まるでギフトのような再演~ミュージカル『You Know Me~あなたとの旅~』樋口麻美×吉沢梨絵×土居裕子×飯野めぐみ座談会
(左から)吉沢梨絵、樋口麻美、土居裕子、飯野めぐみ
昭和から令和を生きた二人の女性の交流を描き、初演時に多くの共感を呼んだミュージカル『You Know Me〜あなたとの旅〜』が、2025年11月7日(金)からシアター代官山にて上演される。
本作は高橋亜子が脚本・作詞、福井小百合が作曲・音楽監督・歌唱指導を務めるオリジナルミュージカル。再演となる今回は演出を新たに荻田浩一が担い、キャストもAチーム(通称:ひまわり)とBチーム(通称:菜の花)の2チーム制となる。W主演の菜々子と百合絵を演じるのは、初演から続投の吉沢梨絵×樋口麻美と初参加の土居裕子×飯野めぐみだ。初日まで1ヶ月を切り段々と秋も深まる中、連日充実した稽古に臨む4人に話を聞いた。
■続投組と初参加組、それぞれの胸の内とは
ーーまず樋口さんと吉沢さんに伺います。初演時に感じた手応えと、1年経たずに再演が叶ったお気持ちは?
樋口:初演は開幕してからお客様が増えていったんです。オリジナルミュージカルは幕が開くまでどんな作品かわからないでしょう。口コミでお客様が増えて、反応もどんどん熱くなっていった印象がありました。
吉沢:私は初演の企画の段階で(樋口)麻美ちゃんから声をかけてもらって、それがすごく嬉しかったんです。しかも台本を読んだらとっても素敵で、稽古したらみんないい人たちで、作品作りもめちゃくちゃ楽しくて。本番はもちろん大変でしたがやっぱり楽しくて、しかもミュージカルの賞※までいただいちゃって。とにかくずーっと楽しかったです!
※Musical Awards TOKYO 2024 プレシーズン "ミニシアター賞"(短期公演作品)と、主演の樋口麻美・吉沢梨絵がAll About 2024 ミュージカルアワード「ベスト・フレンズ賞」を受賞
樋口:初演のときから「再演したいね」とみんなで話していたんです。初演キャスト6人でグループLINEを作っていたんですけど、1年間ずっと誰かしらが投稿しているくらい仲が良くて、より信頼の厚いチームになってきていると思います。
吉沢:再演が叶っただけでも嬉しいのに、今度は新しいチームが増えたのがまた嬉しくて! 同じ役として苦悩を分かち合える人がいるのは、とっても心強いんです。
樋口:台本がボリューム満点なんですよ。女性二人の高校時代から晩年までを怒涛の展開で描くのですが、それをたった6人のキャストで進めていくのも大変。難しい曲もあって、段取りも多くて……。だから「この大変さを誰かに分かち合いたいね」と、(吉沢)梨絵とよく話していたんです。そうしたらこんなに豪華なお二人(土居&飯野)が! 私、今でも夢の中にいるような気分で信じられないくらいなんです。もはやギフトですね。
吉沢:本当に、全部がギフト。最初に麻美ちゃんが声をかけてくれたときから、私にとっての人生のボーナスタイムがずっと続いている感じです。
(左から)吉沢梨絵、樋口麻美
ーー再演から新たに参加される土居さんと飯野さんは、出演が決まったときどんなお気持ちでしたか?
飯野:私、受けると決めた時点ではこんなに大きな役だとは知らなかったんです。音楽の(福井)小百合さんから「今年の秋はお忙しい? 舞台のことで事務所にご連絡するかも〜」と連絡があり、「お役に立てるなら喜んで!」とお返事したんですよね。ですが、出演が決まったあとに母が亡くなったこともあり、なかなか台本に手を付けられなくて。落ち着いていざ台本を読んでみたら、曲が多くて、セリフも多くて、しかもあの土居裕子さんの相手役! 楽しみな気持ちよりも「やばい!」という気持ちが勝りました(笑)。
土居:いやいや〜、私も最初は「この中になぜ私を?」と思ったんですよ。でも最近、私がここにいる意味がようやくわかってきたんです。菜々子という役は、ちょうど自分の親の世代。だから親を通して、“お父さんが外で働いて、お母さんが家を守るのが当たり前”という価値観の時代の日本を見てきたんです。私は脚本の(高橋)亜子さんから直接お声がけいただいたのですが、そういった時代への理解度みたいなものを求められたのかなと思っています。
飯野:我が家は母も働いていたので、まさにこの作品の百合絵のような家庭だったと思います。私が演じる百合絵の姿は、そのまま私の母と被るんですよ。だからあえて役作りをしなくても自然に演じられるんです。母からの最後の贈り物ですかね。それにしても、あの時代に女性が働くのはすごく勇気がいることだったんですね。
土居:そうなの。この作品は女性が働くことが決して当たり前ではない、少し前の時代の日本のお話なんです。そこはしっかり伝わるように描かないと時代錯誤になってしまうので、気を付けないといけませんね。
(左から)土居裕子、飯野めぐみ
■“ちょこまか”と“どっしり” 正反対な菜々子と百合絵の役作り
ーー今回は2チーム制ということですが、みなさん一緒に稽古されていると伺っています。お互いの菜々子と百合絵を見て、どんなことを感じますか? 菜々子役の樋口さんと土居さんからお願いします。
樋口:私はついつい目がハートになってしまって(笑)。土居さんの演技力と歌唱力に圧倒される日々です。すべてが学びですね。菜々子は自己肯定感が低くて、人にはっきり意見を言わないタイプ。いつもの樋口麻美とは全然違うものを引っ張り出さなきゃいけないので、初演時は苦労したんです。一方で、土居さんの菜々子は人間らしくてとてもキュート! 控えめながらもここは言わせていただくね、という匙加減もすごく面白くて。そういうところも全部引っくるめて、愛すべき存在です。
土居:麻美ちゃんの菜々子こそ、すっごくかわいらしくて包容力があるんですよ。例えば落ち込んで弱っているときに、真夜中に電話して朝になっちゃったとしても「いいんだよ」と笑顔で言ってくれるような、そんな包容力がある菜々子だなあと思うんです。私にはまだそこが足りないので、見習いたいですね。初演を経て、今改めてこの役と向き合っているからこその深さを、麻美ちゃんと梨絵ちゃんから感じます。
ーー百合絵役の吉沢さんと飯野さんはいかがでしょう?
吉沢:(飯野)めぐちゃんは数々の演目を経験しているからこその演技の幅の広さと、とんでもなく上手でソウルフルな歌が素晴らしいんです。これを歌える人はなかなかいないんじゃないかというくらい難しい曲があるのですが、めぐちゃんは見事に、しかも私とは全然違うアプローチで歌っていたのが衝撃で!
樋口:私もあの曲は梨絵にしか歌えないと思っていたので、びっくりしました。全然違う攻略本を読んできた二人という感じ(笑)。
吉沢:どう違うかというと、語頭で攻める私と語尾で攻めるめぐちゃん。もしくは、小さいナイフで刺す私と、バーンと潰しにかかるめぐちゃん(笑)。2チーム観る方はどうぞお楽しみに!
飯野:梨絵さんの百合絵は明るくて表情がコロコロ変わるし、ちょこまかしていて本当にかわいいんですよ! 百合絵はズケズケ言うタイプの女性だから、紙一重で嫌な女になりかねないところがあります。でも梨絵さんの百合絵は決して嫌な女にならない。同性に嫌われない女性という説得力があるんです。私はズケズケいきすぎてしまうので真似したいなあと思うんですけど、なかなかできなくて。
吉沢:私がちょこまかしている百合絵だとしたら、めぐちゃんはどっしりしている百合絵。その分、麻美ちゃんがどっしりした菜々子で、土居さんがちょこまかしている菜々子なのかもしれないですね。それぞれのチームで絶妙にバランスが取れているところが面白いです。
(左から)土居裕子、飯野めぐみ
■A(ひまわり)とB(菜の花)、2チームのここに注目!
ーーそれぞれのチームにはどんな違いが感じられますか?
土居:菜々子と百合絵にそれぞれパートナーがいるのですが、どちらもタイプが全然違うんですよ。Aの男性陣(施 鐘泰、東山光明)は、絶対に普通の仕事をしていなそう(笑)。かっこよくてファッショナブルで、ミュージシャンのような感じ。特にみっちゃん(東山)は、金のネックレスがチラッと見えても違和感がないような……(笑)。
飯野:対するBチームの男性陣(広田勇二、戸井勝海)は、芝居なのかリアルなのか、ちょっとオロオロしている感じが愛らしくて印象的です(笑)。
土居:しょぼんとした感じが、なんだか哀愁に満ちているんですよねえ。
吉沢:Bチームは土居さん、広田さん、戸井さんというベテラン勢の中、最年少のめぐちゃんがドーンとしているのもいいですよね。めぐちゃんはいろんな役を経験してきているからこそ、オールマイティで年齢不詳なんだと思います。
土居:私も最初に「相手役は飯野めぐみさんです」と聞いて、随分お若いなあと思ったんですよ。でも初めてお会いしたときに「あ、いける!」と直感しました。そしてAチームは、やっぱり初演があるからこその阿吽の呼吸と、ハーモニーの美しさが魅力ですね。
飯野:信頼関係が見事に出来上がっていますもんねえ。
樋口:それは小百合先生のご指導の賜物なんです。小百合先生の下、歌声の波形を細か〜く見ながら、梨絵の歌声にハーモニーを合わせる特訓の時間をたっぷり取ってもらったんですよ。
吉沢:この麻美ちゃんの小百合さんと私への全幅の信頼がえげつないんです。麻美ちゃんは稽古が終わるといつも楽譜を手に小百合さんを探しに行って、ものすごい近さでダメ出しを聞いているんです。その求心力たるや! 麻美ちゃんが大陸だとしたら、私はその上で「ランランラン♪」と踊っているだけ(笑)。初演を乗り越えたからこそ、お互いに絶対の信頼を持っているんですよね。
土居:素敵! 私たちもこれから作っていこうね。
飯野:はい、頑張りましょう!
吉沢:千明役(百合絵の娘)と久美子役(菜々子の娘)も組み合わせによってかなり違うんですよ。Aチームの(谷口)あかりちゃんと(小多)桜子ちゃんは、初演から積み上げてきた繋がりがしっかりできています。Bチームの(敷村)珠夕ちゃんと桜子ちゃんは、実際に親友なんですって。そのせいか素の瞬間が垣間見えることがあって、二人のやり取りが新鮮で面白いんです。このペアの違いもぜひ注目してみてください!
(左から)吉沢梨絵、樋口麻美
■アットホームな作品ならではの魅力
ーー本作は123席のシアター代官山で、私たちの日常から遠くない等身大の物語が描かれます。この規模感の作品ならではの魅力は、どんなところにあると思いますか?
飯野:例えば遠い国や時代を舞台にしたグランドミュージカルを観るとき、お客様は非日常として別世界を観に行く感覚ですよね。でもこの作品は自分の友人の話を聞くように気軽に観て、身近に感じることができると思うんです。現在からそう遠くない日本でのお話なので、ぜひリラックスして心を近くして、舞台と客席の垣根を作らず、一緒に物語を感じてもらえたらいいなと思います。
樋口:この物語には、特別な人たちが登場するわけではありません。みんなでディスカッションを重ねて、心から納得した上で作ったものを板の上に乗せて観ていただきます。初演のとき、観た人たちが自然と心の扉を開いて、自分や身内に起きたことをたくさん話してくださったんです。そもそも、心をフルオープンにせざるを得ない台本なんですよね。私たち自身がフルオープンにして取り組むことで、舞台上とお客様の波動がどんどん混ざっていくような、何とも言えない空気が劇場に漂っていたのを覚えています。
土居:私はどちらかというと小規模な作品の方が多いので、ホッとくつろげるようなホーム感があります。私が所属していた劇団(音楽座)は、ゼロから作り上げて板に乗せることが当たり前でした。なので、オリジナル作品は回を重ねるごとに変わっていかなければ進歩しない、と当然のように思っているところがあるんです。今回は新参者ではあるけれども、まっさらな状態で作品に触れることで「ここはこうするといいんじゃないかな」という提案をさせていただきました。初演を経た再演では、さらに深みを上書きしていけたらいいなと思います。
吉沢:土居さんのように初参加の方が台本を読んで疑問に思うことを伝えてくださったので、みんなで時間をかけて話し合うことができました。それ自体がすごく幸せ! 家に帰ってからも「あ〜疲れた」じゃなくて、投げかけてもらった疑問にじっくり思いを巡らせることができたんです。それって、役者としてものすごく豊かで幸せな時間だなと思います。大カンパニーでは味わえない特別な時間です。このカンパニーに集まってくださっている方々は、みんな心から演劇を愛している人たち。それがきっと作品からも滲み出ていると思うので、お客様にも劇場で感じていただけたら嬉しいですね。
(左から)吉沢梨絵、樋口麻美、土居裕子、飯野めぐみ
取材・文・撮影=松村蘭(らんねえ)
公演情報
日程:2025年11月7日(金)~17日(月)
会場:東京・シアター代官山
脚本・作詞 高橋亜子
音楽 福井小百合
演出 荻田浩一
【キャストは固定2チーム制にて上演】
樋口麻美
吉沢梨絵
谷口あかり
小多桜子
施 鐘泰(シ ジョンテ)
東山光明
土居裕子
飯野めぐみ
敷村珠夕
小多桜子
広田勇二
戸井勝海
【公式サイト、SNS等】
公式ウェブサイト:https://www.youknowme.jp
公式X:youknowme_jp
公式Instagram:youknowme.jp
ハッシュタグ:#ゆのみ