「初めての挑戦を通して僕自身も知らない自分に出会いたい」~中川大志が初座長を務める、音楽劇『歌妖曲~中川大志之丞変化~』製作発表レポート
『歌妖曲~中川大志之丞変化~』製作発表より
明治座、東宝、ヴィレッヂという、歴史もカラーも異なる三社の同年齢の男性プロデューサー三名によって立ち上げられた“三銃士企画”。2020年の第一弾はコロナ禍やアクシデントに見舞われながらも、漫画家・岡野玲子による『両国花錦闘士』を上演した。二年ぶりとなる第二弾は、『リチャード三世』と昭和歌謡界のマリアージュ。多くの歌い手が舞台に立ってきた明治座において、音楽と笑いとお涙頂戴揃い踏みの新作が上演される。作・演出を務めるのは、舞台やドラマなど幅広く活動する倉持 裕。主演は今回が初座長の中川大志。タイトルに名前が入っている通り当て書きされた役で、新たなステージに挑む。
昭和30年代の歌謡界に彗星のごとく登場し、瞬く間にスターダムに駆け上がった桜木輝彦(中川大志)。
そのベールに包まれた経歴の裏側には、戦後の芸能界に君臨する「鳴尾一族」の存在があった。
元映画スターの鳴尾勲(池田成志)が手掛ける、愛娘の一条あやめ(中村 中)と愛息の鳴尾利生(福本雄樹)は、スター街道を邁進中。
フィクサー・大松盛男(山内圭哉)が控え、今や世間からは、大手芸能プロダクションと謳われていた。
だが、そんな鳴尾一族にあって、存在を闇に葬られた末っ子がいた。
ねじ曲がった四肢と醜く引きつった顔を持つ、鳴尾定。
一族の汚れとして影の中で生き長らえてきた定は、闇医者の施術により絶世の美男子・桜木輝彦に変身を遂げ、 裏社会でのし上がろうとするチンピラ・徳田誠二(浅利陽介)と手を組み、同じく鳴尾家に怨恨を抱くレコード会社の女社長・蘭丸杏(松井玲奈)と政略結婚し、自身の一族に対する愛の報復を始める。
その血に……運命に……復讐を遂げるべく、桜木輝彦による唄と殺しの華麗なるショーが幕を開ける───。
製作発表会見には、作・演出の倉持 裕、主演の中川大志、松井玲奈、福本雄樹、浅利陽介、中村 中、山内圭哉、池田成志の8名が登壇した。また、質疑応答の途中で“宣伝部長”を務める徳永ゆうきも登場。取材陣に名刺を配りながら本作をアピールし、会見の様子を写真に収めるなど、さっそく宣伝部長としての活躍を見せた。今後はSNSなどで稽古場の様子やオフショットを発信していくとのことだ。キャストならではの距離感や視点で発信される情報にも期待したい。
出演者で、“宣伝部長”も務める徳永ゆうきが登場
ーーまずは一言ずつご挨拶や意気込みをお願いします。
倉持:プロデューサー陣から「リチャード三世をベースに、昭和歌謡界を舞台にした芝居を中川大志くん主演でやってみないか」と提案され、それは面白そうだとすぐ了承しました。醜さのせいで虐げられてきたなる鳴尾定という男が美しさを手に入れ、桜木輝彦という芸名で芸能界をのしあがり、自分を冷遇してきた一家に復讐する物語です。キャストの皆さんの歌唱、中川くんの演じ分けが見どころになると思います。
中川:初めての挑戦で、久々に震えるほど緊張しています。三銃士企画の一作目を観劇した際、プロデューサーの皆様から一緒に舞台をやらないかというお手紙をいただき、そこからボイストレーニングなどの準備を進めてきました。未知の挑戦ですから、僕自身も知らない自分にたくさん出会えたらいいなと思っています。
松井:私が演じさせていただく蘭丸杏はとても格好良くて強くて悪い女性のイメージがあります。稽古をする中で彼女の正義と悪を理解し、お客さまに格好良い女性を見せていきたいです。
福本:リチャード三世を元にした話ということで、人間の醜い部分や愚かなところがたくさん出てきます。コロナ禍がいつ収まるかわからない世の中で溜まったマイナスな気分が少しでも晴れたり、後ろ向きな気持ちが浄化されたりする作品になれば良いなと思います。
浅利:僕は大志くん演じる桜木にとってセコンドのような関係。作品としては、自分の欲にまっすぐ向かっている人たちがたくさんいた時代だと感じるので、どれだけ練り上げられるか楽しみです。生バンドの音楽もあるので、それに乗りながら昭和の雰囲気を作れたら良いなと思っています。
中村:今回は音楽劇。いつの時代も、歌は不安や不満、憤りや憧れといった気持ちから生まれています。ご覧になった方も私たちも最高の憂さ晴らしになるよう、暴れ回ろうと思います。
山内:コロナ禍において、演劇は本当に厳しい状況下にあります。全公演、大千穐楽まで無事に走り抜けるのは大変。私も帯を締め直して公演に挑みたいと思います。
池田:昔、松尾スズキさんの『悪霊-下女の恋-』という舞台に出演した時、初日の公演で稽古中は思いもしなかった反応が返ってきて、受け取り方は様々なんだと勉強しました。今回も先入観を持たずに挑もうと思います。
中川大志
ーー自らが演じる役柄の印象を教えてください。
中川:台本を読んで想像しているのは、鳴尾定の姿が桜木輝彦に及ぼす影響。その逆もそうですが、一方の姿がもう一方に影響することがこのキャラクターのテーマになるんじゃないかと思います。憎しみや悲しみといったネガティブなエネルギーをどれだけ溜め込むかが重要なんじゃないかと考えています。
松井:杏は悲しさや悔しさを抱えている女性。その感情を剣のように振りかざす逞しさがあると感じます。
福本:僕は中川さん演じる定の兄で、定の希望であるような存在。スターでありながら自信のなさなど普通の青年のような悩みも抱えて葛藤しているキャラクターです。
浅利:徳田は親族がおらず、ご飯を食べるにも良い思いをするにも自分ひとりでどうにかしなきゃならない。鳴尾一家に対してちょっと良いなと思うところもあるのかなというのが見え隠れしています。あとはべらんめえ口調で、喋っていて心地良いですね。
中村:あやめは鳴尾家に生まれながらも、周りからの愛情が足りていないと思いながら過ごしている人間だと思います。あと、スターとして表舞台に立つ時と日常のギャップを出せたらいいのかなと。福田転球さんとの夫婦のやりとりの面白さなどを楽しく見せたいですね。
山内:昭和芸能において、ヤクザはすごく縁が深い存在。昭和感を表現できたらと思います。
池田:歳のせいか、最近は頑固でどうしようもない父親役ばかりです。また父親ですが、背景を考えると大映ドラマみたいな感じ。あれくらい振り切って演じようと思っています。
ーー倉持さんは、初のシェイクスピア作品です。
倉持:そうですね。ただ、リチャード三世をそのまま現代に持ってくるというよりは、分かりやすく骨太な筋立ての部分をお借りしたいという気持ちで作りました。
ーー初座長を務める中川さんについての印象を教えてください。
倉持:中川くんはすごく色々なことができるし、見る度に違う俳優だと思わせてくれる。何にでも化けられる人なので、今回も信頼して任せたいと思っています。
最後に中川は「僕自身、念願叶っての舞台出演です。昭和の芸能界自体は、僕の世代からすると新鮮な部分もあります。今はないエネルギーや色鮮やかでポップなファッション、カルチャー、音楽の印象。そこに血生臭さや内側から滲み出る温度を乗せて、観た方の深い部分に響く、熱量ある作品にできたらと思っています。僕自身、鳴尾定と桜木輝彦という役を通して、大千穐楽を迎える頃にどんな景色が見えるのか楽しみです。先輩たちの胸を借りて精一杯走り抜きたいと思っています」というコメントで締めくくった。
(上段左から)倉持 裕、山内圭哉、中村 中、池田成志、徳永ゆうき(下段左から)浅利陽介、松井玲奈、中川大志、福本雄樹
本作は2022年11月6日(日)より明治座にて東京公演がスタート。その後福岡、大阪でも上演される。
取材・文・撮影=吉田沙奈