キュートにパワフル、渡辺直美ミュージカル初主演作『ヘアスプレー』開幕

レポート
舞台
2022.9.20

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ジョン・ウォーターズの1988年の映画をもとに、2002年にブロードウェイ初演され大ヒットを飛ばしたミュージカル『ヘアスプレー』。2007年のミュージカル映画版も話題を呼んだこの作品の日本版の上演がついに実現した。主人公トレイシーを演じるのは渡辺直美。初日前夜のゲネプロを観た。

渡辺直美は、垂直に立てられたベッドに横たわったまま「♪Oh, oh, oh」と歌い出す名シーンがある幕開きナンバーの「Good Morning Baltimore」から、そのキュートさがトレイシーにぴったり。ビッグなボディにビッグな夢を抱えたトレイシーが無邪気に行動することで、周囲の人々が巻き込まれ、世界が少しずつ変わっていく、その芯たる存在をパワフルに描き出していく。演技は素直でストレート、ビヨンセの物真似で鳴らしただけあってダンスにも非常にキレがあり、そしてセクシー。みんなが惹きつけられていくトレイシーの魅力を描き出す上で説得力がある。そして何より、『ヘアスプレー』という作品の核となっている差別問題に真正面から向き合う姿勢に非常に好感が持てる。

1962年のアメリカ・ボルティモアが舞台となっているこの作品では、ポップでノリノリの楽しいナンバーの数々に乗せて、ルッキズム、人種差別といったさまざまな問題と、それを乗り越えていこうとする人々の闘いが描かれている。それら諸問題が今日においても決してすべて過去のものとはなっていないこと、だからこそこの闘いの物語は今の日本において上演される意味があることを、その演技は浮き彫りにする。

トレイシーが大好きなテレビ番組「コーニー・コリンズ・ショー」の月に一度の<ブラック・デー>の司会者“モーターマウス”メイベル役のエリアンナは、闘い続けることをやめないとの確かな覚悟がこめられた「I Know Where I’ve Been」で魂の熱唱を聴かせる。「You Can’t Stop the Beat」で芯になって歌い踊る際も、解き放たれた様がセクシー。メイベルの息子で、トレイシーにダンスを教えるシーウィード役の平間壮一は、どこか人生を達観している風情の演技、いい感じに力の抜けた手足の動きが印象に残る。トレイシーのライバルのアンバー役の田村芽実は、役への没入感がすごい。アンバーは、「コーニー・コリンズ・ショー」のプロデューサーである母ヴェルマ(瀬奈じゅん)の影響もあり、自らが選ばれし人間であることを信じてやまない特権意識の持ち主なのだが、その鼻持ちならなさを田村はキュートに体現して、トレイシーと対を成す。ピンクが基調の衣装もよく似合う。ヴェルマ役の瀬奈じゅんは、二幕において、自らの魅力を武器にのし上がってきたこの役柄の底意地の悪さをのぞかせた際の表情がセクシーだった。

トレイシーの憧れの人リンク役の三浦宏規、進歩的な思想の持ち主である「コーニー・コリンズ・ショー」司会のコーニー・コリンズ役の上口耕平は、踊りに魅力あり。トレイシーの親友ペニー役の清水くるみのとぼけたおかしみ。そして、トレイシーの母親エドナ役を演じて、山口祐一郎がチャーミングさを全開させる。ゴージャスなドレス、女性のメイク、似合う! トレイシーのよき理解者である父親ウィルバー(石川禅)と歌うデュエット「(You’re) Timeless to Me」は、ロマンティックなひととき。キャスト一丸となってのエネルギッシュなダンス・シーンも見どころの作品である。

取材・文=藤本真由(舞台評論家)

公演情報

ミュージカル『ヘアスプレー』
 
【日程・会場】
2022年9月19日(月)~10月2日(日) 東京・東京建物 Brillia HALL
2022年10月7日(金)~10月18日(火) 博多・博多座
2022年10月23 日(日)~11月8日(火) 大阪・梅田芸術劇場メインホール
2022年11月12日(土)~11月20日(日) 愛知・御園座
※9月17日(土)18:00、9月18日(日)13:00/18:00 は公演中止となりました。
 
【キャスト】
トレイシー:渡辺直美
“モーターマウス”メイベル:エリアンナ
リンク:三浦宏規
シーウィード:平間壮一
ペニー:清水くるみ
アンバー:田村芽実
コーニー・コリンズ:上口耕平
ウィルバー:石川禅
ヴェルマ:瀬奈じゅん
エドナ:山口祐一郎
 
スプリッツァー 川口竜也/ダイナマイツ 青野紗穂/ダイナマイツ MARIA-E/ダイナマイツ 原田真絢
プルーディー可知寛子/Mr.ピンキー アレックス カワモト/リトル・アイネス 荒川玲和
 
岡田治己 Kosuke 篠本りの 高瀬雄史 髙橋莉瑚 田川景一 堤 梨菜 東間一貴
福山葵衣 堀江慎也 MAOTO 松平和希 松谷 嵐 森田有希 柳本奈都子 八尋雪綺 
 
脚本:マーク・オドネル/トーマス・ミーハン
歌詞:スコット・ウィットマン
歌詞・音楽:マーク・シェイマン
 
演出:山田和也
翻訳:浦辺千鶴
訳詞:高橋亜子
 
音楽監督:八幡茂
振付:原田 薫、NOPPO(s**t kingz)、MEDUSA
美術:松井るみ
照明:高見和義
音響:山本浩一
衣裳:神田百実
ヘアメイク:宮内宏明
 
歌唱指導:山口正義、ちあきしん
稽古ピアノ:宇賀村直佳、若林優美
オーケストラ:東宝ミュージック、ダット・ミュージック
 
演出助手:末永陽一
舞台監督:北條 孝
 
アシスタント・プロデューサー:清水光砂
プロデューサー:尾木晴佳、馬場千晃
 
製作:東宝
 
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