井之脇海インタビュー~主演舞台『エレファント・ソング』のマイケル役は「僕以外の人にやらせたくない」
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井之脇海
2022年5月にPARCO劇場にて、PARCO PRODUCE 2022『エレファント・ソング』が上演される。
2002年にカナダの作家 ニコラス・ビヨンによって書かれ、朗読および舞台で世界各地で上演されてきた本作は、映画監督・俳優のグザヴィエ・ドラン主演により2014年に映画化もされている。
物語は、失踪した医師・ローレンスの診察室で繰り広げられる。ローレンスの行方を突き止めるために、病院長のグリーンバーグは患者のマイケルと対話を試みるが、マイケルは真偽のわからない話や「象」の話でグリーンバーグを翻弄する。2人の心理戦の末には驚くべき結末が待っている、緊張感あふれる会話劇だ。
主人公のマイケルを演じるのは、ドラマ・映画など映像作品を中心に活躍を見せる井之脇海で、本作が舞台初主演となる。マイケルと対峙するグリーンバーグを演じるのは、映像から舞台まで幅広く活躍する寺脇康文。マイケルが嫌う看護師のミス・ピーターソンをほりすみこが演じ、2人の緊迫した会話劇をさらに盛り上げる役割を担う。
戯曲を読んで「マイケルを演じるのは僕だ」と強く思ったという、マイケル役の井之脇に話を聞いた。
井之脇海
この役を通して僕自身が成長することにもつながる
ーーまずは本作の主演を務めることになった今のお気持ちを教えていただけますか。
演劇の舞台をあまり経験したことのない僕にこの役を任せていただけることに本当に感謝しています。マイケルという役はとても演じがいのある役だと思うので、この役を通して僕自身が成長することにもつながると信じています。
ーー井之脇さんが演じるマイケルについて、どのような人物だと思われますか。
映画版のキャッチコピーなどでも「愛を渇望している青年」というふうに書かれていたりしますけど、そのさらに奥には「自分とは何なのだろう」ということを探し続けている青年という部分もあるのかなと思うので、そこを忘れずに演じたいなと思います。
ーーグザヴィエ・ドランは映画化のときに「マイケルは僕だ」と言って出演を熱望したそうですが、井之脇さんも公演決定に際してのコメントで、戯曲を読んで直感的にマイケルを演じるのは僕だと強く思った、とおっしゃっていました。どのような点からマイケルを演じるのは僕だ、と思われたのでしょうか。
今までいろいろな役をやってきた中で「この役をやりたい」とか「僕がやるんだ」といった思いはもちろんありましたが、このお話をいただいて戯曲を読んだときに、僕以外の人にやらせたくないというか、本当に僕がやりたいと思いました。こんなふうに思ったのは、初めてかもしれません。グザヴィエ・ドランが言う「マイケルは僕だ」というのは、彼自身の環境や過去と重なっての発言だと思うのですが、僕はどちらかというと、マイケルを今の僕が演じなきゃいけない、演じたい、というふうに思ったんです。マイケルが「自分とは何か」を探し、愛を渇望していく様というものを、とても難しい表現になると思いますが僕なりの形で表現することができるんじゃないかという謎の自信もあります。そんな自信は普段はあまりわいてこないのですが、何でしょうね。マイケルは環境としては自分とは遠い人物のはずなんですが、彼のことをそんなに遠くに感じなかったんですよね。だからやりたいと思ったのかなと思います。
井之脇海
初対面の時、緊張していた井之脇に寺脇がかけた言葉とは?
ーー既に何回か本読みをされたそうですが、台本を1人で読んでいるときと比べて、どのように作品に対する印象が変わったのか教えてください。
初めてグリーンバーグ先生とミス・ピーターソンが目の前に現れたことによって、思っていたより優しい面があったり、一方で厳しい面があったりと、僕が事前に想定していたものと全然違う形で寺脇さんとほりさんが本読みをされたので、新しい発見がすごくありました。それに伴って「じゃあ、マイケルはこうなるよな」とか新たな方向性を考えられたりして、とてもいい本読みになったと思います。
ーーそのときにお2人と何かお話しはされましたか。
個別にお話しする時間はなかったのですが、演出の宮田(慶子)さんを含めて4人で台本についていろいろお話ししました。宮田さんが最初から決めつけずに、例えば「マイケルはここで何でこういうことを言うんだろうね?」と投げかけてくださって、それについて寺脇さんとほりさんも一緒に考えてくださって、マイケルを僕だけじゃなくみんなで作ることができていて、本当にありがたいなと思います。
ーー演出の宮田さんにはどのような印象をお持ちですか。
お会いする前は、自分には手の届かない遠い世界の方のようなイメージが勝手にあったんですけど、その印象はお会いして全く変わりました。リスペクトはもちろん変わらずありますが、役者に近い目線で一緒に考えてくださる方で、とても愛がありましたし、宮田さんなら全面的に信頼できるな、という安心感もあって、信じてついていきたいと改めて思いました。
ーー宮田さんからは役について何か具体的なお話しはありましたか。
根本的なことから細かいことまで、たくさんお話しさせていただいています。役への理解のことはもちろん、役者としての舞台の立ち方の意識の話などもしていただきました。僕は、やっぱり舞台はお客さんに対して見せなきゃいけない、という意識を持っていたのですが、宮田さんが「そういった意識は本当に少しだけでいいよ」というような、普段よりちょっとはっきり喋るぐらいの意識でよくて、あとはとにかく寺脇さんとほりさんと対峙することに集中してくれればいい、というお言葉をくださいました。そう言ってもらえて楽になったというか、勝手に頑張ろうと思い過ぎちゃっていたところを、いつも通りのことをちょっとだけ膨らませてやればいいんだな、と思えるようになりました。
ーービジュアル撮影のときが寺脇さんとの初対面だったそうですが、そのときの様子など教えてください。
寺脇さんからは「(寺脇・井之脇の)ワキワキコンビで頑張ろうね」と言っていただけて(笑)、それで緊張もほぐれて楽しく撮影することができました。最初のうちは緊張して、カメラの前に立つことだけでいっぱいいっぱいだったんですけど、撮影が進むにつれて、ただ立つだけじゃなくてマイケルとして立たなきゃいけないんだ、と気を引き締め直して、寺脇さんと役のことを話したりしながら、マイケルとして立てるように意識しながら撮りました。
ーー本読みで寺脇さんとセリフのやり取りをしてみた感想はいかがでしたか。
寺脇さんは本当に丁寧に僕の芝居を受けてくださるので、僕がちょっと変わると寺脇さんも変わって、そうすると僕もまた変わって、というふうに、読むたびに少し違う方向に行ったりするような変化を、ほりさんも含めて3人で一緒に共有して楽しめてるので、ここからさらに宮田さんが方向性を定めていく中で、どんどん面白いことになるんじゃないかなと思います。
井之脇海
常に新鮮な気持ちでマイケルとしてその場に立つことが目標
ーー井之脇さんは大学の映画学科をご卒業されていたり、映像作品もたくさんご出演されている上にご自身で脚本監督もされるなど、映画や映像に関しては熟知されていらっしゃるのかなと思います。舞台についてはまだ未知な部分が大きいという感じでしょうか。
そうですね、映像の現場のときも大抵の場合が初めて向き合う役ですし、現場も初めての場合がほとんどなので、どの仕事に対しても毎回ノウハウが通用しないところはありますが、その中でもやはり「舞台」という二文字は僕の中で大きな壁として立ちはだかっています。3年ぶりに、しかも主演という形で舞台に立つということは、やはり今まで通りのことでは通用しないだろうと重々承知してるので、本当に初心者といいますか、がむしゃらにやるしかないという心境です。
ーー舞台にまた立ちたいという思いは、今作のお話が来る前から持っていらしたのでしょうか。
元々僕は映像が好きでお芝居をやっていたところがあったのですが、最近はお芝居そのものがとても好きになってきて、やはり舞台はお芝居の根本というか、映画よりも前から存在しているコンテンツでもあるので、舞台でお芝居をしてみたいという欲求はどこかでずっと持ってました。まさか主演でやれるとは思っていませんでしたが、今回こうして3人の会話劇で濃密な芝居を作り上げられることになって、本当に最高の戯曲をプレゼントしていただいたような気持ちです。
ーー舞台の場合は稽古を積み重ねてから本番に臨むということで、映像とは作り方が全然違うと思いますが、そのあたりどのようにとらえていらっしゃいますか。
3年前に舞台をやったときにも感じたことなのですが、舞台は生ものだという印象を強く持っていましたが実は逆で、もちろん本番の舞台は生なんですけど、稽古をやって積み上げていくから、しっかり作り上げた作品を提示することができるなと思います。映像の現場だと、顔合わせして本読みをしたら次はもうカメラの前でお芝居をする、という感じなので本当に作り方が違います。舞台は1ヶ月とか稽古をして丁寧に作ることができるのでそこは楽しみですし、その日々の小さな変化みたいなものを反映していくことができるので、濃いものを作れるんじゃないかなと思っています。
ーー映像の場合はOKテイクが撮れれば終了となりますが、舞台の場合は稽古で作り上げたものを何ステージもやるというところも違いますよね。
そうですね、同じ作品でも公演期間中に日々微調整があったり、その日の天気が雨なのか晴れなのかでも変わってくるんじゃないかと思うので、そういったところは楽しめたらいいですね。ただ、稽古のときもそうなんですけど、同じことを繰り返してやっているという感覚が僕にはあまりなくて、今作でも常に新鮮な気持ちでマイケルとしてその場に立つことが目標です。繰り返すというよりも、その瞬間瞬間を大切にしていきたい、1公演1公演を大切にしていきたいなと思います。
井之脇海
どうやってもっと深いところでマイケルをつかめるかを考える日々
ーー本作の映画版をご覧になったとき、この作品の魅力はどこにあると思いましたか。
この作品の魅力はやはり、人から愛されたいという根本的欲求すら満たされなかったマイケルの悲しみみたいものを訴えかけるところだと思っています。映画の方は、例えばグリーンバーグの人物像とか、グリーンバーグとミス・ピータソンとの関係性とか、戯曲から改編されているところがあって、わかりやすくなっていると感じました。戯曲の方はよりサスペンス感が強いといいますか、会話劇の中にヒリヒリした緊張感というものが常にあるので、舞台版ではそういったところをより楽しんでもらえるんじゃないかなと思います。
ーー実際に本読み稽古に入られて、そのあたりの魅力をどのように実感されていますか。
本当に台本がよくできていて、台本の通りに喋るだけで、緊張感がひしひしと伝わってくるなと思いました。最初の本読みでセリフを声に出して音で聞いたときに、「緊張感を届けよう」とかそういったことは考えなくていいなと思ったんです。この台本通りにやればそこはちゃんと伝わるというか。ただその代わり、それぞれの役者が自分の役の、人間としての思考であったり感情であったりというものをしっかりリンクさせて言葉を発することが大切だなと思いました。「どう見えるか」というよりは、本当にマイケルという人間を突き詰めていくことが大切だな、と本読みをして改めて実感しました。
ーーほぼ出ずっぱりで、膨大なセリフ量で覚えるのも大変なのではないかと思いますが、そのあたりはいかがでしょう。
台本は、最初見てまず閉じましたね(笑)。わかっていたことではありますが、改めてマイケルのセリフばかりだなと驚きましたし、自分がその膨大なセリフを喋れるのかという不安も最初はありました。不安だったからこそ、本読みをするまでは、覚えよう覚えようとしてたんですが、どうにもセリフが入ってこなくて。これまで僕は、映像の現場でセリフを覚えることに苦労したことがあまりなくて、というのも、映像のときはあまり覚えようとしていなくて、台本が好きで何回も読んだり、役のことを考える時間がめちゃめちゃ長いのでその中で自然と覚えることが多いんです。これはいろんな人と話をした上での結論なんですけど、今回もあまり覚えようとするのではなくて、マイケルというものを深いところでつかんで何回も本読みをしたり稽古していく中で、しみこむようにいつの間にか覚えちゃった、っていうのが大切なのかなと思っています。それぐらい繰り返し練習をしなきゃいけない、考えなきゃいけないと思うので、今は覚えるプレッシャーよりも、どうやってもっと深いところでマイケルをつかめるかな、ということを考える日々です。
ーー最後に公演への意気込みをお願いします。
一瞬たりとも目が離せない、一言たりとも聞き逃がせないぐらい、一挙手一投足に意味があったり、展開としても「どうなるんだろう、これ」とドキドキ、ヒリヒリするような舞台になると思うので、ぜひその濃密な時間を体験しに来て欲しいです。上演時間以上の濃い時間が流れていると思うので、楽しみにしていただけたらと思います。
井之脇海
取材・文=久田絢子 撮影=池上夢貢
公演情報
作:ニコラス・ビヨン
翻訳:吉原豊司
演出:宮田慶子
出演:井之脇海 寺脇康文 ほりすみこ
企画・製作:株式会社パルコ
公式HP:https://stage.parco.jp/program/elephant
<東京公演>
日程:2022年5月4日(水・祝)〜5月22日(日)
会場:PARCO劇場
料金:9,000円(全席指定・税込)
発売日:2022年4月2日(土)
<愛知公演>
日程:2022年5月25日(水)
会場:刈谷市総合文化センター アイリス大ホール
料金:9,000円(全席指定・税込)
※未就学児の入場不可
発売日:2022年4月23日(土) 10:00
主催:キョードー東海
お問合せ:キョードー東海 052-972-7466(月~金 12:00~18:00 土 10:00~13:00 ※日曜・祝日は休業)
<大阪公演>
日程:2022年5月28日(土)
会場:COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
料金:9,500円(全席指定・税込)
※未就学児の入場不可 ※営利目的の転売禁止
発売日:2022年4月29日(金・祝) 10:00
主催:関西テレビ放送/サンライズプロモーション大阪
お問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(11:00~16:00※日祝休業)