでいただけたら幸いです。
■ゲネプロレポート(土居裕子ver.)
加藤演じる王子は明るくあどけない印象があったが、土居の王子は天真爛漫でどこか浮世離れした雰囲気。好奇心に満ちた表情豊かな王子として存在しており、井上が会見で語った通り「本物の王子だ!」と感じさせられた。初演から30年近く経たとは感じさせない瑞々しい芝居と、のびやかで澄んだ歌声が素晴らしい。
そして、王子の違いによって飛行士や花との関係性も全く違って見えてくるのが楽しい。例えば、井上が王子に思いっきり振り回されることで、飛行士の“おとな”らしさが際立つし、花總は王子にあれこれ命令するワガママなお姫様っぷりの中にまだまだ子どもな王子を見守る母性も感じさせる。大野演じるヘビの達観した雰囲気と純真な王子の対比も良い。土居・加藤それぞれアプローチは違うが、王子が持つ子どもらしさと大人びた部分を素直に表現しており、様々な角度から『星の王子さま』のストーリーと王子の魅力を味わうことができる。
そして、ハツラツとして微笑ましい王子だからこそ、地球での様々な出会いと別れを通して自らの花への愛情と責任をはっきり自覚した後の凜とした姿が眩しい。一途で真っ直ぐな思いに胸を打たれると同時に、愛の深さと情熱にこちらが照れてしまうほどだ。
美しくも物悲しい結末を迎えるストーリーだが、無邪気な少年が一つ成長し、次のステップに進んでいくような前向きさがあり、あたたかい余韻を残してくれる。
同じ物語ながら印象がガラリと変わるため、両方観ても新鮮に楽しめるはず。また、捉え方によって様々なメッセージを受けとることができるこの作品。詩的な台詞と美しい音楽や芝居によって、たくさんの大切なことを思い出せるはずだ。
本作は1月8日(土)〜31日(日)までシアタークリエで上演され、2月4日(金)〜6日(日)に愛知公演が行われる。
取材・文・撮影=吉田沙奈