『挑む浮世絵 国芳から芳年へ』好奇心の塊 歌川国芳と「芳ファミリー」がもたらした、幕末の浮世絵表現への衝撃
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『挑む浮世絵 国芳から芳年へ』 撮影=編集部
挑む浮世絵 国芳から芳年へ 2022.2.26(SAT)〜4.10(SUN)京都文化博物館
京都文化博物館 撮影=岡田あさみ
『挑む浮世絵 国芳から芳年へ』が2022年2月26日(土)に京都文化博物館にて開幕。4月10日(日)まで行われる同展では、旺盛な好奇心と柔軟な発想を武器に浮世絵の世界にさまざまな新機軸を打ち出した歌川国芳(うたがわくによし/1797-1861)の浮世絵を中心に、月岡芳年(つきおかよしとし/1839-92)ら弟子たちの作品にもスポットを当てる。幕末から明治にかけて、国芳の個性がどのように継承されていったのかを名古屋市博物館が所蔵する150点の作品によってたどり、人々を魅了し続けた「芳ファミリー」の活躍と作品の魅力に迫っていく。ここでは、開幕初日2月26日(土)の様子と見どころを紹介しよう。
音声ガイド 撮影=編集部
京都文化博物館の入り口には、開場前から長蛇の列ができていて、浮世絵ファンのみならず期待の高さが窺える。まずは受付横で貸し出されている音声ガイド(1台600円・税込)を準備。イヤホンは持ち帰ることができ、感染症対策も万全にされている。ナレーターは声優の鳥海浩輔。ガイドポイントは150点中、全32ヵ所あり、見事なナレーションで絵の世界観を深めてくれるので、是非利用することをオススメする。音声ガイドでしか語られない裏話も多数あり興味深い。
エントランス 以下撮影=岡田あさみ
エントランスでは、西洋画の技法が取り入れられた国芳の弟子、月岡芳年の「東名所墨田川梅若之古事」(名古屋市博物館蔵)の大迫力のパネルが迎えてくれる。展示室内はすべて写真撮影可能なのもうれしい。他のお客さんの邪魔にならないように注意しながら、気になった作品はスマートフォンなどで撮影してみよう。
展示風景
躍動感にあふれたダイナミックな構図
歌川国芳の出世作で、得意としたのが、歴史上や物語に登場するヒーローの勇ましい姿を描いた「武者絵」。同展は、5つの章によって構成されていて、「ヒーローに挑む」と題された第1章では、国芳や弟子がヒーローたちをどのように表現したのかを紹介する。
歌川国芳「曽我致宗本意を達し右幕下の本陣へ切込捕ハるゝ図 曽我夜討之図」(名古屋市博物館蔵)
横長や縦長の画面にモチーフを大胆に配した3枚続きのワイドスクリーンの作品がほとんどなのだが、中には、6枚続き(幅約160cm)のパノラマ画面で激闘を表現したものも。当時は4枚以上の絵は贅沢だと禁止されていたため、左右3枚ずつ別に作って、いざ店頭では6枚続きのご禁制の武者絵として売られていたという逸話もおもしろい。国芳の観察と学習による造形力の高さ、大画面を効果的に使う画作りの上手さがわかる。
リアルな血がしたたる、当時の印刷技術と表現力に注目
怖いものを見たくない方はあちらへ
第2章「怪奇に挑む」では、国芳門下の双璧とされる落合芳幾(おちあいよしいく/1833-1904)と月岡芳年(つきおかよしとし/1839-92)が手がけた「英名二十八衆句」全点28図を一挙公開。同展の目玉のひとつでもある。歌舞伎などの刃傷場面ばかりを描くこのシリーズは、グロテスクで衝撃的な描写が多数含まれるため、苦手な人はとばして3章へ進めるようになっている。
月岡芳年「英名二十八衆句 稲田九蔵新助」(名古屋市博物館蔵)
幕末から明治にかけては読み物、歌舞伎、落語、見世物といった文芸全般において、幽霊や妖怪が登場する話や悲劇の人間ドラマが好まれた。「怖いものみたさ」という好奇心や刺激を求める人間の性は昔も今も変わらない。「血みどろ絵」は、時代のニーズに応えたものだったのだ。中には目をそむけたくなるものもあるが、ストーリーと合わせて鑑賞するとそのドラマ性にぐいぐいと引き込まれてしまう。
月岡芳年「英名二十八衆句 団七九郎兵衛」(名古屋市博物館蔵)撮影=編集部
残虐な表現に目を奪われがちだが、当時の印刷技術の粋を集めた摺りや彫りも見どころ。特に絵具に膠(ゼラチン)を使用した血の表現は、摺師の腕の見せどころだった。絵に近づいてさまざまな角度から観てみると、テラテラと光る血のリアルな質感と赤色のグラデーションが見事で、摺師のただならぬこだわりを体感することができる。
豊かな表情に目を奪われる魅力的な美人画
誰もが思い浮かべる浮世絵といえば、美人画、役者絵などの人物を描いた絵ではないだろうか。第3章「人物に挑む」では、女性のなにげないしぐさや気持ちをまとった表現が見事な国芳一門の美人画を中心に、役者の名演技や実力が伝わる役者絵を紹介。
〇〇したい女性を描いた月岡芳年の作品
さまざまなシチュエーションに添わせて女性の心のうちを描く国芳、芳年の美人画。「おしやくがしたい」「手があらひたい」など思いもよらぬ場面が楽しい「~したい」「~そう」シリーズでは、女性らしい表情やしぐさが巧みに描かれていて、どの女性にもドキっとする自然な色気が溢れている。また、国芳が描く美人は、はつらつとした明るさを放っているのに対し、芳年の描く美人は妖艶な雰囲気をたたえているのが特徴。両者の表現の違いも堪能してほしい。
歌川国芳「亀喜妙々」(名古屋市博物館蔵)
国芳のユーモラスな戯画のなかには、幕政を風刺しているとしてさまざまな憶測が飛び交ったものも多い。第4章「話題に挑む」では、当時、話題となったものや世相をネタにした戯画など、ニュースソースとしての作品を紹介。猫や雀を擬人化して遊郭を描いたり、亀の顔を全部歌舞伎役者の似顔絵にしたり、意味ありげな風刺画を描いて人々を混乱させたり……。国芳はどんな制約があろうとも、いつでも人々を楽しませたいという想いで浮世絵を描いていたのだろう。これらの作品を観ていると国芳がニヤリと笑いながら絵を描く様子が目に浮かぶよう。
たくさんの弟子に慕われた国芳
面倒見の良い親分肌だったといわれた国芳には、たくさんの弟子がいた。終章では、国芳作品のDNAを受け継ぐ絵師たちを「芳ファミリー」としてまとめ、明治浮世絵を彩ったさまざまな個性あふれる弟子たちの作品を紹介している。中でも目にとまったのが、「おもちゃ絵」を多数手がけ、明治20年まで活躍した歌川芳藤(うたがわよしふじ/1828-1887)の作品だ。
歌川芳藤「端午の節句」(名古屋市博物館蔵)
この作品は、絵を切って組み立てて遊ぶことができる子ども用の「おもちゃ絵」の一種で、いわゆるペーパークラフト。切り抜いて貼り合わせると端午の節句の飾りが完成する。のりしろがあったり、ヒレが別になっていたりと随所に工夫がみられる。納得がいくまで何度も修正をかける芳藤に出版社が手を焼いたこともあったとか。子ども用であろうとも手をぬかない丁寧な仕事ぶりとこだわりは国芳ゆずりだ。
歌川国芳「浮世よしづ久志」(名古屋市博物館蔵)
そして、最後のシメにピッタリなのが歌川国芳のこの作品。「若い娘に惚れられてよし」、「上手に字が書けてよし」などさまざまな「良し」となるシチュエーションが描かれている。右上には愛する猫を肩に抱いて背を向けた(国芳は相当シャイだった)本人も登場しているのでお見逃しなく。「人生には良いことも悪いこともあるけど、なんでもよし! として過ごそう」というメッセージが伝わる絵には、たくさんの弟子に慕われた彼の人柄がよく現われている。この絵から人生を楽しく生きるヒントをもらえた気がする。
「京・嵐山上流の蔵 丹山酒造」のあまざけ(180ml)
本展覧会の観覧券では、月岡芳年「おしやくがしたい」にちなんで、「京・嵐山上流の蔵 丹山酒造」のあまざけ(180ml×1本)がついてくるセット券も用意されている。米・米麹だけで造ったアルコールゼロ、砂糖ゼロで子どもでも飲める昔ながらの「あまざけ」は、すっきりした甘さで飲みやすい。牛乳や豆乳でわってもよし! こちらもぜひご堪能あれ。
取材・文・撮影=岡田あさみ
イベント情報
【開室時間】 10:00~18:00 ※金曜のみ19:30まで(入場はそれぞれ30分前まで)
【休 館 日】 月曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)
【会 場】 京都文化博物館(〒604-8183 京都市中京区三条高倉)
※障がい者手帳等をご提示の方と付き添い1人までは無料 ※学生料金で入場の際には学生証をご提示ください
【協 賛】 野崎印刷紙業
【企画協力】 名古屋市博物館
【後 援】 京都府観光連盟、京都市観光協会、KBS京都、エフエム京都
【お問合せ 】 京都文化博物館 075-222-0888
【公式サイト】 https://www.ktv.jp/event/idomuukiyoe/