草彅剛から番家一路と原田琥之佑へ、「自然体」の演じ手が語ること 映画『サバカン SABAKAN』インタビュー
-
ポスト -
シェア - 送る
左から、草彅剛、番家一路、原田琥之佑 撮影=早川里美
夏の思い出はいつだってまぶしく、どこかノスタルジーも漂う。幼少期のものは、特に。大人になっても、親になっても忘れられない子供の頃の思い出。そんなひと夏の少年たちの経験を描いた映画『サバカン SABAKAN』が8月19日より公開中だ。
舞台は80年代の長崎、海の見える自然豊かな田舎町。小学5年生・クラスの人気者の久田孝明と、家が貧しくはみ出し者の竹本健次、デコボコなふたりがひょんなことから仲を深め、「イルカを見る」ために冒険に繰り出す。番家一路と原田琥之佑は演技初挑戦にして、少年期のリアルな感情をみずみずしく表現し、堂々のスクリーンデビューを飾った。大人になった孝明を演じたのは、草彅剛だ。日本アカデミー賞最優秀主演男優賞はじめ、数々の賞に輝いた『ミッドナイトスワン』以降、初の映画出演となった。ベテランの草彅は孝明として、輝かしい少年時代とままならない現在、交互に思いを馳せるさまで大人の郷愁を誘う。
取材が始まる前、草彅は番家と原田の姿を見るなり、「久しぶりじゃーん!」と相好を崩した。「何?お泊まり会したの?俺も誘ってよ、何だよ、混ぜてよ~!!」と、まるで同級生かのようにふたりに寄り添い、やや硬かった空気を一気にほぐす。草彅が撮影現場で見た、ふたりの少年の今しか醸し出せないものとは。作品への思いを中心に、ワイワイと鼎談してもらった。
番家一路と原田琥之佑の「自然体」
左から、草彅剛、番家一路、原田琥之佑 撮影=早川里美
――映画初出演の番家さん、原田さんの演技がとても自然で、友情と冒険のストーリーにぐっときました。
番家・原田:ありがとうございます!
草彅:本当に良かったよ!
――草彅さんは、おふたりのシーンをどうご覧になりましたか?
草彅:「どうしてあんな良くなったの?」って聞きたくなるぐらいですよね! ふたりとも、監督と一緒に長い間長崎にいたんだよね。
原田・番家:はい。
原田:1ヶ月ちょっと、かな。
草彅:だから、もう“そこの子”になってたよね。演技をしたことがないがゆえに、何かが“出てきちゃう”というか。それを、(金沢知樹)監督がうまくすくいとっている感じがしましたね。演技をしたことのないふたりに、こんなに長く、あんなに大きなスクリーンの中にいさせるって、ある意味では挑戦だと思うんですよ。(番家と原田に)大挑戦だな、お前たち! 僕、演技したこといっぱいあるけどさ、あんなに長い間撮られていたら、緊張しちゃって間が持たないよ! でもふたりは自然な感じだったから、どうやってたのか教えてもらいたい。
(C)2022 SABAKAN Film Partners
――ぜひ教えてもらえますか?
原田:ほら、一路、一路。
草彅:監督にいろいろ言われたの?
番家:いろいろ叩き込まれました。
草彅:叩き込まれたんだ(笑)。でも、叩き込まれたわりには、叩き込まれたような演技をしてない。自然なんだよなぁ。叩き込まれたけど、右から左に全部聞き流していたんじゃないの?
一同:(笑)。
草彅剛 撮影=早川里美
草彅剛 撮影=早川里美
原田:僕はほとんど指導されなかったんですが、監督に「自然にやっていいよ」と言われたので、緊張しましたが自由に向き合うことができました。
草彅:そうかあ……自然な感じなんだよね。監督が脚本を書いていますもんね。監督、初メガホンだから、ちょっと気合いが入ってたんじゃないかな(笑)。監督の地元で、監督の知り合いがロケハンしてくれたりしたから、チームワークも良かったんじゃないですかね。みんなで、手作りでつくったような映画というか。もう、今のふたりだと、たぶんああいう演技はできないと思うし。
原田:できないです。
番家:うん。
番家一路 撮影=早川里美
番家一路 撮影=早川里美
草彅:“ひと夏”のいいところがすごく出ていますよね。これから売れっ子になるよ、おまえら! あれ? もう売れっ子なんじゃないの? 仕事いっぱいしてんの? すごいな!
番家・原田:(うれしそうに見合う)
――番家さん、原田さんは、大先輩にあたる草彅さんから教わったことなどはありましたか?
番家:あ、教わったことは特にありません!
原田:教わったことは……ないですね。
草彅:(笑)。そうそう、何も教えなかったもんな。あまり(直接共演する)時間なかったからな。
原田:初めて会ったときは水族館で。
番家:写真を撮ったぐらい?
原田:あと、水族館でお話しする機会がちょっとだけあって。そのときに、草彅さんはすごく優しくしてくれました。いろいろしゃべってくれたり、僕たちの気が軽くなるように、自然体になれるようにしてくれました。
原田琥之佑 撮影=早川里美
原田琥之佑 撮影=早川里美
――草彅さんは、本当にコミュニケーションを取るのがお上手なんですね。
草彅:いや、小さい子と共演することが多いから、それもあるんじゃないですかね。甥っ子も姪っ子もいますし。あとは、基本的に僕自身が幼稚だから、大人といるより子どもといるほうが楽しいし、楽なんですよ。本当にふたりはしっかりしているから、逆に僕のほうが子どもじゃないかって思うくらいで。
――草彅さんも10代から芸能活動をされていますが、昔のご自分と照らし合わせたり、「大人にこう接してもらったな」と思い出したりもされましたか?
草彅:テレビ局の人によく怒られていたなって、思い出します(笑)。「ちゃんと立ち位置立てよ!」「なーにやってんだよ!」みたいなことを言われていましたから。ふたりとは、全然できが違いますよ。右も左もわからなくて、画面の構図とかもわかんなくて、はみ出ちゃったりするレベルだったんで……よくやっていたなって思います。でも、今、僕、活躍しているからいいんです。「活躍している」って、自分で言っちゃったよ(笑)。
番家・原田:(笑)。
左から、草彅剛、番家一路、原田琥之佑 撮影=早川里美 撮影=早川里美
――おふたりの演技をご覧になって、草彅さんが俳優として気がついたことなどはありましたか?
草彅:やっぱり演技は経験じゃないんだなって、あらためて思いました。本当に、ふたりとも最高ですからね。(舞台となった)80年代って、リアルタイムで知らないでしょう? キン消しとか知らないよね?
番家:知らない。
原田:全然知らない。
草彅:でも、当時の感じが出てたよ。だから、本当に面白いなと思います。知らない時代を演じているのに、その当時の子供に見えるわけで。すごいよ。ふたりが気づかせてくれたことが、すごくあったよ。
草彅剛がたどり着いた「自然体」
草彅剛 撮影=早川里美
――草彅さんの演技も、よく「自然体」と表現されます。経験がないゆえの「自然体」と、経験があっての「自然体」では違いがありそうですが、どう思われますか?
草彅:うーん……でも、考え込んでもしょうがないなって、思うんですよね。誰かに怒られるまで、そんなに真面目にやらなくていい、というか。人それぞれだと思うんですが、30代の頃には、台本を読んですごく考えていた時期もありました。今は「早くクルミ(愛犬)の散歩しないとな」とか思います。そのぐらいで考えたほうが、よりそのキャラクターになれると思うのが、今の僕です。
――30代と40代で、考え方に変化があったんですね。
草彅:はい。結局、元気が一番だし、元気があれば本当に何でもできると思うんですよね。例えば、考えて、考えて、夜遅くまで台本を読んでも、次の朝は疲れちゃうじゃないですか。「何度も読んだほうがその役になれるんじゃないか。そっちのほうがいいんじゃないか」と思いがちだし、安心できる気がするんですけど、フタを開けてみたら「長く読んでいる時間があるなら、早く寝ろ」という話なんですよ。寝たほうが、頭が整理されるから。だから、むしろ台本をそんなに読まないで、寝ているほうがずっといいというところに、僕は行き着きました(笑)。
(C)2022 SABAKAN Film Partners
――考え込みすぎてしまうよりも、ということですね。
草彅:舞台とか、いろいろな作品を経験した上で、台本を読み込む大切さも十分わかったので、次のステージはもうそこじゃないよ、というか。そういう時期ももちろんありましたけど、そこを抜けたのかもしれないです。「考えるより寝ようぜ! 煮詰まってもしょうがないぜ!」みたいな。そのほうが、リラックスできるんですよね。実際、年齢を重ねると、集中できる時間も短くなってきますし。長い時間をかけて台本を読んだとしても、結局、本当に集中しているのは10分か15分程度だと思うんです。でも、昔は体力があるから、1時間読んだら、1時間集中しているような気になってしまう。集中できる時間がどんどん短くなってきた今は、そんなにずっと読んでいても仕方ないから、あとは現場で何とかやろうぜ、という感覚になりました。なんか、俺ばっかりしゃべっちゃったね。俺、もう少しで48歳の誕生日なんだけどさ。どう?
左から、草彅剛、番家一路、原田琥之佑 撮影=早川里美
原田:あんまり……そうは見えないです。
番家:自分が48になったら、人前に出たら軽蔑されそうで怖い。
草彅:なんで? そんなことないだろ。
番家:何か言われそうで怖い。
草彅:時間が過ぎるのはすぐだから、やりたいことやったほうがいいよ! 俺から教えられることがあるとするなら、「2回瞬きしたら、48」だから。
番家:早っ!
草彅:だから、番家くんも原田くんも、好きなことを思いっきりやってほしい。あと身体は大事だから、元気だったらお芝居もできるから。
番家・原田:ありがとうございます!
草彅剛 撮影=早川里美
番家一路 撮影=早川里美
原田琥之佑 撮影=早川里美
――最後に、皆さんそれぞれのお立場から「ぜひここを観て!」というイチ押しポイントを教えてください。
番家:(尾野)真千子さん、竹原(ピストル)さんと、(実弟の)天嵩との、家族団欒のシーンです。まず、弟役の天嵩を叩くシーンがあるんですが、思い切り叩けたから痛快でした! あとは、家族で夜ごはんを食べる場面の、真千子さんの演技。すっごく面白くて、竹原さんと一緒にびびっていました。観てください。
原田:僕も、家族との団欒シーンが好きです。お母さん役の貫地谷(しほり)さんとのシーンは少なかったんですけど、兄弟と出るシーンが多くて。小さい子と、一路くんと僕が家で戯れるところは、愛おしいというか。観てほしいです。
草彅:もう、僕はいいんじゃないですか(笑)。子どもが中心の話なので、本当にふたりのところと、最後の海のキレイなシーンもいいと思います。長崎に行けて楽しかったですし、よければ、大人になった久ちゃんも観てほしいですね。
左から、草彅剛、番家一路、原田琥之佑 撮影=早川里美 撮影=早川里美
『サバカン SABAKAN』は公開中。
取材・文:赤山恭子 撮影=早川里美 衣装(草彅剛)=BLUE BLUE JAPAN/OKURA、HIGH! STANDARD