江口のりこらストレートプレイ中心の俳優とともに、長塚圭史が取り組む意欲作! KAAT神奈川芸術劇場プロデュース ミュージカル『夜の女たち』製作発表レポート

レポート
舞台
2022.7.16
前田敦子、江口のりこ、伊原六花(前列右から)、北村有起哉、大東駿介、前田旺志郎、長塚圭史(後列右から)

前田敦子、江口のりこ、伊原六花(前列右から)、北村有起哉、大東駿介、前田旺志郎、長塚圭史(後列右から)


戦後間もない大坂釜ヶ崎(今のあいりん地区)を舞台に、空腹と、全く新しい価値観の中で必死に生き抜く女性たちとその時代を描いた、溝口健二監督の映画『夜の女たち』。長塚圭史が、この溝口監督による『夜の女たち』を初の舞台化、しかもミュージカルとしてつくりあげる。

2022年7月15日(金)、製作発表会見が行われ、長塚のほか、そして出演者の江口のりこ、前田敦子、伊原六花、前田旺志郎、大東駿介、北村有起哉が登壇した。

あえてストレートプレイを中心に活動している人をミュージカルに

長塚圭史

長塚圭史

ーー企画の意図や作品への想いをまずはお聞かせください。
 
長塚圭史(以下、長塚):今作は1948年に溝口健二監督が撮った『夜の女たち』という作品を原作、題材としております。この作品を観た時の衝撃が忘れられなかったんですね。1948年ですから、まだ日本がアメリカの占領下にあった時代です。その時代にこの映画、まさにその釜ヶ崎で撮られていて。実際にその当時は街娼ですね、身体を売る女性たちが立っていた。

田中絹代さんの主演で、そこに実際に撮影に行って撮られているわけなんですけれども、これがほとんどドキュメンタリー映画のように見える。依田義賢脚本の劇映画なんですけれども、これがほとんどドキュメンタリー。こういうある種映画作りだったりとか、ある社会の逆転の中に生きている、その状況下に置かれた日本の社会というのが、まざまざとある角度から描かれていて。

僕は1975年生まれですが、あんまりその占領下の時代ということについて、はっきりとした教育を受けてない印象があります。もちろん教科書的には分かっているんですけども、その時代がどうあったかということが、何か切り離されてしまっているところがあって。あの時代が確実にあって、そこから僕らの現在に繋がって。

今年、沖縄が復帰して50年になりますけども、やっぱり大戦からある歴史が脈々と繋がっている。その中で占領下にあったということ、ましてや沖縄のことを考えれば、現在に確実に繋がってるんですよね。このことが忘却の彼方にいってしまってはいけない思いが、まずこの作品をどうにかしなければ、何かにしたいなと思った入り口でした。

前田敦子、江口のりこ、伊原六花(右から)

前田敦子、江口のりこ、伊原六花(右から)

長塚:どうしようかと思ったとき、やっぱり勉強のない作品になってはいけないなと。なので、何か方法がないかなと思った時に、ミュージカル。つらい時代なんですけれども、価値観がひっくり返って、自分たちが昨日まで正しいと思ったのが、まっさかさまにひっくり返るその時代を描くのに、ミュージカルだったら、その心の内を話すこともできるし、心のうちを歌い上げることもできるし、その時代の空気を歌にすることもできる。つらいけれども、社会が逆転して、そこでものすごいエネルギーを持って生きた人たち、ある種逆境のような状況をどうにかして生き抜こうとした人々の姿を鮮やかに描き出せるんじゃないか。そう思って音楽家の荻野清子さんにも相談しました。僕がKAATの芸術監督になったこともあって、劇場にその話を申し上げたところ、ぜひそれやってみましょうよ、と。

なおかつこのことを非常に優れた、ミュージカルの俳優さんたちとやりたいかというと、それはそれで素晴らしいなと思ったんですけど、いや、この時代、本当に日本人が新時代を迎えたところなので、皆これは、何かそういうことに長けてない、初めてミュージカルをやるような人たち、いわゆるストレートプレイを生業としている俳優たちと作ってみたらどうだろうと。歌がある種新鮮で、そういった人たちとやってみたらどうかと。セリフから歌へ。そういうことが当然じゃなくて、それがエネルギーを持って、歌へと転進することができるんじゃないかということで、編成してきました。

神奈川芸術劇場は、シーズンにタイトルを設けています。去年は冒険の「冒」がタイトル、今年は忘却の「忘」。その「忘」のシーズンの最初の作品になります。本当に今年ウクライナこともあり、やっぱり人間は様々なことを繰り返します。そのことをまた深く受けとめながら、でもやっぱり時代の変換期に、庶民が力強く生きたエネルギーを。暗い話のように見えますけれども、エネルギッシュに描きたいなというふうに思ってますので、皆様ぜひご期待いただければ幸いです。

>(NEXT)キャストが語る、作品の印象やカンパニーへの期待とは 

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