味方良介、石田明、北野日奈子らがつかこうへいの傑作を全身全霊で演じる 『蒲田行進曲完結編 銀ちゃんが逝く』会見&ゲネプロレポート
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東映京都撮影所では「新撰組」の撮影が進んでいる。初の主演映画に意気込むスター俳優・銀ちゃんこと倉岡銀四郎(味方良介)は、大部屋俳優所属の子分・ヤス(石田明)に、妊娠している自分の恋人・小夏(北野日奈子)を押し付ける。ヤスは銀ちゃんに見せ場を作り、小夏の出産費用を稼ぐために危険な「階段落ち」に挑む。
しかし、ヤスが命をかけたことで生まれた娘のルリ子は不治の病に冒されていた。そして、愛情を持って家族に接するヤスだが、小夏は心からヤスを愛することはできなかった。銀ちゃんは自分の貧しく卑しい生まれの血のせいでルリ子が病気になってしまったのではないかと苦悩する。
そんな中、新たに「新撰組」の撮影が始まる。銀ちゃんは「俺の命と引き換えに娘の命を助けてくれないか」と祈りながら、一世一代の「函館五稜郭の石階段落ち」に挑む。果たして銀ちゃんの祈りは届くのか――。
物語は石田演じるヤスの独白から始まる。会見で石田が語った通り、舞台上にセットらしいセットはほとんどない。だが、力のある台詞と役者の熱演、照明や音響によって様々な光景が見えてくる。時折現代に合わせた小ネタやブラックな笑いを差し込みながら怒涛の勢いで紡がれる物語に、演劇、そして作品が持つ力をまざまざと見せつけられた。
ヤスと監督の台詞の応酬からそれぞれが抱く銀ちゃんへの深い愛情が伝わってくる中、白いスーツに赤いシャツで決めた大スター・銀ちゃんが登場。登場しただけであたり一面が照らされるようなオーラと自信に満ちた表情、よく通る声。味方は「大スター」という言葉から想像する通りの佇まいで堂々と存在し、作中の人々も、客席にいる観客のことも魅了していく。
今やつか作品に欠かせない存在となった味方だが、特筆すべきはやはり滑舌の良さだろう。猛スピードで紡がれる膨大な量の台詞にもどこか余裕と品があり、この貫禄こそが銀ちゃんがスターたる所以なのだと納得させられた。それでいて生まれへのコンプレックス、小夏やヤスに対する矛盾を孕んだ愛情など、ダメな部分や弱さもしっかりと伝わってくる。
銀ちゃんを一心に慕う大部屋俳優・ヤスは、一生懸命な健気さが眩しく悲しい。石田は映画への情熱や小夏への愛情を全力で表現。鬱屈した思いを抱えつつ、それ以上に銀ちゃんを愛し心酔するヤスを熱量たっぷりに演じる。何度も踏み躙られ、傷付けられながらも銀ちゃんが好きで、銀ちゃんに一番のスターでいてほしいと願うヤスの姿は滑稽だが美しい。
北野は凛とした瞳が印象的。スター女優らしい高飛車な雰囲気と笑顔のギャップに惹きつけられる。銀ちゃんへの愛情、子供を産みたいという思い、ヤスへの信頼といった感情の間で揺れながらも必死に生きる彼女の強さを美しく魅せるとともに、ひとりで語るシーンもしっかり演じ切り、女優としてのポテンシャルを見せてくれた。
高橋演じる若山先生、細貝演じる中村屋もそれぞれタイプの違うスターらしさを見せており、その対比や各自が抱える事情、思いにも胸を打たれる。細貝はどっしりとした佇まいで舞台上の空気を引き締めつつ、歴史ある家を背負う責任と苦悩を繊細に描き出す。高橋は破天荒さでくすりと笑わせ、周りを一歩引いたところから見ているような言動で安心感を与えてくれる。
銀ちゃんの弟・ケンとして必死に食らいつく中本の熱演も見逃せない。兄への対抗心や憤りを全身でぶつける彼の存在が銀ちゃんの過去を際立たせる。
また、銀ちゃんのことが大好きな大部屋俳優たち、監督やカメラといったスタッフたちもメインとなる銀ちゃんたちに負けない熱を放ち、物語に奥行きを与えている。
それぞれの主張や行動は理解し難い部分もあるが、狂気すら感じられる情熱や業にどうしようもなく惹かれるのもまた事実。「完結編にして完全版を目指す」という言葉通り、十三回忌に相応しい作品を、ぜひ劇場で見届けてほしい。
『蒲田行進曲完結編 銀ちゃんが逝く』は7月8日(金)より7月18日(月・祝)まで、『初級革命講座 飛龍伝』は7月23日(土)から25日(月)まで、いずれも紀伊國屋ホールにて上演される。また、つかこうへいの命日である7月10日(日)は十三回忌特別公演が行われるほか、『初級革命講座 飛龍伝』ではOB、OGによるトークショーも開催される。
取材・文=吉田沙奈 写真=オフィシャル提供
公演情報
■日程:2022年7月8 日(金)~7月18 日(月祝)
■会場:紀伊國屋ホール
■会場:紀伊國屋ホール