ありがとうNadao、13年の歴史に幕を下ろしたタイのコンテンツ制作会社を特集ーー『レオレオ、タイタメ』Vol.12
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タイのテレビ、映画、音楽などのコンテンツ制作会社で、芸能事務所でもあるNadao Bangkok(ナダオ・バンコク)が、6月1日(水)に約13年の歴史に幕を下ろした。決して悲観的なものではなく、個人として活躍できるアーティストたちの今後を考えてのことだそう。事業が終了したとはいえ作品は残り続け、元所属俳優も今年の『Summer Sonic』出演や出演映画の日本上映など新しい道へと進み始めている。今回で連載開始から1年を迎えたタイエンタメを紹介する『レオレオ、タイタメ』では、Nadao作品を振り返るとともに、今後日本で楽しめるアーティストの活動を追いかける。そして最後にはガパオピザなどの変わり種が食べられるタイ料理屋さんもあわせて紹介する。最後まで是非チェックを。
今回ピックアップする話題はこちら
・10代の葛藤を描くスポーツドラマオムニバス
・Nadao最後のドラマ『I Promised You the Moon』
・『サマソニ』出演決定、勢いが止まらないBKPP
・トー出演のロードムービー『プアン/友だちと呼ばせて』が日本に上陸
・映画を観た後に行きたくなるタイ料理屋紹介
・ひとことタイ語講座
●10代の葛藤を描くスポーツドラマオムニバス●
『Project S The Series』 U-NEXT独占配信中
2009年に設立されたNadao Bangkok。元々キャスティングに重きを置いていたが、2013年に放送されたNadao制作ドラマ『Hormones: The Series』がタイ国内で人気を博したことをキッカケに、コンテンツ制作も手がけるようになった。そのうちのひとつである、ビッグプロジェクト『Project S The Series』(2017年)がU-NEXTにて見放題配信されている。
同プロジェクトは、4種目のスポーツをテーマにしたオムニバス形式のドラマシリーズ。Sには「Sports」と「Spirit」の意味があり、スポーツを通し10代が抱える悩みや葛藤、青春が描かれている。各話45分ほどで1パート全8話と比較的コンパクトではあるが見応えがあり、作品の色も全く違うので1パートずつ紹介していく。なお、今回はNadao特集ということで配役は元所属俳優のみを記載することにする。
Part1.これぞスポ根! バレーボール編「SPIKE」
シンハ(左)とプーン(右)、U18カップ決勝の様子 U-NEXT独占配信中
バレーボールの弱小校だったテープパンヤー高校。しかし、選手たちは懸命の努力を重ね、ついにU18カップで決勝進出を果たした。だが決勝戦で常勝校の聖セバスチャン高校に敗退。次こそ優勝をと誓いあうなか、仲間の一人でセッターのシンハが聖セバスチャンへ移ることに。シンハに誘われてバレーボールを始めた主役のプーン(演:オーブ・オーブニティ)は転校の話を受け、大事な仲間を失った悲しみとシンハの裏切りに対して怒りを抱える。さらにコーチの交代や特待生タン(バンク・ティティ)の途中参加など、状況の変化によるチーム内での衝突を繰り返し、葛藤を乗り越えながら高みを目指していく。
チームに馴染めないタン U-NEXT独占配信中
メインとなるのはエースのプーンと、途中合流したセッターのタン。プーンはシンハと同じポジションのタンを認められず、強く当たってしまう。しかし合宿や試合などで多くの時間を共に過ごし、お互いに抱える家族問題を共有しあうことで、彼らは徐々に打ち解けていく。学生同士の支え合いがなんとも美しい。
上達が見えてくる練習風景 U-NEXT独占配信中
スポーツ好きとしてはチームメイトの関係性だけでなく、練習風景にも注目してもらいたい。バレー初心者でもどんな練習方法があるのかを知ることができて、彼らが実際に上達していく様子が目に見えてわかるほど練習三昧。観ていると自分も体を動かしたくなること間違いなしなので、家かジムで観ることをお勧めする。
Part2.自閉症を抱えた青年との家族愛、バドミントン編「Side by Side」
ジム(右)とドン(左) U-NEXT独占配信中
自閉症を抱えたジム(トー・タナポップ)と従兄弟のドン(スカイ・ウォングラウィー)。兄弟のように育ってきた二人は少年時代にドンの母からバドミントンを教わり、ダブルスを組んでトップ選手に成長していく。しかしジムの癇癪が問題でクラブを辞めなければならず、昔通っていたコートで練習することに。そんなある日、ドンはシングルス向きだとアドバイスを受ける。これをキッカケに心優しく、幼い頃から我慢を続けていたドンが胸の内をさらけ出し、ジムも自立できるよう努力を重ねていく。
プレー中でも自閉症の特徴を捉えている U-NEXT独占配信中
同作で驚くのは、なんと言っても自閉症のジムの青年期を演じたトーと、少年時代を担当したピン・ガンタパットの演技。トーはドン役のスカイらと共に何度も支援センターへ赴き、実際自閉症を患う子どもたちと触れ合いながら、自閉症患者を自然に(or完璧に)演じられるように熱心に演技の研究をしたそうだ。そうして普段の会話だけでなく、トップレベルの選手としてキレのあるプレーをしている最中でも、自閉症患者という難しい役どころを見事に演じ切っていたのだ。
家族だけでなくクラブのチームメイトとも交流するドン U-NEXT独占配信中
さらに同作は、次ページで紹介するドラマ『I Told Sunset About You ~僕の愛を君の心で訳して~』も手がけたボス・ナルベートが監督を務めた。映像の美しさや巧妙な色使いで定評のある監督で、同作でもドンが抱え込んでいる葛藤を配色の妙により繊細かつ丁寧に描ききっている。一度でも「きょうだいばっかり」と妬んだことがあるならば、ドンの苦しさに感情移入し、歪ながらも美しい家族愛に涙すること間違いなし。
Part3.うつ病と向き合うスケートボード編「Skate Our Souls」
気まずそうに食事をするブー U-NEXT独占配信中
うつ病に悩まされているブー(ジェームス・ティーラドン)。賢明に治療するもなかなか功を奏さない日々の中、テストの点数を落とし厳格な父を失望させてしまったとブーは深く落ち込んでいた。そんなブーの前に、スケートボードに乗ったサイモンらが現れ、なりゆきで彼に滑り方を教えてもらう。すっかりスケボーの虜になったブーは後日、スケートボードでうつ病を治せるか確認するため病院に向かう。そこで精神科の研修医のベル(パット・チャヤニット)に出会い、「スポーツをすることはいい事だ」とアドバイスを貰ったことをキッカケに、ブーは父には内緒でスケボーの練習を始める。
サイモン(手前)にスケートを教えてもらうことに U-NEXT独占配信中
ブーを演じるジェームスは、森絵都の『カラフル』が原作の映画『ホームステイ ボクと僕の100日間』で自殺してしまったボク役を演じていたように、とにかく心を病んでいる人の演技がピカイチ。ブーがサイモンらスケボー仲間や、密かに恋心を抱いているサイモンの妹のファーン(プリュー・ナルポンカモン)と一緒にいる時と、その他の人物といる時の躁鬱の表現が絶妙だ。
左から片想い中のファーン、研修医のベル、ブー U-NEXT独占配信中
観ている側もブーに気持ちを引きずられてしまうが、だからこそ個人的には同作が一番胸に刺さった。救えなかったことに苦しみ、後悔する人を身近で見てきて、自分自身も後悔の念に駆られ続けているため、正直に言うとブーの行動は見るに耐えないし、あらすじを書くことですら涙が溢れてままならない。それでも「Skate Our Souls」(略して「SOS」)と出会えて良かったと心から思う。うつ病は誰がいつなってもおかしくない病気だからこそ、一人でも多く、同作から患者と接する時の対応を知っておいてもらいたい。あなたの大切な人を守れるように。
Part4.佐賀でも撮影! アーチェリー編「Shoot! I Love You」
練習を始めたてのボー U-NEXT独占配信中
楽しそうに滑るブーやベルらを見ていると、スケボーに挑戦したくなる人も少なくないだろう。同作の主人公ボー(フラン・ナリクン)もまさにそのうちのひとりだ。幼馴染みのシャン(ジェイジェイ・クリッサナプーム)と学校でスケボーの練習をしていた彼女は、アーチェリーをしているアーチウィン(ノン・チャーノン)に出会う。一目惚れしたボーは、彼に近づくためシャンとともにアーチェリーを始める。恋心に揺さぶられながら練習を続けるうちに代表選手になるという夢を見つけ、仲間たちと力をあわせて高みを目指すというラブコメ。
アーチウィンの恋愛事情を探るボー(左)とシャン(右) U-NEXT独占配信中
シリーズの中で最もポップでキュートな同作。思っていることを全て口に出してしまう素直なボーを見ていると、明るい気持ちにさせてもらえる。またアーチェリーは、少しでも精神統一ができていないとコントロールができず、注意散漫になると人に危害を加える可能性まである、集中力が試されるスポーツ。恋模様を描くうえで、このアーチェリーの特性が最大限に活かされているところも他の作品にはない本作ならではのおもしろさだ。
アーチウィン U-NEXT独占配信中
さらに佐賀で物語の大きな転機が訪れることも魅力のひとつ。浴衣姿でお祭りを楽しんだり、温泉に入りながら悩みを相談したり、日本語が聞こえてきたりと、タイの作品ではありながら親近感を得られる。ボー役のフランのインスタグラムでは、「本当にボー役の方?」と思うほど美しい浴衣姿の写真がアップされているのであわせて見てもらいたい。
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