駒田航「絵画の情景を理解する手助けに」 『自然と人のダイアローグ』音声ガイドナビゲーターを担当
『国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ』音声ガイドナビゲーター・駒田航
2022年6月4日(土)から9月11日(日)まで、『国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ』が開催される。1年半という休館期間を経て2022年4月にリニューアルオープンした国立西洋美術館を舞台に、ドイツ・フォルクヴァング美術館の協力を得て、自然と人の対話(ダイアローグ)から生まれた近代の芸術の展開をたどる本展。その音声ガイドナビゲーターを務めるのは、声優・駒田航だ。
駒田は、本展の “もう一つの主役” であるドイツ連邦共和国出身であるほか、カメラマンとしても活躍するなど、芸術への造詣が深い。収録を終えたばかりの彼に、本展の見どころや音声ガイドの聴きどころなどを伺った。
『国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ』
音声ガイドに、ピアノの調べをのせて
ーー音声ガイドの収録お疲れさまでした。いかがでしたか?
今回の収録にあたって、それぞれの作品の画像を頂戴し、拝見しながら読ませていただきました。絵画ってそのもので完結しているものだから、見ているだけでも楽しいと思うんです。それに言葉をのせるという意味では、その絵画に込められているインフォメーションを、耳で聴いてくださる方になるべく邪魔をせず、いかに残せるかというのが個人的には命題でした。僕自身もこれまで音声ガイドを使ったことがありますが、音声ガイドって本当に “ガイド” なんですよね。すごく丁寧で、これ以上にない正確な音声インフォメーションだと思うんです。だからすごくかっちり作って現場に来たんですけど、今回の作品の内容や雰囲気、それに自分を起用してくださったというポイントから、「少しマイルドにいこう」となって。その練り直しもすごく楽しかったですね。
ーー難しかった点はありますか?
画家のお名前や地域名など、難しい単語はたくさんありました。外国語が原語の場合は「カタカナ」に置き換える形になるので、文章の流れの途中に入っているとどうしても主張しちゃって。それがもうね、大変だったんですよ(笑)。めちゃくちゃ苦労したのは「ガッレン・カッレラ」(作家の名前)。意識しすぎてそこが目立ってしまうからと何度か録り直しました。
ーーでは、そこに注意して拝聴しようと思います(笑)。
言わないでおけばよかった……。言いにくそうだな〜と思ってください(笑)。
ーーご自身が思う「聴きどころ」は?
ちょっと暗めだったり、明るかったりとシーンに合わせて全体的に微調整はしているんですが、ピアニストの福間洸太朗さんが選曲した楽曲が流れるところはぜひ聴いて欲しいですね。曲を聴いたうえでガイドを読ませていただきましたが、完成形がどのようになるのかとても期待していますし、ピアノを聴いているだけでもあっという間に時間が過ぎてしまうと思います。それから、画家が過去に言った言葉をセリフにしている場面もあるので、そのあたりも楽しめるのではと思います。
風景が好き。おすすめする展示作品は……
ーー本展には素晴らしい作品が多数展示されますが、なかでもお気に入りの作品を挙げるとすると?
一番好きなのは、ポール・シニャックの《サン=トロペの港》ですね。僕、基本的に風景が好きなんですよ。この作品は風景だけではなく人物もいるんですけど、港の雰囲気が爽やかに描かれているのが単純にキャッチーで好きです。あとは、ウジェーヌ・ブーダンの《トルーヴィルの浜》。これ、めちゃくちゃ上手くないですか? ……って、当たり前なんですけど(笑)。これは現実の風景がそのまま見えますよね。砂についた跡だったり、水が浸っているところのグラデーションだったりがとても繊細で。しかも、絵画のほとんどが空だというのも素敵です。音声ガイドの解説でも言っているのですが、ブーダンって「空の王者」と称されるんだとか。本当に空がとてもきれいですよね。
ポール・シニャック《サン=トロペの港》1901-1902年 油彩・カンヴァス 国立西洋美術館
ーー美術館に行くのもお好きだと伺いました。その魅力とは、なんでしょう?
まず建物がこだわって作られていますよね。今回の音声ガイドの番外編でも触れていますが、国立西洋美術館はル・コルビュジエという建築家によるものです。実は自分の卒論の中で彼を取り扱った経験もあるんですけど、彼が建築設計したものに触れられるのは素晴らしいですし、そこにも注目していただきたいですね。それから会場に入ると、展覧会ごとに作品が並べられている順番もすごく練られていると思うんです。年代順であったり、色彩や画法であったり、展覧会によっても順路や展示方法にこだわりがあって、それに関わった方々の想いも感じます。
美術館って、個人的にはすごくお得に歴史を学べちゃう場所だと思うんです。作品の解説を読んで鑑賞するのってアカデミックっぽくも感じますが、ただ順路に沿って歩くだけでもいい。文字を読んで学ぶのは辛いけど、絵画を通してその時代の暮らしを知ることもありますし、なんとなく面白いなと好奇心が掻き立てられ、それをきっかけに興味を持つこともある。そうして心に残った点と点が繋がる瞬間がふとあって。それがすごく面白いんですよね。
ーー卒論にル・コルビュジエとは、意外な接点があり驚きました。リニューアル後の国立西洋美術館も楽しみですね。
リニューアルを経て、ル・コルビュジエがもともと求めていた形にさらに近づいたと聞いたので、すごく楽しみですね。この展覧会の期間中にタイミングが合えばぜひ行ってみたいです。
自分の大切な一部でもある、宝物のカメラ
ーー国立西洋美術館とフォルクヴァング美術館は、個人コレクションをもとに設立されたという点が共通点として挙げられます。駒田さんがコレクションしているものは……?
これはもう、カメラですね! 大学生のときからだから、13年〜15年くらいになるかな……。これまで自分が所有してきた数でいうと20台くらいでしょうか。自分の全ての血と汗の結晶と言ってもいいくらい(笑)。今、老後を共にするカメラを見つけているところなんです。昔のフィルムカメラも含めて、老舗ブランドから新しいブランドまで、本当にいろんな種類のカメラがたくさんあります。まだまだ知らないことばかりで、カメラの歴史を追うことで自分の知見も広がりましたし、写真を撮るためにいろんな場所へ行くきっかけを作ってくれたものカメラ。祖父も父も写真やビデオが大好きだったので、もはや血筋かなと思うんですけど、僕にとってもかなり大きな要素を占めるひとつですね。
それに、ドイツといえばライカ(Leica)。僕も所有しています。自分がいた国のもので愛せるものがあるというのはすごく幸せだと思いますね。今手元にあるのは1台だけですが、とても可愛がっています。他の機種も使ってみたい、手に入れたいという欲はあります。でも、この1台はずっと手放さないですね。古いものが今とても価値があるように、僕が老人になったときにこのカメラもすごく味のあるものになっていると思うから、宝物としてずっと持っていたいです。
ーー最後に、本展を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
今回の展示は「自然と人」がテーマです。風景と、その中にいる人々がどんな思いを持っているのか、捉えやすい作品が多く揃っていて、個人的にはとてもわかりやすく表現していると思います。さらにピアノの音色や音声ガイドが、絵画の情景を理解するインフォメーションとして手助けになることを信じているので、想いやルーツが見えてくる展示になるのでは。視覚的にも面白い空間になっていると思いますので、ぜひゆったりと楽しんでいただければと思います。
ウジェーヌ・ブーダン《トルーヴィルの浜》1867年 油彩・カンヴァス 国立西洋美術館
駒田が音声ガイドナビゲーターを務める『国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ』は、2022年6月4日(土)から9月11日(日)まで、国立西洋美術館にて開催。
取材・文=SPICE編集部