海路×真下玲奈×堀口紗奈インタビュー~劇団papercraft 第6回公演『Momotaro』は「日常みたいな非日常」を味わえる作品
劇団papercraft 第6回公演『Momotaro』 左から海路、真下玲奈、堀口紗奈
2022年6月9日(木)~13日(月)に、北千住BUoYにて劇団papercraft第6回公演『Momotaro』が上演される。
今作は、1000人に1人の割合で桃から”Momotaro”が生まれる世界で、中学を卒業後に鬼ヶ島へと戦争に駆り出されて15年の任期を終えて戻ってきた”元Momotaro”が一般人としてレストランカフェでアルバイトを始める、とある日を描いた物語になっている。
作・演出で劇団主宰の海路と、アルバイトを始めた”元Momotaro”のさくらを演じる真下玲奈、さくらの働くカフェを訪れる”元Momotaro”のゆづきを演じる堀口紗奈に、今作について話を聞いた。
■「エネルギッシュじゃないと、伝わるものも伝わらない」(真下)
――海路さんと真下さんはご一緒するのは今回が初めてで、堀口さんは昨年10月の劇団公演『椅子に恋した娘』にご出演されて今回が2回目の出演とのことですが、まずは現時点で皆さんがお互いにどういう印象を持たれているのかというところからおうかがいしたいと思います。
海路:真下さんは、すごいエネルギッシュで生命力あふれる人ですね。今回の作品を作る上で明るいというか、エネルギーの高い方とご一緒できないかな、と思ってぜひ真下さんに出てもらいたいなと。
真下:本当ですか? 嬉しい、ありがとうございます!
海路:そういう自覚はないんですか?
真下:やっぱりエネルギッシュじゃないと、伝わるものも伝わらないかなというのがすごくあるので、エネルギーを出せるモードが自分にとっては普通の状態という感じですね。そういうモードになれてるかどうか不安になるときはたまにありますけど。
――確かに真下さんが演じるさくらは、エネルギーが必要な役なんだろうなという気がします。
海路:エネルギーのある人間が鬼ヶ島で過ごした15年間を通してどう変わってしまうのか、はたまた変われないところで悩むのか、といったところをうまく探れたらと思っています。
真下:役についてはまだ探り探りなんですけど、15年も戦争に行っていた人の役なので、とりあえず昨日サバゲ―に行ってみました。
海路:めちゃくちゃアクティブですね。
真下:でも最初のうちは怖すぎて一発も打てなくて。
劇団papercraft 第6回公演『Momotaro』 左から真下玲奈、海路、堀口紗奈
――サバゲ―は最終的に楽しめましたか?
真下:楽しかったです! お店の人から「かっこよく銃を構えましょう」とか丁寧に教えてもらえました。(堀口に)よかったら今度一緒に行きましょう。
堀口:行きます、行きます!
真下:海路さんも行きます?……海路さん大丈夫かな(笑)。
堀口:すぐやられてそう(笑)。
――意外と銃を持ったら変わるタイプかもしれませんよ?
海路:「堀口、真下、走れよ!」とか急に怖くなってたりして(笑)。いや、あるかもしれない。
真下:じゃあ、今度みんなで行きましょう!
――では、次に海路さんから見た堀口さんの印象を。
海路:前回ご一緒したときに「いい作品ができたな」という感覚があったので、また出演して欲しいという話はずっとしていました。印象としては、いい意味でギャップのある方だな、と。最初にお会いした時は割と物静かな方なのかな、という感じだったんですけど、言うことはちゃんとストレートに言うし、でも現場の空気もちゃんと見てるし、みんなのことを盛り上げたりとか社交的だし、最初の印象とのギャップがありましたね。
――今回、堀口さんをゆづきという役にキャスティングされたのはなぜでしょうか。
海路:ギャップという話にもつながるんですけど、ゆづきという役には二面性みたいなものが出てきたらいいなと思っていて。あとは、この台本自体がキャスティングが決まってから書き始めたので、役者の方に寄せに行っちゃったみたいなところはあるんです。堀口さんは大阪出身なんですけど、台本でところどころゆづきが関西弁になっちゃってるところがあったりして、堀口さんのイメージに引っ張られたなっていう(笑)。
劇団papercraft 第6回公演『Momotaro』 海路
――では、今度はお2人が海路さんにどんな印象を持たれているかをうかがいたいと思います。
真下:初めてお会いしたのは海路さんの公演を見に行ったときで、オーバーオールを着た海路さんが会場内をあちこち走り回っているのを見てなんかかわいい人だな、と思いました。「あ、この人が書いてるんだ、へぇー」ってぐらい、見た目と書いてるもののギャップがあるなという感じがしたので、海路さんの中身がどうなってるのか気になりますね。
堀口:私は前回出演したとき、すごいお若いのに一人で頑張っていて強気な方なのかな、と最初は思っていて。セリフにとらわれないぐらいの構成を作ったから、セリフとか全然変えてもらっていい、みたいな感じのことを言っていたから、すごい自信がある方なんだな、と。でも稽古をしていくうちに、すごく繊細だし「みんなどうかな?」って常に周囲の様子をうかがっているし、稽古も穏やかで流れていくように進んでいって、本当に優しい方なんだなって思いました。
■「鬼ヶ島から帰ってきた後の桃太郎を描きたいと思った」(海路)
――台本を読ませていただきましたが、今回も海路さんワールドがさく裂しているな、と思いました。まずは、桃太郎をモチーフにしようと思ったきっかけがあれば教えていただきたいのですが。
海路:どの作品も大体そうなんですけど、「これをやりたい」と思って書くというよりは、アイディアがポッと出てくるっていう感覚なんですよ。今回も、サンドイッチを朝作っていたときに、急に「桃太郎ってなんだろう?」って思い浮かんで、鬼ヶ島から帰ってきた後の桃太郎を描きたいなと思ったのがスタートって感じです。
――誰もが知っているおとぎ話の後日譚を現代に置き換えて描く、というのは面白い発想ですね。
海路:日常ベースで描きたいな、という思いはすごくありました。前回公演のときに初めて不条理というジャンルにチャレンジして、自分の中でうまくいった部分とうまくいかなかった部分が、脚本面でも演出面でもいろいろあって、そこを今度はコアなところに取り入れながら新しいことをやりたいな、と思って作ったのが今回なんです。設定に落とし込んでみたり、役に落とし込んでみたり、構成に落とし込んでみたりとか、そういう遊び心みたいなものも入れながら書いたつもりです。
――舞台となるカフェレストランが廃墟を改装して作られたという設定になっていたりして、上演される北千住BUoYという場所にもある意味「当て書き」のようになっています。
海路:北千住BUoYっていう空間の持つ力が本当に強いから、それを無視はできないと思っています。あの空間をどう生かすか、あの空間でどう遊ぶかみたいなところがあそこでやる意味にもつながるから、そこはすごく意識しながら書きました。
――ご出演されるお2人は台本を読んでどのような感想を持たれましたか。
真下:正直まだわからないっていうのがありますね。どうですか?
堀口:私も本当にわからないですし、台本が1ページ2段組になっていてそれが同時進行していくという、こういう形の台本も初めてなので……難しいですね。
海路:今回は台本の一部を公開しているのでそちらもよかったら皆さんに見てもらいたいです。(※ページ下部の関連サイト欄にてURL紹介)
――お2人の役は、前半からは想像もつかないような展開が後半に待っているんですよね。
真下:そうなんですよ……
堀口:確かに……
海路:……台本の内容になったとたんに2人とも無口になっちゃった(笑)。
劇団papercraft 第6回公演『Momotaro』 真下玲奈
――台本を読ませていただいて、とても面白い話だし構成もよく出来ていると思ったのですが、実際にこれを舞台上でどう見せるんだろう、というのは想像がつかなかったので、まだお稽古3回目ということでお2人が怖さとか不安を感じていらっしゃる気持ちはわかる気がします。
海路:台本見たときにどうなるかわからないっていうのは、毎作品やるごとに誰かしらに言われますね。個人的には全然そんなつもりでは書いてないんですけど。
――海路さんは台本を書いているときに、同時に演出プランも考えているのでしょうか。
海路:演出のうち30~40%くらいは「こうしようかな」と考えながら書いていて、残りは皆さんが本読みしたときの雰囲気とか、あとはスタッフさんとの打ち合わせとかを経て方向性を固めていくっていう感じですかね。でも「絶対これはやりたい」って思っているポイントは結構あったりするかな。
――世界的に戦争についての議論が高まっている時期でもあります。今作はそのあたりの影響も受けていますか。
海路:この台本を書き始めたのと同時くらいのタイミングでウクライナ侵攻のニュースが出始めたので、少なからず影響は受けたなという気はしています。今これをやることがいいのか悪いのかは正直わからないんですけど、やる意味はあるのかなということは思っています。個人的に自分が抱えている悩みや問題と、世界情勢的に起きていることの問題の共通項みたいなものを感じていて、そこを汲み取りながら、でもこの台本が5年後10年後とかに再演することになったときにどう見えるんだろう、ということは結構考えながら書いたかな。
――桃太郎側と鬼側、戦争する両方からの視点を描かれていますが、そこは意識した部分でしょうか。
海路:それはすごい意識したというか、それがやりたくて書いたというところがあります。今の時代的にも自分の身近なところでも、変化できるものとできないもの、変化したい人としたくない人とかいろいろいて、そういう中で居心地の悪さを感じる人は絶対いるだろうし、現に自分はそういうふうに感じている瞬間も結構あって、だからそこを作品にしたいなと思いました。
■「海路さんの台本のレベルが前回から格段に上がっている」(堀口)
――今回、真下さんと堀口さんは、中学を卒業した後で強制的に戦地に送られてしまった元Momotaroという役どころです。
真下:さくらについてはまだまだわからなすぎて、これからいろいろ海路さんに聞きたいです。さくらは鬼ヶ島にいた15年間、どんなふうに過ごしていたのかとか……どんな思いで鬼と戦っていたのかとか……難しいんですけど、でも難しいと思ったら難しくなっちゃうから。
海路:すごい、めっちゃポジティブ。
真下:いやもうポジティブにやらないと。急には役はつかめないから、一歩一歩ですね。
劇団papercraft 第6回公演『Momotaro』 堀口紗奈
――堀口さんの演じるゆづきも……
堀口:いやー……本当にまだ役のことがつかめていなくて……今はただ「怖いな」って気持ちしか出てこないですね。
――『椅子に恋した娘』にご出演されたときは、お稽古場でどのように役作りをされていたのでしょうか。
海路:あのとき堀口さんは仕事の都合上、稽古に参加するのが遅れたんです。だからある程度できてるところに混じる感じでしたね。でも今回はそういう意味では1から作っていくことになるから。
堀口:前回は出来上がっていた雰囲気の中に勇気出して飛び込むだけでしたが、今回はそうともいかず、むしろ先陣切るぐらいの感じで自分自身がんばっていかないといけないですけど。自分で読んでいるだけだとまだまだわからなくて、やっぱり皆さんと一緒に稽古場で作っていかないと前に進めないですね。
真下:まだ何もつかんでないから、こんなわからない状態で稽古場に行っていいのかって思っちゃうくらい悩んでますけど、まあ一つ一つ、やるしかない!
――では、公演に向けてのメッセージをお願いします。
海路:2人から「怖い」とか「難しい」とか言われているように、個人的にはすごいチャレンジな作品なので、うまくハマったらすごい面白いことになると思います。「日常みたいな非日常」を味わいたい方はぜひ来てください。
堀口:前回出演したときに、海路さんの書く台本も演出もすごい面白くて興味深いなと思いました。今回の台本を読んでみたら、上からな言い方になっちゃいますけど、レベルが前回から各段上がっていて、海路さんはすごい成長されたんだなと思ったので、自分自身もこの半年間でどれだけ成長できたかを皆さんにお見せできたらいいなと思っています。ぜひ見に来てください。
真下:今こうしてお2人の話を聞いていると、やっぱり「完成だけど未完成」っていうところがすごいワクワクするところだなと思いました。「こんな作品ができました!」って上演するけれども、日々進化していくものだから初日と千秋楽では全然違うし、そこを楽しんでもらえたらなと思います。観劇後に「いいものを見たな」って思ってもらいたいし、「あれは何だったんだろう」って帰り道で舞台のことを話しながら帰ってもらいたいですね。
劇団papercraft 第6回公演『Momotaro』 左から真下玲奈、海路、堀口紗奈
取材・文・撮影=久田絢子