MASS OF THE FERMENTING DREGSは何故、コロナ禍を経た4年ぶりアルバムで全方位に振り切れたのか
――「1960」は8分28秒の大作、ストイックなグルーヴ、そしてほぼインスト。現代の日本のロックアルバムにではまずお目にかかれないタイプの曲。僕は大好きです。
小倉:この曲は、2013年ぐらいから宅録していた持ち曲だったんですよ。大元のネタとして、ずっとベースが同じフレーズで、ループさせて、それを3人で合わせたらどうなるのかな?と。そもそもこの曲のリフレイン自体が、僕が初めてマスドレを見た神戸のHelluva Loungeで……。
宮本:チョモ(Qomolangma Tomato/かつて小倉が在籍)と対バンした時やな。
小倉:その時のHelluvaの空気とかバンドの空気とかと、この曲の雰囲気がすごいマッチしてるなと思って、3人でスタジオでセッションして、何回か重ねて、録ったものを家でどんどん構築していったら、「これはバンドに還元できるな」と。
宮本:「出会った頃のマスドレのイメージもあって」という話をオグがしてくれて、めっちゃ納得したんですよ。バンドを始めて間もない頃のライブハウスのヤバイ空気とか。
小倉:どこのシーンにもない感じ。
宮本:そう。その感じがすごくわかった。そもそも、『No New World』では歌うことに集中できたから、次は歌わない曲を、声も楽器の一部みたいなアプローチで作れたら良いなと思ってたところで。「1960」を3人で作り始めた時に、「次のアルバムは絶対ヤバイものになる」と思いました。
吉野:お気に入りすぎて、最近のライブでは毎回やってます。イギリスでもやってきました。
――最高ですね。最初に聴いた時、カン(CAN)かと思いました。
宮本:あー、それ、みんな言う。
吉野:カンかノイ!ですね。クラウトロック。
宮本:私はその三つ、どの単語も知らんかったから、はじめみんなが何を言ってるのか全くわからなかった(笑)。
小倉:Helluvaの空気もクラウトロックみたいな、ちょっとサイケデリックな雰囲気があるんですよね。曲名の「1960」は、アルバムにどういう曲を入れるか?という話し合いの時に、「この曲はだいたい60年代だね」という話になって「1960」って書いたのをなっちゃんが気に入って、字面がいいからってそれに決まった。本当は70年代なんだけど(笑)。
宮本:これがいいと思ってごり押しちゃった。
――「1960」から「Helluva」へ、この4曲目と5曲目の怒涛の繋がりはアルバムの肝だと思います。ここが好きなら絶対にこのアルバムが大好きになれる。
吉野:ただ残念なことに、LPにすると分かれちゃうんですよ。A面B面に。
小倉:やっちゃった!と思って、曲順を再考したんだけど、絶対この曲順にしなきゃ駄目だなと思って。LPはまだ発売日も決まってないんですけど。
宮本:でも解決策として、ギターのフレーズのあとに別の音があって。
小倉:あれはミステイクなの。エフェクターが間違えて発振しちゃった。
宮本:サブスクやCDではそのエフェクトの音は切られてるんですけど、LPはその残響を残して、違う終わり方にしてます。それはそれでかっこいいから。
――小倉さんが初めてリードボーカル取った「Ashes」もいい曲ですよね。アルバムの中で一番ストレートでポップなギターロックって感じがします。
小倉:アルバムの最後にレコーディングしたのが「Ashes」と「Just」なんですけど、その2曲は甘い感じというか、ポップな感じにしたかったから。
吉野:「Ashes」はめちゃめちゃいい曲ですよ。
宮本:「Just」のイントロは、同期(音源)の逆再生なんですけど。オグが「同期入れんの、どうかな?」ってアイディアを出してくれて、あのフレーズを作ってくれて、一気に「これやわ!」ってなった。それから私がメロディを書いたんで、ちょっと面白い作り方になってます。
小倉:交換日記みたいな。
吉野:アルバムの中で一番最後まで練ってたよね。
――「Just」で同期音源を入れたのは、マスドレとして初めてという話も聞いてます。
宮本:初めてです。同期もんは好きですし、避けてきた訳ではないんですけど。めっちゃ自然な流れでしたね。「新しいことをやらねば」という話も一切なかった。
――すべてが自然発生的な。
宮本:本当にそうです。
吉野:たとえば「鳥とリズム」もそうだけど、経て、たどり着いたものというか、今が出したいタイミングだったんだなと思う。それがたまたま重なり合ってただけで、コロナだからとか、ライブやれなかったからとか、その間にどう作ろう?とか、そこはまったくないです。
小倉:でも若干影響してるのが、スタジオに入れないぶん、デモの作り方はけっこう変わりました。ドラムだけ録って、家でその他の楽器を重ねて、メンバーと共有して、音像をイメージするとか。離れていてもできることは、けっこうした。
吉野:それは確かにコロナの影響かもしれない。
宮本:せやな。作曲における作業のやり方は変わったというか。
小倉:それと、今回アルバムをがっつり作ろうという気持ちにメンバーがなった要因の一つが、前回の『No New World』がコロナ中にすごい聴かれたんですよ。海外で。
宮本:サブスクの爆発の仕方がすごかったよな。
小倉:TuneCoreから突然「チャートインのお知らせ」が届いて、「マレーシアのロックチャートのデイリー2位です」とか。
宮本:パナマとか、香港とか、謎なんですよ。なんでかな?という国で急にボーンと聴かれてて。せやな、それは大きいな。
小倉:作って、聴いてくれてる人がいるんだなということがめちゃくちゃでかかった。それがすごいモチベーションになった。今回配信から先に出した(配信:8月17日/CD:10月7日)というのは、『Arc Tangent Festival』より前に出すという目標のほかに、世界中で同タイミングで聴いてくれるということにみんな共通して自信があったから。
宮本:3人だけでやってて、どこかに宣伝を頼むとかもしてなくて、こんだけ聴かれるってなんでなんかな?って、理由が知りたいんですけど。でも『No New World』を出す時に、配信をやって、世界中に少しずつコアなファンの人がいてくれたら、それで私たちはやっていけるという話をしたのが、どんどん現実になってきていて、最高やなって思ってます。
吉野:マスドレって面白いですよね。絶対に面白いと思う。
――本当に好きな音楽を好きにやっていたら、時代に見つかっちゃったって感じかもしれない。
宮本:初めてちゃう? こんなに時代に沿ってるの。20年目にしてやっと(笑)。
吉野:コロナ禍で「New Order」のビデオ再生数が急に何万も上がったりして、なんだこれ?って。それはもう、海外に行って、ライブやって確かめるしかない。メキシコ、めっちゃ人気あるしね。
宮本:謎に人気あるんですよ。
吉野:今回のアルバムも、もう数字は出ていて、アメリカ、日本、イギリス、メキシコの順なんですよ。理由がわからないけど、行けば絶対にわかると思うから。
宮本:単純に、メキシコ行きたいから行きたいわ(笑)。
――いい話です。夢がある。
宮本:話してたことがちゃんと、少しずつ形になっていってるのはうれしいし、励みになりますね。次また作る気持ちにどんどんなっていく。この間のイギリスもそうやけど、今は自分の開いてなかったところが開いた感覚がめっちゃあって、そういう出来事があると曲ってできるんですよ。これから海外にもっと行けるようになったら、自分の知らなかった気持ちにまたどんどん出会っていくと思うので、それがまた励みになって進んで行けるんちゃうかなと思ってます。
吉野:僕の体が動くうちに。もう50ですから。
宮本:ほんまに、いさこんには元気でいてほしい。
吉野:体が動くうちにヨーロッパツアーをしないと。
小倉:16分(ぶ)から8分に落として、最終的に4分になる(笑)。ツッタン、ツッタンって。
宮本:それでもいいよ(笑)。やっぱり先が見えないと頑張れないし、その入り口がやっと見えたのが、この間のイギリスで。次またアルバムを作ってお話する時には、海外のめっちゃでかいフェスでやってるぐらいになっていたい。
吉野:そして俺は54歳になってる(笑)。
宮本:次は4年かからへんと思うよ。わからんけど(笑)。
取材・文=宮本英夫 撮影=大橋祐希
リリース情報
2022.8.17 Digital Release / 2022.10.7 CD Release
『Awakening:Sleeping』
2.いらない feat. 蛯名啓太(Discharming man)
3.MELT
4.1960
5.Helluva feat.Taigen Kawabe(BO NINGEN)
6.Ashes
7.After the rain
8.鳥とリズム
9.Just
ツアー情報
2022.9.18 [sun] at 大阪Pangea
open/start 18:00/18:30
adv/door ¥3500/¥4000+1drink
2022.9.25 [sun] at 新代田FEVER
open/start 18:00/18:30
adv/door ¥3500/¥4000+1drink
2022.10.2 [sun] at 神戸HELLUVA LOUNGE
open/start 18:00/18:30
adv/door ¥2500/¥3000+1drink