高橋一生「もしかしたら“高橋一生”そのままかもしれない」~パルコ・プロデュース2022『2020』インタビュー
-
ポスト -
シェア - 送る
高橋一生
2021年の主演作、NODA・MAP『フェイクスピア』の演技によって読売演劇大賞最優秀男優賞を受賞した高橋一生が、今年また新たな舞台に立つ。芥川賞受賞作家・上田岳弘の描き下ろし戯曲『2020(ニーゼロニーゼロ)』で高橋は“クロマニヨン人”“赤ちゃん工場の工場主”“最高製品を売る男”そして“最後の人間”と時空を超えて様々な人物をひとりで演じる。構成、演出は過去3作、高橋を演出している白井晃。ダンサーとして橋本ロマンスが加わり、人類の過去、現在、未来を照射する。2020年は人類にとって分岐点だったのか。高橋一生のまなざしは我々に何を示してくれるのだろうか。
ーー上田岳弘さんの描き下ろしによるひとり芝居を上演することになったきっかけを教えてください。
上田さんと白井晃さんが組んだらおもしろいものができる気がして、おふたりをお引き合わせたことがありまして。そのときは企画が実際に立ち上がるかはわかりませんでしたけれど、自宅にふたりをお招きして、僕がごはんを作って、キッチンからふたりが話している姿を眺めることに喜びを感じていました。ここから何かおもしろいことがはじまったらいいなと思いながら。その後、話は進み、あれよあれよといまに至った次第です。
高橋一生
ーー小説の帯文も書いている高橋さん。上田さんと知り合ったきっかけは?
僕が出演した白井さんの舞台を、上田さんが観に来てくださって、共通の知り合いであるスタッフの方に紹介していただきました。はじめて上田さんと話してみたら、白井さんと話が合うのではないかと思ったんです。
ーー高橋さんの考える上田さんの小説の魅力は?
僕が好きな作家さんは、同じテーマをずっと突き詰めている方なんです。たとえば村上春樹さんも同じテーマを別の角度から見て書き続けていて、その行為はあたかも水滴をたらして石を穿つようなことと感じます。上田さんもそういう作家のひとりで、しかもテーマが僕好みなんです。人間はどこから来てどこに行くのか。いつか行き止まるとしたらどういう状況なのかということを書き続けています。書いたときは人間の行く末を警鐘するつもりはなかったかもしれませんが、それがまさにいまを予言しているようだと、デビュー作の「太陽・惑星」の頃から感じていました。ジャンル的にはSFにカテゴライズされているのかもしれませんが、いまはすでにSFの時代と言いますか、かつてSFが書いてきた時代に突入しているように感じます。この機会に上田さんのすごさを、演劇をご覧になる方にも知ってほしいという思いもありました。もちろんすでにご存知の方もいるでしょうけれど、上田さんと白井さんが組み合わさることで、演劇好きの方と小説好きの方の出会いが生まれるといいなと思っています。
ーー『2020』というタイトルに込めたものをどう感じますか。
僕は“以前以後”とも呼んでいます。2020年以降は2020年以前の世界の残響でできているのではないかと思っているんです。
ーーというのは?
19年までは何もかもがベールに包まれていた時代とすれば、20年は人々がベールに隠されたものに気づき始めた。ところがいまはまた新たなベールで覆い隠そうとしているような状況ではないかと感じています。
高橋一生
ーー『2020』でどういう役を演じますか。
ひとり芝居で、役としては劇場にいるお客さんの過去と未来をつなぐようなキャラクターで、もしかしたら“高橋一生”そのままかもしれないです。僕が上田さんに話したことが脚本に反映されているので、僕なのか何なのかいろいろな要素が混ざっているように感じます。ただ、自分と役の境がわからなくなることはいまにはじまったことではなく、これまでも役を演じているのか自分なのかわからなくなってしまうことがありました。今回はそういう状態をあえて皆さんの前でお見せすることになるかもしれません。
ーー役を演じているのか自分なのかわからなくなってしまうものなのですね。
まったく違う誰かになることを僕ははなから諦めています。時々、“役作り”はどうやってしますか? という質問を受けますが、そういう意味では“役作り”とはどういうことか正確にはわかっていないんです。体型を変えたり、関連する文献を調べたり、役作りという意味合いは人によってじつに多岐にわたっているので、僕はあまりとらわれないようにしています。俳優を仮に手品師とすると、手品の種あかしをするようなものなので。
ーー白井さんの作品にこれまで3作出演しています。その体験で印象的だったことと、今回、期待していることを教えてください。
どの舞台も、いままでにない体験をしました。『4 four』(12年)は出演者が複数いましたが、ひとり芝居の連続のような構造で、基本的に演出家とそのパートの俳優が一対一で稽古をして、それぞれがひとり芝居のバトンを渡していくようなことがはじめてで刺激的でした。『マーキュリー・ファー』(15年)は劇場を全部、劇中の部屋のようにして、そこでリアルタイムに起こる話でした。あれだけのリアルな時間を舞台で体験することもはじめてでした。『レディエント・バーミン』(16年)は瞬間的にではありますが、ひとりで10役ほどを演じるという経験をしました。そのときは頭がパンクして、それでもやろうよと粘る白井さんの姿が記憶に焼き付いています。どの作品も関わった者全員が悩みながら取り組んだ作品は、やるほうにも観るほうにも脳を強烈に刺激するものでした。とりわけ『マーキュリー・ファー』は非常に予言めいたタイミングだった感覚があります。今回の『2020』も現実から数歩先行くようなことがまた起きてしまうのではないだろうかと僕は思っています。
高橋一生
ーーその体験を経て、今回、ひとり芝居をやることをどう感じていますか。
これまでの白井さんとやった舞台経験によって、どんな状況があったとしても驚かない度胸はついた気がします。それに、いずれひとり芝居をやるんだろうなと脳内で妄想していたんです。ただ、ひとり芝居といっても、今回は芝居とコンテンポラリーダンスの融合で、そういう企画ははじめてです。橋本ロマンスさんのダンスは白井さんの舞台に不可欠な要素のひとつとなると思うんです。白井さんの演劇世界は、言葉だけでもなく、肉体だけでもなくて、人間が全精力を使って舞台上で表現するものと思っていて。その白井さんの世界に橋本さんのダンスと上田さんの言葉と僕が混ざることが楽しみです。
ーー2020年以降の演劇状況をどう思いますか。
作り手が、自分たちの面白いと思えるものを作っていくしかないと思っています。それがお客様に刺激を与えることができたらいいなと。『2020』が、見てくださった方の局所的な体験としてでも残ってくれたら嬉しいです。アトラクションを楽しむような気持ちで、劇場に足を運んでください。客席にお客さんが存在することが僕の励みになります。
高橋一生
ヘアメイク:田中真維(マービィ)
スタイリスト:髙木阿友子
取材・文=木俣 冬 撮影=中田智章
公演情報
作:上田岳弘
出演:高橋一生
公式サイト:https://stage.parco.jp/program/nizeronizero
ハッシュタグ:#舞台ニーゼロニーゼロ
日程:2022年7月7日(木)~7月31日(日)
会場:PARCO劇場
入場料金(全席指定・税込):¥11,000 全席指定グッドプライス¥10,000 ※未就学児入場不可
U-25
一般発売日:2022年5月14日(土)
お問合せ:パルコステージ 03-3477-5858(時間短縮営業中) https://stage.parco.jp
日程:2022年8月6日(土)~8月7日(日)
会場:キャナルシティ劇場
入場料金(全席指定・税込):¥10,000 U-25
お問合せ:ピクニック
日程:2022年8月11日(木・祝)
会場:京都劇場
入場料金(全席指定・税込):S席¥11,500 A席¥10,500 ※未就学児入場不可
お問合せ:キョードーインフォメーション0570-200-888[11:00~16:00/日祝休業]
日程:2022年8月18日(木)~8月21日(日)
会場:森ノ宮ピロティホール
入場料金(全席指定・税込):S席¥11,500 A席¥10,500 ※未就学児入場不可
お問合せ:キョードーインフォメーション0570-200-888[11:00~16:00/日祝休業]