高橋惠子×瀬奈じゅん×松村雄基インタビュー~老いと家族の絆を描いた舞台『黄昏』で2年ぶりに再会
松村雄基、高橋惠子、瀬奈じゅん
2022年6月~7月に、東京・紀伊國屋ホールほか全国にて舞台『黄昏』が上演される。
本作はアーネスト・トンプソンによる戯曲で、1978年にニューヨーク・ハドソンギルドシアターで初演、1981年にはヘンリー・フォンダ、ジェーン・フォンダ、キャサリン・ヘップバーンの共演で映画化され、アカデミー賞主演男優賞、主演女優賞、脚色賞を受賞、またゴールデングローブ脚本賞も受賞するなど高い評価を得ている不朽の名作だ。
2003年と2006年に八千草薫主演、高瀬久男演出で上演され、2018年から鵜山仁による新演出となり、そして2020年は高橋惠子を主演に迎え、上演を重ねてきた。2022年も高橋が主演し、鵜山の演出で上演される。
夫を温かく支える優しき妻・エセルを高橋、老いを感じながらも愛する妻と共に人生を楽しもうとするノーマンを石田圭祐、2人の娘で父との確執を抱えるチェルシーを瀬奈じゅん、チェルシーのパートナー・ビルを松村雄基、郵便配達員のチャーリーを石橋徹郎がそれぞれ2020年に引き続き務め、ビルの息子・ビリー役は林蓮音(Jr.SP/ジャニーズJr.)が初めて務める。
今回の上演にかける思いを、高橋、瀬奈、松村に聞いた。
「自分にとってこの公演はご褒美のような時間」(松村)
松村雄基
――まずは、今回の上演が決まったときのお気持ちをお聞かせください。
高橋:またこのメンバーと一緒に仕事ができる、というのがすごく嬉しかったです。前回の上演のとき、本当に楽しかったよね。
松村:出演者が6人だけで、ずっと一緒にいて“密”でしたしね。
高橋:6人で食事にも行けてたね、あの頃は。
――前回の公演はちょうど新型コロナの感染が拡大する直前でしたね。
瀬奈:感染が徐々に拡大の兆しを見せ始めていて、千秋楽ができるかできないか、という状況でした。
高橋:だから、今回またこうして集まれたことは感慨深いです。元気だった?
瀬奈:元気だった!
松村:なんとか生き延びてました(笑)。
高橋:こうやって再会できて、その間にどんなことがあったのかとか、いろいろじっくり聞きたいです。
瀬奈:私も惠子さんと一緒で、今回の公演が決まったときにまず思ったのは「また皆さんに会える!」ということが嬉しかったのと、子役の方は成長されるので仕方がないことですが、それ以外のキャストは同じメンバーで再演できるというのはそうそうないので、そのありがたみと、お声がけいただいたことに感謝の気持ちでいっぱいです。
松村:僕は2018年、2020年に引き続き3回目の出演になるのですが、40年以上役者をやらせてもらっている中で、同じ作品に出演するのが3回目という経験は2作品しかないんです。そういうことも含めてとても思い入れのある作品ですし、前回みんなで一緒にいて本当に楽しかったので、またあの時間に戻れると思うと、今こういう時期だからこそ余計に、自分にとってこの公演はご褒美のような時間だな、という感じです。
今作の魅力は「自然の中で穏やかに時が流れているところ」(瀬奈)
瀬奈じゅん
――前回公演の座組がとても良い雰囲気だったことが伝わってきます。良い座組になったのはキャスト、スタッフといった集まった人間に因るところが一番大きいとは思いますが、この作品の持つ温かく優しい雰囲気も後押ししたのではという気がします。改めて今作と向き合ってみて、どんなところに魅力を感じますか。
高橋:このお話の舞台がゴールデン・ポンドのある自然豊かな場所で、家族や、これから家族になる人、この土地に住んでいる人たちを描いているというのは一つ大きいと思います。これが例えばニューヨークの家にみんなが集まったということでは、この作品は成立しなかったんじゃないでしょうか。自然の中に抱かれて、家族のすれ違いや誤解、長年しこりになっていたものが、ゴールデン・ポンドという場所で、ビリーという男の子の存在の力も加わってほどけていくという感じがあると思います。
――ゴールデン・ポンドの別荘地でひと夏を過ごすエセルとノーマンのもとを、娘のチェルシーが8年ぶりに訪れることから物語は動いて行きます。
高橋:コロナ禍だったら、娘が両親のもとを訪れることすら難しいかもしれないですよね。やっぱり人と人のふれあいや直接会うことで感じ合える素晴らしさということも改めて考えさせられます。エセルにしたって、ビルやビリーともし会わなければ、娘の新しいパートナーがどんな人となりなのか、息子になる子はどんな子なのかわからないままになってしまう。やっぱり直接会うからこそ、いい人と家族になるのね、よかったね、と思えるんですよね。
高橋惠子
瀬奈:ひと夏という本当に短い間だけれども、その中で家族の成長であったりとか、子どもの成長であったりとか、親子関係の修復であったりとか、いろんなことがぎゅっと凝縮されていて、でもそれが激動ではなく、穏やかに緩やかに時が流れているところが最大の魅力なんじゃないかなと思います。なんてことない日常でも、惠子さんがおっしゃったとおり自然の中だからみんなの感性も穏やかに豊かになっていくところが、舞台上だけでなく客席にも伝わる感じがして、劇場全体がそういう空気に包まれるところがすごく魅力的な作品だなと思います。
松村:やっぱり出てくる人全員、それから動植物、自然までもがいとおしいんですよね。それぞれに問題を抱えていたりもするけれど、それすらもいとおしいと感じるんです。それは今お2人が言ったように、ゴールデン・ポンドという場所の、ゆったりとした自然の流れが人をそういう気持ちにさせるんだな、と思います。改めて僕らは自然に生かされているということや、生きることは素敵だということを感じさせてくれるのがこの作品の魅力だなと思いますね。
瀬奈:壊れた網戸とかクッション一つにしても、いとおしいですよね。
松村:出てくるものすべてですよね。それをまた、スタッフがこだわって作ってくれているんですよ。
高橋・瀬奈:(声をそろえて)そうなんですよ!
松村:そうしたスタッフの思いが僕らに優しい気持ちを起こさせてくれるところもありますね。お客様には絶対に見えないような場所でもこだわって作ってくれるので、すごく気持ちが入りやすいです。
高橋:スタッフの人たちの愛が感じられます。
「ひとりひとりをちゃんと見て感じて、元気づけたい」(高橋)
高橋惠子
――ご自分の演じられる役について教えてください。
高橋:前回は夫のノーマン役が急遽石田さんに変わられたということもあって、とにかくお互い頑張りましょうねという感じで、役作りとかそんな余裕があまりなかったような気がします。逆に大変な中で力を合わせて頑張ったことで絆のようなものが生まれたところはあるかもしれません。今回は2年という時間、それも今まで味わったことのないコロナ禍を経て、お互いの成長や変化を見るのもすごく楽しみで、私はみんなと接する役なので、ひとりひとりをちゃんと見て、感じて、受け入れていきたいし元気づけたいと思います。
――高橋さん演じるエセルは夫や娘に対してはもちろん、誰に対しても愛情の深い人であることが強く伝わってきました。それはやはり高橋さんご自身のお人柄も大きく反映されているのだと思います。
松村:ノーマン役の石田さんは前回代役として途中から参加されて、「惠子さんのおおらかですべてを受け入れてくださるところに救われた」とよくおっしゃっていました。
瀬奈:本当にそうなんです。大きく受け入れてくださるから、こちらも安心して自由に演じることができるんです。
瀬奈じゅん
――そんなエセルの大きな愛に包まれたチェルシーは、子持ちのビルとステップファミリーになろうとしているという役どころです。
瀬奈:チェルシーは自分が親になるにあたり、まずは自分が子どもでいることを卒業しなければいけないと思ったんじゃないでしょうか。だから、父親との確執を乗り越えたり、母親に今まで言えなかったこともすべてさらけ出したりして、そうして親になろうという覚悟を持っていたんじゃないか、というふうに思います。自分の話になってしまうのですが、ちょうど2年前の公演の頃に闘病していた父が、公演が終わって約半年後に他界したんです。『黄昏』でチェルシーを演じる経験をしていなかったら、私は父に対して素直になれなかったかもしれません。父が亡くなるまでの半年間、私は「父の娘」でいられたな、と感じていますし、父を亡くしたときに「私はもう子どもじゃないんだ、大人にならなきゃいけない」と思いました。そこからチェルシーという役のとらえ方も少し変わったので、今回は新しい作品に挑むくらいの気持ちで臨みたいなと思っています。
――そして松村さんはそんなチェルシーとこれから家族になろうとするビル役です。
松村:噂に聞いてた偏固な父親に「娘さんをください、しかも子連れです」と言いに行く、チャレンジャーの役だと思っています。ノーマンとのやり取りの中で、言っていることはお互い平行線だったり、ぶつかり合っていたりするのですが、自分の本当の姿に気づいたり、ノーマンの本当の姿が垣間見えたり、ビルは舞台上に登場する時間は短いですが、その間にいろんな成長をするんですね。それがすごく楽しいです。ビルに限らず、それぞれのキャラクターが普遍性を持っているので、誰もが思い当たるところがあるんじゃないかなと思います。演出家やスタッフたちが温かく見守ってくれる、チャレンジを許してくれる現場なので、この2年間であったいろんなことを持ち寄って台本に則った上で、何か素敵な化学反応が起きたらいいですね。
松村雄基
――最後に、公演を楽しみにしているお客様へのメッセージをお願いします。
高橋:舞台はお客様がいらっしゃらなかったら成り立たないということを、このコロナ禍を経験する中で改めて感じています。舞台は同じ作品、同じキャストであっても今この時に上演されるものは、本当に今しか見られないものになりますので、ぜひこの機会に足を運んでいただければ、きっと何かを感じていただけると思います。
瀬奈:コロナ禍になって、客席が半分になったり、無観客配信が行われたり、徐々に客席に人を入れるようになってきたけれども前2列は空席だったり、そういったことを経験して、どうしたってリスクがある中でそれでも楽しもうと足を運んでくださるお客様には本当に感謝していますし、そういう方々がいらっしゃらないと成り立たない仕事を私たちはしているわけなので、絶対にお客様の気持ちを裏切らないような舞台にできるようにみんなで楽しく稽古していきたいと思いますので、ぜひ見にいらしてください。
松村:皆様のほっこりタイムをお約束いたします。きっと来ていただいたら、日常の嫌なことを忘れたり、生きるってまんざら悪くないな、と思っていただけるんじゃないかなと思うので、ぜひ足をお運びいただいて、舞台上で生きる僕らを見てください。
松村雄基、高橋惠子、瀬奈じゅん
取材・文=久田絢子 撮影=池上夢貢