弛まぬ筋トレの先に築き上げた“majikoサウンド”。傑作ニューアルバム『愛編む』に迫る

インタビュー
音楽
2022.11.17
majiko 撮影=高田梓

majiko 撮影=高田梓

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サウンド、メロディ、曲調、そして歌声──。全13曲からなるアルバム『愛編む』はあらゆる方向にカッ飛んでいて、実に目まぐるしい。しかし、それでいてワクワク感を抱いたままするっと聴けてしまう。そして「あれは一体なんだったんだ?」と再び聴きたくなる。そんな作品だ。つまり、majikoというアーティストそのものによく似ている。
そういう作品がなぜこのタイミングで、どのように生まれたのか。傍目から見てもポジティヴで意欲的に映る今のモードはどこからくるのか。それらの疑問に対する回答はとてもシンプルかつ意外(?)なものだった。真相はぜひ以下のテキストから確かめてほしい。

──全13曲。濃さからしても大作と言っていいと思うんですが、作り終えての率直な心境としてはどうですか。

やっぱり浸っちゃう感じで、夜お酒を飲みながらアルバムを聴くのが最近の癒しですね。頑張ったな、どうやって作ったんだろうなぁと思いながら。

──作っている最中には当然いろんなことを考えたでしょうけど、作り終えてあらためて思うこともあります?

今までと違う作品になっていて、自分自身すごく成長を感じたし、アレンジや作詞も含めて自分の曲作りのスタイルみたいなものが徐々にできてきて。前作とも前々作とも違うけど、核は一緒みたいな印象は受けました。チルっぽい曲があったりとか、ロックな曲があったりとか、自分の生きてきた根底にある好きなものを、しっかり自分の中のフィルタを通して出せたなというのがありますね。嬉しい。

──音楽的なスキルアップや知識の増加も作品に活かされてくると思うんですが、この間どう生きてきたかみたいな部分も表れると思うんですよ。ここ数年の、たとえば『ROCKIN’ QUARTET』のゲストシンガーとして野外フェスに出たり、うちがやっているキャンプの動画に出てもらったりとか、そういう動きを見るだけでも動画での活動がメインだった頃の「majiko像」とは全然違うわけで。

そうですね。そういうののキッカケというか……やっぱり筋トレが欠かせないなという。

──(笑)

筋トレを始めてからの意識革命みたいなものがあって。筋トレを始める前と後では気持ちの持ちようが全然違って、このアルバムの制作中とかコロナ禍も含めて、家にずっといなきゃいけない状況を強いられていたじゃないですか。その中でも筋トレに行くことによって、モヤモヤした気持ちが「なんとかなるっしょ」になるというか。で、自分にも自信が持てるようになったし、最高だなって。……筋トレがわたしを変えたんです!  ふははははは!(爆笑)

──そもそもなんでやってみようと思ったんですか。

もともとはダイエット目的だったんですけど、「え、身体動かすとめっちゃ気持ちが晴れやかになるじゃん」っていう、抗不安薬みたいな立ち位置にどんどんなっていきましたね。

──それによって前向きにもなり、チャレンジングな姿勢も強まったと。

そう思います。あんなに重たいもの上げてるんだからいけるよ!っていう自信みたいなものがあったり、あとは筋肉痛にも助けられていて。ずっと言ってるんですけど……「いま罰を受けてる」っていう感覚になれるんですよ(笑)。罰を受けているから赦されているっていう変な感覚になる、だから元気になるっていう法則があるんですよ。おすすめです、本当に。

──……はい。

「はい」(笑)。

──まずは肉体から精神面が変わったことで、やることの範囲も増えてきた。それはインプットの増加にもつながりそうですね。

多いと思います。筋トレのときにランニングしながらいろんな曲も聴くし、自分の曲のここをああしようこうしようとかもあるし。だからすごく効率の良い時間を作ることができましたね。制作中に朝から昼までジムに行って、帰ってきて「よし作業」っていう、スイッチングのできる生活をしてました。パーソナルトレーナーの方もつけるようになったので、しっかり筋肉に入っているという感覚があって。そこからはもう泥ハマりというか──。

──……はい。

はっはっはっは!!

──ここまでほぼ筋トレの話ですけども(笑)、実際、それによってどういう変化が一番大きいですか?

感情の引き出しを作れるようになったというか。今までずっとこうドヨンとした中で、たまに元気になったりだったんですけど、しっかり「今はこの時間」「今はこの時間」と分けれるようになって、その中で必要な引き出しを開ける、そこから出すっていう、頭の中の効率化ができるようになった気がしますね。曲を作っている中でも、俯瞰で自分を見られて浸りすぎないというか。ある一定の距離を置いて曲を作るようにしないと、ドープなものになっていきがちなので。

──その引き出しや俯瞰の視点によるものなのか、今作はめちゃくちゃ幅が広いですよね。

嬉しい、ありがとうございます。めっちゃ幅は広いと思います、たしかに。「こういうのを作ってみよう」という切り替えももちろんありましたし、「こういうのが無いから作ろうか」という余裕みたいなものも生まれてた気がします。

──ジェットコースター感覚というか、上ったり降りたり振り回されたりはたくさんありつつ、でも聴き終えて疲れる感じはないんですよね。ワクワクしたまま聴き進められて、すっと終われる。

嬉しい! どうなることやらと思っていたんですけどね。序盤の数曲とかも、こういう曲を書けるようになったんだな、成長したんだなって思いますね。楽しんで作ってやがるぜって。

──ある種のカオスではあるんですが、その中でどこか吹っ切れている感がありますよね。これまでにも色んなことをやろうとした作品はあったし、自分の音楽性とポピュラリティの両立に取り組んだりもしてきたわけですけど、そういう意味でも一個の線を越えた作品と言えるのかなと。

それはある気がしますね。もう30なので年齢の線を越えるというのもありますし、それによる吹っ切れもある気がするんですよね。きっと大人になったのかなって思ったりもします。

──曲調とか歌の表情という意味では、もともとなんでも行けちゃうタイプじゃないですか。その中でどこか一つにフォーカスするのではなく、色んな方向に振れることを引っくるめた自分らしさというか、そういう自信を感じる作品とも思いました。

嬉しいです。わたし、システム・オブ・ア・ダウンのサージ・タンキアンが好きで、彼もいろんな歌い方をする人なんですよね。だからニコニコ動画のときから色々な歌い方をしようと努力していて。今はそれがしっかり自分の中に染み付いて、武器としてあるなと思ってます。

──ニコ動なんてまさに、作っている人も曲調も様々な楽曲を自分の解釈で歌うわけですし。

すごく勉強になりましたね、あの時代は。

──色々な引き出しを持つ中でも「一番の核はこれだ」みたいなものを探した時期もあるんですか?

歌自体でそれを考えたことはなくて、全部ひっくるめてわたしだと思っていたんですけど、曲に関しては「どれが自分のスタイルなんだろう」って悩んだり模索した時期はありましたね。でもいろんな人と話す中で、気にせず作っていけばいいと思うよ、それがmajikoのスタイルになっていくから、みたいなことを言われて。「そっか。気にせず作ろう」と思って作っていったら、今回でなんとなく“majikoサウンド”みたいなものができた気がするんですよね。

──まさにそうだと思います。なんでもありな中にある“majikoサウンド”が感じられて、それは今までの積み重ねの結果なのかなと。

そう思います。いろんな経験とか、いろんな人と出会ったり、誰かに曲を書いてみたりとか、全部がこのアルバムという形に入ってるんだな、一つの人生の形が音楽の形なんだろうなと思って、しみじみ浸っているんですけど。……今は嫁ぐ前の娘たちを見てるみたいな(笑)、これがみんなに届いて自分だけのものじゃなくなったときに、達成感とエモ味で良い酒飲めそうっていうのはあります。

──充実感が伺えますよね。先日のライブでは「今が一番いい」という発言もされてましたし。

あのライブは約1年半ぶりのワンマンだったので緊張はしましたけど、いざ出てしまったら楽しくて。関係者の人たちが挨拶に来てくれたときに「あんなに喋れるんですね!」って言われて(笑)、まあそりゃそうよなと。今までのわたしのライブは「あの、えっと……うへへへ」みたいなMCしかしてなかったから。それも自分の中で良くも悪くも成長してしまった部分なのかなと思いました。……あんまりMCで流暢にしゃべる女みたいな感じにはなりたくない時期があったんですけど、でもそうも言ってられないんだな、面白きゃいいやと思って。……筋トレのおかげでそう思えるようになりました。

──(笑)。でも実際そこから来るポジティヴィティって、当然今作の中身にも関わっていて。

めちゃくちゃ関わってきてますね。

──出発地点から既に「アルバムを作ろう」という感じでした?

そうですね。まあ、押しに押したんですけど、アルバムのために曲を作る中で、新しくプロデューサー兼ディレクターさんが加わり、その方の助言で「白い蝉」を作ったのが一曲目で、そこからスタートみたいな感じでした。

──今この配信やサブスクの時代にCDでアルバム作品を出すとなったとき、「だったらこうしなければ」みたいなことって考えました?

盤を出す意味っていうものが問われる時代じゃないですか。わたし的にはコアファンのためのものだと思っていて、だから家に飾っておきたいと思えるようなジャケットにしたりだとか……グッズ感覚なのかなって思ったりもするんですけど。

──わかります。コアファンに向けたものだという、ある種の割り切りがあることで、冒険もできるようになるというか。

そう思います。今の感覚がどうか分からないですけど、いわゆる「アルバム曲」みたいな曲も必要、みたいな言われ方をしていた時期もあったじゃないですか。でも今は全部勝負した方がいいのかなというのもあって。

──CDで聴かない人は通しで聴かないケースも多いと考えると。

そうなんですよね。CDだからそういう「アルバム曲」というのがあったわけで。今はどこでどう出会うかわからないから。


>>次ページ「高校とかで聴いてた人たちがこうやって奏でてくれること自体がエモだな」

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