演出家・振付師としても活動 奥山寛に聞く、役者と演出家それぞれの活動の根底にある想い /『ミュージカル・リレイヤーズ』file.12
『春のめざめ』と重なって見えた、今の日本の姿
――奥山さんは今、ドイツ戯曲を原作としたミュージカル『春のめざめ』の演出をされています。先日のトニー賞でオリジナルキャストによるパフォーマンスもありましたが、いかがでしたか?
初演のメンバーによるパフォーマンスということにものすごく感動しました! しかも選曲が「Touch Me」というナンバー。この作品の中でおそらく一番メッセージ性のある曲だと思うので、その選曲にもすごく感動しましたね。
――2022年7月に浅草九劇での『春のめざめ』上演に至ったきっかけは?
これまでにも『春のめざめ』をやらないか、という話をいろんなところからいただいていたんです。なので、最初は「みんな『春のめざめ』やりたいんだなあ」くらいに思っていたんですよ(笑)。ただ、僕はこの作品がすごく好きでした。劇団四季さんで上演された際(2009年〜2010年)に観劇したんです。当時はロック・ミュージカルとしてもセンセーショナルな作品だったので、かなり鮮明に記憶に残っています。
――今この作品を上演する意味をどう捉えていらっしゃいますか?
この物語は1891年のドイツの少年・少女たちの悲劇。それは彼ら自身の性への無知や大人の無理解から始まっています。保守的な大人たちの姿が、今僕たちが生きる世の中とほとんど変わっていないなと思うんです。政治は一部の人たちによって流れていて、僕たちはそれについていかなければならない。戯曲を読んだときに、そんな日本の姿がこの作品の大人と子どもの関係性に重なって見えたんです。今はコロナ禍だったり、こんなに暑い日が続いているのに節電が叫ばれていたり、理不尽なことが多いですよね。理不尽なことだらけな世界というのも、この作品に繋がっていると思います。だからこそ、今やる作品はこれなんじゃないかなと。
――上演に向けてオーディションも開催されました。配役にあたってどういうところを重視されましたか?
実技はもちろんのこと、“キャラクターに合うか”というところを重視しました。オーディションって基本的に一発で合否が決まってしまうんです。例えば1回しか歌えない、1回しか踊れない。そのたった1回に懸けるしかないんですね。そういう一発勝負では実力が出せない子もいるかもしれないと思ったので、今回はワークショップ形式でオーディションを開催しました。約5日間のワークショップで、みなさん精一杯力を出してくれましたよ。ただ、自分が受ける側のときは未だに慣れないし緊張しちゃうんですけどね(笑)。緊張のせいで、オーディションのときのことはあまり記憶に残っていないんです(笑)。
――キャストは「WEST」と「EAST」という2チームに分かれていますが、それぞれどんな違いや魅力がありますか?
もちろんどちらのチームもいいんですけど、色味が全然違いますね。全体のバランスを見て2チームに分けたのですが、WESTの方が年齢層が少し上で、EASTの方が少し若いんです。WESTはしっかりと腰が座っていて、ドシっと落ち着いた感じのエネルギーがありますね。EASTはパワーとガッツがあって、溌剌としたエネルギーを感じます。
――お稽古は佳境かと思われますが(※インタビューは7月頭に行われた)、今はどんな様子ですか?
動きとしてはカーテンコールまでつけ終わっていて、これから劇場入りして舞台稽古が始まるところです。それにしてもみんな自主練がすごく好きで(笑)。稽古の前にも後にも残って、みんなであーだこーだ言いながら作品作りに臨んでいます。
ミュージカル『春のめざめ』2022年7月15日(金)開幕
――この連載では毎回、注目の役者さんを教えていただきます。奥山さんの注目の方は?
塚本直さん。ゴスペルグループ THE SOULMATICSのシンガーだった方です。ミュージカルは元々はやっていなかったそうなのですが、僕が『BKLYN』というミュージカルを演出したときにオーディションを受けに来てくれたんです。その後は『ビューティフル』をはじめいろんなミュージカルで引っ張りだこ! 彼女はものすごく強烈な歌声を持っているんですよ。ただ上手いだけじゃなくて、深みがあって、心を鷲掴みにされるんです。
――作品をお客様に届けることにおいて、役者と演出家の立場どちらにも共通する想いを教えてください。
全ての喜怒哀楽を含めて、何かしらの思い出や感動が心に残ってほしいなということですね。作品によっては帰り道に頭の中で曲が鳴り響いたり、素敵なシーンを思い浮かべたり、家に帰ってからも思い出や記憶がふわーっと残るようなものを届けられたら。
そして、これからもいろんな作品を通して今の社会へのメッセージを届けていきたいです。今回上演する『春のめざめ』では、「Song of Purple Summer」というナンバーを通して僕からのメッセージを組み込んでいます。受け取り方はお客様の数だけあると思いますが、たとえそうだとしても、何かしらのメッセージを届け続けていきたいなと思います。
取材・文=松村 蘭(らんねえ) 撮影=池上夢貢
奥山寛プロフィール
主な舞台出演作に、『ウエストサイド・ストーリー』、東宝『エリザベート』、『モーツァルト!』、『プロデューサーズ』、『レディ・ベス』、『ミス・サイゴン』。劇団☆新感線『ZIPANG PUNK~五右衛門ロックⅢ』、『髑髏城の七人 season鳥』等多数。
振付家として、CM、ドラマ、初音ミクライブ世界配信 等を担当。
主な演出作品に、『tick, tick...BOOM!』、『蜘蛛女のキス』、『スペリング・ビー』、『BKLYN』、『KID VICTORY 』等がある。
【Twitter】@hiro_okuyam