ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』で心温まる至福のひと時を!~英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン、2年ぶりに再開

動画
レポート
クラシック
舞台
2022.2.16
『くるみ割り人形』 (c) 2015 ROH. Photograph by Tristram Kenton

『くるみ割り人形』 (c) 2015 ROH. Photograph by Tristram Kenton

画像を全て表示(6件)


英国ロイヤル・オペラ・ハウスで上演されたオペラ&バレエの舞台を映画館で堪能できる「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」が約2年ぶりに帰ってきた。新型コロナウイルス感染拡大を受けて中断していたが、2月18日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国公開されるロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』全2幕で再開する。

■極上のファンタジー、2年ぶりの映画館上映が実現!

毎年クリスマスの時期になると、多くのバレエ団が『くるみ割り人形』を上演する。名門ロイヤル・バレエのプロダクションは、1984年に初演されたピーター・ライト版。ロンドンっ子に年末年始の風物詩として親しまれ、上演回数は500回を超える。今回公開されるのは2021年12月9日に収録されたホットなステージで、20か国732の劇場で上映される。

<物語>
手品師で発明家のドロッセルマイヤーは、王室でねずみをやっつける罠を発明したが、ねずみの女王は復讐のために彼の甥ハンス・ピーターに呪いをかけ、くるみ割り人形の姿に変えてしまった。呪いを解くためには、くるみ割り人形がねずみの王様を倒し、そして外見に関わらず彼を愛してくれる娘が現れなければならない。
シュタルバウム家のクリスマス・パーティに招かれたドロッセルマイヤーは、この家の娘クララにくるみ割り人形を贈る。夜中に目覚めたクララは、ドロッセルマイヤーによって魔法の世界に招かれ、ねずみの王様とおもちゃの兵隊たちの戦いを目撃する。クララの助けによりねずみの王様が倒され、くるみ割り人形の魔法が解かれてハンス・ピーターの姿に戻る。クララとハンス・ピーターは雪の王国へと旅し、さらにドロッセルマイヤーに導かれてお菓子の国へ行き、金平糖の精や王子に出会う。クララの勇敢さによって救われたとハンス・ピーターは金平糖の精に伝え、ドロッセルマイヤーはお礼として美しく賑やかな祝宴を二人に贈る。夢から醒めたクララは外に出ると、見覚えのある若者とすれ違う。そしてドロッセルマイヤーの部屋に、ハンス・ピーターが元の姿で帰ってきた。
(「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」公式サイトより)
 

ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーが作曲した『くるみ割り人形』は、1892年にサンクトペテルブルクのマリインスキー劇場で初演された。ライトは、レフ・イワノフの原振付、マリウス・プティパがE.T.A.ホフマンの「くるみ割り人形とねずみの王様」に基づいて作成した原台本を土台とし、自身のシナリオによるプロダクションを創り上げた。ホフマン原作のディープなテイストも反映しつつ、オーセンティックに仕上がった極上のファンタジーだ。

『くるみ割り人形』 (c) 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou

『くるみ割り人形』 (c) 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou

 

■ナチュラルな演技に惹かれ、踊る喜びを共有できる

ドロッセルマイヤーを演じるのは、大ベテランのクリストファー・サウンダーズ。立ち居振る舞いのひとつひとつが洗練され、手品さばきも堂に入っている。クララはブラジル出身の新進イザベラ・ガスパリーニ。透きとおるように美しいスタイルとナチュラルな演技で物語へと誘う。ハンス・ペーター/くるみ割り人形のアクリ瑠嘉は凛々しくカッコいい。

今シーズンのポイントは、第1幕、ねずみの王様と兵隊たちの戦い。感染症対策のため子役たちに代わってバレエ団のダンサーが出演し見ごたえあり。このパートの振付を担当したのは、英国最高峰の舞台芸術賞として名高いローレンス・オリヴィエ賞受賞者のウィル・タケットである。

イザベラ・ガスパリ―ニ&アクリ瑠嘉 (c) 2020 ROH. Photograph by Emma Kauldhar

イザベラ・ガスパリ―ニ&アクリ瑠嘉 (c) 2020 ROH. Photograph by Emma Kauldhar

魔法が解け、本来の姿に戻ったハンス・ピーターとクララが踊るデュエットには難しいリフトもあるが、アクリのサポートは丁寧で、なめらかな踊りが心地よい。ユニゾン(同じ振り)も息がぴったりで、ふたりで踊る喜びが画面越しからでもひしひしと伝わってくる。実は彼らは前シーズン、2020/2021シーズンの『くるみ割り人形』で共演し映画館上映される予定だったが、感染拡大を受けて中止になったという経緯がある。このたび1年越しのリベンジが実現したわけだが、そうした思いを抱えながらも気張らず自然体の踊りなのが素敵だ。続く雪の王国での雪の精たちの踊りは品の良い美しさで、一体感にあふれている。

『くるみ割り人形』 (c) 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou

『くるみ割り人形』 (c) 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou

 

■魔法のように見事なピーター・ライトの演出に酔う!

第2幕はお菓子の国。クララに助けられた経緯をヤスミン・ナグディ扮する金平糖の精に伝えるアクリの生き生きとした演技にご注目を。祝宴では、スペインの踊りに始まる異国情緒豊かな踊りが繰り広げられ、時にクララ、ハンス・ピーターも加わって踊る。金平糖の精と王子(セザール・コラレス)が踊るグラン・パ・ド・ドゥも見せ場。怪我により残念ながら降板した高田茜に代わってコラレスと組んだナグディは、上体の何気ない動作から繊細なニュアンスが感じられ、気品とオーラが自ずと立ち昇る。コラレスも風格をただよわせる。

ヤスミン・ナグディ&セザール・コラレス (c) 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou

ヤスミン・ナグディ&セザール・コラレス (c) 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou

ラストも感動的だ。クララは定石通りに夢から覚めるが、その後に――。名匠ライトによる、魔法のように見事な演出は幾度目にしても忘れ難いし、初見ならばなおのことであろう。数あるロイヤル・バレエのレパートリーの中でも、いつ観ても心温まる名作だ。

『くるみ割り人形』は、「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」の定番で、これを見続けていると、ロイヤル・バレエの一端を定点観測できる。今回、花のワルツのメインを務めるローズ・フェアリー(薔薇の精)を魅惑的に踊る日本出身の崔由姫を始め、全編を通して日本人ダンサーがあちこちで活躍しているので目を凝らして観てほしい。

イザベル・ガスパリ―ニ&アクリ瑠嘉 (c) 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou

イザベル・ガスパリ―ニ&アクリ瑠嘉 (c) 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou

幕間のナビゲーターはおなじみのダーシー・バッセル(元ロイヤル・バレエ プリンシパル)で、冒頭「やっと映画館でお届けできる」と語る声は弾んでいる。芸術監督のケヴィン・オヘアらへのインタビューやリハーサルの模様が入ることによって、より舞台に親しむことができる。

「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2021/2022」のバレエは、4月18日(金)公開『ロミオとジュリエット』、7月15日(金)公開『白鳥の湖』も控えている。さらにオペラも3演目。そちらも気になるが、まずは再開第1弾の『くるみ割り人形』をぜひチェックされたし。

【動画】Watch The Royal Ballet's The Nutcracker in cinemas from 9 December 2021 (Trailer)

 

文=高橋森彦

上映情報

「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2021/2022」
ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』


2022年2月18日(金)よりTOHOシネマズ日本橋 ほか 全国公開
 
【振付】ピーター・ライト
【原振付】レフ・イワノフ
【1幕戦闘シーンの振付】ウィル・タケット
【美術】ジュリア・トレヴェリャン・オーマン
【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【原台本】マリウス・プティパ(「くるみ割り人形とねずみの王様」E.T.A.ホフマンに基づく)
【プロダクションとシナリオ】ピーター・ライト
【ステージング】クリストファー・カー ギャリー・エイヴィス サマンサ・レイン
【指揮】クン・ケセルス

【出演】
ドロッセルマイヤー:クリストファー・サウンダーズ
クララ:イザベラ・ガスパリーニ
ハンス・ピーター/くるみ割り人形:アクリ瑠嘉
金平糖の精:ヤスミン・ナグディ
王子:セザール・コラレス
シュタルバウム博士:ギャリー・エイヴィス
クララのパートナー:スタニスラウ・ヴェグリジン
キャプテン:トーマス・モック アルルカン:ケヴィン・エマートン
コロンビーヌ:シャルロット・トンキンソン
兵士:ベンジャミン・エラ ヴィヴァンデール:佐々木万璃子
ねずみの王様:ルーカス・ビヨルンボー・ブレンズロッド
スペイン:ナディア・ムロバ・バーレー、アイダン・オブライエン、シャーロット・トンキンソン、ジャコモ・ロヴェロ
ジーナ・ストーム・ジャンセン、ケヴィン・エマートン
アラビア:メリッサ・ハミルトン、ルーカス・ビヨルンボー・ブレンズロッド
中国:レオ・ディクソン、カルヴィン・リチャードソン
ロシア:ジュンヒュク・ジュン、ハリソン・リー
葦笛:ミカ・ブラッドベリ、カトリーナ・ニケルスキ
ロマニー・パイダク、アメリア・タウンゼンド
ローズ・フェアリー(薔薇の精):崔由姫
ローズ・フェアリーのエスコート:ジョセフ・オーメア、デヴィッド・ドネリー、フランシスコ・セラノ、ジョセフ・シセンズ
花のワルツのソリスト:オリヴィア・カウリー、レティシア・ディアス、ハンナ・グレンネル、イザベル・ルーバッハ
天使と子供たち:ロイヤル・バレエ・スクールの生徒たち

 
【上映劇場】
北海道 サツゲキ 2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
宮城 フォーラム仙台 2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
東京 TOHOシネマズ日本橋 2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
東京 イオンシネマ シアタス調布 2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
東京 TOHOシネマズ流山おおたかの森 2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
神奈川 TOHOシネマズららぽーと横浜 2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
愛知 ミッドランドスクエアシネマ 2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
京都 イオンシネマ京都桂川 2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
大阪 大阪ステーションシティシネマ 2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
兵庫 TOHOシネマズ西宮OS 2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
福岡 中洲大洋映画劇場 2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
※上映時間について、公開日が近づきましたら上映劇場へ直接お問い合わせ下さい。
 
■上映時間:2時間37分
■詳細情報:https//www.tohotowa.co.jp/roh/movie/?n=nutcracker2021
■配給:東宝東和
■公式サイト:http://tohotowa.co.jp/roh/
シェア / 保存先を選択