カーチュン・ウォンが日本フィルハーモニー交響楽団次期首席指揮者に 就任発表会見をレポート
指揮者個人のバックグラウンドを投影した意欲的なレパートリー
約1時間半にわたった会見は平井俊邦理事長の挨拶に始まった。
「2023年9月からの5年にわたる任期において、カーチュン・ウォン氏には演奏会のみならず、当交響楽団の特色でもある社会貢献、アウトリーチなどの教育活動や被災地における音楽普及活動などを含め、芸術性と社会性の両側面を兼ね備えたリーダーシップを期待したい」
続いて事務次長兼企画制作部部長の益滿行裕氏より、ウォン氏への期待と具体的なプロジェクトを俯瞰してのプレゼンテーションが行われた。
直近の22~23年シーズンにおいても、伊福部昭や芥川也寸志などの作品を取り上げ、広くアジア的な要素を包含するものやオスティナータを利かせた豪快な作風を特徴とする作品を紹介する予定だが、就任後もさらに東西を問わず民謡そして民族・民俗的な要素にルーツを見出した意欲的な作品に取り組んでいきたいと抱負を語った。以下に具体的な内容をご紹介する。
クルト・マズアの弟子の一人として古き良き東ドイツのクラシック音楽の伝統を継承するウォンが得意とするマーラーやベートーヴェン、ブラームスなどの作品にも力を入れてゆくことはもちろんのこと、並んで東アジア・東南アジアの文化的ルーツを持ち、作曲家でもある指揮者個人のアイデンティティと多様性を投影し、日本を含むアジア地域の作曲家たちの作品にも焦点を充て深く掘り下げていきたい。そして、バルトーク、ヤナーチェク、ミャスコフスキー、カリンニコフなどの知られざる作曲家を含むレパートリーにも意欲的に取り組んでいく旨が発表された。こうした「古き良き伝統と現代的な感覚を兼ね備えた」ウォンの姿が楽団にとっては何よりも魅力的であると、益滿氏が力強く語っていたのが印象的だった。
特にグスタフ・マーラー国際指揮者コンクールで優勝し、ウォン自らも造詣の深いマーラー作品の演奏については、「ウォン独自の徹底した作曲家としてのアナリーゼ(楽曲分析)から導き出される、内声に描き出されたディテールや歌、そして、独自のテンポ設定から生まれ出る深みのある表情などに期待して欲しい」と、楽団側としても意欲を燃やしていた。7月20日リリース予定のウォン&日本フィル待望の初CDもマーラーの「交響曲第5番」ということだが、「スコアを手に取って聴く楽しみを提案したい」と日本に数多く存在するマーラー・ファンの心を掻き立てるような発言が興味深かった。
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