BUCK-TICK、約3年ぶりの全国ツアーファイナルである年末恒例の日本武道館公演『BUCK-TICK TOUR THE BEST 35th anniv. FINALO in Budokan』をレポート
撮影:田中聖太郎
BUCK-TICKが、2022年12月29日(木)に日本武道館で行った『BUCK-TICK TOUR THE BEST 35th anniv. FINALO in Budokan』のレポートが到着した。
本公演は、2019年に日本武道館の改修工事により会場を国立代々木競技場第一体育館に移しての開催となったものの、2000年に行われた"TOUR ONE LIFE, ONE DEATH"以来、毎年連続で行われてきた特別な公演。35回目のメジャーデビュー記念日である9月21日に発売したコンセプトベストアルバム『CATALOGUE THE BEST 35th anniv.』を引っ提げ、約3年ぶりに行った全国ツアー『BUCK-TICK TOUR THE BEST 35th anniv.』のファイナルとして行われた。
ガイドラインに基づき、新型コロナウィルス感染防止策を徹底の上開催された本公演には、約9000人のオーディエンスが詰めかけ、会場は、大きな歓声に代わり、盛大な拍手、手拍子に包まれる2022年を締めくくるにふさわしいライヴとなった。
ライヴの終演後には、2023年の活動として、3月8日(水)に2023年第一弾シングル「太陽とイカロス」、3月22日(水)に第二弾シングル「無限 LOOP」、そして4月にオリジナルアルバムと3作品を連続して発売することと、4月19日(水)より、ニューアルバムを引っ提げての全国ツアーを開催することが発表された。
2022年9月にデビュー35周年を迎えたBUCK-TICKが、コンセプトベストアルバム『CATALOGUE THE BEST 35th anniv.』を引っ提げた全国ツアーの集大成となる『BUCK-TICK TOUR THE BEST 35th anniv. FINALO in Budokan』を、12月29日東京・日本武道館で開催した。
9月23日、24日の2日間にわたって行なわれた神奈川・横浜アリーナでの35周年記念公演「BUCK-TICK 2022“THE PARADE”〜35th anniversary〜」は、周年の祝祭ムードというよりも、今の時代に彼らが何を想い、何を歌いたいのか、35周年を迎えたバンドの現在地を指し示すものであり、改めて“エンターテインメント”と“芸術”の違いについて考えさせられるステージであった。
撮影:田中聖太郎
エンターテインメント=娯楽とは、観客の心を解放し、ひたすら楽しませるもの。芸術とは、喜怒哀楽どんな感情でもいい、観客の心を激しく揺さぶるものだ、と思っている。それで言うと、フェス形式やインディーズ時代からの楽曲を網羅した過去の周年公演はエンターテインメントに徹したもので、この35周年を飾る公演は芸術に振ったものと言えるのではないだろうか。
そう思い至ったのは、横浜アリーナで初演奏され、全国ツアーを通して進化し続けた「さよならシェルター」という新曲が、この日本武道館で一つの完成形を迎えたと感じたからだ。ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、流れてくるニュースの中に、シェルターの中で「アナと雪の女王」の主題歌を歌う小さな女の子の動画があった。それがこの曲の歌詞の着想元だ。曲に入る前に1本の蝋燭に火を灯し、「世界中の子供たちがいい年を迎えられたらいいなと思います」と語ったヴォーカルの櫻井敦司は、間奏やアウトロでパントマイムを見せた。小さな子供を抱きしめシェルターへと送り届ける。不敵な笑みで銃を構える兵士。その銃を投げ捨て、駆け寄ってきた子供を強く抱きしめる。それに寄り添うバンドアンサンブルは、希望と安らぎを与えるように明るく優しい。メッセージを強く押しつけるのではなく、どう受け止めるのかは観客それぞれに委ねられた。「さよならシェルター」は間違いなくこの公演の核心であり、ハイライトだったと思う。
撮影:田中聖太郎
ここまで少しシリアスに書いたが、全体を通して見ると、とても温かく多幸感に満ち溢れた一夜だった。SEの「TEME OF B-T」に合わせて期待のこもったクラップが会場に響き、メンバーが一人ずつステージに登場し定位置につくと、“君も乗りなよさあ 発車のベルが鳴る”と、激しい蒸気の噴射とともに「Go-Go B-T TRAIN」が発車した。轟轟と低音を鳴らす樋口豊のベース、ガタゴトとリズムを打つヤガミ・トールのドラム、キシキシキーキーと軋みをあげる今井寿と星野英彦のギター、櫻井は時折“プシュー、プシュー”と音を発しながら軽快に歌い進め、観客をグイグイと乗せていく。その音に合わせて武道館の硬い椅子がビリビリドンドンと震えて、腰のあたりを刺激するのだ。これで心躍らないわけがない。マーチのリズムで一体感を誘う「Alice in Wonder Underground」、猫招きのポーズで観客が総猫化する「GUSTAVE」、櫻井と今井のツインヴォーカルによる「FUTURE SONG -未来が通る-」と矢継ぎ早にアップチューンを繰り出し、会場のボルテージを上げた。その熱を少し調整するように、今井がルーパーでギターの音を重ねて作ったインタールードを挟み、ミドルチューンの「Moon さよならを教えて」へ。覆った雲が晴れていき、鮮やかな月が浮かぶ映像を背景に、月光のように柔らかなサウンドスケープと、情感込めたヴォーカルで聴かせた。そして「メランコリア -ELECTRIA-」、「Villain」とダークで鮮烈なエレクトロナンバーを続けて披露。「Villain」では櫻井の顔がグロテスクに歪む映像の横で、櫻井が樋口の隣に立ち、同じ動きをして戯れているのを見て思わずほっこりしてしまったり、今井が爪弾く映画「太陽がいっぱい」のテーマ曲が作り上げた背徳ムードのまま突入した「舞夢マイム」の艶めいた世界観に当てられたり、「パパ、ママ、僕を許してください。愛してるよ」という語りを導入に置いた「MOONLIGHT ESCAPE」では伸びやかな歌声に心を掴まれたりと、めくるめく展開に感情が忙しい。「Let’s dance」とデヴィッド・ボウイの「レッツ・ダンス」のフレーズを口ずさんで始まったアッパーな「ダンス天国」では、フロアがダンスホールのごとく揺れ、続く「ユリイカ」ではハートのサインやピースサインが飛び交った。曲終わり、メンバーが揃って高々とピースサインを掲げたシーンも印象的だった。
撮影:田中聖太郎
そして「さよならシェルター」は冒頭に書いたとおり。並べて特筆したいのは、続いて披露されたバラードナンバー「RAIN」。この曲は2007年に発売されたアルバム『天使のリボルバー』に収録された曲だが、作られた時代は違うのに「さよならシェルター」の後に並べると、続きの物語のように聴こえたのだ。“人は悲しい生き物”“君を悲しませるつもりじゃない”という歌詞が、「さよならシェルター」で銃を取った、愛しいものを守るために戦いを続ける人々の悲哀のように響く。そして歌い上げる櫻井の姿と、“いつか世界は輝くでしょうと 歌い続ける”という物語の主人公を重ね合わせると、ギュッと胸が締め付けられるのだ。その後の観客の拍手は、雨音のように温かい音がした。本編終盤を飾ったのは「ROMANCE」「夢魔 -The Nightmare」と、BUCK-TICKゴシックの代表格的ナンバー2曲。「夢魔 -The Nightmare」の、圧倒的迫力で死の香り漂う世界観へと引き摺り込んでいく様は圧巻だった。
撮影:田中聖太郎
アンコールは、アコースティックバージョンの「JUST ONE MORE KISS Ver.2021」、「JUPITER」と、初期のナンバーでノスタルジーに浸っていたのだが、歌い終わりに櫻井が「今年最後の生放送でヘマをする……まあいいか。そうです。歌のタイミングを間違えたんです」と、腰に手を当ててドヤ顔をして見せたので笑ってしまった。「JUPITER」の1番の2度目のAメロの歌の入りを間違えるという珍しいミスと、予想もしなかった開き直りに思わず会場からも笑いがこぼれた。和やかな空気になったところでメンバー紹介。今井はピースを掲げ、星野はピースした手で投げキッス。樋口はそんな星野の様子を真似て見せ、ヤガミは華麗なドラムソロを聴かせた。「それではそのまま騒ぎましょう。命燃やしていきましょう。死を思い、今、生を思え」と、魂を揺さぶるようなパワーソング「Memento mori」「独壇場Beauty-R.I.P.-」を鳴らした。
撮影:田中聖太郎
ダブルアンコールの1曲目は、「君の街へパレードがゆくよ。終わらないパレードが、まぶたを閉じればパレードがそこに。パレードがゆくよ、パレードがゆくよ……」という語りから「LOVE PARADE」へ。夕焼け色のライティングの中、名残惜しむようにゆっくりと歩を進めるように、優しい音を紡いでいく。今井による「きらきら星」のフレーズから始まった「夢見る宇宙」の後、「みなさんにとって2023年が幸せ多きことをお祈り申し上げます」と告げると、ラストナンバーの「鼓動(2022MIX)」へ。宇宙の映像がステージいっぱいに広がる中、生への思い、愛への感謝を力強く歌い上げる。エンディングは今井が鳴らすテルミンのメロディに合わせ、会場いっぱいにクラップを響かせて大団円を迎えた。冒頭でこの35周年は祝祭ムードではなかったと書いたが、横浜アリーナ、全国ツアー、そしてこの武道館公演と、全国どの会場においても、彼らに贈られた拍手の一つ一つに大きな愛と、祝福の思いが込められていたことを書き記しておきたい。
終演後、2023年に新作が3作連続リリースされることと、全国ツアーのスケジュールが発表された。第1弾シングルは2023年3月8日(水)リリースの「太陽とイカロス」、第2弾シングルは3月22日(水)リリースの「無限 LOOP」、そしてニューアルバムが4月にリリースになる。全国ツアーは4月19日(水)東京・J:COMホール八王子を皮切りに全20公演。約1年をかけて制作された新作は、BUCK-TICKの歴史に新たな金字塔を打ち立てるものとなるだろう。その頃、世界がどうなっているかはわからないが、35周年の歴史の中で醜悪や絶望に辟易したり、痛みや悲しみに寄り添ったりしてきたBUCK-TICKには、“いつか世界は輝くでしょう”と歌い続けていてほしい。そうして希望の光をいつまでも灯していてほしいと願う。
Text 大窪由香
撮影:田中聖太郎
撮影:田中聖太郎
ライブ情報
リリース情報
作詞:櫻井敦司/作曲:星野英彦
作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿