XIIX LIVE TOUR「SANITY」  2022.10.20  LINE CUBE SHIBUYA 10月20日、“テントゥエンティ”の日に渋谷でXIIXを観た。2022年はアルバムリリースこそなかったものの、初夏に二人きりのツアー『in the Rough 1』を、夏に初のフィーチャリングゲストを迎えた「まばたきの途中 feat. 橋本愛」「スプレー feat. SKY-HI & 谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)」と2作を配信リリース、そして収穫の秋にバンド編成のツアー『SANITY』と、アクティブなスタンスで我々を楽しませてくれた。そんな充実の1年を締めくくる、今日はツアーファイナルにして3回目の結成記念日。素晴らしいライブになる予感しかない。 ふらりと、といった雰囲気で二人がステージに現れ、須藤優がおもむろにファンキーなリフを弾き出すと、すかさず斎藤宏介が多彩なエフェクトを駆使したエレクトリックギターで応じる。二人の会話がそのまま音になったような饒舌なインタープレイをイントロ代わりに、アップテンポのファンク/ロックチューン「ハンドレッドグラビティ」へとなだれこむ。わずか2,3分で緊張感と集中力をマックスへと高める、実にスリリングなオープニング。 「テントゥエンティです。よろしく」 斎藤の短い挨拶に続き、サポートメンバーが加わった5人編成のバンドで奏でる「Stay Mellow」、そして「ilaksa」。ファーストアルバム『White White』の楽曲は、ライブで演奏し続けることで明らかにラウドでパワフルに成長している。須藤は生ベースとシンセベースを器用に使い分け、斎藤はリズムもリードもばりばり弾き倒しながら、一音たりとも歌のメロディを外さない。5人が入り乱れる、カオティックな楽器バトルが聴ける「ilaksa」の迫力もすごい。かと思えば「おもちゃの街」の、ノスタルジックな哀愁あふれるポップな歌もの路線があたたかく胸に沁みる。大胆と繊細、スリルと包容力。生きているバンドサウンドの脈動がしっかり伝わる、これがXIIXのライブパフォーマンス。 「今日はだいぶ久しぶりのバンド編成でお届けします。スペシャルなミュージシャンを連れてまいりました。いろんな音楽を、いろんな気持ちで歌いたいと思います。同じライブでも違った感情や景色を一緒に見たいと思っていますので、最後までよろしくお願いします」(斎藤) ドリーミーなエレクトリックピアノの音色がリードするメロウな曲調が、突如強烈に歪んだエレクトリックギターソロで眠りを覚まされる。「ZZZZZ」のトリッキーな構成は、いつ聴いてもスリリングでかっこいい。明るいディスコビートに彩られた「LIFE IS MUSIC!!!!!」では、須藤がステージ前に歩み出てオーディエンスにクラップをうながし、笑顔で斎藤と目くばせを交わす。さらに「E△7」「No More」と、明るく華やかなムードの楽曲を連ねてオーディエンスを心地よい一体感へ導く、セットリストの流れがとてもスムーズ。 「一つ言えるとしたら、このツアーのために生まれて来たということです」(須藤) ツアー、どうだった?という斎藤の問いに対する、須藤の当意即妙の返答に涼やかな笑いと拍手が起きた。斎藤が「すごく実りのあるツアーでした」と付け加え、「本来こっちが与える側なのに逆にもらってばかりで」と、オーディエンスに感謝の言葉を伝えた。7月に配信リリースされた新曲「まばたきの途中」は、永遠の愛を願う切実なラブソングだが、ライブで聴く斎藤の歌はどこまでも軽やかで優しい。メロウなR&Bスタイルの楽曲を、太くシンプルなリズムで支えるバンドがいい。まばゆいミラーボールの光が降り注ぐ下、まばたきするのももったいない素敵な光景。 ライブ中盤は、1曲ごとに鮮やかにシーンが変わってゆくカラフルな展開になった。星を枝に宿した大樹のような美しい映像をバックに、静かなパートから分厚いバンドサウンドへとゆっくりと熱を帯びてゆく「ホロウ」。技巧的かつ情緒的、斎藤のボーカリストとしての天才が存分に発揮された素晴らしいミドルバラード「like the rain」。そしてぐっとテンポを上げたダンスチューンで、DJのスクラッチをフィーチャーしたソロプレーの応酬で盛り上がった「フラッシュバック」。須藤と斎藤の即興演奏にバンドが加わり一気にスピードアップ、ハイテンションで突っ走った「アカシ」。ぐんぐん高まる熱気の中、ライブはそろそろ終盤だ。 「ViVid Noise」の狂騒的なサウンドの渦の中、「実は友達が来てます。紹介します。SKY-HI!」と斎藤に呼び込まれ、いきなり飛び込んだSKY-HIが高まり切った熱気に油をそそぐ。“斎藤さんとスッティー先輩”を織り込み、“この日のために生まれてきたんです”と歌い、独創的なフリースタイルでステージを飛び回り言葉を叩きつける。会場内の興奮度はマックスだが、驚きはまだ終わらない。 「4:43AM」で須藤のベースと丁々発止のインタープレイを繰り広げるバリトンサックスの音色。上下ホワイトスーツでばっちり決め、バリトンサックスを吹きながらステージ上手から優雅に現れた伊達男。 「東京スカパラダイスオーケストラ、谷中敦さん!」 その後の、SKY-HIと谷中敦をダブルフィーチャーした新曲「スプレー」の盛り上がりは、間違いなくこの日最高の沸点を記録。斎藤がハンドマイクをつかんでSKY-HIと並び立つ。谷中と須藤がステージ最前線に躍り出てオーディエンスを煽る。骨太なヒップホップスタイルのトラックはXIIXの新たな挑戦だが、音源で聴くよりライブの爆発力はすさまじい。いずれ劣らぬフロント4人のオーラ、技巧、迫力。すごいものを観た。 「ツアータイトルの『SANITY』は、正気とか健全なという意味です。僕が思うSANITYは、喜怒哀楽のどこか一か所に居続けることではなくて、いろんなところをまんべんなく経験して知ること。そうすることで人の気持ちを考えることができたり、思い出を美しいと思ったり、将来が楽しみに思えたり、そういう健全な音楽人生をこのバンドで歩んで行きたいと思ってこのタイトルにしました」 みなさんが進む健全な道を、僕らの音楽が少しでも照らすことができますように――。真心のこもった斎藤のMCを曲紹介代わりに、二人きりで演奏されたラストチューン「Endless Summer」。ほっと心和むフォークソングのような穏やかな曲調が、見どころの多すぎたライブの終わりによく似合う。高まり切ったテンションを優しくもみほぐす、素敵なチルアウトミュージック。 サポートメンバーは、キーボード・山本健太。DJ HIRORON、ドラム・堀正樹。頼もしいメンバーを一人ずつ紹介したあと、アンコールはたっぷり3曲。この季節にぴったりの派手で賑やかなロックチューン「Halloween Knight」、ラテン風の躍動するリズムに乗せたダンスチューン「Light&Shadow」、そして理屈抜きで盛り上がるシンプルなロックンロール「Answer5」。5人のプレイヤーが嬉々としてソロを繋ぎ、斎藤が得意の背面弾きを披露して大拍手を浴びている。バンドの良さ、ライブの楽しさ、音楽の深さ。面白くてやがて愛(かな)しい、胸に沁み入るXIIXのライブ。 このツアーのために生まれてきた。明るい笑いを誘った須藤の言葉が、なぜかいつまでもリフレインして離れない。それは、今一番やりたいことが生きる意味になるということ。現在アルバム制作中で、そう遠くない時期に聴かせられるはずだと斎藤は約束してくれた。このアルバムを聴くために生まれてきたと言える日が来るのを楽しみに待とう。XIIXは続いてゆく。 取材・文=宮本英夫  撮影=Viola Kam (V'z Twinkle) >>その他写真は次ページへ