『SANUKI ROCK COLOSSEUM 2022』四国で鳴らし続けてきたライブサーキットが3年ぶり開催ーー発起人の四星球が紡いだ物語とは
『SANUKI ROCK COLOSSEUM 2022 -MONSTER baSH × I♡RADIO 786-』 撮影=ハヤシマコ
『SANUKI ROCK COLOSSEUM 2022 -MONSTER baSH × I♡RADIO 786-』2022.3.19(SAT), 3.20(SUN)@festhalle/オリーブホール/DIME/MONSTER/SUMUS café
『SANUKI ROCK COLOSSEUM 2022 -MONSTER baSH × I♡RADIO 786-』(以下、『サヌキロック』)が、3月19日(土)、20日(日)の2日間にわたって開催された。2019年以来、3年ぶりの開催で約80組のミュージシャンが出演。このイベントは、2010年から四国在住のバンド・四星球が発起人となり、FM香川と四国のコンサートプロモーター・DUKEが主催している。香川県高松市の高松常磐町商店街を中心とした、通称「ことでん」こと高松琴平電気鉄道の瓦町駅周辺で行われ、会場となるのは約200m範囲内にあるfesthalle、オリーブホール、DIME、MONSTER、SUMUS caféという5つのライブハウスと、無料観覧も可能な瓦町駅地下広場特設ステージだ。
●初日。「おもてたんとちゃうことも楽しんでいきましょう」
『SANUKI ROCK COLOSSEUM 2022 -MONSTER baSH × I♡RADIO 786-』
真の地域密着型イベントであり、2019年には記念すべき10回目を迎えた。筆者は2020年にライブレポートで初めて訪れるはずだったが、このご時世で延期となり、遂に今年訪れることに。四星球のメンバーや関係者に会うたび、「もっと盛り上がっている、本来の姿を見て欲しかった」と少し残念がっていたが、今は世界中の街が本来の姿を見せる事が難しい時代であるし、3年ぶりとはいえ、途絶えずに開催できたことが何よりも素晴らしいと思う。全国には「シャッター商店街」などと呼ばれる商店街が多くなった中で、なによりコロナ禍でもある中で、高松の街や商店街からは活気が充分に伝わってきた。
かじ笑店
商店街のアーケード内には、ミュージシャンやイベントの物販エリアも設置され、それぞれ段ボール片手に物販準備をしている。その横には町の人たちの日常があたりまえにある。商店街には、「大浦梶」やムーディー勝山との「勝山梶」(後にアイスクリームに改名)といったコンビでも活躍し、現在は地元香川で「よしもと住みます芸人」を務める梶つよしの情報発信スペース「かじ笑店」もあり、出演ミュージシャンたちがトークイベントを繰り広げている。また、飲食店を中心に、21店舗がイベントとコラボしたメニューを提供していたり、イベントのリストバンドを提示すると受けられるサービスもある。中には、日焼けサロンや足ツボにまつわる特典もあり、その幅広い街ぐるみな感じに思わずニヤけてしまう。
かじ笑店(ゲスト:空想委員会)
初日の3月19日(土)朝11時。瓦町駅地下広場の特設ステージ「786FM香川ステージPowered Byレクザム」にて、公開生放送特別番組『サヌキロックがやってきた!』からイベントはスタート。四星球のメンバー全員で開幕宣言を行うのだが、12時にはオリーブホールで四星球のライブがある。いくら半径200m以内に会場があるとはいえ、この時間この場所にいるのは、どう考えてもおかしい。でも、おかしい事を本気でやり抜くのが、祭の醍醐味でもある。
四星球による開会宣言
11時10分。最初のライブを控えた4つのライブハウスに向けて、「僕たちじゃなくてもいいんじゃないかなと!」と笑い飛ばしながら、DJと一緒にカウントダウンをする四星球。これにて正真正銘のスタートを切るが、この生放送で会場のひとつであるDIMEが、3月21日(月)の四星球のワンマンライブを最後に、移転することを本格的に知る。康雄いわく「移転に向けての気持ちがグッと入る」とのことだが、『サヌキロック』2日目・20日(日)のDIME大トリが四星球であることも踏まえると、そこへの物語が軸になると直感的に感じた。
四星球
公開生放送が終わり、四星球は慌ててオリーブホールに移動するが、車移動や裏口を使うわけでもなく、普通に観客と共に、地上へと向かい商店街を歩く。歩きながら、康雄に井川達雄さんという人物の話を聞いた。去年3月末までFM香川でディレクター兼パーソナリティ、サヌキロック立ち上げにも関わっていた方だという。康雄はラジオ喋りのイロハ全てを教わったと熱く語ってくれる。今、存在を知ったばかりの方なのに、康雄が興奮して喋れば喋るほど、その熱量にやられて、こちらも急激なスピードで康雄の井川さんへの想いに感情移入してしまうから不思議だ。街の人々によって作られてきた大切な祭だということを改めて実感する。そんな井川達雄さん、2021年3月30日(火)のFM香川最後のブログで「去年新型コロナの影響でサヌキロックを中止した際、トキワ街のお花屋さん「カタリ」で買った鉢植え庭桜。来年はみんなが笑える春になりますように!」と写真付きで書いていた。どれだけの思いで、街の人々が2年間を過ごしてきたことか……。先程、知ったばかりの人との思い出で、それも初日始まって20分くらいしか経ってないのに、とてつもなくエモーショナルな気持ちになってしまう。ここから翌日のDIME大トリ四星球まで、僕たちの感情はどうなってしまうのだろうかと嬉しい不安に陥る。
四星球
12時。オリーブホール四星球。いつもは段ボールなどで作られた被り物などで仮装して出てくる彼ら。この日は法被にブリーフという普段の衣装で登場。よく考えたら、それ自体が仮装みたいなものなのに、何故だか正装で出てきたと錯覚させられてしまうという世にも奇妙な物語。この日の四星球は何かが違うし、とにかく異様な気合いを感じる事だけは確かだ。久しぶりの『サヌキロック』ということで、普段ならば30分で4曲くらいのセットリストなのだが、この日は30分で11曲やるという。「夜明け」から歌われていくが、新曲「トップ・オブ・ザ・ワースト」以外は聴いた事がある曲ばかりなのに、いつもよりも剥き出しで、いつもより叫ばれていく。そうは言っても、30分11曲は至難の業であるので、「一瞬で終わります!」と約8秒で終わる「時間がない時のRIVER」を6曲目に披露したりもする。
四星球
一息ついたところで、康雄が話し始める。これまでのオリーブホールと比べれば、ステージと観客がいるフロアの間にアクリル板がないことをあげ、良い方向に向かっていると伝える。そして、普段は瓦町駅地下広場特設ステージで、ライブハウスの様なライブがぶちかまされる「祭ノリ」がたまらないと言い、「今年から一歩ずつやって、あの感じを取り戻しましょうよ!」と訴えかけた。2010年代、全国各地のフェスに引っ張れる様にしてバンドブームやバンドバブルが起きたもののコロナで弾けた、というリアルな現況も包み隠さずに明かす。「だからこそ、今回出てる出演者とお客さんで、もう1回バンドブームを作るしかない!」という魂の叫びにやられたのは、筆者だけじゃないはずだ。『サヌキロック』を誇りに思い、高松の街が賑わうことを心から祈っている康雄。そうして、11曲が無事に歌い終わった。
四星球
圧巻は、ここからだった。ステージ端に用意された曲順表を振り返っていく。「こんなに待ちわびた「夜明け」は御座いませんでした」から始まり、全曲のタイトルや歌詞を引用しながら11曲を物語にしていく。ラスト11曲目「おもてたんとちゃう」は「おもてたんとちゃうけど楽しかったでしょ!? おもてたんとちゃうことも楽しんでいきましょ!」と締められた。そして、おもてたんとちゃうことは、まだ続き、12曲目「世明け」が歌われる。この嫌な世の中が明けていけばいいのに……、てか、この壮大なライブハウス創作落語は何なんだ……と心から感動していたが、オチはズッコケてしまう下ネタ。まぁ、そんなおもてたんとちゃうところも含めて、やはり壮大なライブハウス創作落語であった。
四星球
いいものを観たという気持ちでいっぱいになり、明日のDIME大トリ四星球のライブへの期待で胸を膨らませながら、DIMEへと向かってみる。古い戸建のビルにあるDIMEは、商店街に面した階段を上り、中へと入っていく。あまり類を見ないタイプのライブハウスだし、ステージと天井が高いのも特徴的。フロアはコンパクトだが、インパクトがあるライブハウスで、『サヌキロック』初出演となる若手バンドCRYAMYがライブをやっていた。野性味に溢れた、ギラギラしたロックンロールがとてもDIMEに似合っていた。
CRYAMY
DIMEで数多くの若手バンドがしのぎを削ったのだろう。そんな歴史を勝手に感じながら、DIMEをより知るために、瓦駅町地下広場の特設ステージのトーク企画「DIME引越し会議」を覗きに行く。DIMEと馴染み深い四星球のモリス、ガガガSPのコザック前田、BUZZ THE BEARSの越智健太の3人と、DIMEのエイジ店長がライブの思い出話を中心に話している。さて、2004年8月にオープンしたDIMEだが、エイジ店長の話により、元々は松竹系の『男はつらいよ』などが上映されていた映画館だったと判明。それならば、小ぶりだがステージと天井が高いという内装に納得がいく。商店街に面した雰囲気のある階段も昔ながらの映画館ならでは。DIMEの正体を知れて満足しながら、今回の会場で一番キャパが大きいfesthalleへと向かう。
瓦駅町地下広場の特設ステージ「DIME引越し会議」
festhalleでは、3月17日(木)に20歳になったばかりの映秀。のライブが始まろうとしていた。10周年を経て3年ぶりに開催という歴史や物語があるサーキットイベントだからこそ、四星球を始めとする四国のミュージシャンはもちろん、初出演の若手ミュージシャンも追いかけたいと思った。
映秀。
同年代の演奏陣による、その年代とは思えない、鉄壁な演奏にノリながら現れる映秀。。「だっせえ自分から脱せ」と歌われる「脱せ」。この曲を初出演のイベントの1曲目でぶつけてくる心意気が素敵である。ロックだけではなく、R&Bやジャズを感じさせ、個人的にはソウルやファンクも感じさせる音楽。音も歌も踊ってるからこそ、聴いてる側も心身ともに踊りたくなる。20歳になった3月17日(木)にリリースされた新曲「縁」では、<幾つになっても続けよう>と決意表明のように歌う。自問自答的なポエトリーリーディングから始まり、音も歌も踊り転がっていく「東京散歩」から、ラストは「喝采」。気付くと寝転びながら歌ってる。観客は一斉に手を上げており、その熱狂が伝わってくる。拍手喝采で終わったと書くのは簡単だが、本当に拍手喝采で終わらせた初出場の20歳。圧倒的な若さの強さを感じた。
映秀。
festhalleから再びオリーブホールへ移動していると、四星球のまさやん(Gt)に出逢う。よく考えたら、四星球のライブが終わってから、まだ3時間くらいしか経っていないのに、メンバー全員と街や商店街ですれ違っている。「サヌキあるあるですよ!」とまさやんは笑っていたが、この近さだからこそ感じる安心感や温もりは何とも言えない。この頃には、一番距離が離れている(と言っても半径200m以内だが)SUMUS Caféへの一番近い抜け道も発見できており、初めて来たのに自分の地元商店街の様に我が物顔で歩いている。
さて、オリーブホールは、こちらも初出場となるYONA YONA WEEKENDERS。1曲目「東京ミッドナイトクルージングラブ」からして、照明はムーディーで横ノリしたくなる雰囲気。同じオリーブホールで四星球からYONA YONA WEEKENDERSまで楽しめる振れ幅の広さ。これも『サヌキロック』の魅力のひとつ。「この曲をうどん県でやるの怖いけどやるわ!」と「R.M.T.T」(ラーメン食べたい)。ただただ、オシャレなだけじゃなく、この開催地をイジるユーモアは、どこから来るのだろうと思っていたら、ボーカルギターの磯野くんは岡山出身で、おじいちゃんは香川県坂出市に住んでいるという。なので、ラストの「次は『MONSTER baSH』で逢えるな!」という言葉もしっかり届いた。
YONA YONA WEEKENDERS
以前、本サイトの記事で、DUKEスタッフが「『サヌキロック』に出演してくれた人たちが注目され、そこから(DUKE主催フェス)『MONSTER baSH』(以下、『モンバス』)にオープニングアクトとして出演して。ワンマンライブでも四国の会場にツアーで帰ってきてくれるようになって、更に『モンバス』のメインステージにも出演して……。そういうサクセスストーリーのようなものができてくると、どのバンドも大きく成長したなと感じる」と話していた。まさに、その言葉を思い出した、YONA YONA WEEKENDERSのライブ。やはり、初出演組を追いかけるのは正しかった。
THEイナズマ戦隊
四国組、初出演組を追いかける中で、忘れてはいけないのが常連組。四国へ遠征し続けてきた、彼らの存在は偉大だ。トーク企画『サヌキロックにこの漢たちあり!』に出演していた、THEイナズマ戦隊もそのうちの1組。大阪府出身43歳とサヌキロック出演者の中で最年長でもあるボーカルの上中丈弥。リハから関ジャニ∞への提供楽曲「ズッコケ男道」を披露して、完璧に盛り上げているところにも凄みを感じる。1曲目「喜びの歌」の途中で、上中が「今年の夏、野外で逢うというのはどうだい!?」と明らかに『モンバス』を匂わせる煽りもニクイ……。続く「生命パワー」を歌った後には、スタッフからティッシュを受け取り、花粉症の為に鼻をかむ上中。なんでもないはずの仕草だが、生命力を感じさせる包み隠さない仕草に、こちらはいちいちグッときてしまう。魅せるというのは、こういうことだろう。このコロナ禍を「この後の未来の為のアトラクション!」と言い切る強さ。その流れからの「応援歌」が響かないわけがない。
THEイナズマ戦隊
大阪府出身の43歳最年長ボーカルの常連組から、今度は初日のDIMEトリを務める、神戸出身の42歳唄い手バンドを観に行く。こちらも常連組でトーク企画「DIME引越し会議」にも出演していた、コザック前田が唄い手のガガガSPだ。こよなくDIMEを愛するガガガSPが、初日のトリなのはバッチリすぎる。<落っこちるのさ奈落まで こんな時こそやり時さ>と歌う強さがある「ロックンロール」。ロックンロールとは生き様であり、ずばり生き様をロックンロールで表現してくれるガガガ。
ガガガSP
「最後にウチを選ぶという事は、色々なバンドが好きな上で来てくれたんやと思う。そういう人たちと共有できるのは嬉しい」。コザックだからこそ、最後のDIMEへの強い気持ち強い愛は底知れないものがあった。やまだかつてないWinkの「さよなだけどさよならじゃない」、小沢健二「さよならなんて云えないよ」とザ90年代な参考例を出した上で、ガガガ流のさよなら「卒業」へ。DIMEを卒業しても一生懸命頑張る決意、DIMEへのさよならとありがとうの想いをしかと受け取った。
ガガガSP
いつライブハウスもバンドも崩れるかわからないと語り、「地震もそうやけど、いつか知らない世代も出てくるので、ここにDIMEがあったことを知ってる生き証人として生きて下さい」と想いをしっかりと伝えたところも素晴らしかった。コザックが地元神戸で阪神淡路大震災を体験してるからこその言葉の重み。知らない世代へと伝え続ける重要さを思い知ることができた。ラストは「すばらしき人生」「ハロー40代」とバシッと決めてくれ、「明日は四星球がバシッと決めてくれるでしょう!」と後輩バンドへバドンを繋いだのも男らしかった。
ガガガSP
余談だが、昔からインタビューでお世話になっている、コザックとも商店街ですれ違うことが多かった。「僕らの好きな90年代を感じますよね!」と興奮して話してくれたのが、ガガガと同じくDIMEでライブをした初出演組のヤユヨだった。最年長に近いバンドながら、初出演組バンドをしっかりと観ていることにとても好感を持てた。バンドマンが空き時間に、何気に他出演者ライブを観に行きたくなるのがサーキット。こうして自然にバンド同士の関係性も繋がっていくのだろう。そんなヤユヨのような初出演組が、常連組になっていく姿を観れるのも楽しみのひとつだ。
ヤユヨ
いよいよ初日のラストライブは、festhalleにて地元四国のLONGMAN。一番キャパが大きいライブハウスで、地元四国のバンドがトリを飾るというのは美しい。さわちゃん(Vo.Ba)が元気いっぱいに登場して、LONGMANタオルを掲げる。男女ツインボーカルで、1曲目からさわちゃんが笑顔でベースを弾きながら、ギターの平井くん(Gt.Vo)の後ろを飛び回る。朝のトップバッターから夜のトリまで、8時間ずっとライブを観てきた観客からすれば、その最後をとびっきり笑顔のライブで締められるというのは最高の極みだろう。平井くんが「小6まで高松に住んでました!」と話してからの「Back Home」も爽快だった。
LONGMAN
LONGMAN
彼ら自身も朝イチから来ていて、楽しみ過ぎて声が枯れているという。四星球やガガガもそうだが、何と言っても出演バンド自身が『サヌキロック』を楽しんでいるのが伝わってくる。なかなか人と接することができない日々が続いていたからこそ、その分、バンドマンの想いも強くなっている。元気に明るく進めていく彼らだが、平井くんの「DUKEが、四国の音楽シーンを諦めなかったから」というひと言はリアリティーがあり、とても誠実だった。そこから、3年前のメジャーデビュー曲「Wish on」は日本語詞なのもあり、より観客の心にも届いているように感じた。
LONGMAN
本当ならば、この初日だけの出演だったLONGMANだが、2日目MONSTERの出演者が急遽キャンセルとなったため、代打で2日連続出演。この日もさわちゃんはリハから楽しそうにジャンプして、足をあげている。平井くんとドラムのほりほりは、阪神タイガースの「代打の神様」こと八木裕選手の名前を挙げ、代打の出演を楽しんでいる。スカ調のナンバーなど初日以上に盛り上げ、その上で平井くんは「『MONSTER baSH』と来年の『サヌキロック』に繋がると思うので!」と力強く宣言。演奏終わり、「『サヌキロック』、帰ってきて良かったね!」と言い残して去って行った平井くん。四国愛を感じた2日間のライブであった。
LONGMAN(2日目)
四国のバンドである四星球から始まり、四国のバンドであるLONGMANで終わった初日。こんなに周り甲斐のある楽しいライブサーキットがもう1日楽しめる。心地よい疲れを感じながら、宿へと向かい、明日へと控える。
●2日目。たかがライブ、されどライブ、これぞライブ。
古墳シスターズ
2日目。11時10分から4会場でライブがスタートする中、商店街を歩いていると11時時点で「かじ笑店」に長蛇の列ができている。BiSが12時30分からトークイベントを行なうという。しっかりと朝から盛り上がりが伝わってくる。その長蛇の列を横目に商店街周辺を歩き、12時からオリーブホールで行われる四国出身の古墳シスターズを観ることに。四国出身と書いたが、詳しくは香川県高松市で結成されたバンド。完全なる地元バンドだが、初めてライブを観た率直な感想は、思っていた以上に真っ直ぐなパンクバンドであるということ。「ワンツースリーフォー!」というカウントが気持ち良いくらいに決まるし、ボーカルギターの松山航による「皆様お待ちかねのギターソロですよ!」なんていう言葉もいちいち真っ直ぐで気持ちが良い。「ベイビーベイビーベイビー」も、そのタイトルからしてドストレートすぎてワクワクする。
古墳シスターズ
「『サヌキロック』をえこひいきしに来ました! いろいろあるなかで我々に残された最終手段は、楽しむことしかないと思っています!」。四国の守護神が四星球という解釈には、何の揺らぎも無いが、讃岐の若き守護神は彼らかも知れないと、そう心から思わせてくれる。ちなみに、初日オリーブホールで出演者が急遽キャンセルになった為、彼らも代打出演しており、LONGMAN同様に2日連続出演となる。
古墳シスターズ
終盤2曲は本当にギアが入りまくっていた。まずは、香川の歌が欲しいなと思って、香川の海を見ながら作ったという「エンドロール」。これだけで話は終わらない。その歌を全国どの街でも歌っているし、どこも良い街だからこそ当てはまり歌える曲だというのだ。「あぁ、これは真理」だなと、すぐさま思った。街の大きさや雰囲気、すなわち、それはフェスやイベントやライブハウスの大小、もしくは歴史の長さや短さ、そんなの関係なくて。良いかどうか、気持ちが込もっているかどうか、温もりを感じるかどうか、繋がりを感じるかどうかだけ。良いバンドが良い街を周り、日々歌っていく。ただただシンプル。初めて観るバンドに関わらず、そりゃ一瞬で心を奪われるわけだ。
古墳シスターズ
いよいよラストナンバー。ここでサヌキロック史上、一生語り継がれるべき名シーンが生まれた。ギターの松本が学生時代に好きだったという女の子が、この日に結婚式を挙げていることが本番直前にわかったと、松山が明かす。ネタにしている感じではなく、松本が心から悲しそうな顔をしている。松山は「あの子が好きだったコード弾いてくれや!」と呼びかけ、ちょっとだけ考えた松本がギターを弾くと、すかさず松山が「違うやろ! 普通は次の曲のコードやろ!」と強烈にツッコんだ。いやぁ、これ、本当に絶品だった……。松山としては暗黙の了解で、次の曲のコードを弾いてくれると信じ込んでいたら、松本は好きだった子の好きなコードを弾いてしまったという、ピュアすぎるワンシーン。これこそが真の泣き笑い……。で、演奏されたラストナンバータイトルが「スチューデント」! 気持ちが乗っからない訳がない。松本のギターも気持ちが乗りまくる。何気ないことで変わっていく流れ。思いもよらない流れが偶然に生まれるが、これは必然で生まれた流れでもあるのだろう。松山は「良い1日を!」と去っていったが、このワンシーンはこの日の終わりでも語り継がれることになる。こうして、今日も良い1日が始まった。
さなり
同じオリーブホールに登場したのは、四国出演組であり、初出演組。徳島出身で弱冠19歳のラップアーティストさなり。「サヌキロック調子どう?」とパーカー姿で爽やかに現れて、DJとふたりきりで言葉と音を紡いでいく。初日もオリーブホールで四星球からYONA YONA WEEKENDERSという振れ幅の広さを感じたが、2日目も古墳シスターズからさなりという振れ幅の広さを再び感じた。それも4組とも四国のDNAが流れているのだから、不思議だし素敵である。さなりは四国初ライブでもあったが、高松は小さな頃から来ていた街であり、地元徳島にも似ていると語って、伸び伸びとライブをしてる。実は2020年初出場予定だったが、今回ようやく出場。その嬉しさも確実に感じることができた。
2020年の初出場予定が、ようやく今年初出演となったミュージシャンが、特に気になる。筆者も2020年にライブレポートで初めて訪れるはずだったし、楽しみにしていたミュージシャンも多かったからだ。その1組であるKarin.のライブをSUMUS caféに観に行く。弾き語りライブが間催される会場で、到着するとリハの真っ最中であり、グランドピアノを演奏しながら歌っている。2日間ほとんどバンド演奏を聴いてきただけに、ひとりで演奏して歌うことにより、醸し出される雰囲気に良い緊張感があった。
Karin.
この緊張感、どこかデジャブのように体感したことがある気がして思い返してみると、2020年3月、彼女が『サヌキロック』に出演するはずだった日に、歌うはずだったという楽曲がSNSで披露されていたのだ。高校卒業してすぐの春で、初出演したかったという想いを痛切に感じたのを思い出した。この日も1曲目「君が生きる街」から大切に丁寧に、その場にいるひとりひとりに伝えたいという、強い念を感じた。そんな中でも新曲「星屑ドライブ」も初めて弾き語りで披露される。普段はバンドセットで歌われることが多いだけに、新曲の弾き語りは貴重であったし、この日この場で新曲を披露したいという心意気が嬉しかった。
本人も「不安でしたが楽しかった」と言っていたように、不安という気持ちをポジティブに昇華する姿が素敵だった。10代の終わりを『サヌキロック』で観ることは残念ながらできなかったが、20代の始まりを『サヌキロック』で観ることができたのは嬉しい。「またみなさんとお逢いできることを、本当に楽しみにしています」という言葉も、2年越しで逢えただけに、より重みが感じられた。来年はバンドセットで観てみたい。
Kroi
本日3度目となるオリーブホールで初出場組、Kroiを観る。その名の通り、黒いブラックミュージックを聴かせてくれるわけだが、とにかくグルーヴィーで手練れで腕利きで……と、若手バンドとは思えない極上の演奏。初四国であり、初香川なライブでありながら、駆け付けた観客で埋め尽くされている。この御時世による入場制限が無ければ、もっともっと動員していたのではないかと勝手に予想してしまう。その上、彼らはバス移動でライブ直前に着いたばかり。そんなハードスケジュールで、このクオリティーかよと感心してしまう。来年以降、常連組になりそうな匂いがプンプンする。ちょっと人を食った様なMCも魅力的だったが、最後の最後「また来たいんで、みなさん応援して下さい!」という挨拶は可愛げがあり過ぎたし、多くの四国ファンを掴んだはずだ。
BiS
黒い熱気が冷めやらぬ中、festhalleへ。昼間のトークイベントで商店街に長蛇の列を作っていた、BiS。過去にも出演経験があるが、現体制としては初出場らしい。「商店街が中心となって、街全体が盛り上がっていて。お店とコラボした商品もあるし、街や商店街ですれ違う人みんな楽しそうで、温かい気持ちになりました!」と『サヌキロック』総評として100点以上の感想を述べた彼女ら。そう言えば、トークイベント本番前に商店街を歩いていたし、うどん屋から満足そうに出てきたところも目撃していた。その模様は、しっかりと彼女らのTwitterにも呟かれている。出演者が出番前から街と商店街を楽しんでいるのも『サヌキロック』の良いところ。
なきごと
いよいよフィナーレに近づいてきたところで、今回の物語の軸であるDIMEへと移動する。大トリ四星球前のセミファイナルは、2020年初出場のはずがようやく今年出場を果たせた組のなきごと。ボーカルギターの水上えみりいわく、やっと出場できたという心境であり、そんな中でも観客は初めてなきごとを観る人ばかりであることに喜ぶ。ホームである東京のツアーファイナルと同じくらい盛り上がっており、その状況に水上とギターの岡田安未は燃え上っている。
また、前日にホテルでテレビをつけたところ、メニュー画面のインフォメーションに、四国への旅行客へ向けた案内に続いて「ライブハウスへお越しのみなさん楽しんで下さい!」という言葉が並んでいたことを、水上が嬉々として明かす。会場を中心とした商店街だけの街ぐるみではなく、近隣のホテルまでも一緒に盛り上げる、真の意味での街ぐるみイベントというわけだ。
なきごと
春の『サヌキロック』、夏の『モンバス』は、この四国、この香川県の新たなる聖地巡礼旅に間違いなくなっている。特に『サヌキロック』は高松のライブハウスへと足を運ぶことを、聖地巡礼だと思わせてくれる。初めてDIMEでライブをする水上も「たまらなく愛おしい空間で何物にも代えがたい……。明日にはなくなりますが、新しいDIMEにも行きたいです」と感情移入していた。四国の街の人々が、本気で四国の音楽文化を愛しているからこそ、なきごとを始めとした初出場組、観客、そして筆者のような初参加する人も、なぜか長年知っているかのように感情移入して愛してしまう。本当に魔訶不思議としか言いようがない。
四星球
そんな魔訶不思議の全てを教えてくれるのが「四国マスター」……、今回に限っては「DIMEマスター」とでも呼びたい四星球が遂に、サヌキロック最終日、移転前最後のDIME大トリを務める。四星球の出番は18時45分だが、16時過ぎからDIMEは入場規制となり、それでも多くの人々が、この2日間で初めて観る大長蛇の列に並んでいた。本番前、康雄に「四星球を観る為に物凄く並んでいる」ことを伝えたら、「いやいやDIMEの列ですよ」とさらっと言っていて、それはそれで凄くカッコよかったが、みんなDIMEの最後を四星球が飾るところを観たくてたまらなかったのだと思う。
四星球
まずは康雄ひとりが袖横の階段から降りてきて、少し喋る。「アカンなぁ、実感湧いてきました……。18年間お疲れ様でした!」とセンチメンタルになりながらも、グッと気持ちを保ち、ライブを始めていく。元映画館という地の利を生かして、名作映画のキャラがDIME移転を惜しんで来てくれてると紹介。まずはモリスが『ゴーストバスターズ』のマシュマロマンに扮して登場。で、頭をパカっと開けると香川だけにうどん脳が姿を現わす。U太は『千と千尋の神隠し』のカオナシに扮して登場。で、頭をパカっと開けると香川だけにうどん脳が姿を現わす。これだけ丁寧にふって、まさやんが『ネバーエンディングストーリー』のファルコンに扮して登場。で、頭をパカっと開けると、まさかのグロい脳みそが姿を現わす! 最初の康雄に引っ張られ、一瞬でも泣きそうになっていた自分が良い意味で馬鹿馬鹿しくなる。康雄の「四星球、始まります!」で最高のスタートを切った。
四星球
四星球
1曲目「クラーク博士と僕」の途中で、康雄が明日のワンマンライブ含め、DIMEで演奏するのは、もう自分たちだけだと話す。四星球には専属PAがいるので、先程のなきごとのライブでDIME専属PA・アリさんの仕事が終わったことを伝える。もう泣きしろが無いと安心していただけに、ここで一気に涙腺が崩壊した人は多いはずだ。康雄も「言うんじゃなかった……。ふざけてないと泣いちゃうから、ふざけよ!」と涙腺崩壊寸前に。というか、初日に聞いた元FM香川パーソナリティ兼ディレクターの井川達雄さんの話もそうだったが、アリさんも今の今まで全く知らなかった人なのに、康雄の熱気にやられて急激に感情移入をしてしまう。これぞエモーショナル。私たちの感情は一体どうなってしまうんだろうか……。たかがライブ、されどライブ、これぞライブ。康雄はお馴染みのフラフープを回しながら、映画館の名残がある2階の関係者用最前席で見守るエイジ店長にフラフープを投げ渡す。曲順という点では流れが決まっているはずなのに、些細なことで急に流れが変わっていく。やっぱりライブは生き物である。
四星球
四星球
「『MONSTER baSH』へ向けてやっているんです!」と言って、2曲目「MOONSTER daSH」へ。そこから続くタイミングで、この日の始まりに起きた『サヌキロック』史上一生語り継がれるべき名シーンについて触れられる。ドラマチックな物語を愛する康雄が、あの名シーンを見逃すわけが無いと思っていたが、ばっちり彼はチェックしていた。その主人公である古墳シスターズの松本は、何とファルコンを動かす手伝いをしていたこともあり、康雄が呼びかける。興奮しきった康雄は、松本に「(自分を)その子と思って叫べ!」と振ると、松本は「幸せになって下さーい!」と絶叫。笑い崩れながら「チャーミング」へ。康雄も松本に向かって「鳴らせよ!」と絶叫。元々、ライブに関係ない話であり、それも昼の出来事を夜に掘り返してエモーショナルになる。今、自分で書いていても、ここを掘り返す意味があるのかと考えたが、意味なんか無くていいのだ。その時にバンドマンがやりたいことを全力でやるからこそ、観ている僕らの胸を異様に打つのだから。
四星球
四星球
途中、DIMEの横にあるおにぎり屋店主のモノマネをしたりと、どうでもいい話を良い意味で続けていく康雄。「どうでもいい話なんですけど」と先に言ったうえで、「DIMEが移転しても、おにぎり屋さんに行ってあげて下さい!」と急に訴えかけてきたりする。どうでもいい話だと思って油断していると、いつなにがエモーショナルに襲い掛かってくるかわからない。最後の最後だからこそ、尋常じゃなく康雄がノッテいる。どんな流れでも、しっかりと自分の流れを作り上げていく。
四星球
6曲目「薬草」でも、とんでもない流れがやってくる。U太のベースから突如音が出なくなってしまったのだ。最初はどうにかしようと思っていたU太も諦めてベースを放り出して、マイクを持って、康雄の横に並んで歌い出す。四国の大学で出逢った康雄とU太がショーマストゴーオン精神で、何が起きても舞台を止めずに走り続けていく。康雄も刺激を受けたのか、ベースを何とか修理しようとするスタッフからベースを奪い取り、スタッフの首にかけて弾かせようとする。このふたりが刺激し合った時の大爆発が大好きだ。初日の整合性に感嘆するライブとは全く異なる、混沌から暴走する最終日ライブに引っ張り込まれて、いよいよラストナンバーへ。
四星球
ここでエイジ店長が登場。3月26日(土)にオープンする新生DIMEが、20年の借金を抱えてることを打ち明ける、エイジ59(エイジ店長59歳)。裏に「ええとこよ」と書かれた大団扇をエイジ店長に持たせて、「ライブハウス音頭」へ。康雄の「借金払うのはエイジさんちゃいます! 払うのはライブハウスに観に来るみなさんですよ! ツアーバンドもよろしくお願いします、DIMEを使って下さい!」とまとめる。咄嗟の判断で、それも熱を持ったままで物語をまとめていく康雄の天性のアドリブ感覚には相変わらず恐れ入る。このまま終わるかと思いきや、ファルコンが再登場して、DIMEスタッフに肩車されたエイジ店長がファルコンに乗っかった形で去っていく。アンコールは、長蛇の列で並んだものの中に入れなかった観客のことを気遣って行われず、これにて終了。新生DIMEは現会場から少し離れた場所になるらしいが、「プラスにとらえれば『サヌキロック』エリアが広がる!」という康雄の締めの言葉も天晴れであった。
四星球
四星球
ここまで盛りだくさんで、ひとつひとつの物語に心揺さぶられるライブサーキットは初めてだった。何よりも一番の収穫は、四星球を始めとする四国のバンドが、全国各地で観ても良いライブに違いは無いのだが、地元四国が一番観応えがあることに気付けたこと。どの支店で食べても美味だが、本店で食べる美味には勝てないみたいな。そんな魔法を魅せつけられた。聖地巡礼として、是非とも四国に来て欲しい。ネットで全てがわかった気になれる世の中だが、わざわざ本場に足を運ばないとわからないことがまだまだある。そしてこういった現象は、知られていないだけで、全国各地で起きているはずだ。今どの街も必死に、でも、軽やかに音楽を鳴らそうとしている。そのことだけは覚えておいていただきたい。まずは、何よりも今年夏に開催される『MONSTER baSH』を楽しみに待つのみ。
終演後、DIMEにて
全て書き終えたと思ったが、うどん県に訪れながらも、名物うどんについて一言も書いていないことに気付いた。なので慌てて、うどん通でも知られる四星球のモリスにお薦めうどん店を聞いておいたので、最後に記しておきたい。「須崎食料品店」。ちなみに、商店街から車で1時間かかるらしい。それも朝11時30分には閉まるらしい……。ライブ前なのか、ライブ後なのか、スケジュールに1日ゆとりを持って食べに行って欲しい。そして、今年の『MONSTER baSH』、来年の『サヌキロック』へ遊びに行っていただきたい。もちろん、うどんも楽しみながら。何はともあれ、来年はみんながもっと笑える春になりますように!
『SANUKI ROCK COLOSSEUM 2022 -MONSTER baSH × I♡RADIO 786-』
取材・文=鈴木淳史 撮影=ハヤシマコ、(ヤユヨ)吉田大右
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