中村勘九郎・中村七之助が春爛漫のひと時を全国12ヶ所に届ける~公演への思いを語った『春暁特別公演 2023』製作発表会見レポート

レポート
舞台
2022.12.23
(右から)中村勘九郎、中村七之助   (C)福岡諒祠(株式会社GEKKO)

(右から)中村勘九郎、中村七之助   (C)福岡諒祠(株式会社GEKKO)

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中村勘九郎中村七之助を中心に中村屋一門が、2005年から毎年行ってきた全国巡業公演(※2020年はコロナ禍により中止)が、2023年3月に「春暁特別公演」として全国12ヶ所で開催される。

今回は、勘九郎と七之助と中村鶴松によるトークコーナーに始まり、中村屋門弟一同による『元禄花見踊』、勘九郎が小野良実をつとめる『仲蔵狂乱』、七之助と鶴松による『相生獅子』と、春にふさわしい華やかな演目が並んでいる。

中村勘九郎と中村七之助がオンラインで行われた製作発表会見に出席し、長きに渡って大切にしてきた全国巡業公演への思いを語った。

珍しい演目をやることも特別公演の意義

会見の冒頭、勘九郎は「2005年から続けてきて今回で18年目。始まった当初はこんなに長く続くと思っていなかった。「継続は力なり」ということで、私たちはもちろん中村屋一門みんなの力になっているし、この公演をきっかけに他の劇場の歌舞伎に足を運んでくださる新しいお客様が増えたというお声も届いており、これは続けて来たおかげだなと思う。まだまだコロナ禍が続く中ではあるが、全国を巡業できることは本当にありがたい」と、継続して公演を行ってきた思いを述べた。

また、七之助は「毎年やらせていただいているありがたい巡業。なかなか歌舞伎座などには行きづらいお客様が多くいらっしゃる中、こうしていろいろなところを巡業することで、コロナ禍など様々な理由で歌舞伎からちょっと遠のいていたお客様に見ていただく機会を設けられたことを嬉しく思う。中村屋一丸となって良い舞台を皆様にお見せ出来たら」と意気込みを述べた。

中村勘九郎   (C)福岡諒祠(株式会社GEKKO)

中村勘九郎   (C)福岡諒祠(株式会社GEKKO)

今回の演目は、まずトークコーナーで幕を開ける。勘九郎は「以前は手を挙げてもらって、その方と直接お話ししていたが、今はそれができず事前にいただいた質問にお答えするという形なのが残念。歌舞伎は伝統芸能でどうしても堅苦しくて敷居の高いものというイメージがあると思うので、まずはそれをとっぱらってから演目を見ていただきたい、という気持ちがある。飾らない僕たちというものを意識してつとめている」、七之助は「長年続けてきて、今年やっと47都道府県を制覇することができた。ラジオの仕事(※七之助がMCを務める「Sky presents中村七之助のラジのすけ」)を1年くらいやってきて、番組インスタグラムのために劇場近くの名所や歌舞伎にゆかりのあるところへ行くようにしているので、よりトークコーナーの幅は広がったと思う。今回も挙手制にはできないかもしれないが、お客様といろいろコミュニケーションを取れるのが嬉しい」と、それぞれトークコーナーへの思いを語った。

門弟一同による『元禄花見踊』について勘九郎は「音楽が印象的な演目で、皆さんどこかで聞いたことがあるのでは。元禄の男女が華やかに踊るというビジュアルを、まずは目で楽しんでいただく演目」、七之助は「トークコーナーの後、まずは何も考えずに歌舞伎の世界観に入っていただこうかなという演目。一緒に花見をするような気分で見ていただければ幸い」と紹介。

『仲蔵狂乱』について勘九郎は「これはなかなか本興行でかからない踊りの演目。こうした珍しいものをやることも特別公演の意義だと思っている。本外題は『狂乱雲井袖(きょうらんくもいのそで)』だが、踊りの名手の仲蔵が踊ったことで有名だから『仲蔵狂乱』と言われるようになったというわけで、仲蔵が演目の中に登場するわけではない。しっとりとした踊りで、私もなかなか手掛けたことのないような踊りのひとつ。この難しい踊りをどれだけ現代のお客様に楽しんでいただけるかというのが踊り手の腕の見せ所。仲蔵は当時何を思ってこの振りにしたんだろうか、と思いながら踊れるというのは役者冥利に尽きる」と意気込みを語った。昨年放送された、中村仲蔵役をつとめたドラマ『忠臣蔵狂詩曲No.5 中村仲蔵 出世階段』について問われると「ドラマが大変評判良くて嬉しい。歌舞伎関係者からも“いいドラマだった”と言ってもらえて力になっている。歌舞伎俳優が歌舞伎俳優を演じるということはなかなかないので、楽しんでやらせてもらった」と手ごたえを述べた。

『相生獅子』について七之助は「石橋物の中でも古い演目。前半はお姫様が2人出てきて華やかで格式高い踊りをお見せして、最後は獅子になって出てきて女形のお姫様の恰好で毛を振るという珍しい形の踊り。鶴松と2人でがっつり踊るというのもなかなかない機会」とこちらも珍しい演目であることを述べた。この作品の難しさを問われると「お姫様の恰好で毛振りをすると重心が帯のあたりに来るのでバランスが悪く安定しづらい。法被を着るスタンダードな獅子のときとは感覚が違う。あと、裾が丸見えになってしまうと良くないので、歩幅を狭めるというところを意識している」とこの演目で気を付けていることを述べた。

(右から)中村勘九郎、中村七之助   (C)福岡諒祠(株式会社GEKKO)

(右から)中村勘九郎、中村七之助   (C)福岡諒祠(株式会社GEKKO)

平成中村座の初日にもらった熱い拍手「お客様の反応も戻って来ている」

質疑応答で、下の世代の歌舞伎役者への思いを問われると、勘九郎は「出る杭は打つということで(笑)」と笑いを誘いつつ「僕らもまだまだこれから。役者は一生勉強。下の世代とはこれから一緒に芝居をする機会が増えていくと思うので楽しみながらやりたい。やはり歌舞伎において大切なのは、古典を愛して先輩からの教えや先人たちの思いを受け継いで次の人たちに渡すという使命。そういう精神を持ち続けてやっていきたい」と語った。

七之助は「出る杭は打ちません(笑)」とこちらも笑いを誘いながら「若手はコロナ禍で、しなくていい苦労をしていると思う。その当時歌舞伎座は三部制で各部総入れ替え、出る役者の数も限られている。鶴松はコロナの始まりから半年以上舞台に出演できなかった。今が一番スポンジ状態でいろんなものを吸収できるというときに舞台に立てないという苦しさがあったと思う。今後はどんどんいろんな舞台に立って、いろんなことを吸収して欲しい。来年は浅草歌舞伎が3年ぶりに復活することもとても嬉しい。僕たちの巡業もそうだが、様々なところに歌舞伎を広めていくということも絶対大切なこと。歌舞伎界の状況も徐々に戻ってきているので、この機を逃さないように若手にはいろいろなことにチャレンジしてもらいたい」と、今回の巡業公演にも出演する鶴松への思いも含めて語った。今年6月に浅草公会堂で開催された鶴松の自主公演「鶴明会」について問われると「『高坏』と『春興鏡獅子』という別次元の難しさがある踊りを選んで、見事に1日2回踊り切った。『鏡獅子』に関しては手放しで喜ぶくらいのものを見せてくれた。実力は元々あったがチャンスが巡ってきたというとてもいい時期に来ていると思う」と今後への期待もにじませた。

中村七之助   (C)福岡諒祠(株式会社GEKKO)

中村七之助   (C)福岡諒祠(株式会社GEKKO)

コロナ禍になって観客の反応の変化をどう感じるかと問われると、勘九郎は「どうしても開演前にアナウンスでいろいろ注意があるから、芝居をしても反応があまり感じられないところもあったが、今年10月と11月の平成中村座ではお客様から「これを待っていた」というような反応を感じられたので、そのあたりは戻ってきているのかなというのは思う。12月の歌舞伎座に出演しているが、大向うが限定ではあるが復活していて、客席から声がかかる演劇なんて他にはないし独特の楽しみ方のひとつなので、今後解禁になったらいいなと思う」、七之助は「平成中村座の初日、お客様から”待ってました”という熱い拍手をいただいて、嬉しさと同時に戻ってきたな、と実感した。コロナ禍で厳しいかなと思っていた中村座を二か月間やることができたので、来年以降もやっていきたいと思っているし、お客様の感じもどんどん戻ってくるんじゃないかなと願っている」と、徐々に観客の空気感が以前のように戻りつつあることを感じている思いをそれぞれ述べた。

観客へのメッセージを求められると、勘九郎は「コロナ禍になって3年、未来は徐々に明るくなってくるとは思うが、どうしても鬱々とした気分を劇場で芝居を見ている間だけは忘れられるような美しい世界にいざないたい。春爛漫のひと時を楽しんでいただければ」、七之助は「毎年恒例の巡業をまたできる喜びをかみしめながら、全国12箇所24公演、コロナ対策もしっかりして、気を引き締めて一つひとつの公演を一生懸命踊りたい」とそれぞれ思いを述べた。

『中村勘九郎 中村七之助 春暁特別公演 2023』は3月6日(月)~3月23日(木)、全国12ヶ所で開催される。

取材・文=久田絢子

公演情報

中村勘九郎 中村七之助 春暁特別公演 2023
 
<演目> ※上演時間約2時間予定
1.トークコーナー
出演:中村勘九郎、中村七之助、中村鶴松
 
2.元禄花見踊 長唄囃子連中
出演:門弟 一同
 
3.仲蔵狂乱 長唄囃子連中
出演:小野良実(おのよしざね) 中村 勘九郎
 
4.相生獅子 長唄囃子連中
出演:
姫 中村 七之助
姫 中村 鶴松

<日程・会場>
2023年3月6日(月)~3月23日(木)全国12ヶ所
3月6日(月)東京都北区 北とぴあ さくらホール
3月9日(木)千葉県千葉市 千葉市民会館 大ホール
3月10日(金)埼玉県川口市 川口総合文化センター・リリア メインホール
3月11日(土)東京都江東区 ティアラこうとう 大ホール
3月12日(日)長野県松本市 まつもと市民芸術館 主ホール
3月13日(月)神奈川県相模原市 相模女子大学グリーンホール 大ホール

3月15日(水)大阪府大阪市 サンケイホールブリーゼ
3月18日(土)岩手県盛岡市 盛岡市民文化ホール 大ホール
3月19日(日)宮城県名取市 名取市文化会館 大ホール
3月21日(火)福岡県福岡市 キャナルシティ劇場
3月22日(水)広島県広島市 広島文化学園 HBG ホール
3月23日(木)愛媛県松山市 松山市民会館 大ホール

企画・制作:株式会社ファーンウッド、株式会社ファーンウッド21 協力:松竹株式会社
制作協力:サンライズプロモーション東京
 
公式サイト http://shungyo2023.com/
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