猿之助の小栗、海老蔵の団七、菊之助のクシャナが歌舞伎座を熱くする! 『七月大歌舞伎』観劇レポート

2022.7.13
レポート
舞台

第一部『當世流小栗判官』(左より)小栗判官=市川猿之助、照手姫=市川笑也 /(C)松竹

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2022年7月4日(月)、歌舞伎座で『七月大歌舞伎』が開幕した。29日(金)までの上演となる。第一部は市川猿之助の三代猿之助四十八撰の内『當世流小栗判官』、第二部は市川海老蔵の『夏祭浪花鑑』、新歌舞伎十八番の内『雪月花三景 仲国』、第三部は尾上菊之助の『風の谷のナウシカ 上の巻 ―白き魔女の戦記―』。

開幕初日、第一部で市川笑也が、自身1000回目の宙乗りを達成し、第三部で中村米吉が、自身初の宙乗りを披露した。第二部『仲国』と第三部『風の谷のナウシカ』は、いずれも歌舞伎座初上演であり、海老蔵は娘の市川ぼたん、息子の堀越勸玄と、そして菊之助は息子の尾上丑之助、娘の寺嶋知世と、それぞれ親子3人の共演をはたしている。

■第一部 11時開演

11年ぶり『當世流小栗判官』

『當世流小栗判官(とうりゅうおぐりはんがん)』の初演は1983年7月。ひさしく上演が途絶えていたものを、市川猿翁が新たな構成で復活させた。その後、三代猿之助四十八撰のひとつとなり、今回は11年ぶりの上演となる。

横山郡司が、将軍家よりお預かりの勝鬨の轡(かちどきのくつわ)を紛失し、責任をとって切腹する。その裏で糸をひいていたのが、天下を狙う弟の横山大膳だった。大膳は、郡司を死においやっただけでなく、郡司の娘・照手姫を捕らえている。そんな大膳の館で、物語ははじまる。

照手姫を案じてやってきたのは、許婚・小栗判官。しかし照手姫はすでに館を脱出し、小栗判官とすれ違いに。大膳は小栗判官も亡き者にしようと、荒馬を放つのだった。勝鬨の轡の行方は? 小栗判官と照手姫の運命は?

第一部『當世流小栗判官』(左より)小栗判官=市川猿之助、横山大膳=市川猿弥 /(C)松竹

過去の公演では4時間以上かけて上演されていた作品だが、今回は約2時間半におさめられている。その結果、見どころに次ぐ見どころの展開。序幕では、猿之助の小栗判官が、大暴れする馬を品よく見事に手なづける。碁盤の上で馬が高く棹立ちになり、小栗判官がパッと扇を開くと、その凛々しい姿に大きな拍手がおくられた。

笑也の照手姫は、縄にしばられて登場。運命に翻弄される役だが、悲壮感より軽やかな美しさで物語を彩る。市川猿弥の大膳は肝が据わり、市川青虎の次郎は理知的で、市川男寅の三郎はとにかく明るい。

第一部『當世流小栗判官』(左より)矢橋の橋蔵=坂東巳之助、浪七=市川猿之助、鬼瓦の胴八=市川男女蔵 /(C)松竹

二幕目「浪七住家の場」では、橋蔵役の坂東巳之助が、思いがけない方向で目の離せない存在感を発揮。市川男女蔵は、胴八を垢ぬけない無頼漢として演じ、物語を進めていく。猿之助の二役目、漁師浪七は小栗判官と同じ花道から登場。闊達さと粋な色気で演じ分ける。さらに話が進むと猿之助の浪七は、血の匂いがしてきそうな咆哮で衝撃を与える。幕間に入るとき、はやくも千穐楽の幕切れのような盛大な拍手が起こっていた。

第一部『當世流小栗判官』(左より)後家お槙=市川笑三郎、万屋娘お駒=尾上右近、照手姫=市川笑也、小栗判官=市川猿之助 /(C)松竹

市川門之助の浪七女房お藤が脇をかため、笑三郎が4度目となる後家お槙を深いところから汲み上げ、描く。尾上右近が、持ち前のパッションにのせて娘・お駒の激しい恋心をみせる。俳優陣は、省略された場面を補って余りある、確かな人物造形でドラマをみせ、心を揺さぶった。小栗判官と照手姫の「道行」には、市川寿猿も出演。クライマックスには中村歌六の遊行上人一行が現れ、寺嶋眞秀が勤める弟子を中心に祈祷する。小栗判官と照手姫を乗せた白い天馬が歌舞伎座を飛び、大詰めではふたたび観客を驚かせる演出も。拍手がとどろく中、幕となった。

■第二部 14時40分開演

大坂の侠客が格好いい『夏祭浪花鑑』

第二部は、海老蔵が団七九郎兵衛を勤める『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』。江戸時代中頃に起きた、実際の舅殺しの事件がモチーフとなっている。花道から、女房のお梶(中村児太郎)と団七の伜・市松(勸玄)がやってきて物語がはじまる。勸玄は実年齢よりも幼い役を、はっきりとしたセリフ回しで愛らしく勤めた。熱い拍手に迎えられながら本舞台へ。

第二部『夏祭浪花鑑』(左より)一寸徳兵衛=市川右團次、お梶=中村児太郎、団七九郎兵衛=市川海老蔵 /(C)松竹

序幕では、牢屋に入っていた団七が帰ってくる。髭も月代も伸ばしっぱなしの団七が、髪結床で身なりを整えると、見違えるような男ぶり。客席は大いに沸いた。団七は、恩人の息子・磯之丞(大谷廣松)と恋人の傾城琴浦(中村莟玉)の仲を取り持とうとする。しかし舅の義平次(片岡市蔵)は、お金のために琴浦を騙し、連れ去ろうとする。琴浦を巡り団七と義平次は揉み合いになり……。

本作には、団七の他にも2人の侠客が登場する。ひとりは、一寸徳兵衛。ちょっとした揉め事をきっかけに、団七と兄弟分になる。勤めるのは市川右團次。胸のすくような心地よい台詞回し。団扇であおぐ仕草ひとつで、夏のまとわりつく暑さを想像させた。もうひとりは、釣舟三婦。市川左團次は、余裕のある佇まいで愛嬌を感じさせつつ、イザという場面では凄みを効かせる。

本作では、女方もかっこいい。児太郎のお梶は、団七とお似合いの頼もしく美しい女房で、思わず筋書で配役を再確認した。中村雀右衛門の一寸徳兵衛の女房お辰は、チャーミングでありながら芯の強さを感じさせる。見ていて気持ちの良い人物ばかりだ。そんな中、汚れ役を担うのが片岡市蔵の義平次。どうしようもない人物を、限りなくどうしようもなく、しかし現実にもいそうなリアリティで勤める。

第二部『夏祭浪花鑑』(左より)団七九郎兵衛=市川海老蔵、伜市松=堀越勸玄、お梶=中村児太郎、一寸徳兵衛=市川右團次 /(C)松竹

祭囃子の高揚感は不穏な胸騒ぎに変わり、夏の暑さが混じりあい、不快指数が高まっていく。しかし義平次と団七の泥沼状態が一線を超えた瞬間、打ち鳴らされるツケが心地よく聞こえはじめた。団七の髪はばらけ、浴衣は脱ぎおかれ、鮮やかな下帯と刺青があらわになり、井戸の水に濡れて美しかった。団七が花道で大きく一歩踏み込む姿かたちは、鮮烈なインパクト。「悪い人でも舅は親」の台詞で現実に引き戻され、得も言われぬ余韻を残して幕となった。

新歌舞伎十八番を元にした『雪月花三景 仲国』

『仲国(なかくに)』は、新歌舞伎十八番の舞踊作品のひとつ。新たな台本で2020年に新橋演舞場で上演されたものが、さらにブラッシュアップされ、今回、歌舞伎座で初披露となる。

第二部『仲国』(左より)男蝶の精=堀越勸玄、女蝶の精=市川ぼたん /(C)松竹

帝の病気を、源仲国が祈祷によって平癒する。花道から登場したのは、烏帽子をかぶった仲国の弟・仲章(中村種之助)、髪をおろした小督局(児太郎)。歌舞伎座の客席が、古風な空気に変わった。御簾の向こうから現れる中村福助の八条女院は、扇と声で雅やかな風をふかせた。第二景では虫の精や、勸玄とぼたんの蝶の精たちの踊りが、おとぎ話のような世界をみせる。第三景は、松明や力強い足踏みを響かせる踊りも。全体をパッと照らすのとは一味違う、洗練された照明デザインも効果的。群舞でも一人ひとりの表情が印象に残った。その中央で、海老蔵の仲国が疫病退散、天下泰平の祈りを捧げる。舞台には、いっぱいの俳優たち。大勢に囲まれるほど、埋もれるどころか際立ってくる存在感。桜が舞いつづけ、拍手が鳴りつづけた。『夏祭浪花鑑』で手に汗を握らせ、『仲国』の非日常的な華やかさで歌舞伎座から送り出してくれる第二部だった。

第二部『仲国』(左より)男蝶の精=堀越勸玄、仲国=市川海老蔵、女蝶の精=市川ぼたん /(C)松竹

■第三部 18時30分開演

菊之助が米吉と立ち上げる『風の谷のナウシカ』

2019年11月に新橋演舞場で初演された新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』が、初めて歌舞伎座で上演される。

客席に「東西東西」の声が響き、尾上右近の口上で始まる。ナウシカの世界のキーワードとなる「瘴気(しょうき)」「腐海(ふかい)」「王蟲(オーム)」や、「トルメキア」と「土鬼(ドルク)」の関係が解説される。さらに映画版の冒頭でもみられるタペストリーが、歌舞伎座の緞帳のスケールで登場。世界の繁栄と終わりを伝えた。右近の美声に聞き惚れる方もいるだろうが、原作を読んだことがない場合は、説明をよく聞き情報のインプットにつとめたい。和楽器でアレンジされたテーマ曲とともに幕が開く。

第三部『風の谷のナウシカ』(左より)ユパ=坂東彌十郎、ナウシカ=中村米吉 /(C)松竹

再演ならではの見どころは、新たなキャスティングと新たなシーンだ。坂東彌十郎がユパ役で初参加。菊之助の長女・知世は、幼い頃のナウシカを自然体で勤め健気な姿で涙を誘う。丑之助は指の先から目線まで、研ぎ澄まされた集中力で重要なシーンの所作事を全うした。

第三部『風の谷のナウシカ』(左より)ナウシカ=中村米吉、幼き王蟲の精=尾上丑之助 /(C)松竹

菊之助は、副題『白き魔女の戦記』の白き魔女ことクシャナ殿下を勤める。ナウシカ役には、米吉が抜擢された。米吉のナウシカは、声も振る舞いも少女のよう。姫の立場でありながら、風の谷で皆から愛されるのも納得の親しみやすさと、敵に向けた少年のような鋭利な怒りが、まさにナウシカ。ビジュアルは、説明不要のナウシカだった。

第三部『風の谷のナウシカ』クシャナ=尾上菊之助 /(C)松竹

菊之助のクシャナは、皇女のオーラをまとう。マントを翻し闊歩する横顔の美しさ、軍を率いる力強さ。気高く美しい佇まい、優しい面差し、立役に近い声色。部下たちにみせる包容力と、毒によって気がふれてしまった母親への報われない愛慕。内外のアンビバレンスが、クシャナを立体的にする。今回新たに加えられた、母親との場面は、ようやくできた心のかさぶたが、剥がされるような痛みをのこした。

第三部『風の谷のナウシカ』(左より)トルメキアの王妃=上村吉弥、クシャナ=尾上菊之助 /(C)松竹

上演時間に制約があるため、初演からカットされた場面もあるが、そこはマニ族僧正の中村又五郎や、土鬼軍司令官チャルカの中村錦之助など、初演に続く俳優陣が、それぞれに色濃く発する異質の存在感で、劇中の世界の多様性と混乱ぶりを表していた。

歌舞伎のメソッドがあるからこその『風の谷のナウシカ』だった。そして初演があったからこその、深化があった。米吉のナウシカは、幕切れにメーヴェを操り風にのって飛んでいく。劇中も現実も、決して明るいばかりの世界ではない。それでも舞台上のクシャナたち、そして席から見上げる観客たちに、希望を感じさせるナウシカだった。

歌舞伎座『七月大歌舞伎』は、29日までの公演。

取材・文=塚田史香

公演情報

『七月大歌舞伎』
日程:2022年7月4日(月)~29日(金) 休演 11日(月)、20日(水)
会場:歌舞伎座
 
【第一部】午前11時~
近松門左衛門 原作より
文耕堂・竹田出雲 原作より
勝諺蔵 原作より
奈河彰輔 脚本
石川耕士 補綴・演出
市川猿翁 演出

三代猿之助四十八撰の内
通し狂言 當世流小栗判官(とうりゅうおぐりはんがん)
市川猿之助 市川笑也 天馬にて宙乗り相勤め申し候
 
小栗判官/浪七:市川猿之助
照手姫:市川笑也
矢橋の橋蔵/横山太郎:坂東巳之助
万屋娘お駒/岡村采女之助:尾上右近
横山三郎:市川男寅
遊行上人弟子一眞:寺嶋眞秀
横山次郎:市川青虎
横山太郎女房浅香:中村梅花
旅女房およし:市川寿猿
後家お槙:市川笑三郎
横山大膳:市川猿弥
鬼瓦の胴八:市川男女蔵
浪七女房お藤/上杉安房守:市川門之助
遊行上人:中村歌六

【第二部】午後2時40分~
 
並木千柳 作
三好松洛 作

一、夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)
住吉鳥居前
三婦内
長町裏
 
団七九郎兵衛:市川海老蔵
一寸徳兵衛:市川右團次
お梶:中村児太郎
琴浦:中村莟玉
伜市松:堀越勸玄
玉島磯之丞:大谷廣松
下剃三吉:市川九團次
三河屋義平次:片岡市蔵
おつぎ:市川齊入
堤藤内:市村家橘
お辰:中村雀右衛門
釣舟三婦:市川左團次

二、新歌舞伎十八番の内 雪月花三景(せつげつかみつのながめ)
仲国
 
仲国:市川海老蔵
女蝶の精:市川ぼたん
男蝶の精:堀越勸玄
虫の精:市村竹松
同:大谷廣松
同:市川男寅
同:中村莟玉
同:市川九團次
小督局:中村児太郎
仲章:中村種之助
八条女院:中村福助
 
【第三部】午後6時30分~
 
宮崎駿 原作(徳間書店刊)
丹羽圭子 脚本
戸部和久 脚本
G2 演出
尾上菊之助 演出
尾上菊之丞 演出・振付
スタジオジブリ 協力

風の谷のナウシカ(かぜのたにのなうしか)
上の巻
―白き魔女の戦記―
 
クシャナ:尾上菊之助
ナウシカ:中村米吉
アスベル/口上:尾上右近
ケチャ:中村莟玉
幼き王蟲の精:尾上丑之助
幼きナウシカ:寺嶋知世
ラステル:上村吉太朗
クロトワ:中村吉之丞
ミト:市村橘太郎
トルメキアの王妃:上村吉弥
ジル:河原崎権十郎
城ババ:市村萬次郎
チャルカ:中村錦之助
ユパ:坂東彌十郎
マニ族僧正:中村又五郎
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