福岡の人気劇団<万能グローブ ガラパゴスダイナモス>脚本・演出の川口大樹にインタビュー
万能グローブ ガラパゴスダイナモス 川口大樹
「万能グローブ ガラパゴスダイナモス」こと、略称「ガラパ」は、福岡生まれ福岡育ちのコメディ劇団である。2005年に旗揚げ、公演を重ねる毎に評判が広まり、いまや福岡演劇界を代表する劇団の一つと呼ばれるまでに成長した。その勢いはとどまることを知らず、県外での支持率も着実に上昇する中、先頃(12月13日)まで地元福岡で上演していた新作『西のメリーゴーランド』を引っ提げ、大阪(12月25日~27日)そして東京(2016年1月6日~10日)をツアー巡業する。劇団で脚本・演出を担当する川口大樹に話を聞いた。
――川口さんは脚本・演出を務めていらっしゃいますが、劇団の代表ではないのですか?
川口: 代表は別にいて、椎木樹人(しいきみきひと)という者がやっています。ぼくが代表だとよく間違えられるんですけどね。しかも椎木は高校の後輩なので、余計に誤解されやすい(笑)。でも、分業してるほうが、何かとやりやすいんですよ。
――「ガラパ」ってどんな劇団ですか? 知らない人に向けて紹介していただけますか。
川口: 「ガラパ」は、10年間に渡って、ずっとワンシチュエーションのコメディをやってます。元々、福岡大学附属大濠高校の演劇部員だった有志が集まって高校卒業後の2004年に結成しました。かつて大濠高校は男子校で、その演劇部には、劇団☆新感線のいのうえひでのりさんや、「かぶりもの」で有名なギンギラ太陽's の大塚ムネトさんらが在籍していました。だから、「芝居はお客さんを徹底的に楽しませるもの」というエンタテインメントの血が伝統的に脈々と受け継がれて来ました。当然ぼくらもそういうスピリットで芝居を作っています。演劇を見たことがない人や興味のない人にも、どれだけ楽しんでもらえるかということが何よりも大事だと考えている。
ぼく自身、高校の演劇部に入るまで、演劇を見たことがありませんでした。そこで初めて劇団☆新感線などを見せられて、大変な衝撃を受けました。そうした体験を多くの人に味わって欲しいんです。「なんだ、演劇っておもしろいじゃないか」と感じてもらえる、その「最初の一歩」にぼくらがなれたらいいな、と思ってます。
――「万能グローブ ガラパゴスダイナモス」という、長ったらしい劇団名の由来は?
川口: 男子校出身だから馬鹿なんですよ(笑)。どうしたら目立てるかというところから入るんです。浅はかですから、長い劇団名なら目立つだろうと(笑)。いろいろ考えるうちに、まずガラパゴスという単語が出てきました。当時ガラパゴス携帯なんていう言葉もまだ無くて、語感がいいと。でも、それだけだと短いから何か付け足そうと、色々試すうち、ダイナモスというのがリズムに乗せやすくていいんじゃないかとなりました。
さらに「劇団ナントカ」…みたいな感じにはしたくなかったので、それに代わる言葉を探そう、と。「ぼくらは演劇だけではなく、色々なことを出来る集団になりたいね」ということで「万能」と言う語が浮んできた。それをさらにネットで検索したところ、「万能グローブ」という(ペット飼育用品の)名称が出てきたんです。その語からは、間口を広くもって、色々なものをキャッチできる、というイメージが重なったので、それをさっそく団体名の冒頭にくっ付けました。演劇、とくに福岡の演劇シーンについては、身内で成り立っているというか、内向きに閉じてゆく印象がかねてから強かったので、「自分たちはもっと外側に開かれてゆくんだ」という決意を託した命名なんです。
万能グローブ ガラパゴスダイナモス 川口大樹
――シチュエーション・コメディをやっているとのことですが、そのスタイルに落ち着くまでに、影響を受けた人や作品は何かありましたか。
川口: そうですね、大きく4つあります。
最初は高校の演劇部に入って、劇団☆新感線の洗礼を受けたことですね。先ほど述べたようにエンタテインメント精神を徹底的に叩き込まれました。
2つめは、劇団そとばこまちの『マンガの夜』(原案・構成:高橋ヒデオ 脚本・演出:生瀬勝久)の舞台中継を、NHK-BSで見たことです。生瀬勝久さんと渡辺いっけいさんが主演していたコメディだったのですが、「これはヘタなお笑いなんかよりもよっぽどおもしろいぞ」と大変な衝撃を受けました。演劇の力を改めて思い知りました。
3つめが、ヨーロッパ企画ですね。ぼくらが劇団を旗揚げした2005年に、映画化された『サマータイムマシン・ブルース』を持って初めて福岡にやって来たんです。その時、彼らが福岡の演劇人と呑みたがっているとの情報を得たので参加し、以来仲良くなりました。それまで役者しかやって来なかったぼくが、自分たちのシチュエーション・コメディを作ろうと思い立ったのは、彼らの芝居を見たことがきっかけでした。
そして4つめは、2009年にMONOの土田英生さんがワークショップを指導しに福岡に来てくれたこと。演出とはどうあるべきかとか、戯曲の書き方など基礎的なことをみっちり学ぶことができました。土田さんのことは、ぼくの師匠だと思っています。
――今回の『西のメリーゴーランド』とは、どのような作品ですか?
川口: ひとことでいえば、SFシチュエーション・コメディです。「西」は極楽のある西方浄土を意味し、「メリーゴーランド」は、輪廻転生とか生まれ変わりの比喩。あまり仲の良くない母親と娘の関係性を軸とするホームドラマの体裁をとりながら、そこにSF的、もしくは「死後の世界」といった、スピリチュアルとも言える設定が絡んできます。シリアスなドラマになりそうだけど、SFが邪魔をして、ナンセンスな笑いが起こったり、それでいてベタな人情喜劇の風味も醸し出されて、結果的にウエルメイドな仕上がりになっている(笑)。
万能グローブ ガラパゴスダイナモス 川口大樹
――「ガラパ」さんの芝居の温度は、少し高めと思っていてよいですか?
川口: はい。かなり熱めです(笑)。子供の頃、ぼくはドリフターズが大好きだったんですよ。そのうえ男子校出身ということもあって、非常に運動量の多い芝居を作ります。一つのリビングの中を矢鱈と走り回るとか。そういうのって、小さなお子様が凄く喜んでくれるんですよ。ストーリーとか理屈以前に、見た目の単純なおもしろさが、人間の根っこに訴えかけてくるのではないかと思います。
――役者さんの演技にも期待できそうですね。
川口: 先ほどから男子校出身の劇団と言いながら、実は最近、女子のメンバーが増えて来てます。それでも、エンタテインメントの血脈はもれなく受け継がれていますから、女子と言えども、パワフルな演技をしっかりと見せてくれます。そんなコメディエンヌたちの勢揃いするところをぜひ注目していただきたいですね。
また、今回は杉山英美さんという、かつてギンギラ太陽'sで活躍されていた女優さんを客演にお招きしてます。いつもは割と同世代の役者だけでやることの多かった「ガラパ」が、杉山さんという少し上の世代の方と一緒に舞台に立ち、一緒にドタバタしていただくということで、客席からは、なかなか新鮮に映るのではないかと思っています。
――将来、どのような劇団になってゆこうと考えていますか?
川口: 今後どんなことになっても、ずっと福岡を拠点に活動し続けてゆきたいと思っています。「ガラパ」は別に方言を使うわけでもないし、とりたてて福岡らしさ・博多らしさがあるというわけではありません。けれども、ぼくらの作品は「福岡だからこそ作れている」と思っています。これからも「福岡の街の中に生きている」という感覚は大事にしてゆきたいですね。
ぼくらには常に「福岡で演劇をやってる」というプライドがあります。「おもしろいものは東京にしかない」なんて決して思うなよ、と敢えて言いたい(笑)。だから、ゆくゆくは、全国からぼくらを見に、沢山のお客様が福岡に来ていただけるようになることが夢ですね。ぼくらの芝居を見ることをきっかけにして、併せて福岡の街も楽しんでいただければ、と思います。美味しいものも沢山ありますしね(笑)
万能グローブ ガラパゴスダイナモス 川口大樹
■会場:in→dependent theatre 2nd (大阪府)
■日程:2015/12/25(金)~2015/12/27(日)
■会場:下北沢駅前劇場 (東京都)
■日程:2016/1/6(水)~2016/1/10(日)
■作・演出:川口大樹
■出演:阿部周平 椎木樹人 横山祐香里 田崎小春 早樋寛貴 山崎瑞穂 柴田伊吹 針長亜沙美/杉山英美
■公式サイト:http://www.galapagos-dynamos.com