宮澤エマに聞く~繊細な会話劇『ラビット・ホール』で舞台初主演、PARCO劇場初出演に挑む思い

インタビュー
舞台
2023.3.8
宮澤エマ

宮澤エマ

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2023年4月9日(日)~25日(火)PARCO劇場にて(秋田・福岡・大阪公演あり)、舞台『ラビット・ホール』が上演される。

本作は2007年にピュリツァー賞を受賞、2010年にはニコール・キッドマンの製作・主演により映画化もされ、数多くの映画賞に輝いた戯曲で、傷ついた心が再生に至る道筋を、家族間の日常的な会話を通して繊細に描いた傑作として知られている。

物語の主人公は、4歳のひとり息子を事故で亡くしたベッカ。夫のハウイーとは悲しみへの向き合い方が真逆で、お互いの心の溝が広がってしまう。慰めようとする妹や母親の言動にもイラつき傷ついていくベッカのもとに、事故の車を運転していた高校生ジェイソンから会いたいと手紙が届く。

主役・ベッカを演じるのは宮澤エマ。今回が舞台初主演となり、PARCO劇場への出演も初めてとなる。ミュージカルを中心に舞台で活躍するほか、昨年出演した大河ドラマ『鎌倉殿の13人』など映像にも活躍の場を広げている宮澤に、「喪失と再生」という普遍的なテーマを繊細に描いた今作に挑む思いを聞いた。

宮澤エマ

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初主演でプレッシャーもあるが、ワクワクする時間を過ごしている

ーー今作で舞台初主演、そしてPARCO劇場へのご出演も初となります。今のお気持ちをお聞かせください。

昨年は大河ドラマに取りかかっていたこともあって、10年ぶりぐらいに一度も舞台に出演しない1年間を過ごしました。このお話しをいただいたときは、初主演がストレートプレイになるとは想像もしていなかったこともあり、正直驚きました。でも、PARCO劇場でこの作品を上演するにあたり、私を選んでいただけたことはシンプルに嬉しいですし、それと同時に非常に責任が重大だと感じました。作品の存在は知っていましたが、一度真剣に作品と向き合ってからお返事させていただきたいと思い、じっくり戯曲を読んでみたらとても素晴らしい作品で、これは大きなチャレンジになると思い、お受けすることに決めました。「初主演」という言葉を自分では口に出さないようにしているぐらいプレッシャーもありますが、こうして取材を受けると改めて身が引き締まる思いです。

ーープレッシャーもあるとは思いますが、今回のカンパニーはキャスト・スタッフ共に頼れるメンバーが集まっていて、心強いのではないでしょうか。

本当にそうです。お稽古が始まるよりも前に、演出の藤田俊太郎さんと翻訳の小田島創志さんと一緒に何度も翻訳会議といいますか、粗訳されたものと英語を比べながら、よりよい形を模索する時間を設けていただきました。私はこれまでミュージカルも含めて翻訳物に多く出演してきましたが、なかなかこんなふうにセリフの一言一言まで相談できることはないんです。小田島さんはとても柔軟な方で、原文のニュアンスをどうやったら日本語でより良く伝えられるかということに対して真摯に向き合ってくださいました。共演者の方々がまた、それぞれに日本以外の文化を知っていて、これまで翻訳劇もたくさんやられてきている方々。このチームだったらみんなでアイディアを出し合って、よりよい形でお客様にお届けできるんじゃないかな、と稽古前の時点で思うことができたのはとても大きいです。既にワクワクする時間を過ごすことができていて、初主演でこんなに楽しくていいんだろうかと思うくらい、楽しみでしかないです。

宮澤エマ

宮澤エマ

ーー具体的にこの作品のどんなところに魅力を感じていますか。

今作は、息子を交通事故で亡くした夫婦、その家族、そして加害者となってしまった青年の物語ですが、この登場人物たちに一体何が起きているのか、何が起こったのか、ということが幕開けから少しずつ会話劇として紐解かれていきます。それぞれのキャラクターが会話の中で生々しくリアルに描写されていて、決して全員善人じゃないし、悪人でもないんですね。悲しい出来事をいかにして人間は体験し、乗り越えたくても乗り越えられないときにどうやって日常を過ごしていくのかという、とても繊細なことを全く押し付けがましくなく、嘘偽りなく向き合える時間を過ごせるのは贅沢なことだと思っています。しかもそれをお客様とシェアして、時には胸をギュッとつかまれるような瞬間もあれば、赦しを感じ得る瞬間もあって、それをひとつの作品を通して体験できるというのは、舞台でしか成しえないことだと感じました。

息子を失ったベッカが自分自身を探す旅でもある

ーー登場人物はそれぞれの方法で悲しみを乗り越えようとしていますが、宮澤さんは誰に一番共感しますか。

面白いことに、どのキャラクターも欠陥がそれぞれにあると言いますか、わかりやすく愛しやすい人たちではないと思うんです。だから、どのキャラクターにも共感できる瞬間があるなと思います。例えば、私は実生活では姉がいて自分自身は妹の立場なので、最初の姉妹の会話のシーンでは、最初はどちらかというと妹のイジーの方に共感できるかな、という感じがありました。でも、それぞれのキャラクターが話している相手によって見え方が変わってくるんですよね。相手との関係性の中で優位に立ったり同等になったり、子どもになったりお姉さんになったり、そうやって変わって行くのが面白くて、それぞれに愛すべき瞬間があるな、と感じます。

ーー宮澤さんが演じるベッカについて、どんな人物だと感じていらっしゃいますか。

ベッカのセリフの中に「普通ってなによ」とか、「普通に悲しむってなに」という言葉が何度も繰り返されるんですが、ベッカはきっとものすごく真面目で、優秀なお姉さんで勉強もできて、結婚して子どもも生まれて、という理想的な人生プランでここまで来たのに、息子の死によって全てが壊れていくんですよね。それで、ベッカという人間が息子を失って母親ではなくなってしまい、じゃあ自分はどういう人間なんだろう、と自分自身を探す旅でもあるのだと思います。この物語の中でベッカは、夫婦としてどうなっていくのか、娘としてどうなっていくか、ひとりの人間として私は誰なのか、ということを再構築して再発見していくことで、1幕1場のベッカと終盤のベッカでは違う人格になっていくと思うので、そこの部分を丁寧に稽古で作っていきたいです。

宮澤エマ

宮澤エマ

ーー藤田さんとのクリエーションで楽しみにされていることはどのようなことでしょうか。

藤田さんは本当に役者ファーストといいますか、役者がやりやすいように、発言しやすい環境を整えることを大事にしてくださる、とてもフェアで柔軟な方です。遊び場、と言っていいのかわかりませんが、最初から完成されたものを提示していかなくてはいけない、というプレッシャーはなくて、どうやったら作品の真実にたどり着けるんだろう、ということを、みんなで面白がりながら大事に作っていける気がしています。私は藤田さんの演出を受けるのは初めてですが、これまでお会いしてお話しした中でも、そういう環境を作ってくださる演出家だと感じています。

ーー宮澤さんご自身も“遊び場”で楽しみながら作っていけそうですか。

私自身が優柔不断なのもあると思いますが、「決めなきゃいけない」と思うのが苦手というか、たくさんある可能性を探りたいですし、特にこういう作品の中では科学反応もすごく大事だと思っています。そういう点で、成河さんはすごく遊び心があって柔軟性のある俳優さんですし、シルビア・グラブさんとは以前にも親子役で共演したこともありますし、土井ケイトさんとは共演は初めてですが既にとてもフランクにお話しさせていただいていますし、お互いに“遊び”ができる人たちだと思っています。ジェイソン役の阿部顕嵐さんと山﨑光さんはとてもフレッシュな感じがあって、そこがまた役同士の関係性にぴったりくるんじゃないかなと思います。

劇場は生きざまを見てエネルギーをもらえる場所

ーー今回は会話劇なので、覚えるセリフが非常に多いと思います。セリフを覚えるときはどのようにされているのでしょうか。

昨年、映像作品を多くやらせていただく中で、舞台のセリフの覚え方と違うなということを実感しました。シーンごとに撮影していくので、セリフを入れて撮り終えたら次、と切り替えていくプロセスが多かったですし、映像の中でのリアリティと舞台でのリアリティもまた違うので、セリフの言い方などいろいろ学びが多い1年だったと感じています。あらためて舞台というのは、セリフを吟味して何度も言い方をトライして化学反応を見て、ということができる場だなと思いました。今回のような重厚な会話劇では何気ない一言がとても大事だし、それをどれぐらいのトーン感で言うのかということにもかかってきます。そうなるとやはり、相手のセリフへのレスポンス、それは共鳴したりしなかったり、あるいはセリフを聞かなかったり、そうやって相手のセリフがあって生まれてくるものが大事だと思うので、お稽古に入らないと頭に入ってこないセリフもありますね。お稽古の中で何度も何度もセリフを言うことによって見えて来るものもあると思いますし、そうやって会話劇が成り立っていくんじゃないかなと想像しています。

宮澤エマ

宮澤エマ

ーー先ほど話に出たとおり宮澤さんはこれまでも翻訳物の作品には多く出演されていますが、描かれている文化の違いや、翻訳された言葉であるという点から、演じにくさを感じることはあるのでしょうか。

翻訳劇をやる上で私が大事にしていることは、違和感をなるべく少なくしたいということです。例えば、文化的にそういう言い回しは日本語ではしない、と感じることが多く出てくると、見ている側としてはとてもストレスに感じると個人的には思います。そういう部分をいちいち整理しながら見なければいけないというのは、物語に没頭することから注意をそぐような気がするんです。だから今回の台本に関しては、どうやったらこれがすんなり会話劇として成立するかを、みんなで知恵を出し合っています。アメリカが舞台の話ではありますが、起きている出来事自体は日本でもありえることなので、あまり文化の違いを感じさせないようにできたらいいなと思っています。

ーーこの作品を楽しみにされているお客様へメッセージをお願いします。

この作品の英語の台本の最後に、作者からの言葉が書いてあって、「これはすごく悲しい話だけど、悲しいだけの話じゃない。そこにはユーモアもあるし、ただの悲しい話だけにはしないでくれ」と明確に書いてあるんです。あらすじだけを見ると、重そうな話だと思われる方も多いかと思いますが、この作品は人間の真実というものに愚直なまでに向き合ったものになっていると思います。「喪失からの再生」と言葉で言うと簡単だけど、ぐちゃぐちゃとした正解がないものにぶち当たったときに、そこからせめて前を向こうと思える瞬間、そのきっかけというのは意外なところにあったりするし、その道のりはわかりやすくなくていいし時間がかかってもいい、という“赦し”ももらえる作品だと思うんです。私にとって劇場というのは、誰かの生きざまを見て、エネルギーをもらって「頑張ろう」と思える場所です。今作は、ものすごくエネルギーの交換ができる作品になっていると思うので、あまり身構えずに、意外と気軽に観に来ていただければ、あとは私たちが然るべきところへお連れする仕事をしますので、ぜひ足を運んでいただきたいと思います。

宮澤エマ

宮澤エマ

ワンピース  ¥92,400
チューブトップ  ¥18,700/08sircus
(08book 問い合わせ先 03-5329-0801)
ピアス  ¥44,000/Kalevala
(問い合わせ先 kalevalashop.jp)

ヘアメイク:髙取篤史(SPEC)
スタイリスト:長谷川みのり

 

取材・文=久田絢子      撮影=池上夢貢

公演情報

PARCO劇場開場 50周年記念シリーズ
『ラビット・ホール』
 
【作】デヴィッド・リンゼイ=アベアー 
【翻訳】小田島創志
【演出】藤田俊太郎
【出演】
宮澤エマ 成河 土井ケイト
阿部顕嵐/山﨑光(ダブルキャスト) シルビア・グラブ

<東京公演>
【日程】2023年4月9日(日)~4月25日(火)
【会場】PARCO劇場   
【入場料金(全席指定・税込)】11,000円
【お問合せ】パルコステージ 03-3477-5858(時間短縮営業中)

<秋田公演>
【日程】2023年4月28日(金)
【会場】あきた芸術劇場ミルハス 中ホール   
【入場料金(全席指定・税込)】11,000円
【主催】秋田魁新報社/AAB秋田朝日放送
【お問合せ】秋田朝日放送事業部 018-888-1505(平日9:00-17:30)

<福岡公演>
【日程】2023年5月4日(木)
【会場】キャナルシティ劇場 
【入場料金(全席指定・税込)】11,000円
【主催】九州朝日放送/ピクニック

【協力】福岡パルコ
【お問合せ】ピクニックセンター 050-3539-8330(平日12:00~15:00)
http://www.picnic-net.com/
 
<大阪公演>
【日程】2023年5月13日(土)・14日(日)
【会場】森ノ宮ピロティホール  
【入場料金(全席指定・税込)】11,500円
【一般発売日】2023年4月9日(日)AM10:00
【主催】公演事務局
【お問合せ】公演事務局 0570-783-988(11:00-18:00※日祝休業)
 
 
【公式サイト】https://stage.parco.jp/program/rabbithole
【ハッシュタグ】#ラビット・ホール
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