奈緒インタビュー「この作品の中でリズィーとして生きてみたい」~舞台『恭しき娼婦』で娼婦役に挑戦

インタビュー
舞台
2022.4.22
奈緒

奈緒

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ジャン=ポール・サルトルの『恭しき娼婦』が、2022年6月4日(土)から19日(日)まで紀伊國屋ホールで上演される(その後、兵庫・愛知を巡演)。

本作はサルトルが1946年に発表した戯曲で、アメリカの南部を舞台に人種差別による冤罪を描きながら、人間の権利、尊厳、自由といった問題に正面から取り組んだ作品である。本作の上演をかねてから熱望していたという栗山民也が演出、冤罪を被せられた黒人青年をかくまう娼婦・リズィーを奈緒、街の権力者の息子でリズィーに虚偽の証言を迫る白人のフレッドを風間俊介が演じる。

ドラマ・映画・CM等に多数出演する一方、2019年に初舞台を踏んで以降ほぼ年1回のペースで舞台への出演を重ね、若手実力派として活躍の場を広げている奈緒に、本作への思いを聞いた。

栗山民也の演出舞台を見て「いつか出ることができたら」と憧れていた

――まず、この作品のお話しを最初に聞いたときのお気持ちを教えてください。

お話しをいただいて初めてこの戯曲を知ったのですが、娼婦の役というのも初めてですし、タイトルからしてきっとものすごい挑戦になるんだろうな、というのは本を開く前から感じていました。演出の栗山さんも、舞台を重ねていく中でいつかご一緒したい、と思っていた方だったので、こんなに早くご一緒できるなんてとても光栄ですし、飛び込んで挑戦したいと思いました。

――いつか栗山さん演出の舞台に立ちたいと思われたきっかけがあれば教えてください。

私が栗山さんの舞台を最初に観たのは2018年の『アンチゴーヌ』でした。シンプルで洗練された十字の形の舞台上で人の感情がぶつかり合って動いていく様を五感で感じられるような作品で、舞台ってすごいな、なんて美しいんだろう、と感銘を受け、観終えた後に声も出ないくらい衝撃的な観劇体験でした。そのとき私はまだ初舞台も経験していなかったのですが、自分の中で「いつかこんな舞台に出ることができたら」という気持ちが芽生え、ひそかに憧れを抱いていました。

――栗山さんとはもうお会いになられたのでしょうか。

まだお会いしていないんです。実は、このお話しをいただいたとき、驚きすぎて思わずマネージャーさんに「栗山さんが私のことご存じなの!?」と聞いてしまいました(笑)。まだ栗山さんとご一緒するという現実味が自分の中にはっきりとはないので、お会いするのが楽しみです。

「不安を理由にしてこの役を手放してはいけない」と思えたリズィー役

――本作に寄せて「自分にはまだ早いのではないか」といったコメントをされていましたが、そう思ったにもかかわらず挑戦されるのには、何か背中を押すものがあったのでしょうか。

私自身、ずっと自分の未熟さと対面しながらお仕事を続けている中で、舞台は4回目と経験も浅いですし、果たしてこの物語の中でちゃんと生きることができるだろうか、栗山さんの演出をちゃんと自分が汲み取れるだろうか、などいろいろな不安はありました。でも実際に本を読んでみたら、そんな不安を理由にしてこの役を手放してしまうのは、なんだかすごくやってはいけないことだと感じましたし、リズィーという役をやれるチャンスをせっかくいただいているのだからそれをつかみたい、と強く思いました。あとはこの作品の中には、自分も人間として生まれたからには向き合い続けなければならないことが描かれていると感じたので、もちろん役者としてもですが、1人の人間として「この作品の中でリズィーとして生きてみたい」という気持ちが生まれました。

――2019年に『終わりのない』で初舞台を踏み、それから年1回のペースでコンスタントに舞台に出ていらっしゃいますが、やはりこれからもこのペースで舞台に出演していきたいと思っていらっしゃるのでしょうか。

はい、年に1回は必ず舞台に立ちたいと強く思っています。映画やドラマなど、いろいろな場所でお芝居をさせていただいている中で、それぞれに求められることが違う部分もありますが、共通しているのは「役としてそこに存在する」ということです。それはどの場所でお芝居をするにしても変わらない大切なことなんじゃないかと思っていて、舞台に立つたびにその思いを再認識することができるんです。舞台の現場では上演中カットが割られることもなく、ずっとその役として舞台上で生き続けるという、役者としての集中力の筋肉みたいなものを鍛えることのできる場だなと感じています。せっかく舞台の世界に足を踏み入れたからには、その筋肉が落ちないようにコンスタントに緊張感のある舞台上を経験したいと思っています。

風間俊介は「瞬時にその場の空気を変える、役者として尊敬する先輩」

――フレッド役の風間さんとは、2018年にドラマ「サバイバルウェディング」で共演されたそうですが、そのときの印象など教えてください。

あのときは風間さんとは同じシーンでお芝居をご一緒するということがなかったんです。でも、ドラマを観ながらすごく風間さんのお芝居って素敵だなと思っていました。優しい笑顔でも冷たい表情でも、風間さんは瞬時にその場の空気を変える方で、役者としてすごく尊敬する先輩です。打ち上げのときにお会いしたら、風間さんも「奈緒ちゃんのシーン面白かったよ」と言ってくださって、いつか同じシーンで一緒にお芝居できたら嬉しいですね、とお話ししていたので、こうして今回舞台で長い時間をかけて一緒にお芝居をできることはすごく幸せだなと思います。

――この作品に挑むにあたり、特に楽しみになさっていることはありますか。

もう何よりもお稽古の時間ですね。もちろん本番も楽しみなのですが、稽古という時間が舞台をやる上でのすごく幸せな時間だと思っているので、稽古でどんなものに出会えるんだろうという期待とともに、栗山さんの演出を受けて共演者の皆さんと一緒にこの作品を作っていける時間を何よりも楽しみにしています。

――舞台は稽古期間から数えると、大体2~3か月とそれなりに長丁場の現場となります。体力面や健康面で気を遣われていることはありますか。

呼吸は舞台をやる上でとても大事で、呼吸を間違えてしまうと身体を壊してしまう原因になりかねない、と感じています。初舞台のとき、私の最初の壁が「三階席に声が届かない」ということだったんです。映像とは声の出し方が全然違って、でもセリフも物語もちゃんと皆さんに届けるために、呼吸を含め身体を整えることは声の出し方にもつながるので、舞台に立つ上で大事にしていることの一つです。

選択や決断をするとき、絶対に人のせいにしない

――決断を迫られるリズィーという役と向き合うということは、奈緒さん自身にとってとてもハードなことではないでしょうか。

このお仕事をしていて、役と向き合う中でどうしてこんな苦しい毎日を過ごさないといけないんだろうと思ってしまうこともあります。でも私は、映画や舞台の作品の中で生きている人、苦しんでいる人を見て助けられた経験があって、だから演じることで何か返せたらという思いも今の自分を突き動かしています。たとえ一人でも「救われた」「心が動いた」と言ってくださる方がいて、その人の心が動く瞬間に立ち会えたのであれば、ものすごい喜びになって返ってくるんです。私もそうですが、人間って、苦しいことは避けたいと思ってしまいますよね。でも実はその苦しいと思うことを超えたときに、自分がまだ知らなかった幸せと出会えるんじゃないかという希望も常に持ってる。だから私は、毎回そのかすかな希望にかけたいと思いながら、苦しいことは体力があるうちに積極的に挑戦していきたいと思っています。

――奈緒さんご自身が大きな選択や決断をするときに大事にしていることはありますか。

絶対に人のせいにしないということです。誰しも人生において、例えば進路や仕事を選ぶことだったり、家族を作ることだったり、何度か大きな決断をするときがあると思いますが、そのときに「その後の自分もちゃんと生きていられるか」ということは考えるようにしています。そのときにした決断で後々の自分がすごく苦しい思いをしないか。例えば私はこの仕事を選ぶときに母から反対されましたが、母が反対しているからという理由で、本当にやりたいと思っていることをやめる決断をすることは、後々にその決断を母のせいにしてしまうかもしれない。母が言う道を選んで歩くことは本当に自分が生きていると言えるのか、ということはすごく考えました。物理的な死とは別に、人は精神的に自分を押し殺してしまうことがあると思うので、決断の中でなるべく自分で自分を殺めてしまわないように、ということは考えるようにしています。

――本作がどのようなことを観客に問いかけてくるのか、楽しみにしています。

まずは自由に難しく考えず観ていただきたいです。人と人との争いが起きてしまっている時代の中で、自分の本質とは何なのか、自分はどうやってここにいたらいいんだろうということがわからなくなってしまっている人もたくさんいらっしゃると思います。それは私自身、この舞台をやっていく中で向き合っていきたいですし、上演中、お客さんは実際に声を出すことはできませんが、この『恭しき娼婦』という作品と皆さんとで対話ができたらいいなと感じています。私にとって、観客の皆さんからも学ばせていただくことがあると思うので、ぜひいろんなことを感じとっていただければと思います。

ヘアメイク=竹下あゆみ
スタイリスト=岡本純子(Afelia)

取材・文=久田絢子 撮影=武田敏将

公演情報

『恭しき娼婦』 
 
■作:ジャン=ポール・サルトル
■翻訳:岩切正一郎
■演出:栗山民也
 
■出演:
奈緒 風間俊介
野坂弘 椎名一浩 小谷俊輔 金子由之
 
■企画・制作:TBS/サンライズプロモーション東京
■発売日:2022年4月23日(土)AM10:00
■公式HP:https://www.tbs.co.jp/uyauyashiki_shofu/
■公式Twitter: @uyauyashiki
 
【東京公演】
■日程:2022年6月4日(土)~6月19日(日) (全20公演)
■会場:紀伊國屋ホール
■料金:全席指定9,500円(税込)※未就学児入場不可
■問合せ:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(平日12:00~15:00)
■主催:TBS/サンライズプロモーション東京
 
【兵庫公演】
■日時:2022年6月25日(土)12:00/17:00、26日(日)13:00 (全3公演)
■会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
■料金:A席8,500円 B席5,500円(全席指定・税込)※未就学児入場不可
■問合せ:芸術文化センターオフィス 0798-68-0255(10:00~17:00 月曜休/祝日の場合翌日)
■主催:兵庫県/兵庫県立芸術文化センター
 
【愛知公演】
■日時:2022年6月30日(水)13:00/18:00 (全2公演)
■会場:日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
■料金:全席指定9,500円 車いす席9,500円(税込)※未就学児入場不可
※車いす席はメ~チケ(電話のみ)にて一般発売より取り扱い
■問合せ:メ~テレ事業 052-331-9966(祝日を除く月-金10:00~18:00)
■主催:メ~テレ/メ~テレ事業
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