尾崎裕哉は父・尾崎豊の代表曲に今何を思い何を歌うのか、その言葉に耳を傾ける
尾崎裕哉
――原曲はピアノ、バンド、ストリングスなので、かなり違いは感じますね。トオミさんも、裕哉さんと同じように、偉大な父の影響を背負いながら、自分の世界を作っている。二人の関係性には、ほかにはない深いものがあるように思います。
本当に、御縁ですよね。ほかに形容の仕方が思いつかないです。普通は、トオミさんに行きつかないと思うんですよ。そこはまあ、二世得ですね(笑)。
――二人で細かいところまで、話し込んだりするんですか。
いや、トオミさんには、どうやったら良くなるだろう?ということは見えてると思うんですけど、僕からはあんまり、アレンジをする時に何を考えてますか?とか、聞いたりしないので。それは本人がわかっていればいいことで、アーティストが知る必要はないと思っているので。僕は「お願いします」と言って、上がって来たものから汲み取る、というだけです。
――トオミさんも、めちゃくちゃ考えたと思いますけどね。特に尾崎豊カバー2曲は。
考えたと思います。トオミさんも尾崎豊をよく知っているし、ツアーも見たことがあるらしいので。小学生ぐらいの時に、〈BIRTHツアー〉に行った思い出があると言っていたので、最初からしっかり聴いているし、ちゃんとしなきゃという気持ちはもちろんあったと思います。僕はただ「お願いします」と言っただけで、おぜん立てしてもらって、歌って帰るのがアーティストの仕事なので、そこはお任せしました。
――素敵な関係です。そしてこのEPにはもう2曲、尾崎裕哉作詞作曲の作品が入っています。カバー2曲に続けて、未来への希望を感じさせるというか、絶妙な流れだなと聴いていて思いました。
これに関して言うと、最初からこうしようと決めていたものではないんですね。元々、オリジナル2曲が先にできあがっていたので。知り合いがやっている、新潟のテレビ局のドラマ(2022年11月放送「炊飯道-南魚沼篇-」)に曲を書いてくれと頼まれて、ドラマのテーマや主人公に合わせて書いた曲です。「僕がつなぐ未来」は、わりとすぐにできました。スタジオにこもって1時間ぐらいギターを弾いているうちに、A,B,C(の構成)を作って、それから「朝ドラっぽくしよう」と思った時に、あのサビを思いつきました。
――朝ドラですか。なるほど。
「爽やか」「朝ドラ」というテーマと、あと「秋元康がちょっとだけ書いてそう」という、この三点で書いた曲です(笑)。自分の曲なんですけど、ドラマに向けて書いてるから、いい意味で客観的になれたというか、「雨上がりの空」とか、「戯れる水しぶき」とか好きそうだな、っていう感じで書きましたね。ヒロヤGPTに「秋元康」と入力したらこうなりました(笑)。
――そう言われると、「沢山のエール」「託し続けるバトン」とか、そういう歌詞もアイドルの声で聴こえてくるような気が(笑)。
舞台が新潟なので、田園風景の中の長い道を、ずーっと走っているイメージが先にあって、「果てしなく続く道」という歌詞が出てきたんですね。オープニング映像も見せてもらって、爽やかな感じで行きたいなということもあったので、とにかく走ってるイメージで、新潟の広い風景の中で、そういう感じの曲にしようと思ったら、1時間ぐらいでできちゃいました。
――それをラテンEDMっぽいダンサブルなアレンジにした、トオミさんのセンスもかっこいいです。
そこは意外でした。ミックスにD.O.I.さんが起用されたことで、さらにそこが強調されたんじゃないかなと思います。抜けのいいシンセとキックが支えている、今っぽいサウンドですね。
――意図的ではなかったということですけど、結果的に、「僕がつなぐ未来」というタイトルが、尾崎豊カバーから尾崎裕哉のオリジナルへのつながりを象徴することにもなて、いいタイトルだなと思います。
元々「歌い継いでいく」ということを前提とした、僕の活動でもあるので。ただ「尾崎裕哉を推したい」というファンもけっこういて、その人たちにとっては、ライブでカバーを歌うことに、それなりのもどかしさもあるみたいです。「もっと裕哉くんの曲が聴きたい」というような。それに対しては「まあわかるんだけどね」という感じです。ただ、自分が歌い継ぐと言っちゃってるし、それをやらなければいけない時があるし、その間を取ることもあるし、両方やっているという感じですね。手に抱えているものが多いんです。
尾崎裕哉
――「僕がつなぐ未来」は、もうライブでやっていますか。
やってます。「僕がつなぐ未来」は、ライブで盛り上がる曲ですね。ファンが、手の振りみたいなものを考えてくれたんですよ。「その一歩一歩」で指を一本ずつ出すとか。ファンクラブ向けにインスタライブをやった時も、「「僕がつなぐ未来」の手拍子はON(表)ですか、裏ですか」と相談されて、「そうだねぇ、ONにしようか」とか言って、試してみたりとか。もっとすごいのは、僕のツアータオルに、リトルヒロヤというキャラクターの顔と、突き上げている指のサインがあるんですよ。それが、タオルをくるくる巻いて縦にすると、指だけ表に出るようになって、それを「一歩一歩」の時に掲げてみるとか。「すごい、できあがってるじゃん!」みたいな(笑)。「それは本当はこっちが考えることだけどね、ありがとう!」って。
――さすが(笑)。ファンの情熱には敵わない。
すごいんですよ。楽しみたいという気持ちが、僕らの何倍もある気がします。時間とお金をかけているぶん、一生懸命だし、そこは本当に見習わなければいけない部分だと思うし、そういう人たちがいるから、音楽は盛り上がっているんだなと思います。
――そして、EPの最後の1曲が「迷わず進め」。これについては?
「迷わず進め」は、めちゃめちゃ大変でした。同じドラマのエンディングに曲を書くということだったんですけど、曲は最初からあったんですよ。でも仮歌の時は全然違う詞で、「似た者同士」というタイトルだったかな。仮歌の段階でアレンジを頼んで、「雨の中で歩いてる感じかな」ということをざっくりお伝えして、トオミさんが爽やかな感じにしてくれたんですけど、そのあと、詞は全然雨のイメージじゃなくなってしまったので、どうしようかなと思ったんですけど。結局、これも(「僕がつなぐ未来」と同じように)歩いている感じがいいなと思って、田園じゃなくて、スクランブル交差点を歩いているイメージにしようと思ったんですよね。尾崎豊が、(渋谷の)スクランブル交差点を見下ろして書いた「十七歳の地図」という話をちょっと思い出して。
――ああ。なるほど。
じゃあ僕が、そのスクランブル交差点を通った時にどういう曲を書くのかな?という、僕は見下ろすというよりも、その中を歩くイメージだったんですね。そこでたとえば、TSUTAYAの前にたたずんでいる人とか、自分の高校時代を思い出して、あそこのガラスに映った身だしなみをチェックしてるとか、そういうことをイメージしてから、ストーリーを考えました。ただ言ってるフレーズ一つ一つは自分の本当で、書いているうちに、暗い気持ちになってきちゃったんですよ。でもそんな歌は誰も聞きたくないよなと思って、出てきたのが最初のフレーズです。
――「誰にも言えなかったような暗い話題じゃ誰も喜ばないから」ですね。でも歌詞をたどっていくと、迷わずに進めばいい」と、だんだん明るい方向に向かっていくんじゃないですか。
そうですね。歌って、最後は明るく終わらないと歌じゃないなと思うし、やっぱり希望を与えないと。少なくとも自分はそうしたいので。とことん暗い中で希望を見い出すとか、そういう歌はまだ自分で書けるイメージがないというか、そっちの方向で書いたことがないので、練習しなきゃとは思っているんですけど。
――という、それぞれに深いエピソードのある4曲。今の尾崎裕哉の現在地がよくわかるEPになったと思います。そしてリリース後は、またライブがありますね。尾崎裕哉&弦楽アンサンブル「尾崎裕哉 Strings Ensemble Premium Concert 2023」ツアーが、4月9日から始まります。ストリングスコンサートは、もはやライフワークのようになってきています。
自分のデビュー発表も、ストリングスでしたからね。その時と同じ形態です。元々、須藤さんにも「バンドよりストリングスのほうが声に合ってるよ」と言われていたんですよ。それが原点にあって、幸い、今でも続けられるということですね。人数が多いから大変だし、誰にでもできることではないんだなって、今になってさらに感じるし、それをデビューからやれているのは、本当にいろんな人が関わってくれたおかげだと思います。ある意味、自分の初期を思い出すようなスタイルかなと思います。そんなにクラシックっぽい感じでもなくて、ベースとピアノはジャズ畑の人なんですね。意外に遊びのあるコンサートになるかなと思います。
――その後、さらなる新曲の発表にも期待していていいですか。
ぼちぼちですね(笑)。この次をどうつないでいくのか、個人的には考えどころではあって、意味のある感じで出していきたいですけど、次はシングルかEPなのかなって、なんとなく思ってはいます。ジョン・メイヤーみたいに、EPを3枚出してそれをアルバムにします、みたいな感じにするのも面白いし。いろいろ考えてはいます。
取材・文=宮本英夫 撮影=大塚秀美
リリース情報
<通常盤>【CD】SECL2854 1,800円税込
1.I LOVE YOU 作詞・作曲:尾崎豊 編曲:トオミヨウ
2.OH MY LITTLE GIRL 作詞・作曲:尾崎豊 編曲:トオミヨウ
3.僕がつなぐ未来 作詞・作曲:尾崎裕哉 編曲:トオミヨウ
4.迷わず進め 作詞・作曲:尾崎裕哉 編曲:トオミヨウ
※初回生産限定盤には2022年11月20日に日本橋三井ホールにおいて行われたワンマンライブ“ONE MAN STAND2022AUTUMN”からライブ映像12曲を収録。
1.始まりの街
ツアー情報
【東京】4月9日(日)日本橋三井ホール
【兵庫】4月15日(土)ルネサンスクラシックス芦屋ルナ・ホール
【愛知】5月6日(土)名古屋市昭和文化小劇場
【東京】5月20日(土)浜離宮朝日ホール