SPECIAL OTHERS 15年間の経験と“ロック魂”が生み出した最高傑作『Anniversary』を語る

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2022.6.8
SPECIAL OTHERS 撮影=菊池貴裕

SPECIAL OTHERS 撮影=菊池貴裕

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インストバンドの第一人者として、ジャンルを超えたユニークで親しみやすい音楽性と、楽器マニアをもうならせる演奏スキルの高さで、愛され続けた15年。SPECIAL OTHERSのデビュー15周年イヤーを締めくくるニューアルバム『Anniversary』は、これまで以上に“ロック魂”を音に詰め込んだ結果、メンバー自身が“最高のアルバムができた”と自負する作品に仕上がった。15年間の経験が生み出した最高傑作について、メンバー4人の本音を聞こう。

――ちょうど今、ビクタースタジオに居るので、聞いてみたいんですけれども。スタジオの機材や技術で、15年前と大きく変わったことって何でしょう。

宮原“TOYIN”良太(Dr):大きくは変わってないですけど、ちょっとずつ変わってますね。デジタル的な面では。

柳下“DAYO”武史(Gt):我々はずっと、アナログ的なことしかやっていないので、デジタル的な進化の恩恵はそこまで受けてない気がします。デビューした頃にもう確立されていたので。その10年前だと、レコーディング技術的に大きな改革があったと思うんですけど。

芹澤“REMI”優真(Key):写真に例えると、“写ルンです”の良さみたいなところもあるんじゃないですか。俺らがアナログ的な手法で、4人でしかやれないことを15年間ずーっと続けてるのは、「写ルンです」で撮り続けているのと同じというか。

宮原:“聴けルンです”だね。

芹澤:そう(笑)。でも実は、最新のデジカメで撮ったものを、“写ルンです”風に加工したものもあったりして。

――ああ、なるほど。わざとそういうふうに加工してある。

宮原:アンプの音はマイクで録るのがいいとされているんですけど、今回、ラインで録った曲もあるんですよ。それは技術革新の良い面ですね。

柳下:そこは一番恩恵を受けてるね。アンプにマイクを立てて録ったような音に、シミュレーションしてくれる。

芹澤:しかも、音の粒立ちの良さとか、アナログで録ったものの完璧さに優っている部分もある。“写ルンです”風にデジタルで録った写真も、解像度は高いのに、風合いは昔のままじゃないですか。いいとこ取りできている部分もあるから、それはいい技術革新ですね。

柳下:デジタルが出始めの頃って、“なんだかんだ、やっぱりアナログのほうがいいよね”って言われていたものが、デジタルが追い付いてきたというか、場合によってはデジタルのほうが良い部分も出てきたことを、最近は特に感じます。

芹澤 "REMI" 優真(Key)

芹澤 "REMI" 優真(Key)

ロックに対する憧れをずっと持っていて、今回はそれを体現できている。10代から燃やし続けている、俺のロックが満足してます。(芹澤)

――確かに。でもそれも、確かな演奏力がなければ意味がないわけで、そこを極めてきたのがSPECIAL OTHERSの存在価値だと思います。あともう一個聞きたかったのが、15年間、仲良く続けてきた秘訣は何でしょう? 芹澤さん。

芹澤:仲良く続ける秘訣は、逆に言うと、仲が悪くなる要因って何なんだろう?と思うぐらい、そもそも仲が悪くなるようなことがない。仲が悪くなることって、たとえば、あまりに固執しすぎていることがあったりとか、さっきのデジタル/アナログの話で言うと、俺らはどっちにも固執しないというか、“絶対こうでなければいけない”というものはこの世にないと思っているので。要は“自分を信じすぎない”ということかな。自分が絶対に正しいと思っていれば、確執にもつながるし、うまくやっていくには、いろんな形の正解があるんですね。前にスタジオ内で流行った言葉があるんですけど、“愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ”という言葉があって。愚か者は自分の経験に学んで、賢い人は歴史にから学ぶ。歴史というのは、ほかの人の知識のことで、隣の人を見ることで“こっちのほうがいいじゃん”という柔軟さみたいなものが、長く続けていく上で大事だったのかな?と思いますね。

――素晴らしいですね。なるほど。

芹澤:もちろん、いいものを作るために“こっちがいいよ”という意見はあるけど、それは確執ではなくて、かっこいいことが一番だから。かっこいいこと、楽しいことが一番であって、自分の意見が一番じゃない。正解を求めるのが一番じゃない。

――今の金言、すべての若いバンドマンに聞いてほしいですね。ねえ又吉さん。

又吉“SEGUN”優也(Ba):干渉しすぎない、ということですかね。この人がこう考えているんだったら、別にそれでいいし、“自分はこう思うけど”という意見を言って、受け入れられてもいいし、受け入れられなくてもいい。別に、そんなに考えることでもないというか、4人とも似たような考え方の人間なので、争いも起きないし、見ているものが一緒になので、いいと思ったものはだいたいいいと思えるし。そういうことですかね、15年間うまくいったのは。15年以上か。

――出会いから考えると、もっと長いですよね。

又吉:16歳ぐらいからの付き合いなんで、27年? 27年間、ほとんど何も起こらず、平和に過ごしてきましたね。

 

――そんな平和なバンドが、15周年の締めくくりに届けるニューアルバムが『Anniversary』です。音楽的なテーマとか、方向性とか、どんなふうに作り始めたんですか。

宮原:当初はイメージを持たずに作っていると思っていたんですけど、インタビューを繰り返しているうちに、コンセプトがあることに気づきまして。ここ何年か、ロバート・グラスパーに代表される複雑な展開の曲が流行っていて、自分たちも好きだったんですけど、ふとした瞬間に“これ、飽きたわ”という気持ちになったんですね。その反動で、オアシスとか、レッド・ツェッペリンとかを聴くようになったら、ものすごく気持ちよくて、その衝動が収められているアルバムだということに今日気づきました(笑)。

――あはは。なるほど。

宮原:たとえば「Timelapse」や「Anniversary」は、“スペアザ流UKロック”をイメージしているんですよ。UKロックを代表するVOXというアンプを使ってみたり、歪んだ音にインスピレーションを受けたりしています。あと、レッド・ツェッペリンの影響で、グリン・ジョンズ方式というドラムの録り方があるんですよ。今までは20本ぐらいマイクを使って録っていたんですけど、グリン・ジョンズ(プロデューサー/エンジニア)は4本しか使わない。録れる音が生々しくて、ちょっと古い感じの音になるんですけど、その音にインスピレーションを受けた曲が、「Yagi & Ryota 2」とか、「DECO」とか、「Session 317」なんです。つまり、自分たちのロックの衝動が反映されたアルバムだと思いますね。

――それは全員の感覚が、同時に一致したと。

宮原:そうですね。“グラスパー飽きたね。オアシス聴こう”みたいな感じ。ヤギ(柳下)がVOXのアンプを持っていたので、“VOXにしようぜ”って。ヤギは普段は“ジャーン!”ってコードを弾くタイプのギタリストじゃないんですけど、今回はストロークも入ってます。

又吉:コロナになって、ライブが中止になって、ぽっかり時間が空いたんですね。みんな暇だったので、機材を買い集めたりして、その中でいろんなアンプを試したりとか、それの積み重ねで曲ができたという感じもありますね。つまり15年やってきて、すべての知識を総動員させたアルバムというか、経験を生かして作ったアルバムだと思います。15年間やってきたからこそわかることがあって、その上で“じゃあ次はこうしてみよう”ということを考えることができるし、いろいろ試せて楽しかったです。それが作品にちゃんと出ていると思うので、これは毎回言うんですけど、“最高のアルバムができたな”ということは、今回は本当に思いますね。

柳下 "DAYO" 武史(Gt)

柳下 "DAYO" 武史(Gt)

今までで一番いろんな種類のアンプを使いました。今までが三色刷りの絵だとすると、今回は八色ぐらい使っている感じ。(柳下)

――素晴らしい。ギタリスト的には?

柳下:良太が“最近UKロックを聴いてる”と言った時に、“おまえも? 俺も聴いてるんだけど”って感じで、レッド・ツェッペリンや60年代のロックを聴いていたので、自然と同じような着地点にいるんだなと。コロナ禍ということもあって、今言ったみたいに機材を集めていた中で、今までで一番いろんな種類のアンプを使いましたね。今までが三色刷りの絵だとすると、今回は八色ぐらい使っている感じ。若い時は“こういう音で録りたい”というこだわりが強かったんだけど、今はそうではなくて“いろいろ試してみよう”って、気楽な感じで使えるようになったと思います。

――いいですね。さっきの、自分の意見に固執しないことが長く続ける秘訣という話にも通じるような。

芹澤:「Anniversary」という曲では、ものすごく歪むBIG MUFFというファズ(エフェクター)を使ってます。70年代の人はたまに使ってるんですけど、普通は鍵盤では使わないんですね。そういうロックなアティテュードへの憧れは10代からずっと持っていて、俺はずっとカート・コバーンに憧れているし、後ろ手に手を組むクセは、たぶんリアム・ギャラガーがかっこいいなと思ったからだし(笑)。ロックに対する憧れをずっと持っていて、今回はそれを体現できているなと思います。今まではポイントポイントでの要素でしかなかったけど、自分のアティテュードも注入しつつ、キーボードとしても体現できたという意味では、今回の作品が初めてなのかなと思うので、俺のロックが満足してますね。10代から燃やし続けている、俺のロックが。

――最高じゃないですか。

芹澤:やっぱり、ロックは死なないんだと思います。

――ニール・ヤングばりの。それタイトルにしましょう、この記事の。“やっぱりロックは死なない”。

芹澤:おまえら急に何言ってんだ?と(笑)。しかも、もしかしたら、初めて聴いた人にはそんなにロックじゃないかもしれない(笑)。

 

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