主演・佐々木蔵之介「耽美で妖しく、今の世界を描く狂気の喜劇」~鬼才プルカレーテ演出『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』GP&取材会レポート
『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』取材会にて (撮影:田中亜紀)
ルーマニアを代表する舞台演出家シルヴィウ・プルカレーテが演出する『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』が、2022年11月23日(水・祝)~12月11日(日)、東京芸術劇場プレイハウスにて上演される。初日に先がけ行なわれた公開ゲネプロ(総通し稽古)と取材会の模様をレポートする。
(撮影:田中亜紀)
『守銭奴』といえば、今年生誕400周年を迎えるフランスの劇作家モリエールの代表作の一つ。ドケチな主人公アルパゴンと、彼に極度の倹約を強いられ結婚すらままならぬ息子と娘、そして召使たちの人間模様が描かれる傑作喜劇だ。今回の舞台では、佐々木蔵之介が演じるアルパゴンが、日本の文楽作品にもときにみられるような因業なキャラクターにも、また、政治的なメタファーを与えられた存在にも見えてくる。だから、ある一つの家庭で起きている話にも、もっと大きな共同体で起きている話にも見えてくるのがおもしろい。アルパゴンがただただ金・金・金に執着するその様は、金銭に限らず、例えば名誉なり権力なり、何か一つのものに執着し、これを独り占めしようとするあまり、家族といったもっとも近しい存在である他者とすら健全な関係を築くことができない者の哀しさをも感じさせる。荒涼たる現代の心象風景をも描き出すラストには残酷な美しさがあり、それでいて心が浄化されるような豊かな観劇体験をもたらしてくれる。白塗り&白づくめのいでたちで壤晴彦が演じる結婚の取り持ち婆フロジーヌ、その静かによく響く声がどこかうさんくさいと同時に大変蠱惑的なのだが、その声が異なる響き方をしてくることとなる終盤の展開にも注目されたし。
(撮影:田中亜紀)
取材会には、アルパゴン役の佐々木蔵之介、アルパゴンの息子クレアント役の竹内將人、アルパゴンの娘エリーズ役の大西礼芳、エリーズの恋人ヴァレール役の加治将樹、アルパゴン家の召使ラ・フレーシュ役の手塚とおるが登壇した。コメントを紹介する。
佐々木蔵之介 稽古中に積み上げて壊して積み上げて壊してきた。役者たちがある程度こうかなと想定したのを超えてくる演出をされるので、そこに合わせていかないといけない。その体験はとてつもなく幸せでしたね。今回、舞台でかっこいいセリフを一度も言っていない(笑)。プルカレーテさんは、「喜劇なんだけど、毒蛇が戯曲の中にひそんでいる」という表現をされていた。喜劇だけれども、アルパゴンは悲劇の人だと最初に言われて。どう考えても寂しい奴ですよね、社会と隔絶されていて。家族よりお金への愛の方が強くて、怒りとか猜疑心がすごく強いというところもある。生まれ育った場所、現在の地政学的な問題も踏まえながら、350年前の作品を今、上演しているなと感じています。耽美で妖しく、そして、今の世界を描く狂気の喜劇を劇場に体験しに来てください。
(撮影:田中亜紀)
加治将樹 プルカレーテ演出は、とんでもない角度からのアイディアが来る。演出と、ドラゴッシュ・ブハジャールさんの舞台美術・照明・衣裳、ヴァシル・シリーさんの音楽とが劇場で初めて一緒になったとき、演じていて衝撃的なものがあった。プルカレーテさんは自分で演じてからやってみせるという演出をされる方。今回すごく楽しそうに演出されていて、僕らも楽しかった。原作を読んだ方も読んだことがない方も、初めて演劇にふれる方も、誰もが楽しめる作品になっていると思います。
(撮影:田中亜紀)
竹内將人 積み上げては壊しての稽古についていくのも大変だったし、実力派揃いの先輩方と一緒に芝居して、どうやってついていって対等にやりとりし、自分の魅力をもっと出せるんだろうということを毎日考えていて、幸せな時間でした。とにかくまっすぐに演じるようにしています。アルパゴンというモンスターのお屋敷、圧政の中で育てられて、それに対する怖さもあるんだけれども、まっすぐに育った少年で、ストーリーの中で、お父さんに対してもまっすぐ意見を言えるようになる。蔵之介さんの目に本当にアルパゴンの狂気が宿っていて、表面には完全には出し切っていないけれども、身体の中に怒りと狂気があって、それがまっすぐ伝わっては来ないけれども、空気を通して自分に来るみたいな恐怖がある。何かよくわからない父親の狂気に対峙して、実際に恐怖を感じながら演じています。
(撮影:田中亜紀)
大西礼芳 いろいろな角度から演出していただいて、作って壊すという作業を繰り返す中で、私たちの芝居の表現が狭まるのではなく、より自由になる感覚が稽古中にありました。舞台で音楽を奏でるパートも担っていますが、音楽が大好きなので、その意味でも幸せでした。アルパゴンは、こんなお父さんですけれども、やっぱり私のお父さんだということをいつも大事に思いながら演じています。渦中にいると、自分が今どんなひどい状況におかれているかわからないじゃないですか。もっと幸せになりたいと彼女自身もしかしたらそこまで本気で思ってないんじゃないかなというのはありますね。この状況の中でなるべくよくなればいいなくらいの気持ちかなと。どうぞ皆さん笑いに来て下さい。
(撮影:田中亜紀)
手塚とおる プルカレーテ作品を日本人キャストで体験できるのはなかなかない貴重な機会。ルーマニア革命前から芝居を作っていた大巨匠で、カーニバルやフェスティバルの感覚、僕らとは異なる感覚がある。僕らの文化にはないものを発見させてもらえるし、僕らがグロテスクかなと思うことも、彼らにとっては日常だったりする。文化交流としての稽古体験で、人間としてちょっと成長できたような感じ。僕は『リチャード三世』『真夏の夜の夢』に続く三度目のプルカレーテ演出作品出演ですが、今回はモリエールということで、また未知の作業。プルカレーテさんはフランスに住んでいらっしゃって、フランスではシェイクスピアより有名なこの作品を日本人キャストで上演するということが彼の中でものすごい挑戦としてあったんじゃないかと。モリエールをどう理解させるか、かみくだいてくださっていた気がします。
(撮影:田中亜紀)
取材・文=藤本真由(舞台評論家)
公演情報
■会場:東京芸術劇場 プレイハウス
■大阪公演:2023年1月6日(金)〜9日(月・祝)@森ノ宮ピロティホール
■翻訳:秋山伸子
■演出:シルヴィウ・プルカレーテ
佐々木蔵之介 加治将樹 竹内將人 大西礼芳 天野はな 茂手木桜子 菊池銀河