尾上菊五郎の孫で、寺島しのぶの長男・寺嶋眞秀が初代尾上眞秀を名乗り、『團菊祭五月大歌舞伎』で初舞台!
初代尾上眞秀を名乗ることになった寺嶋眞秀
2023年5月、歌舞伎座新開場十周年『團菊祭五月大歌舞伎』にて、尾上菊五郎の孫である寺嶋眞秀が、初代尾上眞秀(しょだい おのえ・まほろ)を名乗り、初舞台を勤めることになった。
2月7日、都内にあるフランス大使公邸で記者会見があり、5月公演に出演する尾上菊五郎、尾上菊之助をはじめ、菊五郎の長女で寺嶋眞秀の母である女優の寺島しのぶ、父でクリエイティブディレクターのローラン・グナシアが出席した。会見の模様を写真とともにお伝えする。
尾上菊五郎、尾上菊之助、寺嶋眞秀、寺島しのぶ、ローラン・グナシア(右から)
会見の冒頭、フィリップ・セトン駐日フランス大使が「ご存知のように、お父様はフランス人、お母様は日本人の眞秀さんが、初代尾上眞秀として初舞台を勤めることになられました。400年以上にわたる歌舞伎の歴史の中で初めてのことだと思います。私が申すまでもなく、歌舞伎の世界に入るためには、厳しい規律を守り、秀でた才能の持ち主でなければいけないわけでございます。ですからこそ、素晴らしいご子息の眞秀くんがこうして世界に入られることを私どもとしても大変嬉しく思っています。18世紀から存在して活躍している音羽屋の一員となられるわけです。おじいさまの七代目菊五郎さん、そして叔父さまの五代目菊之助さんとともに音羽屋をこれから先さらに大きく育てることに貢献されることと思います」などと挨拶。
また、松竹の迫本淳一・代表取締役社長も「眞秀さんはジャンルを問わず表現することがお好きだとうかがっております。将来は立派な俳優さんとして大成されますよう、ぜひぜひみなさまの末永き御贔屓とお引き立てを賜りますようお願いいたしますともに、音羽屋さんご一門が一層さかえ、歌舞伎界をさらに盛り上げてくださいますことを祈念しております」などと語っていた。
寺嶋眞秀
続いて、この日の主役である寺嶋眞秀は、フランス語で挨拶をしたのち、日本語で「どうも、こんにちは。寺嶋眞秀です。僕は小さい頃から歌舞伎が好きでした。そして今年の5月尾上眞秀として初舞台を踏むことになりました。僕はいつか僕とパパの母国のフランスで、歌舞伎公演をやってみたいと思います。お客様に楽しんでもらえるように練習に励みますので、5月の舞台にどうぞお越しください。今日はありがとうございました」とスピーチした。
尾上菊五郎、尾上菊之助、フィリップ・セトン駐日フランス大使、寺嶋眞秀、松竹株式会社・迫本淳一代表取締役社長、寺島しのぶ、ローラン・グナシア(右から)
続いて取材会が行われ、質問応答の時間が設けられた。
ーーまずは改めてのご挨拶をお願いします。
尾上菊五郎(以下、菊五郎):なんと申しましてもいつもとは違う景色の場所を提供してくださいました、フランス大使にお礼を申し上げます。この度、私の娘寺島しのぶ、またその夫ローラン・グナシアの子どもである寺嶋眞秀……要するに私の孫でございます。孫が5月の『團菊祭』におきまして、初代尾上眞秀と名乗って襲名をしていただくことになりました。誠に嬉しいことでございます。
ご承知の通り、私、ちょっと腰を痛めておるんですが、3月4月とリハビリを重ね、5月にはぜひとも元気な姿をお見せしたいと思っております。出し物は、岩見重太郎をモデルにして……岩見重太郎のヒヒ退治というのがございますね。それともうひとり悪人を作って、最初はにぎやかな明るい場面、次は激しい立廻りの場面などを考えておりますが、どういう出来になりますか。私自身も楽しみにしております。
どうぞ皆様のお力を持ちまして、5月の『團菊祭』が本当に賑々しく興行できますようお願いしたいと思っております。
尾上菊五郎
尾上菊之助(以下、菊之助):私は眞秀の叔父にあたります。彼が歌舞伎の道に進み、これからどのように修行していくのか。日本の家族では、身内に慶事がありますと、家族全員で応援するという文化がございます。私もそのひとりとして、彼を支え、修行の手助けができればと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします。
ローラン・グナシア:眞秀は幼い頃から歌舞伎に出たかったから、ずっと今まで練習して、勉強してきた。(眞秀は舞台に出ている時が)一番楽しそう。いつもいつもスマイルですから、私も息子がスマイルなので、嬉しいです。
寺島しのぶ:まずは大使、このようなシンボリックな場所を提供してくださってありがとうございます。めでたくなのか、初代尾上眞秀を名乗らせていただくことが決まり、迫本社長の元、松竹の皆様にお手伝いしていただきながら、父が与えてくれた眞秀へのあるひとつの道筋だと思って、今はとても感謝しております。
ご覧の通り、私たちは歌舞伎役者ではございませんので、父と弟のサポート……そして彼がひとりで頑張らなくてはいけないこともあると思うので、そこはいっぱいいらっしゃる歌舞伎俳優の先輩方にぜひ可愛がっていただけるような、人間力を兼ね備えて、思い切り叱っていただき、思い切り教えてくだされば、彼自身も一つひとつステップアップしていけると思います。
まずは5月の『團菊祭』。たくさんのお客様に来ていただけるように、5月からはコロナ対策も緩くなるそうですので、ぜひ笑ったお客様の顔をみたいなと切に願っております。本当にサポートよろしくお願いいたします。
尾上菊之助
ーー眞秀さんにはさきほどフランス語と日本語でご挨拶していただきました。緊張しましたか。
寺嶋眞秀(以下、眞秀):全然緊張していないです。
ーー今日の会見は楽しみでしたか。ご挨拶はうまくできたと思いますか。
眞秀:楽しみでもないですが、挨拶は一番うまく出来たと思いました。
ーーご自身はどんな歌舞伎俳優になりたいのか、理想像を教えてください。
眞秀:ひーま(※尾上菊五郎のことをこのように呼んでいる)みたいな面白い役者になりたいです。弁天小僧とか……鬼が出てくるのが楽しい。立廻りがある演目がやりたいです。
ーー眞秀さんは勉強と歌舞伎をどう両立しているのでしょうか?
眞秀:勉強はそんなにしていないです。お稽古は毎日2回とか、1時間とかしています。
寺嶋眞秀、松竹株式会社・迫本淳一代表取締役社長、寺島しのぶ、ローラン・グナシア(右から)
ーーフランス語も勉強されているのでしょうか?
眞秀:はい。今、フランス語をすごく勉強しています。
ーーさきほどフランスに行って歌舞伎をしたいとおっしゃっていましたが、将来披露するとしたら、フランスの人にどう歌舞伎を楽しんで欲しいですか。また、フランスで歌舞伎を披露する以外で、日本とフランスの架け橋になるためにやってみたいことはありますか?
眞秀:公演は歌舞伎の古典を分かってほしいです。もう1個チャレンジしたいのは、俳優もやってみたいと思います。
尾上菊五郎
ーー菊五郎さんと菊之助さんは、眞秀さんの歌舞伎俳優としての才能をどう評価していますでしょうか?
菊五郎:今度の襲名狂言も立役と女方の両方をさせようと思っています。それは私が通ってきた道でございますが、どっちがいいかとかね、やってみないと分からないんですよね。ですので、今回も初舞台では立役と女方の両方をやらせてみたいと思っています。
菊之助:(眞秀さんとは)1月の国立劇場も一緒に出ておりましたけども、とても舞台を楽しんでいるという感じが体から滲みでている。修行は厳しいこともたくさんありますけども、このまま舞台を楽しんでいるというのを忘れずに進んでいってほしいと思います。
ーーちなみに眞秀さんは立役と女方はどちらがお好きですか。
眞秀:どっちもやったことあるんですけど、立役の方が多かったので、女方ももうちょっとやってみたいと思います。
寺島しのぶ
ローラン・グナシア
ーー歌舞伎のどういうところが好きですか?
眞秀:変身とか立廻りとか。立廻りが多分一番面白い。僕にとって一番面白いので……立廻りだと思います。
ーー改めて初代尾上眞秀を名乗る経緯を教えてください。
菊五郎:私も色々名前を考えたんですよ。菊何とかとか……どうしようかとか……。でも当人が眞秀で売れているんでね。一番売れている眞秀を使いたいということなので、初代尾上眞秀ということで、出発することになりました。どうなるか後は分かりませんけど。
ーー尾上眞秀を名乗った初舞台が決まったときのお気持ちは。
眞秀:僕が、ばーばのうちに行った時に、ひーまが「襲名するか」と言ってくれた。そのときが一番嬉しかった。
ーーこれまでの取材では「仮面ライダーになりたい」「サッカー選手になりたい」とおっしゃっていたけれど、未練はないですか(笑)。
眞秀:(もう)ならないです。俳優か歌舞伎俳優かというところです。
尾上菊之助
ーー眞秀さんから見て、菊五郎さんと菊之助さんのすごいなと思っているところは?
眞秀:ひーまは千穐楽にすごい面白いことをいっぱいします。菊之助さんは『風の谷のナウシカ』など新しい歌舞伎をずっとやっているところを尊敬しています。
ーーしのぶさん、眞秀さんの成長をどうみていらっしゃいますか?
寺島しのぶ:今日は私の方が心配しちゃって……。先ほどのスピーチは私たちは何も手助けはできないんで、朝から「100本ノックぐらいやっていけ!」と言ったんですけど、(眞秀さんは)無視して学校に行ったんです(笑)。本当に言うことは聞きません。いい意味でも悪い意味でも彼は頑固の部分を持っているし、自分のポリシーはしっかりと持っている。でも、ちゃんと今日のスピーチはやったので、これからはあまり言わないようにしようと……ちょっと今反省しています。
ただ、本当にまだまだこれから彼がいろいろ切り開いていかないといけない部分もすごくあると思う。いろんな方にお会いして、歌舞伎だけではなくて、映像の世界でも本人はやりたいと言っていますから、いろんな経験をして自分で選択をして、前に進んでいってもらいたいなと思っております。
寺嶋眞秀、寺島しのぶ(右から)
寺嶋眞秀
取材・文・撮影=五月女菜穂
公演情報
日程:2023年5月2日(火)初日~27日(土)千穐楽〈二部制〉
(休演:10日(水)、17日(水))
会場:歌舞伎座
料金(税込):
1等席18000円
2等席14000円
3階A席6000円、3階B席4000円
1階桟敷席20000円
一般前売:4月14日(金)一般前売り予定