幅31.8mの團十郎白猿襲名祝幕、11月の歌舞伎座に登場! 三池崇史が繋ぎ村上隆が描く現代の役者絵

レポート
舞台
2022.11.2
(右から)村上隆、市川團十郎、三池崇史

(右から)村上隆、市川團十郎、三池崇史

画像を全て表示(17件)


2022年11月1日(火)、歌舞伎座で十三代目市川團十郎白猿襲名の舞台を彩る「祝幕(いわいまく)」が公開された。7日にはじまる『十一月吉例顔見世大歌舞伎』の舞台を彩り、観客を迎える。これに先駆けて市川團十郎、現代美術家の村上隆、映画監督の三池崇史が会見に登壇した。

⬛︎新團十郎を寿ぐ舞台いっぱいの祝幕

祝幕は、襲名の舞台を寿ぐ引き幕だ。今回は、現代美術家の村上隆のデザインによるもので、高さは7.1m、幅は31.8mある。市川宗家の家の芸『歌舞伎十八番』全18演目のエッセンスがつめこまれている。

『暫(しばらく)』『矢の根(やのね)』『鎌髭(かまひげ)』『勧進帳(かんじんちょう)』『不動(ふどう)』『七つ面(ななつめん)』『鳴神(なるかみ)』『助六(すけろく)』『蛇柳(じゃやなぎ)』『象引(ぞうひき)』『押戻(おしもどし)』『解脱(げだつ)』『毛抜(けぬき)』『景清(かげきよ)』『嫐(うわなり)』『関羽(かんう)』『不破(ふわ)』『外郎売(ういろううり)』。

全景が公開されると、あまりの迫力にシャッターが一瞬消えた。「おお」という声も漏れ聞こえ拍手がおきた。團十郎は、挑むように見入っていた。それから「すばらしい」とうなづいて、拍手をおくっていた。

■現代の絵師による現代の役者絵を

村上と團十郎を繋いだのが、映画監督の三池崇史。十三代目市川團十郎のドキュメンタリー映画を撮影している。かねてより三池と親交のあった村上に「現代の絵師が描く現代の役者絵を」と依頼し、実現に至る。

三池は「このような形で少しでも携われたことを嬉しく光栄に思います」と挨拶。会見前に、團十郎の『勧進帳』を観劇し、その迫力にも衝撃を受けていた様子。「村上さんの絵をこれだけ巨大にし、これだけ発色させる。その技術もあわさった独特のものが歌舞伎座にかかる。独特の美しさがあるのでは」と感想を述べた。

三池崇史

三池崇史

村上は、この縁に感謝を述べ「僕自身も歴史に残るような作品をつくらねば、という気持ちで一緒に作りました。大変強い自信を持った作品に仕上がりましたので、ぜひともご覧いただきたい」と笑顔。原画は、高さ102.8㎝×幅480㎝のアクリル画。それでも5m近い大きな作品が、32mの幕になった。村上は「衝撃が……32mの原寸でも描いてみたい」と幕を見上げる。

村上隆

村上隆

■技術に裏打ちされた幅31.8mの『歌舞伎十八番』

團十郎は、終始充実した表情をみせていた。一度花道へ戻り、あらためて全景を眺め「言葉にならない、素晴らしい」と感慨深げ。

市川團十郎

市川團十郎

「日本の文化に、粋というものがあります。遠くからみると大柄の着物だけれど、近くでみると一つひとつが絞りになっていたり。この祝幕が離れて見た時に素晴らしいことは間違いありません。しかし、近寄って見ても素晴らしいんです。目も一人ひとり、色彩からすべてちがいます」。

村上は、見どころを問われると「少し専門的な話ですが」と断り、「目線の誘導で、絵全体に目が届くような内部骨格」に言及した。「大きな建造物を作る時に、一級建築士の資格が要るように、大きな絵の制作には内部骨格が大事です。原画の段階から、30mになることを想定して。一番上にスッと矢があり、そちら(舞台下手側)にも呼応して真っ直ぐのモチーフがあります」。これほどの大きさになると、ただ情熱的に描き、拡大プリントすればよいというものではないようだ。

村上隆

村上隆

村上は「團十郎さんが注目してくださった目の色彩、目の中のぐるぐるも、一個一個の顔に視点を誘導する仕掛けになっています」とコメント。作品の爆発的な勢いは、徹底的にロジカルな技術に支えられている。團十郎は、歌舞伎の荒事も、ただ力いっぱいに荒々しいのではなく「きちんと決まっているところが、まずあります」と指摘していた。

■村上隆、三池崇史、そして團十郎

團十郎は、村上の工場(スタジオ)を訪れた時を振り返る。

「どのような息遣いで仕事に接していらっしゃるのかを感じたくて、工場へうかがいました。そこではじめて原画を拝見し、祝幕になることを想像しワクワクしたことを覚えています。CGを駆使している方もいれば手作業の方もいて、それを村上先生が見守っている。しかしながら一番驚いたのは、昆虫を飼育するための家があったこと! (虫かごレベルではなく)ふつうの家より大きいんじゃないでしょうか。何かに秀でている方は、他のことにもどこまでもつっこんでいける、と学ばせていただきました」

市川團十郎

市川團十郎

記者から「三池隆史さんと村上隆さん、“ダブルたかし”とのコラボ」へのコメントを求められた時は、「そう安っちく言われると……」と困ってみせて笑いに変えた團十郎。「素晴らしい方々とのご縁を頂戴し、深く感謝しています。この絵がどのように作られたのか。(それを収めた)三池さんの作品をものすごく楽しみにしております」と続け、三池に目線をおくった。

「僕が買いとりたいです。一生懸命働きます」と團十郎。

「僕が買いとりたいです。一生懸命働きます」と團十郎。

村上が抱く、團十郎の印象は「3D」。「パンデミックという大変な時期でしたが、それゆえに親密に一時を過ごさせていただきました。はじめてお会いした時、團十郎さんからすごいオーラを感じたことを覚えています。芸術家としての資質を感じますし、お会いするたびに“3D”を感じます。映画『マトリックス』で空間が歪むような。あれを強く感じます。そのような方とのご縁をいただき、作品を作らせていただいた。それを三池さんが映画にしてくださいます」。

三池は、團十郎と村上について「ふたりには、ものすごいエネルギーがある。エネルギーが強い人と一緒にいると、自分も自分の中の何かが増幅されて力が出てくる」という。

ここに集まった異なるジャンルで第一線をいく3人に、共通点はあるのだろうか。会見後の三池に聞いた。

「色々あるけれど、しぶとく生きていくところ。ふたりはスケールがちがう。團十郎さんは、宿命として歌舞伎を背負って生まれてきた。僕の場合は映画があったから生きることができた感覚。けれども、それぞれにやるべきことがあり、役割がある。自分の持ち場でやるべきことをやる。やり続け、貫いていくところですね」。

■新團十郎の襲名披露興行、歌舞伎座から

十三代目市川團十郎白猿となり2日目。娘の市川ぼたんとカフェにいたところ「海老蔵さんですか?」と声をかけられたという。「海老蔵じゃないです、團十郎です、とお答えしました。横で娘は爆笑していました」とエピソードを明かし、記者たちの間にも笑いが起きていた。

10月31日、11月1日の特別公演を終えて、11月7日より歌舞伎座での襲名披露興行がはじまる。12月も歌舞伎座に出演し、襲名披露興行はその後も続く。

「『勧進帳』と『口上(顔寄せ手打式)』だけでも、精一杯な2日間でした。先輩方の胸をかり、歌舞伎座で多くのお客様の前でご披露できたことは私にとって、この上ない幸せ。團十郎という名跡は大変重とうございます。自分のことはさておいて、ここから1ヶ月間、そして2ヶ月間、そして2年間にわたる襲名披露興行を健康でいられるようがんばります」

この祝幕は、歌舞伎座では28日(月)までの公開。市川新之助似の『外郎売』や『矢の根』を表すアイテム、村上隆の代名詞ともいえる「フラワー」など、さまざまに読みとり楽しんでほしい。

取材・文・撮影=塚田史香

公演情報

市川海老蔵改め
十三代目 市川團十郎白猿襲名披露

『十一月吉例顔見世大歌舞伎』
八代目 市川新之助初舞台
日程:2022年11月7日(月)~28日(月)
会場:歌舞伎座
 
【休演】14日(月)、21日(月)
【貸切】昼の部:26日(土)、夜の部:12日(土)

昼の部 午前11時~
 
一、祝成田櫓賑(いわうなりたこびきのにぎわい)
 
鳶頭梅吉:中村梅玉
鳶頭智吉:中村鴈治郎
鳶頭信吉:中村錦之助
芸者松葉:中村孝太郎
芸者梅香:中村梅枝
鳶の者萬吉:中村萬太郎
同 曉吉:中村種之助
同 鷹吉:中村鷹之資
手古舞おたき:市川男寅
同 おたか:中村莟玉
同 おふじ:中村玉太郎
若い者虎造:市川青虎
頭取松蔵:片岡松之助
町役人寿兵衛:市川寿猿
頭取錦兵衛:松本錦吾
女伊達沢潟おえみ:市川笑三郎
男伊達久住の良蔵:市川猿弥
女伊達明石のお廣:大谷廣松
男伊達滝野屋男女蔵:市川男女蔵
男伊達高嶋右團次:市川右團次
女伊達四ツ紅葉のお門:市川門之助
女伊達四ツ花菱のお高:市川高麗蔵
男伊達山崎屋権十郎:河原崎権十郎
芝居茶屋女房お栄:中村福助
芝居茶屋亭主輝右衛門:坂東楽善
芸者時乃:中村時蔵
 
野口達二 改訂
二、歌舞伎十八番の内 外郎売(ういろううり)
八代目市川新之助初舞台相勤め申し候
 
外郎売実は曽我五郎:初舞台 市川新之助
大磯の虎:中村魁春
小林妹舞鶴:中村雀右衛門
化粧坂少将:中村孝太郎
遊君喜瀬川:中村児太郎
遊君亀菊:大谷廣松
梶原平次景高:中村鷹之資
茶道珍斎:片岡市蔵
梶原平三景時:市村家橘
小林朝比奈:市村左團次
工藤祐経:尾上菊五郎
 
三、歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
 
武蔵坊弁慶:海老蔵改め 市川團十郎
源義経:市川猿之助
亀井六郎:坂東巳之助
片岡八郎:市川染五郎
駿河次郎:尾上左近
常陸坊海尊:片岡市蔵
富樫左衛門:松本幸四郎
 
後見:市川齊入

夜の部 午後4時~
 
一、歌舞伎十八番の内 矢の根(やのね)
 
曽我五郎:松本幸四郎
曽我十郎:坂東巳之助
馬士畑右衛門:中村吉之丞
大薩摩文太夫:大谷友右衛門
 

十三代目市川團十郎白猿
二、八代目市川新之助 襲名披露 口上(こうじょう)
 
海老蔵改め市川團十郎
初舞台市川新之助
松本白鸚
 
片岡仁左衛門
坂東玉三郎(22〜28日)
市川左團次
梅玉梅玉
尾上菊五郎

三、歌舞伎十八番の内 助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)
河東節十寸見会御連中
 
花川戸助六:海老蔵改め 市川團十郎
三浦屋揚巻:尾上菊之助
髭の意休:尾上松緑
三浦屋白玉:中村梅枝(7〜20日)
      坂東玉三郎(22〜28日)
朝顔仙平:中村又五郎
福山かつぎ:初舞台 市川新之助
男伊達山谷弥吉:坂東彦三郎
同 田甫富松:坂東亀蔵
同 竹門虎蔵:中村萬太郎
同 砂利場石造:大谷廣太郎
同 石浜浪七:市川青虎
傾城八重衣:中村児太郎
同 浮橋:大谷廣松
同 胡蝶:中村莟玉
同 愛染:市川團子
同 誰ヶ袖:市川笑三郎
茶屋廻り:市川男寅
同:中村玉太郎
奴奈良平:市川九團次
国侍利金太:市川男女蔵
遣手お辰:市川齊入
通人里暁:中村鴈治郎
三浦屋女房:中村東蔵
曽我満江:中村魁春
白酒売新兵衛:中村梅玉
くわんぺら門兵衛:片岡仁左衛門
 
口上:松本幸四郎
後見:市川右團次
 

公演情報

市川海老蔵改め
十三代目 市川團十郎白猿襲名披露

『十二月大歌舞伎』
八代目 市川新之助初舞台
日程:2022年12月5日(月)~26日(月)
会場:歌舞伎座
 
【休演】12日(月)、19日(月)
【貸切】昼の部:15日(木)、夜の部:11日(日)
 
昼の部 午前11時~
 
其俤対編笠
一、鞘當(さやあて)
 
不破伴左衛門:尾上松緑
名古屋山三:松本幸四郎
 
二、京鹿子娘二人道成寺(きょうかのこむすめににんどうじょうじ)
鐘供養より『歌舞伎十八番の内 押戻し』まで
 
大館左馬五郎:市川海老蔵改め 市川團十郎
白拍子花子:中村勘九郎
白拍子花子:尾上菊之助
三、歌舞伎十八番の内 毛抜(けぬき)
八代目市川新之助初舞台相勤め申し候
粂寺弾正:初舞台 市川新之助
腰元巻絹:中村雀右衛門
秦民部:中村錦之助
八剣玄蕃:市川右團次
小原万兵衛:中村芝翫
小野春道:中村梅玉
 
夜の部 午後4時~
 
十三代目市川團十郎白猿
一、八代目市川新之助 襲名披露 口上(こうじょう)
 
市川海老蔵改め 市川團十郎
初舞台 市川新之助
 
松本白鸚
幹部俳優出演
 
二、團十郎娘(だんじゅうろうむすめ)
 
近江のお兼:市川ぼたん
漁師:市川男女蔵
漁師:市川右團次
 
三、歌舞伎十八番の内 助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)
河東節十寸見会御連中
 
花川戸助六:市川海老蔵改め 市川團十郎
三浦屋揚巻:坂東玉三郎(5~15日)
中村七之助(16~26日)
通人里暁:市川猿之助
三浦屋白玉:尾上菊之助(5~15日)
中村梅枝(16~26日)
福山かつぎ:坂東巳之助
朝顔仙平:市川猿弥
白酒売新兵衛:中村勘九郎
髭の意休:坂東彌十郎
くわんぺら門兵衛:市川左團次
曽我満江:上村吉弥(5〜15日)
坂東玉三郎(16〜26日)
 
口上:松本幸四郎
シェア / 保存先を選択