『FACE展2022』鑑賞レポート 83名の新進作家たちによる情熱のぶつかり合いを目撃しよう!
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『FACE展2022』会場風景
『FACE展2022』が2月19日(土)に東京・新宿のSOMPO美術館で始まった。3月13日(日)まで開催される本展では、「年齢・所属を問わず、真に力がある作品」を募った公募コンクール『FACE2022』の入選作品83点を展示している。開幕前日の内覧会には入選作家本人も多数来場し、《Farewell》でグランプリを受賞した新藤杏子ら数名の作家に直接話を聞くことができた。彼らの声を交えながら会場の様子を伝えていきたい。
年齢や経歴ではなく作品本位で評価された83点の作品
今回で記念すべき第10回目を迎え、年齢・所属を問わない新進作家の登竜門として定着した『FACE』。公益財団法人SOMPO美術財団が主催している本コンクールは、油彩画、アクリル画、版画、ミクストメディアなど平面作品を対象としている。今回は1142名から出品があり、審査員らによる「入選審査」によって83点の入選作品を選定。さらに「賞審査」を行い、グランプリほか9点の受賞作品が決定された。審査は作者名、題名、年齢、性別、所属などの個人情報を伏せた形で行われ、作品本位で選ばれた入選作は作家の年齢だけでも応募時の段階で11歳から71歳と幅広い。
会場入り口
それでは会場の様子をお伝えしていこう。グランプリ、優秀賞、読売新聞社賞、審査員特別賞の受賞作9点は最初のフロアである5階展示室に展示されている。そこから入選作品の展示が続き、3階展示室の最後には同館が持つ東郷青児とグランマ・モーゼスの所蔵作品、そしてゴッホの《ひまわり》の展示が見られるという嬉しい“おまけ”もある。
冒頭にはさっそくグランプリ作品である新藤杏子の《Farewell》が展示されている。本作はギリシア・ローマ神話の『変身物語』にあるナルキッソスの話に着想を得ている。「ナルシスト」の語源となった美少年のナルキッソスは、ある日、泉の水面に映る自分の姿に見とれ、自身の美しさに思い焦がれて命を失うというのが話の要点である。5歳になる自分の子どもが鏡の自分を見つめる姿がその話に重なり本作を描こうと思ったそうだ。
新藤杏子 《Farewell》 2021年
「以前は人物や架空の生き物の水彩画が中心でしたが、3年ほど前から油彩画に取り組み、風景と人物を同じ平面上に描けるようになりました」と会場で語ってくれた新條。コロナ禍の影響で人の少ないところを求めて静かな山を歩くことが増え、そこで写真に撮りためた植生を画面の中に繋ぎ合わせたといい、「ナルキッソスをモチーフにしているけれど、解釈は見る人に委ねたい」と話す。ちなみに内覧会では少年のモデルになったお子さんの姿もあった。つねづね作品のモデルになっているという彼の存在も、きっとグランプリ受賞の大きな力になったのだろう。
会場風景
《一人で死にたくない》で審査員特別賞を受賞したマツシタユキハ。にも話を聞くことができた。「いろいろ重なってうまくいかない時に自分の気持ちと部屋の散らかっている感じに近いものを感じた」とマツシタ。現在、多摩美術大学で日本画を専攻している彼女は室内空間を描くことが多いという。そして時節柄、学内にいられる時間が減ったために自宅で描く時間が増えた。結果として生活空間に持ち込む画材の数が増えて収拾のつかない状態になってしまったのだそう。
マツシタユキハ。《一人で死にたくない》 2021年
無造作に絡まるスマホの充電ケーブル、散らかったペットボトル、ガス会社の封筒、あるいはブランドもののヘヤアイロンの箱などからは、親元を離れて暮らし始めたばかりの若者らしいリアリティがあふれている。室内にはおそらく外にいる時には出ないはずの彼女の鬱屈とした内面が投影されている。ちなみにベッドにいる人物の顔を隠すペンギンの人形は、子どもの頃から一緒に寝ている“相棒”がモチーフなんだそう。「ひとりぼっち」を描いた題材は、彼女の極私的な思いを反映した作品でありながらも、望まぬ中で孤独を過ごす人々が多い現在の時勢ともリンクする。
作家本人の体験が反映された作品たち
同じく審査員特別賞を受賞した高橋洋平(※高は、はしごだかが正式表記)は壁画アートを中心に活動しているアーティストだ。初めてFACEに出品した《暗い瓦礫と栄光の瓦礫》は、伊豆諸島の八丈島を旅した時に見た廃車の積まれた風景を描いた作品だ。「モチーフは壁の周辺にある風景の中から見つけることが多い」と言う高橋は、「おそらく地元の人たちが乗った車が積まれていて、そこに植物が侵食している様子が印象に残った」と本作について語る。
高橋洋平 《暗い瓦礫と栄光の瓦礫》2021年
ただの鉄の塊になった車の風化ぶり、そしてそれらに絡まるような植物からは決して短くない時の経過を感じ、切ない感情を抱かせる。なお、本作は建設現場などで発生する廃棄塗料で描かれている。そうした画材選びに秘めた思いも、きっと評価につながったのだろう。
手前:島田悦子《雄大な自然》 2021年
只野彩佳の《彩歩き》は日本百名山のひとつ、岩手にある早池峰山の景色をベースにしながら、北アルプス・雲ノ平山荘で行われたアーティストプログラムに参加した際に見た景色がプラスされた作品だ。早池峰山は標高こそ1900m弱だが、森林限界が比較的低いのが特徴の山である。
只野彩佳 《彩歩き》 2021年
本格的な登山を始めて間もない只野は「登り始めてから山頂まで景色が変わる。その変化が楽しいと感じた」と語り、その連続した記憶を一枚の中に描いた。最初は巻物のような形を考えていたが、試行錯誤の末にこの形になったそうだ。ふたつの山の絵の周りには巻物の装丁をイメージして様々な植生が描かれている。まさに作家本人の感動が反映された一枚といえる。
入選作品も作家の熱意と想いが籠もった作品が目白押し
入選作品にもフレッシュで意欲的な作品が集まっている。当日の会場には作家本人だけでなく彼らの家族と思しき人々の姿もたくさん見かけ、このFACE展に展示されることがアーティストたちの新たなモチベーションに繋がっていることを実感させた。
左:福田紗也佳《噴水跡に植木鉢と人工芝》 中央:三井悠華《山は崩れる》 右:河端政勧《以前であったような、或いはイゼンとして。》 いずれも2021年
現在、東京芸大の大学院に在籍中の奥谷風香。彼女は路上にあるものから着想を得たインスタレーションなどを制作することが多いという。初めて大きな平面作品に挑んだ《田んぼのリズム~稲刈りの季節~》は、地元・長野で見た稲刈り後の景色を描いた作品だ。移動中にイメージがよく沸くそうで、本作も「バスで地元に帰った時に、昔は気にならなかった田んぼの景色が新鮮に映った」と言う。稲のはざかけが描かれた作品は独特の色彩とデフォルメ感がかわいらしい。
奥谷風香《田んぼのリズム~稲刈りの季節~》 2021年
隣に並べて展示されている福田良亮の《夜の花》と篠原由香の《繚乱》は、どちらも花を題材とした作品だ。身近にある縁を感じたものをモチーフに描くことが多い福田は、去年に実の母親を亡くした際、それまで触れることが少なかった花に興味を持ち本作を描いたという。
左:福田良亮 《夜の花》 右:篠原由香 《繚乱》 いずれも2021年
色鉛筆を使って具体的に描かれた篠原の作品は、ひとつひとつの花を人に例えている。さまざまな活動がストップした今の時勢にあって、再び人々が輝ける時が戻ってきてほしいという願いが込められている。偶然隣り合った2枚の「花」だが、どちらも命の存在をきっかけに描かれた作品だった。
会場風景
83枚のエネルギッシュな作品と出逢えた『FACE展2022』。来場者は鑑賞するだけではなく観覧者が決める「オーディエンス賞」に一票を投じる権利もあるので、一枚一枚を吟味しながら審査員気分を味わってみよう。『FACE展2022』は3月13日(日)まで開催中。
『FACE展2022』紹介動画
文・撮影=Sho Suzuki
展覧会情報
休館日:月曜日
開館時間:午前10時~午後6時(最終入館は午後5時30分まで)
観覧料:700円(高校生以下無料)
※身体障がい者手帳、療育手帳、精神障がい者保健福祉手帳を提示のご本人とその介助者1名は無料。被爆者健康手帳を提示の方はご本人のみ無料。