声明×クラシック、異色の競演 音で紡ぐ「日本の祈り」と「世界の祈り」~九州真言宗教師連合法親会 導師×辻本 玲(チェロ)インタビュー

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2022.11.2
<真言宗声明>×<クラシック> HOPE for the future

<真言宗声明>×<クラシック> HOPE for the future

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苦しいとき、辛いとき……古今東西を問わず、音楽はそっと聴く人の心を癒やしてきた。コロナ禍や不安定な世界情勢の中を生きる私たちにとって、音楽は明日を生きるための祈りでもある。来る11月11日(金)、Bunkamura オーチャードホールで「祈り」をテーマとした異色のコラボ・コンサート『<真言宗 声明>×<クラシック> HOPE for the future』が開催される。第一部は、荘厳かつダイナミックな<真言声明>を、第二部は辻本 玲(つじもと・れい)のチェロ独奏と共に東京フィルハーモニーとの共演で、クラシック音楽を聴く。「日本の祈り」と「世界の祈り」を一流の演奏で聞き、活力と癒しを得る貴重な機会になりそうだ。混沌とした現代社会にあって、人の心を励まし、世界平和を願う音楽の力を改めて信じたい。今回の異色コンサートに向けた想いを、出演する堤導師と辻本氏に聞いた。

声明で力強い「檄(げき)」を聴く 

九州真言宗教師連合法親会(C)椎原一久

九州真言宗教師連合法親会(C)椎原一久

――今回のコンサートでは、第一部で声明(しょうみょう)が演奏されます。読者の中にも声明を知らない方がいらっしゃると思いますので、まず、声明とはどういったものなのかを教えていただけますか。

堤導師:現代の日本では、漢字で「声明」と書いたら、普通は「せいめい」と読みますね。「総理大臣が声明(せいめい)を出した」のように。でも、ここでは「しょうみょう」と読みます。お経に音程が付いたもので、古代インドの五明(ごみょう)という学問のなかの一つが起源です。

――その後、声明はどのように発展していくのでしょうか。

堤導師:インドから中国に伝わり、三国時代、曹植という人が魚山(ぎょざん)という場所で、お経を音楽にしてみようとして始めたのが、現在の声明に繋がっていきます。中国では、今でも魚山声明と言いますね。その後、日本に伝わってきたのですが、その頃の声明には、楽譜、つまり「ドレミファソラシド」がありませんでした。ですから、「高くあげる」や、「低くさげる」といったものは全て口承で伝えられてきました。声明の音階は、「呂(ろ)」と「律(りつ)」の二種類がメインです。「呂律(ろれつ)が回らない」という言葉もここから生まれました。「呂」と「律」は民謡や詩吟などへも繋がっていきますので、声明は日本の民族音楽の原点といえます。

――今回のプログラムで披露される声明は、どういった意味をもつのでしょうか。

堤導師:今回は大般若転読を唱えます。人々に激しく、強く「頑張ろうぜ!」という檄(げき)を投げかける声明ですね。大般若転読の東京公演は初めてですが、今の時代を踏まえて、お祝いではなく、皆が元気を出して頑張るというところを出そうと考えました。お寺では大般若転読法要とよんでいるものです。

九州真言宗教師連合法親会(C)椎原一久

九州真言宗教師連合法親会(C)椎原一久

――大般若転読はいくつもの曲で構成されていますね。詳しく教えてください。

堤導師:そうですね。法要にも起承転結があって、まず、「庭讃(ていさん)」、「散華(さんげ)」、「表白(ひょうはく)」というものが唱えられます。「庭讃」は、法要の始まり。皆がざわめいているところに、「静かにして、私たちを見て」という意味合いで一番大きな声を出します。続く「散華」では、花びらが撒かれ、華やかさがあります。「表白」は、大般若転読を行う意味を告げるものです。そしていよいよ、メインとなる「大般若転読」が始まります。不空三蔵がインドから持ち帰った経典を一気に唱えます。通常は20~30人の僧が600巻もある経典を、一人30巻くらいずつ、ばーっと唱えていきます。今回は、14、5人で唱え、檄を起こしていきます。「大般若転読」を終えた後に、「般若心経・不動真言」という「みんなで祈ろうよ」という内容を、最後に終了を告げる「称名禮(しょうみょうらい)」を唱えます。

――声明のひとつの魅力は力強い声にあると感じていますが、僧侶の方は日頃から声明の訓練をされているのでしょうか。

堤導師:今回出演するのは、全員が「声明師(しょうみょうし)」です。すべての僧侶が修行中に声明を習いますが、より深く興味をもった方が研鑽していく中で、選ばれた僧侶が声ひとつになるまでお唱えしていきます。いくら公演に出仕したいと来られても、声が研鑽されていない場合はお断りすることもあります。

――今回は、声明を、コンサートという形でお客様に向けて歌うわけですが、どんなことを大切にされているのでしょうか。

堤導師:お葬式のときの穏やかでしめやかな声と、コンサート会場での声は違います。今回のように檄を飛ばすコンサートでも、声は変えます。声明の音域には、初重(しょじゅう)、二重(にじゅう)、三重(さんじゅう)というのがあって、今回は、遠くに響かせるために、キーとなる声を高々とお唱えしていきます。

――それは一層パワーがもらえそうですね。

堤導師:そうですね。普通なら初重だけで十分なのですが、研鑽を重ねてきた声明師だからこそ、二重、三重まで声を上げることができるのです。

>チェロ独奏がもつ癒しの力

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