「作品が広がっていく」櫻井圭登と辻凌志朗が語る舞台『キノの旅Ⅱ -the Beautiful World-』
左から 辻凌志朗、櫻井圭登
舞台『キノの旅Ⅱ -the Beautiful World-』が2023年6月15日(木)から25日(日)まで東京・あうるすぽっと にて上演される。
本作は、時雨沢恵一による同名小説シリーズを初めて舞台化したもので、昨年上演された舞台「キノの旅 -the Beautiful World-」の第二弾となる。演出は「くちびるの会」の山本タカ、主人公のキノは櫻井圭登、相棒のモトラド(二輪車)のエルメスを辻凌志朗(※辻凌志朗の「辻」は一点しんにょうが正式表記)が引き続き演じるほか、シズを三好大貴、陸を関 修人、師匠を加藤ひろたか、相棒を林 瑞貴が演じる。
櫻井圭登と辻凌志朗に話を聞いた。
大体わかったんですよ、圭登くんのことを(辻)
――第二弾が決定して、どう思われましたか?
櫻井:初演のときは不安もありましたが、本番が始まって「『キノの旅』だった」って言ってくださる方がたくさんいて、僕たちの作品づくりは間違っていなかったんだなと思えました。こうして2作目が上演できることに感謝し、さらに多くの方に舞台「キノの旅」を届けることができたらなと思っています。
辻:全部言ってくれた……。
櫻井:(笑)
辻:その通りだと思います。そして僕は、圭登くんとまた芝居ができることが、個人的にすごくうれしいです。
櫻井:僕もうれしいです。
――おふたりはこの作品の初演が初共演だったんですよね。
辻:そうなんです。その後に別の作品で共演させてもらって、そこでも近しい関係の役をやらせてもらったので、大体わかったんですよ、圭登くんのことを。
――おお!
辻:まだ出会って1年も経ってないですけど、にしてはわかったなと思って。
櫻井:たしかに。
辻:今回またさらに深いところにいけるのかなっていうワクワクもあってうれしいです。
――ちなみに櫻井さんは辻さんのことは大体わかりましたか?
櫻井:(笑)。でもわかります。なんでだろうね? 去年会った感じしなくない?
辻:全然しないです。
櫻井:出会ってから今日までの間に積み上げてきたものがすごく濃いので。今回で3度目の共演になりますが、役者として「どんなものを見せようか」みたいな楽しみも感じています。こうしてまたキノとエルメスをふたりでできるのは本当にうれしいです。
櫻井圭登
キノは、自分の中では「世界」なんです(櫻井)
――さっき櫻井さんが初演のときは不安があったとおっしゃっていましたが、それはどういうものでしたか?
櫻井:原作の『キノの旅』(2000年~)はすごく長い間愛されている作品なので、小さい頃から読んでいたという人もいますし、そういう人にとってはバイブルみたいな存在になったりもしていると思うんです。そういう作品の説得力を自分が出せるのかって考えたときにけっこう不安で。「その器が自分にあるかな」とか考えちゃったりもしました。自分がどこまでできるんだろうという不安がありました。
辻:そうですよね。特にキノもそうだし、僕もそうですけど、稽古に入ってもずっと探ってましたよね。
――『キノの旅』は主人公・キノがモトラド(二輪車)のエルメスと共にさまざまな国を旅する物語で、櫻井さんが演じるキノは女性ですし、辻さんは無機物のモトラドですからね。
辻:はい。どうやるの!?っていう。エルメスは最初、めっちゃ動いて演じようとしていたんですよ。動いて動いてむしろ人には見えない(「モトラドの妖精」のような)存在という設定のプランを持っていったんですけど、立ち稽古初日で「動かない」っていうことになって。そこからつくりはじめて、最終的には「ここは動いていい」ってところが生まれたりもして。(演出の山本)タカさんと探り探りでつくっていきました。そうやってつくりあげたものをお客様が認めてくださったというのはすごくうれしいですよね。
櫻井:うん、うれしい。
辻:探った甲斐があったなというか。
櫻井:僕も最初、キノをもう少し女性っぽく演じようとしていたんです。でもタカさんが僕の役づくりを信じてくれて、「キノがいるから、身体の使い方は普通でいいよ」と言ってくださいました。そうやってバランスを調整してもらって、本番のキノになっていったと思います。
辻:でも稽古と本番期間中は圭登くんに性別を感じなかったんですよ。楽屋にちょこんと座っていて。
櫻井:食事でも、男子が食べるようなものは食べないようにしたりしました。
――男子が食べるようなものって?
櫻井:焼肉とかかつ丼とか(笑)。その思考は取り除くというか。サラダボウルみたいなのをいつも食べてました。
辻 そういうところから役に入っていく方なんだなというのは、見ていて思いました。
――いつも食事から役づくりをされるのですか?
櫻井:そうですね。これは僕の役づくりのルーティンというか、役が食べそうな食べ物を考えて食べたりしています。結局、身体って食べ物でつくられるじゃないですか。食べ物でちょっと変わってくるんですよね。そういうのは大事かなと思っています。
――ご自身の役のことはどんなふうに思っていますか?
辻:エルメスのことはずっと考えていたし今も考えているんですけど。人間じゃない、でも喋る。喋れる以上、意思があり、人間味もある。だけどどこまで人を理解しているのかなって。人に感情移入はしないと思うんですけど、人にどのくらい寄り添えているんだろうなとか。そんなふうにエルメスのことを考えていると、僕自身が(エルメスのように)人間に対して「なんでこういう仕草をしたの?」「なんでそう言ったの?」と感じたり、哲学じゃないですけど「人間の行き先はどこなの」というようなことを考えたり、そういう視点を持つようになりました。エルメスってそのくらい人を見ている気がするんですよ。そしてそれはつまり人間に興味があるってことだよなと思うので、僕も「人間への興味」というものを常に持っておきたいなと思っています。
櫻井:キノは自分自身に対してなにか明確な答えは持っていないんだけど、生きていて自然と信じているものがある人で。そういう感覚は自分と似ているなと思います。繊細で、大胆で、結局人が好きだから、キノも凌くん(辻)が言ったように、人がなんなのかを知りたくて旅をしている部分もあると思いますし、世界がどうなっているのかを知りたくて旅をしているし、多分自分が何者なのかを探していたりもするのかなって。……キノは自分の中では「世界」なんです。
辻:世界……。
櫻井:これわかる? わかる?
辻:わかりますよ。抽象的ですけど。
櫻井:「世界」なんですよ、僕の中では。
辻:でもなんか似てますよね、キノと圭登くん。圭登くんって儚いし、脆い感じがするんです。それはすぐ倒れちゃうとかそういうことじゃなくて、触れられないほど美しいものってあるじゃないですか。触れようとしたらふわっとどっかいっちゃいそうな、そういう人なんですよ。そういうところがキノと似ています。
――それは本番中とかでなく、普段から感じることですか?
辻:感じてます。
櫻井:へえ!
辻:儚さがある。僕は全然儚くないから、役者として羨ましいところもあります。
櫻井:こちらこそだわ。凌くんは僕が持ってないものを持ってる。お互いそうなんだよね。
辻凌志朗
この作品があれば「旅」ができる(櫻井)
――舞台は、原作と同じ一話完結のつくりで、初演では4つの国を旅する4つの物語が描かれました。どんな作品になったと思われますか?
櫻井:僕は個人的に考えさせてくれる作品というのが好きなのですが、『キノの旅』もそういう作品で。個人個人でいろいろな捉え方があるぶん、自分の仕草一つひとつをお客さんがどんなふうに捉えてくれるんだろうと思っていました。あと、舞台上で旅ができたことが個人的にうれしかったです。普段、僕は旅とか絶対行かないんで。
辻:絶対行かないんですか?(笑)
櫻井:ぜっったい行かない(笑)。でもこの作品があれば僕も旅をさせてもらえる。旅先でいろんなことを考えられたし。そうやって櫻井さんが「旅ができた」と思えることに共感できるくらい、一つひとつの国が違う世界になっていたのが印象的でした。美術が大きく変わるわけでもなく、演者も同じなんですけど、仕草や衣装ですんなりと「違う文化の国だ」と思わせることがすごかったです。
櫻井:そこは、キノとエルメスが各国の宿屋でする会話ひとつとっても、どう違いを出すかをみんなで話したりしたんですよ。
辻:宿でする会話だからそんなに変わらないじゃないですか。でもそういうところでこそね。
櫻井:「その国をふたりがどう感じているのか」というところで、違いが伝わるようにしましたね
――かなり繊細につくっていかれたんですね。
辻:たっくさん話しましたよね。
櫻井:うん。そしてたっくさん(辻に)台詞の練習にも付き合ってもらいました。
辻:それはこちらこそです。絶対一緒に帰ってましたもんね。
櫻井:すごく話したよね。朝は挨拶する前に台詞を言って返してもらったりね(笑)。そのくらい付き合ってもらってました。
――どうしてそこまで?
辻:僕が思うにですけど、この作品って細胞レベルまで台詞を叩き入れて……
櫻井:そう、そうなんです!
辻:舞台上に立った時にはもうなにも考えなくても台詞を言えるくらいの状態まで落とし込まないと、できないような芝居だと思うんです。自然体に見えてかなりつくっていたから。それに「ちゃんと台詞を吐こう」ということを考えていたので。
櫻井:そうだね。
辻:だからそういう意味では、今回またあれに立ち向かうと思うと恐ろしいです。相当なものが必要ですから。
――脚本に関して、今作で楽しみなところはありますか?
櫻井:構成が初演とまた違うので。初演を観てくださった方がどんなイメージを持つのかなっていうのは気になっています。終わり方も前回と違うし、また違った感情のキノとエルメスがいると思うので、そこをどう演じていこうかというのが楽しみです。
辻:我々もそうなんですけど、シズと陸がフィーチャーされる話もあって。そこは「始まったな」って感じがしています。初演ではそこまで描かれなかったふたりのストーリーがここから始まっていくので。作品が広がっていく感じがして楽しみです。
――演出の山本タカさんはどんな方ですか?
櫻井:タカさんはずっとお芝居のことを考えてくれてる愛のある方です。
辻:自由にさせてくれるけど、これというものを持っていらっしゃるので。俳優としてはありがたいです。いろんな挑戦もできるし、相談もしやすいし。
櫻井:目指すものとか大事にするものがあったうえで好きにさせてくれるよね。僕たちがちょっと道を外れたらちゃんと戻してくれるし。居やすいです、稽古場も。
2作目だから、見過ごさず話したい(辻)
――新しいキャストも参加しますが、楽しみな方はいらっしゃいますか?
辻:やっぱ三好(大貴)さんなんじゃないですか?
櫻井:仲いいしね。でも大貴のシズってどんな感じになるか想像がつかないんだよ。
辻:それずっと言ってますよね。
櫻井:どういうアプローチでくるのかな。
辻:二刀流とか……。
櫻井:勝手にいろいろ変えないでください(笑)。
――今作ではこうしたい、というようなことは考えていますか?
櫻井:原作をリスペクトして、より一層自分も原作のキノに近づいていきたいなと思っています。前回よりもハードな食生活にしたいし。
――よりハードに?
櫻井:はい。目から入る情報って大事だなと最近さらに思っていて。例えば腕の線ひとつでも、見た目が近づくことで納得してくれる方も増えると思うんです。そういうところをもっともっと意識してつくりあげることができれば、さらに深い舞台「キノの旅」ができるのかなって。そこを追求していきたいです。
辻:『キノの旅』なのでキノが大事なんですけど、櫻井さんはそれをちゃんと背負える役者だから、甘えたことを言うと、一緒にやれるだけで大丈夫な気がしています。と同時に、『キノの旅』はキノとエルメスがいろんな国を訪れる話で、その国々で僕らは影響されていくんですね。初演を経験して思うのは、物語を動かすのはほぼその国に暮らす人たちだから、そこをどうつくるかがとても大事だなって。気になるところは見過ごさず、しっかり話したほうがいい気がしています。特に僕らは“受ける”側なので。
櫻井:そこに気付けたのも、初演のみんなでつくった時間があるからこそですよね。シリーズのいいところって、そうやって作品をつくれること。より深いものをつくれるのがうれしいです。
取材・文=中川實穗 撮影=サギサカユウマ
公演情報
【劇場】あうるすぽっと
【原作】時雨沢恵一(KADOKAWA 電撃文庫刊)
【原作イラスト】黒星紅白
キノ:櫻井圭登
エルメス役:辻 凌志朗 (※辻凌志朗の「辻」は一点しんにょうが正式表記)
陸:関 修人
師匠:加藤ひろたか
相棒:林 瑞貴
ニーミャ・チュハチコワ:小口ふみか
フィアンセ:伊東征哉
国長:浦谷賢充
付き人:加納義広
ラファ:鈴木桃子
【スタッフ】
演出:山本タカ
脚本:畑 雅文
主催:舞台「キノの旅」製作委員会 2023
【料金】8,800円(税込)前売/全席指定/未就学児入場不可
【舞台公式サイト】https://kinonotabi-stage.com/
【舞台公式Twitter】https://twitter.com/kinonotabi_st
【舞台公式ハッシュタグ】#キノステ