福士蒼汰と宮野真守、ハイテンションに物語を繰り広げた劇団☆新感線の舞台『神州無頼街』、キーワードは「手」にあり
『神州無頼街』 撮影=田中亜紀
2022年劇団☆新感線42周年興行・春公演 いのうえ歌舞伎『神州無頼街(しんしゅうぶらいがい)』 2022.3.17(THU)〜29(TUE)オリックス劇場
3月17日(木)から大阪のオリックス劇場にて開幕した、劇団☆新感線の42周年興行・春公演『神州無頼街』。演出家いのうえひでのりによる、歴史や神話をモチーフとした「いのうえ歌舞伎」の第3弾となる同作。
2022年劇団☆新感線 42周年興行・春公演 いのうえ歌舞伎『神州無頼街』公演映像
時代は幕末、「神も仏も素通りの裏切り地獄」と呼ばれる無頼街を舞台に、腕の良い町医者、秋津永流(あきつながる)と、他人の事情に口を出して銭を稼ぐ草臥(そうが)が、国を揺るがす野望を持つ侠客である身堂蛇蝎(みどうだかつ)やその妻、麗波(うるは)らと激戦を繰り広げる物語。伝説の侠客、清水次郎長や市井の人々も巻き込みながら、永流、草臥、蛇蝎、麗波たちの思惑が交わっていく。
同作のなかでキーワードとなるのは「手」である。永流は、蛇蝎が放った毒蟲にやられた次郎長を助け、無頼街でひとりの女性の出産を手伝うなど、その手が多くの人の役に立っていく。医者という職業に生きがいを感じており、人を助けることが大きな喜びだった。しかしひとたび剣槍を手にすれば、幼い頃に仕込まれた殺しの技で悪漢を倒していく。その体内には殺し屋の血が流れており、それに抗うことができない。彼の手は人を殺すためのものなのか、それとも人を救うものなのか。葛藤する永流の様子、そして彼にかけられる「どんな手でも、人の手」という言葉の意味を探りながら観てほしい。
『神州無頼街』
もちろん、各キャラクターの個性と演者の芝居もすばらしい。永流は、舞を踊るような華麗な殺陣で敵を倒すほか、腕の捻り方で相手の肩を外して戦意を喪失させるなど、医学的な戦いも仕掛けていく。演じたのは、『髑髏城の七人』Season月<上弦の月>(2017年〜18年)以来、2作目の劇団☆新感線の舞台となった福士蒼汰。満面のスマイルで人々を虜にするなど、実際の福士の魅力をそのままキャラクターに生かしたような設定がおもしろい。
永流の旅に同行する、草臥はとにかくひょうきんだ。腕っ節は強いが、馬鹿正直なところもあって、そこにつけ込まれて罠にはまってしまう一幕も。そんな草臥役をつとめたのは、アニメ『DEATH NOTE』(2006年〜07年)の主人公、夜神月の声優で知られる宮野真守。歌手としても人気の彼は、『神州無頼街』でも迫力のあるボーカルを披露。また永流から「どんなに小声で喋っていても、声が通る」とツッコミを入れられるなど、宮野が声優であることを引っ掛けた笑いも交えられている。
『神州無頼街』 撮影=田中亜紀
松雪泰子は、妖しさたっぷりに麗波を演じている。この物語のなかでもっとも狂気的で残虐。また、意外な過去も明らかになっていく。蛇蝎役の髙嶋政宏は、どんな相手であっても力でねじ伏せる強さがインパクト大。非情な性格の持ち主だが、麗波には深い愛を注ぎ、その想いは一切ぶれることがない。
また、オープニングから鳴り響き続けるハードな楽曲も鑑賞者を高揚させる。誰もが知っている邦楽、洋楽のヒットナンバーをオマージュした楽曲もあり、場面によっては自然と手拍子が起こることも。聴くというより、全身で浴びるような轟音は、劇団☆新感線の作品特有のものである。
ポップな世界観とスピーディーな展開、そして最初から最後までハイテンション。あっという間の体感時間である。
『神州無頼街』
『神州無頼街』は3月29日(火)まで大阪オリックス劇場、4月9日(土)から12日(火)まで静岡の富士市文化会館ゼロシアター 大ホール、4月26日(火)から5月28日(土)まで東京建物Brillia HALLにて公演が開催される。
取材・文=田辺ユウキ